7月監修:九州大学大学院 消化器・総合外科 診療准教授 沖 英次
胃癌
進行胃癌に対する開腹手術 vs. 腹腔鏡下手術(CLASS-01試験)
Hu Y, et al.: J Clin Oncol. 34(12): 1350-1357, 2016
局所進行胃癌患者に対する治療は治癒手術が基本であり、日本における胃癌治療ガイドライン2010年版では、腫瘍位置が下部または中部の進行胃癌に対して、D2郭清を伴う開腹幽門側胃切除術が標準とされている。一方、中国、韓国、日本において、腹腔鏡下胃切除は早期胃癌に対しては一般的に用いられるが、進行胃癌に対しては議論の余地がある。そこで、中国のCLASS(Chinese Laparoscopic Gastrointestinal Surgery Study group)により、進行胃癌患者に対するD2郭清を伴う幽門側胃切除術における、腹腔鏡下手術(LG)の安全性と長期成績を開腹手術(OG)と比較して評価した多施設共同オープンラベル無作為化試験、CLASS-01試験が行われ、合併症と死亡率が報告された。
対象は18〜75歳、ECOG PS 0/1で、生検により病理的に胃腺癌と認められ、術前評価でcT2-4aN0-3M0、D2郭清を伴う幽門側胃切除術による治癒切除可能な患者とした。
対象患者は、施設、年齢、術前のTNM stage、組織型により層別化され、OG群とLG群に1:1で無作為に割り付けられた。外科医は、D2郭清を伴う幽門側胃切除術(OGおよびLG)を50例以上、進行胃癌に対する胃切除術を年間300例以上行っており、D2郭清を伴う胃切除(OG、LG両方)の未編集ビデオ評価に基づきCLASS学術委員会により技術認定されたCLASSメンバーから選択され、14施設における15人の外科医が参加した。
手術手技の品質管理のため、特定の術野、検体の切除断端、開腹手術の術中画像を義務付けた。D2郭清の手術手技の品質確認のために、膵尾部・脾下極間、膵頭部と幽門部、膵上縁の右側部、膵上縁の左側部、小弯部の5枚の画像を必要とし、これらの画像はレビューされ治験医にフィードバックされた。両群における胃切除およびD2郭清の範囲は、日本の胃癌治療ガイドライン2010年版に基づき、再建法は治験医により決定された。なお、minilaparotomyの切開長が10cm以上となった場合は開腹手術に移行したとみなした。術後補助化学療法は禁忌を除き、術後4、5週間後に開始された。
主要評価項目は3年DFS割合、副次評価項目は術後合併症、早期回復期間、3年OS割合、再発パターン、術直後の炎症および免疫応答である。OG群の3年DFS割合を72.2%と仮定し、α=0.025、検出力90%、delta=10%で、必要症例は各群422例であり、脱落率20%を考慮し、各群528例とした。
2012年9月〜2014年12月の間に1,056例が登録され、OG群528例、LG群528例に割り付けられた。患者背景は、年齢平均値がOG群55.8歳、LG群56.5歳、BMI平均値が両群ともに22.7kg/m2であり、ECOG PS、併存疾患、組織型、病理的stageのいずれも両群に有意差は認められなかった。
手術時間平均値はOG群186.0分、LG群217.3分と、LG群で約31分長かった(p<0.001)。一方、出血量平均値はそれぞれ117.3mL、105.5mLと、LG群で約12mL少なかった(p=0.001)。幽門側胃切除術はOG群97.5%、LG群97.9%(p=0.683)、D2郭清はそれぞれ99.6%、99.4%で施行された(p=0.845)。なお、LG群の33例(6.4%)で開腹手術が行われ、その理由は、腫瘍関連要因(10例)、技術的困難(1例)、出血(3例)、癒着(1例)、切開長10cm以上(18例)であった。
回復までの期間については、歩行、初回排ガス、初回水分摂取までの期間、術後入院期間のいずれもOG群に比べてLG群で有意に短かった(各p<0.05)。
