CASE 3: Aggressiveからindolentな腫瘍に変化した症例
室: 最後の症例提示は再びSobrero先生にお願いしたいと思います。事前にSobrero先生からQ&A形式で進めたいというご希望がありましたので、このパートでは私も一ディスカッサントとして、先生にリードをお任せしたいと思います。よろしくお願いします。
Sobrero: それでは症例を紹介します。CASE 3は66歳の男性で、non-aggressiveな大腸癌でした (表2)。 併存疾患はなくPSは1、担当した腫瘍内科医はこの段階では治療を行っていません。6年後の2005年、stage III病変の切除が行われ、リンパ節転移は23個中1個、術前のCEAは32 ng/mLで、CTは陰性でした。翌2006年、術後補助化学療法としてFOLFOXを5ヵ月間施行。忍容性は良好で、神経毒性の残存もありませんでした。
■2009年1月
Sobrero: さて、最初の切除から3年半後の2009年1月、肝S6に切除の容易な孤立性の小転移巣が認められたため、2度目の手術を行いました。このとき、術前・術後に補助化学療法は行っていません。
ここで質問です。先生方はこの治療に賛成ですか、それとも反対でしょうか。NordlingerらはEORTC 40983試験で、切除可能な肝転移を有する大腸癌患者に対して手術前後に3ヵ月ずつFOLFOXを施行したことで、手術単独に比べてPFSが延長したことを報告していますね23)。まずは外科の先生のご意見をうかがいましょうか。
加藤: EORTC 40983試験では、主要評価項目であるPFSが切除例の解析では有意に改善していますが、適格例全体では有意差を認めていません23)。本症例は小さな転移が1個だけですから、私は外科医として切除のみでよいと考えます。
Sobrero: 私も同じ意見ですが、理由はもっと単純です。3年半の無治療期間の後にせっかく簡単に切除できる病変が見つかったのですから、時間を無駄せず、すぐに切除しなくては。腫瘍内科の先生方はどうですか。
吉野: 私なら術後にFOLFOXを6ヵ月間投与します。
設楽: 神経毒性が残っていないということですので、私も術後補助化学療法を勧めます。
Sobrero: そうですね。おそらく神経毒性を生じる可能性があると思いますが、お2人の選択もよいと思います。EORTC 40983試験の問題点は加藤先生が指摘されたとおりですが、術前・術後に化学療法を行ったことで不利益が生じたわけではありませんから。
肝切除後の再発に対する治療
■2010年2月
Sobrero: CASE 3の経過に戻りましょう。肝切除から13ヵ月後の2010年2月、この患者さんは疲労、微熱を主訴に別の医療機関を受診しました。PSは1、PETでは肝限局性病変を20個認めました。臨床検査値は図8の通りで、aggressiveな治療が必要です。さて、次のうちどの治療を選びますか。
設楽: 疲労や微熱といった症状は肝転移によるものとお考えですか。もしそうであれば、私は (4) の「KRAS 検査の結果を待って野生型なら2剤併用化学療法 + 抗EGFR抗体薬」、または (2) の「2剤併用化学療法 + Bevacizumab」を選択します。
Sobrero: (4) はKRAS 検査の結果が出るまで2週間待たなければいけませんね。
設楽: KRAS 検査の結果が出るまでは化学療法を先行します。
山ア: 私も設楽先生と同じで (4) を選びます。
室: 私は (2) の「2剤併用化学療法 + Bevacizumab」を選択します。
加藤: 私も (2) ですね。
Sobrero: なるほど。先生方が選ばれた (2) と (4) はどちらも正解といってよいでしょう。アルゴリズムに当てはめると、随伴症状があるのでaggressiveな腫瘍縮小が必要であり、最適なのは抗EGFR抗体薬ということになりますが、抗VEGF抗体薬も選択肢の1つだと思います。