11月監修:愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 医長 谷口 浩也
胃癌
切除可能胃癌に対する2, 4コースのS-1+Cisplatin vs. Paclitaxel+Cisplatin(COMPASS試験)
Yoshikawa T, et al.: Eur J Cancer. 62: 103-111, 2016
局所進行胃癌に対するアジアにおける標準治療はD2郭清を伴う胃切除術+術後補助化学療法であり1)、術後補助化学療法としては、日本ではS-1の1年間投与2)、韓国ではCapecitabine+Oxaliplatinの6ヵ月程度の投与が行われている3)。しかし、S-1による術後補助化学療法でもstage III胃癌の予後は良好とは言えない4)。一方、欧州では術前術後補助化学療法5-7)、米国ではD2郭清を伴う胃切除術と術前または術後に化学放射線療法が行われている8)。
S-1+Cisplatin(CDDP)併用療法(SC)は切除不能胃癌に対する日本における標準治療であり9, 10)、術後補助化学療法としての忍容性は不十分であるものの11, 12)、術前補助療法における安全性と忍容性は示されている13-15)。また、Paclitaxel+CDDP併用療法(PC)は切除不能16, 17)と術前18)のいずれにおいても高い奏効率と忍容性が認められている。ただ、周術期補助化学療法の投与期間は定まっておらず、術前化学療法における日本の臨床試験では2コース13, 19)、MAGIC試験では3コースである一方5)、術後補助化学療法では6ヵ月〜1年間投与である2, 3)。そこで、切除可能な局所進行胃癌に対する術前化学療法としての至適レジメンと投与期間を検討するために、2コースと4コースのSCとPCを比較する2×2 factorial designのオープンラベル無作為化第II相試験、COMPASS試験が行われた20)。
対象は、20〜80歳、ECOG PS 0/1で、遠隔転移がなくT2-3N+またはT4aN0のスキルス胃癌/食道胃接合部腺癌、T2-3N+(主幹動脈沿いのリンパ節転移)、T4aN+, T4bであった。また、傍大動脈周囲リンパ節転移例、切除可能な少数の腹膜転移例も対象とされた。
患者は、SC(S-1:80mg/m2/day, day 1-21+CDDP:60mg/m2, day 8、4週毎)を2コース行う群(SC2群)と4コース行う群(SC4群)、PC(Paclitaxel:60mg/m2, day 1, 8, 15+CDDP:25mg/m2, day 1, 8, 15、4週毎)を2コース行う群(PC2群)と4コース行う群(PC4群)に無作為化割付けされた。そして、術前化学療法を行った後に、R0切除を目的とした標準的なD2郭清を伴う胃切除術を行った。肉眼的治癒切除後はS-1による術後補助化学療法を再発するまで6〜12ヵ月施行することが推奨され、S-1以外の術後補助化学療法は再発まで許可されなかった。
主要評価項目は3年OS割合である。対照群(2コースとSCレジメン)の仮定した3年OS割合20%、30%、40%を試験群(4コースとPCレジメン)が10%改善する場合、検出力はそれぞれ81%、79%、78%で必要症例数60例、それぞれ85%、83%、82%で80例であった。
2009年10月〜2011年7月の間に83例が登録され、SC2群21例、SC4群20例、PC2群21例、PC4群21例に無作為化された。全ての適格患者は術前化学療法を受け、4群間の患者背景はバランスが取れていた。R0切除率は、SCレジメン78%、PCレジメン71.4%、2コース73.8%、4コース75.6%であった。また、術前化学療法はレジメン、コースにかかわらず忍容性が認められた。なお、手術の合併症はレジメン、コース間で同程度であり、治療関連死は認められなかった。
早期の結果では、病理学的奏効率はレジメンやコースにかかわらず同程度であった。本報告はCOMPASS試験の生存結果の報告である。
SCレジメンに対するPCレジメンのOSのハザード比は1.03であり(95% CI: 0.54-1.97, p=0.921)、4コースの2コースに対するハザード比は1.13であった(95% CI: 0.60-2.169, p=0.700)。主要評価項目である3年OS割合は、SCレジメン60.9%、PCレジメン64.3%、2コースレジメン64.3%、4コースレジメン61.0%であった。また、サブセット解析ではいずれのサブグループにおいても差を認めなかった。また、各群の3年OS割合は、SC2群67%、SC4群55%、PC2群62%、PC4群67%であり、レジメン間(p=0.956)、コース間(p=0.723)に有意差は認めなかった。なお、再発または増悪部位は、腹膜(SCレジメン9例、PCレジメン10例)、肝臓(いずれも4例)、リンパ節(それぞれ11例、6例)、他の部位(6例、8例)であり、差はみられなかった。
以上のように、局所進行胃癌に対する術前化学療法として、3年OS割合は4群間に差を認めなかった。今後、局所進行胃癌に対する術前化学療法の第III相試験における試験群の候補としては、S-1+CDDPの2コースが推奨される。
監訳者コメント:
術前化学療法の至適コース数は?
