消化器癌治療の広場

切除不能進行・再発大腸癌の治療アプローチ: Aggressive or non-aggressive -患者の臨床的因子に基づいた治療選択-

Case discussion

1-1 Aggressive approach

化学療法の適応か否か、行う場合はどのレジメンを選択するか

山ア先生

室: CASE 2の論点は「化学療法の適応であるかどうか」。そして、「適応と考える場合はどのレジメンを選択するか」です。

設楽: 質問ですが、化学療法開始時にL-OHPや5-FUは減量されましたか。

山ア: L-OHP、bolus / infusional 5-FUともに80%に減量して投与しました。

吉野: よくこの治療を選んだなというのが正直な感想です。驚きましたね。もし私が主治医でも、前医と同じくBSCを勧めます。それでも患者さんが強く希望され、かつPSが維持されていて、T-bilが高ければ、L-OHPベースの化学療法とPanitumumabの併用を選択しますが、5-FUのbolus投与は行いません。

Sobrero: この症例はPS 2、LDHが3,510 IU/Lで腹水もみられ、ほぼ全身浮腫の状態にあり、アルブミンは2.8 g/dLですから、通常なら化学療法は禁忌です。確かにこの患者さんにはaggressiveな治療が必要ですが、それに耐え得る忍容性はないと判断します。このような状況でFOLFOX + Panitumumabを行うとは、本当に勇気ある選択ですね。私ならBSCかPanitumumab単剤、あるいは低用量の5-FUで様子をみます。

山ア: 先生方のご意見はもっともで、最初、我々も基本的にはBSC、化学療法を行うにしても抗EGFR抗体薬などの単剤投与を考えていました。ただ、患者さんは一貫してaggressiveな治療を希望されており、主治医が治療のリスクとベネフィットを説明した後も意思が堅かったため、チームで話し合いを重ね、最終的に腫瘍量が多く、随伴症状を認めていたことよりFOLFOX + Panitumumab療法を選択しました。

Sobrero: 患者さんのattitudeに配慮したというわけですね。

設楽: 私もBSCを提示するかもしれませんが、患者さんがリスクを承知の上で希望されるならFOLFOXを行います。この症例にBSCだけが行われていたら1ヵ月足らずで亡くなったかもしれませんし18)、また化学療法を行ったとしても毒性によって亡くなる可能性もあります。
 肝機能障害時の化学療法についてはいくつかデータがあります。まず、肝機能障害を有する患者でL-OHPを評価した第I相試験では、高ビリルビン血症の患者にもfull doseのL-OHPが投与され、重篤な毒性はみられていません19)。2003年にAnnals of Oncologyに掲載された臓器機能低下例に対する5-FU持続静注 + LVの第I相試験においても、黄疸例における重篤な毒性は認められていません20)。また、抗体薬は一般的に肝機能・腎機能に依存しない網内系の代謝を受けると考えられています。
 ただ、吉野先生が指摘されたように、5-FUのbolus投与についてはデータがありませんし、骨髄抑制を来すことにもなるので私も行いませんが、FOLFOXを減量した上で投与することは可能かもしれません。実際、当院でもFOLFOXと抗EGFR抗体薬の著効した肝転移による黄疸例を報告しています21)

室: 加藤先生はいかがですか。

加藤: 私はまずBSCを行い、KRAS 検査の結果を待った上で、KRAS 野生型なら抗EGFR抗体薬を単剤で投与します。もし化学療法を行う場合は、おそらく半量で開始すると思います。

設楽: あくまで私の経験した範囲ですが、今回のような症例に対する抗EGFR抗体薬単剤のレスポンスはあまりよくありません。約10例に単剤投与しましたが、高ビリルビン血症が改善されたのは10〜20%でした22)。一方、FOLFOXも10例ほど投与経験がありますが、約半数の患者でT-bilの低下が認められました。いずれにしても、未治療の場合の経過と治療した場合のリスクを十分に説明した上で、治療の実施について検討する必要があると思います。

室: Sobrero先生が紹介されたアルゴリズムによると、CASE 2は随伴症状があり、腫瘍量が非常に多く、かつ臨床経過も速いということで、状態がよければaggressive approachの対象になります。今回の症例は“状態がよい”とは決して言い難いですが、設楽先生が提示したように、黄疸例における化学療法の有効性や忍容性を示す少数例のデータも報告されています。ですから、化学療法の対象となるか否か。もし化学療法を選択する場合にはaggressive approachなのか、あるいはKRAS 野生型を確認した後に抗EGFR抗体薬の単剤療法とするのか、それとも5-FU単独療法とするのか。非常に意見の分かれる症例だと思います。

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