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12月
監修:愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 医長 谷口 浩也

大腸癌

切除不能進行・再発大腸癌における原発巣の部位(CRYSTAL試験とFIRE-3試験)


Tejpar S, et al.: JAMA Oncol. 2016 [Epub ahead of print]

 切除不能進行・再発大腸癌患者に対する1st-lineでFOLFIRIへのCetuximabの上乗せ効果を検討したCRYSTAL試験において、KRAS野生型患者ではPFS、OS、ORRの有意な改善を認め、拡大RAS解析においてはさらなる上乗せを認めた1-3)。また、KRAS野生型切除不能進行・再発大腸癌患者に対する1st-lineでFOLFIRI+CetuximabとFOLFIRI+Bevacizumabを比較したFIRE-3試験においては、ORRとPFSは両群で同程度であったものの、OSはFOLFIRI+Cetuximab群で有意な改善を認め、拡大RAS解析ではOSベネフィットは増加した4)

 切除不能進行・再発大腸癌は、原発巣が発生する部位により臨床的、分子的に異なり、左側(脾彎曲部、下行結腸、S状結腸、直腸、横行結腸の遠位1/3)は後腸由来、右側(虫垂、盲腸、上行結腸、肝彎曲部、横行結腸の近位2/3)は中腸由来である。左側と右側は遺伝子発現プロファイルも異なり、右側の特徴として、予後不良因子であるBRAF変異、マイクロサテライト不安定性、hypermutation、serrated pathway陽性、粘液癌を認め、左側の特徴として、EGFR阻害剤感受性に関連する遺伝子発現プロファイル(EGFR/HER2増幅、EREG高発現、染色体不安定性)が認められる5-8)。これらの分子的な差異により右側は予後不良であることが示されているが5, 7-18)、原発巣の部位はこれまで臨床試験の層別因子に含まれておらず、治療への影響は完全には判明していない。一方、NCIC CTG CO.17試験の後ろ向き解析19)やWangらの報告20)では、原発巣の部位はCetuximabの効果予測因子であることが示唆されており、EGFR阻害療法の効果は原発巣の部位により異なるという仮説が導かれている5, 21)。そこで、CRYSTAL試験とFIRE-3試験における原発巣の部位と予後および効果予測の関連について検討された。

 対象はCRYSTAL試験とFIRE-3試験におけるRAS野生型患者で、[左側:脾彎曲部、下行結腸、S状結腸、直腸]、[右側:虫垂、盲腸、上行結腸、肝彎曲部、横行結腸]と分類し、両側にあり左右に分類できない患者は除外した。

 両試験は対照群が異なるため、プール解析ではなく別々に解析された。ORRの解析にはロジスティック回帰モデル、PFSとOSの解析にはCox回帰モデル(単変量と多変量)が用いられた。

 CRYSTAL試験のRAS野生型患者は、左側280例(76%)、右側84例(23%)、両側3例(1%)であり、FIRE-3試験のRAS野生型患者は、左側306例(76.5%)、右側88例(22%)、両側6例(1.5%)であった。両試験の患者背景および後治療は原発巣の部位による違いを認めたが、これは生物学的特徴や予後を反映していると考えられ、右側では女性、多発転移が多く、左側では肝限局転移が多かった。対照群と治療群の患者背景および後治療は、左側では両試験ともバランスがとれていたが、右側では偶然の違いがみられ、CRYSTAL試験ではFOLFIRI+Cetuximab群と比べてFOLFIRI群でECOG PS 0が多く、対象病変の数は少なく、術後補助化学療法歴は少なく、後治療を受けた患者は多かった。FIRE-3試験でも同様にFOLFIRI+Cetuximab群と比べてFOLFIRI+Bevacizumab群はECOG PS 0が多く、後治療を受けた患者が多かった。

 原発巣の部位と予後の関連において、CRYSTAL試験のFOLFIRI+Cetuximab群ではPFS、OS、ORRのいずれも右側に比べて左側で有意に良好であり(OS中央値: 18.5ヵ月 vs. 28.7ヵ月, p=0.003)、FOLFIRI群でも弱いものの左側で良好な傾向がみられた(15.0ヵ月 vs. 21.7ヵ月, p=0.11)。同様に、FIRE-3試験のFOLFIRI+Cetuximab群ではORR、PFS、OSのいずれも右側に比べて左側で良好であり(18.3ヵ月 vs. 38.3ヵ月, p<0.001)、FOLFIRI+Bevacizumab群でも弱いものの同様の傾向がみられた(23.0ヵ月 vs. 28.0ヵ月, p=0.04)。