我が国における局所進行胃癌に対する標準治療は、D2胃切除術+術後1年間のS-1内服である。しかしながら、stage IIIAで5年OS割合67.1%、IIIBでは50.2%といまだ改善の余地があり(stageはいずれも胃癌取扱い規約 第13版)、術前化学療法付加による予後改善効果が期待されている4)。実際に、JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)では、cT3-4N1-3M0の局所進行胃癌に対して術前化学療法の有効性を検証することを目的とした無作為化比較第III相試験が行われている21)。また、中国、韓国でも同様の無作為化比較試験が行われており、試験結果によっては、我が国においても術前化学療法が局所進行胃癌に対する標準治療となるであろう。
術前化学療法においてはSC療法2コースを施行することが我が国では一般的であるが、これまでに至適投与期間に関する検討は行われていない。理論的には術前化学療法の強度を上げることが治療成績向上に繋がると期待され、至適なレジメンおよび至適投与期間を検討することを目的として、2コースと4コースのSC療法とPC療法を比較するCOMPASS試験が行われた。術前化学療法の至適投与期間を明らかにすることを目的とした初めての無作為化比較試験であり、結果は興味深く受け入れられた。
早期に公表された結果では、術前化学療法の期間を延長しても有害事象は制御可能であり、手術合併症の増加もみられなかった。また、4コース群でpCRが得られており投与期間延長による治療成績改善が期待されていたが、主要評価項目である3年OS割合の改善はみられなかった。推察の域を出ないものの、術前化学療法の治療強度としては2コースで十分である可能性、術前化学療法不応例において追加2コースの間に臨床的には検出不能なdisease progressionが起こり、長期成績に影響を与えた可能性などが考えられる。
いずれにしても、投与期間延長は予後改善に寄与しないことがCOMPASS試験の結果より明らかとなった。今後も、術前化学療法のレジメンとしては2コースのSC療法を第一選択とすべきであろう。
- 1) Yoshikawa T, Sasako M: Nat Rev Clin Oncol. 9(4): 192-194, 2012[PubMed]
- 2) Sakuramoto S, et al.: N Engl J Med. 357(18): 1810-1820, 2007[PubMed]
- 3) Bang YJ, et al.: Lancet. 379(9813): 315-321, 2012[PubMed]
- 4) Sasako M, et al.: J Clin Oncol. 29(33): 4387-4393, 2011[PubMed]
- 5) Cunningham D, et al.: N Engl J Med. 355(1): 11-20, 2006[PubMed]
- 6) Okines A, et al.: Ann Oncol. 21(suppl 5): v50-54[PubMed]
- 7) Ychou M, et al.: J Clin Oncol. 29(13): 1715-1721, 2011[PubMed]
- 8) Ng K, et al.: Cancer J. 13(3): 168-174, 2007[PubMed]
- 9) Japanese Gastric Cancer Association: Gastric Cancer. 14(2): 113-123, 2011[PubMed]
- 10) Koizumi W, et al.: Lancet Oncol. 9(3): 215-221, 2008[PubMed]
- 11) Takahari D, et al.: Cancer Chemother Pharmacol. 67(6): 1423-1428, 2011[PubMed]
- 12) Kodera Y, et al.: Gastric Cancer. 13(3): 197-203, 2010[PubMed]
- 13) Inoue K, et al.: Eur J Surg Oncol. 38(2): 143-149, 2012[PubMed]
- 14) Nashimoto A, Anticancer Res. 29(11): 4689-4696, 2009[PubMed]
- 15) Yoshikawa T, et al.: Eur J Surg Oncol. 36(6): 546-551, 2010[PubMed]
- 16) Nagata N, et al.: Hepatogastroenterology. 55(86-87): 1846-1850, 2008[PubMed]
- 17) Sakamoto J, et al.: Gastric Cancer. 12(2): 69-78, 2009[PubMed]
- 18) Tsuburaya A, et al.: Cancer Chemother Pharmacol. 71(5): 1309-1314, 2013[PubMed]
- 19) Yoshikawa T, et al.: Br J Surg. 96(9): 1015-1022, 2009[PubMed]
- 20) Yoshikawa T, et al.: Jpn J Clin Oncol. 40(4): 369-372, 2010[PubMed]
- 21) 局所進行胃癌における術後補助化学療法に対する周術期化学療法の優越性を検証することを目的としたランダム化比較第III相試験(JCOG1509, NAGISA trial)[UMIN-CTR]
監訳・コメント:静岡県立静岡がんセンター 胃外科 医長 徳永 正則
GI cancer-net
消化器癌治療の広場