10月監修:聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学 教授 中島 貴子
大腸癌
切除後stage II/III直腸癌に対するUFT vs. S-1(ACTS-RC試験)
Oki E, et al.: Ann Oncol. 27(7): 1266-1272, 2016
欧米における直腸癌に対する標準治療は術前化学放射線療法(CRT)後の直腸間膜全切除術(TME)であるが、日本ではCRTを行わず、自律神経温存D3郭清術により局所進行直腸癌の治療効果が改善されている1)。ただ、遠隔再発抑制や局所コントロールの重要性は東西問わず、術後補助化学療法が研究されているが、有用性を示したのは術前CRT後のOxaliplatin(L-OHP)を含むレジメンを検討した第II相試験(ADORE試験)のみであり2)、第III相試験では有用なレジメンは認められていない。
UFTは、日本における結腸癌に対する術後補助化学療法では通常6ヵ月投与だが、切除後stage III直腸癌に対する補助化学療法として1年投与でベネフィットを示しており3)、直腸癌に対する術後補助化学療法の標準治療はUFTの1年投与であると考えられた。一方、S-1はstage III結腸癌に対する術後補助化学療法の無作為化試験で有用性を示しており4)、切除不能進行・再発大腸癌に対する第III相試験でL-OHPやIrinotecanとの併用レジメンが標準的な多剤併用化学療法レジメンと比較して非劣性を認めている5, 6)。そこで、stage II/III直腸癌に対する術後補助化学療法として、UFTに対するS-1の優越性を検討する多施設共同オープンラベル無作為化試験、ACTS-RC試験が行われた。
対象は20〜80歳、D2またはD3郭清を伴う治癒切除後のstage II/III直腸癌患者(病理的T3/4, N0またはany T, N1/2)であった。
対象患者は、施設、腫瘍位置、浸潤の深さ、リンパ節転移により層別化され、UFT群(500〜600mg/day, day 1-5, 1週間毎, 1年間)とS-1群(80〜120mg/day, day 1-28, 6週毎, 1年間)。患者は手術後42日以内に登録され、登録後7日以内に試験治療を開始した。
主要評価項目はRFS(relapse-free survival)、副次評価項目はOS、有害事象である。UFT群の5年RFS割合を70%と仮定し、S-1群のUFT群に対するハザード比を0.70と見込み、登録期間3年、追跡期間5年、α=0.05、検出力80%で、不適格率を5%以内と想定して必要症例数は800例であった。
2006年4月〜2009年3月の間に222施設から961例が登録されたが、2例が解析から除外されたため、主要評価項目の解析ではUFT群480例、S-1群479例となった。
5年RFS割合はUFT群61.7%、S-1群66.4%であり、S-1群で有意なRFS改善を認めた(HR=0.77, 95% CI: 0.63-0.96, p=0.0165)。一方、5年OS割合はUFT群80.2%、S-1群82.0%であり、両群間に有意差は認めなかった(HR=0.92, 95% CI: 0.71-1.20, p=0.5365)。
治療を受けた全症例で安全性の解析が行われ、全gradeの有害事象はUFT群73.9%、S-1群82.3%、grade 3以上の有害事象はUFT群11.7%、S-1群13.4%であり、S-1は忍容可能であった。多く認められたgrade 3以上の有害事象は、UFT群ではALT上昇(2.3%)、下痢(2.3%)、AST上昇(1.5%)、ヘモグロビン減少(1.3%)であり、S-1群では食欲不振(2.6%)、下痢(2.6%)、疲労(2.1%)、ヘモグロビン減少(1.3%)、総ビリルビン増加(1.3%)、悪心(1.3%)であった。
1年間投与の完遂率はUFT群61.8%、S-1群61.3%であり、6ヵ月以内の治療中止はUFT群25.9%、S-1群23.8%に認められた。なお、再発例(UFT群174例、S-1群147例)に対して、UFT群98.3%、S-1群93.9%で試験後治療が行われた。
5年累積局所再発割合はUFT群13.0%、S-1群9.8%であった(HR=0.72, 95% CI: 0.48-1.09)。また、5年累積遠隔再発割合はUFT群26.9%、S-1群24.7%であった(HR=0.86, 95% CI: 0.67-1.11)。なお、RFSとOSのサブグループ解析では、レジメンと年齢(70歳以上、70歳未満)の間に有意な相関を認めた(p=0.006)。
以上のように、術前補助療法を行っていない切除後stage II/III直腸癌に対する補助化学療法として、S-1はUFTに対してRFSの有意な延長を認めた。OSで有意差を認めなかった理由としては、再発例に対する試験後治療により予想以上に良好なOS割合が達成され、追跡期間が5.5年では短く、試験の検出力不足によるものと推測される。
今後の臨床試験で、術前CRTを受けた症例に対する術後補助化学療法としてのS-1投与を検討すべきだが、本試験の結果が異なる人種間で外挿できるかは不明であり、本試験におけるS-1の用法・用量は白人においては高頻度で消化器毒性を引き起こす可能性がある。
S-1は、特に術前CRTを受けていない切除後stage II/III直腸癌に対する補助化学療法の重要な選択肢となると考えられる。
監訳者コメント:
Stage II/III直腸癌における術後補助化学療法にS-1が有効である
結腸癌に対する術後補助化学療法に関しては、フッ化ピリミジン系製剤の有用性が示され、さらにL-OHPの上乗せ効果が示されている。しかし、これらはあくまでも結腸癌に関して得られた知見であり、直腸癌に関してはエビデンスが乏しいのが現状である。その背景には、本邦と欧米における直腸癌に対する治療法の違いが挙げられる。欧米における直腸癌に対する標準的治療法は、手術+周術期化学放射線療法である。一方で、本邦における標準的治療法は手術療法である。このことから放射線を併用しない本邦において、術後補助化学療法に関するエビデンスを構築する必要がある。
直腸癌に関する術後補助化学療法では、結腸癌・直腸癌を対象としたNSAS-CC試験が挙げられる。この試験では、stage III直腸癌において、UFTによる術後補助化学療法が手術単独と比較してRFS、OSともに有意に良好であるという結果が得られている3)。
ACTS-RC試験は、このUFTを対照群としてS-1の優越性を検証した試験である。主要評価項目である5年RFS割合において、UFT群61.7%、S-1群66.4%(HR=0.77, 95% CI: 0.63-0.96, p=0.0165)と有意に良好な結果が得られた。また、有害事象や完遂率からは、その忍容性も問題ないと考えられる。残念ながらOSの延長は認められなかったが、再発後に行われたと考えられる化学療法と観察期間の影響が考えられる。
本試験の結果から、今後はstage II/III直腸癌の術後補助化学療法として、S-1の1年間内服が標準的治療法となる可能性が考えられる。今後は内服期間の問題やL-OHPの上乗せなどに関して、検討の余地があると考えられた。
- 1) Sugihara K, et al.: Dis Colon Rectum. 49(11): 1663-1672, 2006[PubMed]
- 2) Hong YS, et al.: Lancet Oncol. 15(11): 1245-1253, 2014[PubMed]
- 3) Hamaguchi T, et al.: Cancer Chemother Pharmacol. 67(3): 587-596, 2011[PubMed]
- 4) Yoshida M, et al.: Ann Oncol. 25(9): 1743-1749, 2014[PubMed]
- 5) Muro K, et al.: Lancet Oncol. 11(9): 853-860, 2010[PubMed]
- 6) Yamada Y, et al.: Lancet Oncol. 14(13): 1278-1286, 2013[PubMed]
監訳・コメント:熊本大学大学院生命科学研究部 消化器外科学 講師 坂本 快郎
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