合併症に関しては、術中合併症割合がOG群3.5%(18例; 出血5例、膵/脾損傷5例、消化管損傷1例、他の合併症7例)、LG群4.8%(25例; 出血4例、膵/脾損傷7例、消化管損傷1例、トロッカー関連損傷2例、高二酸化炭素血症1例、他の合併症10例)であり(p=0.281)、術後合併症割合(OG群12.9%、LG群15.2%、p=0.285)とともに両群に有意差は認められなかった。LG群の術後合併症としては、肺炎による呼吸不全による死亡が1例、脳血管障害による死亡が1例認められたが、両群の死亡率に有意差は認められなかった(p=0.249)。また、手術合併症のClavien-Dindo分類では両群に有意差はなく(p=0.314)、縫合不全においても両群に有意差を認めなかった(OG群0.6%、LG群1.9%、p=0.056)。
OG群の10例とLG群の11例では、縫合不全(3例、8例)、腹腔内出血(4例、1例)、腸瘻(2例、1例)、腔内出血(1例、0例)、手術創離開(0例、1例)が認められ、再手術が行われた。なお、再手術割合(p=0.822)、再手術の種類(p=0.173)に群間差はなかった。
以上のように、多数例の手術を行う施設の熟練した外科医による、進行胃癌に対するD2郭清を伴うLGは安全に施行できることが示され、早期術後回復においてはLGによるベネフィットが認められた。しかし、長期的な有効性が示されるまでは、患者選択にあたり、確立されたプロトコールによって考慮されるべきである。
監訳者コメント:
進行胃癌に対する腹腔鏡下手術の短期的な安全性と根治性の評価
胃癌に対する腹腔鏡下胃切除術は本邦からはじめて報告され、急速に普及してきた。しかし、その安全性や根治性についてのエビデンスは十分ではなく、東アジアを中心に臨床試験が進行中である。本試験(CLASS-01試験)は中国発の進行胃癌を対象とした幽門側胃切除(D2)における腹腔鏡下手術と開腹手術を比較したRCTである。
まずこれまでのエビデンスを振り返ると、stage I胃癌に対しては腹腔鏡補助下幽門側胃切除術(LADG)と開腹幽門側胃切除(ODG)を比較する多施設共同無作為化比較第III相試験が、日韓それぞれですでに行われている。どちらの試験でもLADGは手術時間が長くなるものの出血量は少ないと短期成績が報告された1, 2)。本邦のJCOG0912試験では、LADG群は術後の肝酵素の上昇を認めるのみで、周術期合併症頻度はODG群と同等であった1)。また、韓国のKLASS-01試験では、手術関連合併症はLADG群で有意に低く、なかでも創合併症率が低いという結果であった2)。
進行胃癌に対してのメタアナリシスはZouらが報告している3)。腹腔鏡下手術と開腹手術とで郭清リンパ節個数、転移再発率、DFSおよびOSに差はなかった。腹腔鏡下手術は開腹に比べ手術時間は延長するものの、術後疼痛軽減、術後の早期回復、早期退院などの術後短期成績は有意に良好であった。
本試験は東アジアで進行中の進行胃癌に対する試験のなかで最初の報告であり注目された。結果は、腹腔鏡下胃切除(LG)群は開腹胃切除(OG)群に比べ手術時間が長いが出血量は減少した。術中術後の合併症頻度に差はなく、回復までの期間はLG群の方が短かった。ただし単純には比較できないが、stage I胃癌に対する日韓のRCTに比べ本試験は開腹術への移行割合が高く、郭清リンパ節個数は少ない印象であった。
進行胃癌における腹腔鏡手術の安全性は、これまでの早期胃癌でのRCTと進行胃癌に対するメタアナリシスの結果とほぼ同様であった。しかし、進行胃癌への腹腔鏡下手術の適応は、本試験の長期予後と、日韓の進行胃癌に対する試験(JSLSG0901、KLASS-02試験)の結果を待って、総合的に判断する必要がある。また、本試験での胃癌腫瘍径平均は4cm程度であり、3cmを超える腫大リンパ節を認める症例は除外され、腹腔鏡下手術の評価はなされていないことを、適応決定に際しては理解しておく必要がある。
- 1) Takagi M, et al.: 2015 Annual Meeting of American Society of Clinical Oncology. Abst #4017
- 2) Kim W, et al.: Ann Surg. 263(1): 28-35, 2016[PubMed]
- 3) Zou ZH, et al.: World J Gastroenterol. 20(44): 16750-16764, 2014[PubMed]
監訳・コメント:九州がんセンター 消化管外科 医長 太田 光彦
GI cancer-net
消化器癌治療の広場