根治切除後の術後補助化学療法
室: 根治切除後の術後補助化学療法のレジメンと治療期間については、どのようにお考えですか。
Sobrero: CASE 1では術前の化学療法でCEAが2桁も低下したので、術後も同じレジメンでよいでしょう。現在は2回目の手術が計画されているため、術後補助化学療法は行われていませんが、例えば2回目の手術の後、1ヵ月で新たな病変が7個も見つかったとすれば話は違ってきます。その場合はレジメンを変更すると思います。
室: ほかの先生方のご意見はいかがですか。
吉野: この患者さんにはFOLFOX + Panitumumabによって腫瘍縮小が得られたわけですから、同じレジメンが最適だと思います。
設楽: 術後補助化学療法の試験では分子標的薬の重要性を示唆するデータはありませんが、今回のようなstage IV症例には私も同じレジメンを続けます。CASE 1のCEAはS状結腸切除後に正常化したため、肝切除も成功することを期待しています。
吉野: もしこの患者さんが術後補助化学療法として抗EGFR抗体薬の併用を拒否された場合、化学療法のレジメンは変更されますか。
Sobrero: いえ、私はFOLFOXのままで行きますね。
設楽: 毒性にもよると思いますが、私もSobrero先生と同意見です。
CASE 2: 腫瘍量が多く進行が速い、随伴症状を有する症例
山ア: CASE 2は70歳の男性です。2010年8月より時折血便を認め、その後、右上腹部痛、食欲不振、下肢浮腫も認めるようになり、2011年11月に近医を受診しました。臨床検査では肝機能障害、CTでは肝の多発結節と腹水が認められました。続いて行われた大腸内視鏡検査では横行結腸に腫瘤を認め、生検の結果、中分化腺癌と診断されました。近医は肝機能障害が認められることから化学療法の対象にはならないと考え、best supportive care (BSC) を勧められ、同月に当院を受診しました。
CTでは両葉の多発肝転移、腹膜播種性転移、腹水が認められ、肺転移も疑われました (図6)。臨床検査ではAST、ALT、LDH (3,510 IU/L)、ALP (2,000 IU/L)、総ビリルビン [T-bil] (5.1mg/dL) およびCEA (737.6 ng/mL) の上昇を認めました。多発肝転移、腹膜播種および肺転移を伴う横行結腸癌と診断。PS 2で腫瘍量は多く、疼痛や食欲不振、浮腫といった随伴症状も認めていました。
当初はKRAS 検査後にFOLFOX + 抗EGFR抗体薬を開始する予定でしたが、翌週に肝生検のために入院した際、T-bilが8.3 mg/dLに上昇していたことから、進行の速い腫瘍と考え、11月の終わりにはFOLFOXの投与を開始しました。肝生検の結果、KRAS 野生型と判定されたため、2サイクル目からPanitumumabを追加しました。
FOLFOX 3サイクル、Panitumumab 2サイクル投与後のCTでは多発肝転移巣は急速に縮小し、原発巣も縮小を認めました (図7)。腹水も減少し、腹膜播種および肺転移は消失しました。FOLFOX初回投与後にLDHとT-bilが一時的に上昇しましたが、その後は急速に低下し、PSも1に改善したため、同じ治療を継続しています。