10月監修:聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学 教授 中島 貴子
膵癌
切除後膵癌に対するGemcitabine vs. S-1(JASPAC 01試験)
Uesaka K, et al.: Lancet. 388(10041): 248-257, 2016
切除後膵癌に対する術後補助化学療法の第III相試験は少なく、ESPAC-1試験では5-FU/LVによる有意なOS改善を認め1)、CONKO-001試験ではGemcitabineによるDFS(disease-free Survival)及びOSの改善を認めた2)。しかし、切除後膵癌患者における生存期間は、術後補助化学療法施行後ですら短いままである(5年生存割合20.7〜23.9%、OS中央値22.3〜23.6ヵ月)3-5)。
経口薬であるS-1は、切除不能膵癌に対する第II相試験で21.1〜37.5%の奏効を認め6, 7)、GEST試験ではGemcitabineに対するOSの非劣性と、Gemcitabineより高い奏効割合を示している8)。また、S-1は日本の切除後胃癌における術後補助化学療法の標準治療として用いられており、その使用経験から、Gemcitabineと比較してQOL改善、及び同等以上のOSベネフィットが得られると期待された。そこで、切除後膵癌に対する術後補助化学療法として、Gemcitabineに対するS-1のOSにおける非劣性を検証した、多施設共同オープンラベル第III相試験、JASPAC 01試験が行われた。
対象は20歳以上、ECOG PS 0/1、治癒切除された浸潤性膵管癌患者で、UICC ver.6によるstage I/IIおよび腹腔動脈合併切除を施行したstage III、局所癌遺残度R0/1、術中腹水洗浄細胞診陰性、術後10週以内の症例であった。
対象患者は、局所癌遺残度(R0/R1)、リンパ節転移(N0/N1)、施設により層別化され、Gemcitabine群(1,000mg/m2, day 1, 8, 15, 4週間毎, 6サイクル)とS-1群(40〜60mg/m2, 1日2回, day 1-28, 6週毎, 4サイクル)に1:1で無作為化された。
主要評価項目はPPS(per-protocol set)におけるOS、副次評価項目はRFS(relapse-free survival)、有害事象、EQ-5Dを用いたQOL評価である。CONKO-001試験の結果をもとにGemcitabine群の3年生存割合を36%と仮定し、S-1群のGemcitabine群に対するハザード比を0.87と見込み、片側α=0.025、検出力80%(非劣性マージン1.25)で240イベントが必要であり、登録期間3年・観察期間2年として、必要症例数は360例と計算された。
2007年4月11日〜2010年6月29日の間に385例が登録され、Gemcitabine群193例、S-1群192例に無作為化されたが、3例が不適格で5例が術後補助化学療法を施行されなかったため、PPSはGemcitabine群190例、S-1群187例となった。
180イベントが発生した2012年7月に中間解析が行われ、Gemcitabine群に対するS-1群のハザード比は0.56で、非劣性のP値は<0.0001であり、事前に規定されていたP値(0.001)を下回っていた。さらに、log-rank検定で解析した結果、Gemcitabine群に対するS-1群の優越性も認められた(p<0.0001)ため、独立データモニタリング委員会から早期中止が勧告された。なお、独立データモニタリング委員会から長期追跡結果をpublishすることを推奨され、当初2年追跡とされていた最終解析を5年追跡に変更した。
追跡期間中央値Gemcitabine群82.3ヵ月、S-1群79.3ヵ月におけるOS中央値は、Gemcitabine群25.5ヵ月、S-1群46.5ヵ月であり、S-1群で有意なOS改善を認めた(HR=0.57, 95% CI: 0.44-0.72, p<0.0001[非劣性、優越性ともに])。3年OS割合はそれぞれ38.8%、59.7%、5年OS割合はそれぞれ24.4%、44.1%であった。また、RFS中央値はGemcitabine群11.3ヵ月、S-1群22.9ヵ月であり、S-1群で有意なRFS改善を認めた(HR=0.60, 95% CI: 0.47-0.76, p<0.0001)。3年RFS割合はそれぞれ22.4%、39.2%、5年RFS割合はそれぞれ16.7%、33.3%であった。なお、サブグループ解析では、T1およびT2、stage IAおよびIB、管状腺癌以外において、OS、RFSともにハザード比上限が1を大きく超えていたが、いずれもごく少数例であった。