 原発巣の部位と効果予測の関連において、CRYSTAL試験の左側ではCetuximabの上乗せによりORR、PFS、OSのいずれも有意な改善を認めたが(OS中央値: 21.7ヵ月 vs. 28.7ヵ月, p=0.002)、右側では少数例ではあるもののCetuximabの上乗せ効果は限定的であった(15.0ヵ月 vs. 18.5ヵ月, p=0.76)。同様に、FIRE-3試験の左側ではFOLFIRI+Bevacizumab群に比べてFOLFIRI+Cetuximab群で有意なOSの改善を認めたが(28.0ヵ月 vs. 38.3ヵ月, p=0.002; 全体解析と同様にORRとPFSは有意差なし)、右側ではORR、PFS、OSのいずれも有意差を認めず、むしろFOLFIRI+Bevacizumab群で良好な傾向があった(23.0ヵ月 vs. 18.3ヵ月, p=0.28)。

 原発巣の部位と治療の交互作用に関する多変量解析においては、CRYSTAL試験ではPFSとOSで原発巣の部位と治療との間に有意な交互作用を認め(PFS: p=0.0434, OS: p=0.0241)、性別はPFSの予後因子であり、治療とBRAF変異状況はともにPFSとOSとの関連を認めた。同様に、FIRE-3試験ではOSで原発巣の部位と治療との間に有意な交互作用を認め(p=0.0015)、原発巣の部位とBRAF変異状況はPFSとOS、性別はPFS、治療はOSの予後因子であった。

 以上のように、CRYSTAL試験とFIRE-3試験のRAS野生型集団において原発巣の部位は予後因子であると考えられた。また、Cetuximab併用により右側では有意差を認めなかったが左側では大きなベネフィットを認め、FIRE-3試験の解析から、FOLFIRI+CetuximabはRAS野生型の左側において好ましい治療選択肢であることが示唆された。右側におけるCetuximabによるベネフィットを明確にするにはさらなる研究が必要である。



監訳者コメント:
切除不能進行・再発大腸癌における原発巣の左右による予後の違い

 大腸癌患者において、下行結腸、S状結腸、直腸を含む左側を原発巣とする場合と、虫垂、盲腸、上行結腸、肝彎曲部、横行結腸を含む右側を原発巣とする場合とでは、臨床的にも発生学的にも違いがあるとされている。本研究で行われたCRYSTAL試験とFIRE-3試験の2つの研究におけるRAS野生型患者を対象とした後ろ向き解析では、原発巣部位の予後因子、あるいは効果予測因子としての適切性が検討された。

 原発巣部位を予後因子とする解析では、CRYSTAL試験のFOLFIRI+Cetuximab群、FOLFIRI群、FIRE-3試験のFOLFIRI+Cetuximab群、FOLFIRI+Bevacizumab群のいずれにおいても原発巣が左側の患者でOS中央値が長かった。一方、原発巣部位を効果予測因子とする解析では、対照群が試験間で共通でないため注意が必要であるが、CRYSTAL試験とFIRE-3試験の両者においてFOLFIRI+Cetuximab群は左側では統計学的に有意にOSが長い傾向を認めたが、右側ではその傾向はみられなかった。

 2016年の米国臨床腫瘍学会年次集会において発表された、KRAS野生型の切除不能進行・再発大腸癌患者を対象としたCALGB80405試験の後ろ向き解析においても、化学療法への上乗せとして検討されたCetuximab群、Bevacizumab群のいずれでも原発巣が左側の患者(全体で732例)の方が右側の患者(293例)と比較して生存期間中央値が長かった(それぞれ36.0ヵ月 vs. 16.7ヵ月、31.4ヵ月 vs. 24.2ヵ月)。一方、効果予測因子としての検討では、左側ではCetuximab群の方がOS中央値は長く(36.0ヵ月 vs. 31.4ヵ月)、右側ではBevacizumab群の方がOS中央値は長かった(16.7ヵ月 vs. 24.2ヵ月)。

 これらの報告により、大腸癌における原発巣部位については、予後因子としてだけでなく、効果予測因子としての有用性もあることが示唆された。抗EGFR抗体薬に感受性の高いphenotypeが左側に多いことはこれまでにも報告されている。また、現在明らかでない発生学的要因のsurrogateとしての価値も考えられ、原発巣部位は治療法選択に用いることができる可能性がある。今後の無作為化試験においては、原発巣部位を効果予測因子とした検討が必要であろう。サブグループ解析を実施する場合、相対的に少数例での検討となることから、原発巣部位は割付時の層別因子に加えるべきである。

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監訳・コメント:横浜市立大学医学部 臨床統計学 准教授 田栗 正隆

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