Grade 3/4の有害事象(5%以上)は、Gemcitabine群では白血球減少、好中球減少、血小板減少、ヘモグロビン減少、AST上昇、食欲不振、疲労、S-1群では白血球減少、好中球減少、ヘモグロビン減少、血小板減少、疲労、食欲不振、下痢が認められ、Gemcitabine群の2例にgrade 5の感染症(胆管炎1例、肺炎1例)を認めた。
Gemcitabine群42%、S-1群28%が完遂前に治療中止しており(p=0.0050)、その主な理由は、有害事象(Gemcitabine群25%、S-1群21%)、再発(それぞれ13%、5%)であった。なお、減量せずに投与完遂した症例は、Gemcitabine群35%、S-1群59%であり(p<0.0001)、相対用量強度はGemcitabine群が平均79%、中央値84%、S-1群が平均89%、中央値98%であった。
両群ともに94%でQOL質問表が回収され、プロトコル治療中の6ヵ月時点まではEQ-5D utility indexに群間差はみられなかったが、時間経過とともに差は広がっていった(p=0.0598)。
以上のように、日本人の切除後膵癌に対する補助化学療法として、S-1はGemcitabineに対してOS、RFSともに有意な延長を認めた。S-1は膵癌術後においても忍容性は良好であり、患者のQOLを改善する可能性があると考えられる。
監訳者コメント:
本邦ではS-1が切除後膵癌に対する新たな標準治療に
膵癌において、外科的切除が唯一治癒を期待できる治療であるが、切除できても多くは再発してしまう。そこで、切除後膵癌の治療成績向上のためにも、術後補助化学療法は必須であり、これまでGemcitabineが標準治療として行われていた。しかし、Gemcitabineに対してS-1がOS、RFSを延長することを示したこの論文により、本邦の切除後膵癌に対する標準治療が変わり、現在改訂中の膵癌診療ガイドラインでも、切除後膵癌に対する補助化学療法はS-1が推奨される見通しである。
本試験は非劣性試験としてデザインされていたことからもわかるように、ここまで大きな差をもってS-1が優越性を示すとは予測されていなかった。結果として、S-1が優越性を示した理由の1つとして、切除不能・再発膵癌を対象としたGemcitabineとS-1の治療成績を参照すると、S-1の方が高い奏効割合を示すこと(13.3% vs. 21.0%)8)が考えられている。また、膵切除後の患者であっても忍容性が高かったことも、重要なポイントであろう。
ただし、S-1は米国で薬事承認されておらず、欧州でもあまり使用されていないこともあり、世界標準の治療にはなり得ていない。現在、切除後膵癌に対するGemcitabine+S-1併用療法とGemcitabine単独療法の比較第III相試験も進行中であるが、これらの試験により、今後、膵癌術後補助化学療法におけるS-1の有効性が再現されることを願う。
- 1) Neoptolemos JP, et al.: N Engl J Med. 350(12): 1200-1210, 2004[PubMed]
- 2) Oettle H, et al.: JAMA. 297(3): 267-277, 2007[PubMed]
- 3) Ueno H, et al.: Br J Cancer. 101(6): 908-915, 2009[PubMed]
- 4) Neoptolemos JP, et al.: 304(10): 1073-1081, 2010[PubMed]
- 5) Oettle H, et al.: JAMA. 310(14): 1473-1481, 2013[PubMed]
- 6) Ueno H, et al.: Oncology. 68(2-3): 171-178, 2005[PubMed]
- 7) Okusaka T, et al.: Cancer Chemother Pharmacol. 61(4): 615-621, 2008[PubMed]
- 8) Ueno H, et al.: J Clin Oncol. 31(13): 1640-1648, 2013[PubMed]
監訳・コメント:神奈川県立がんセンター 消化器内科 医長 小林 智
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