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2009年1月〜2015年12月の論文紹介
2003年1月〜2008年12月の論文紹介

1月
監修:静岡県立静岡がんセンター 大腸外科 部長 絹笠 祐介

大腸癌

直腸癌に対する術前化学放射線療法と手術の間隔(GRECCAR-6試験)


Lefevre JH, et al.: J Clin Oncol. 34(31): 3773-3780, 2016

 欧米のガイドラインでは、T3/T4またはN+の中部または下部直腸癌に対して術前の放射線療法または化学放射線療法が推奨されているが、これらは局所再発率を有意に改善するもののOSの改善は認めていない1,2)。一方、化学放射線療法は70%で腫瘍縮小またはdownstage、25%でpCR(ypT0N0)を認めており、pCRは良好な予後につながる3)

 化学放射線療法完遂と手術までの最適な間隔は定まっていない。唯一の無作為化比較試験であるLyon R90-01試験では、2週間間隔と比べて6週間間隔で、臨床的奏効率が53.1%から71.7%に増加し(p=0.007)、pCRまたはnear pCRの割合も10.3%から26%に増加した(p=0.0054)4)。手術を遅らせる理由は放射線療法の機序に基づいており、DNA損傷は照射中に起こるが、細胞融解は数週間以内に起こることが確認されている5,6)。また、後ろ向き研究では、40日間隔に比べて7週間以上間隔でpCR率が増加したこと7)、手術までの間隔が良好な奏効の唯一の独立した因子であること8)、8週間間隔未満と比べて8週間間隔以上でpCR率が増加したこと9)、手術までの間隔が良好なpCR率および合併症軽減と関連すること10)が報告されている。ただ、これらの研究では手術のタイミングが外科医選択であるなどのバイアスがあり11)、化学放射線療法の種類や間隔のカットオフも異なっている12)

 そこで、化学放射線療法終了と手術までの間隔(7週間 vs. 11週間)がpCR率に及ぼす影響を検討するオープンラベル無作為化比較第III相試験、GRECCAR-6試験が行われた13)

 対象は、化学放射線療法(5-FUまたはCapecitabine、45-50Gy)を受けた、cT3/4またはTxN+の中部または下部直腸癌患者であり、18歳未満、上部1/3直腸癌、同時転移、化学放射線療法を完遂していない患者は除外された。

 対象患者は、7週間間隔(7w)群と11週間間隔(11w)群に無作為化され、手術は腫瘍の位置および外科医の判断に応じて、括約筋温存手術または腹会陰式直腸切除術(APR)を伴う全直腸間膜切除術(TME)が行われ、開腹手術/腹腔鏡下手術、吻合タイプ、ドレナージ、diverting stoma造設は外科医の裁量に委ねられた。

 主要評価項目はpCR率であり、副次評価項目は術後合併症、括約筋温存手術の割合、OS、DFS(disease-free survival)であった。7w群のpCR率を6〜8週間間隔と同様の12%、11w群のpCR率を26%と仮定し、両側α=0.05、検出力80%で、脱落率10%を見込み、必要症例数は264例であった。

 2012年10月〜2015年2月の間に24施設から265例が登録された。患者背景は両群間に差は認めず、cT3が82%であり、10%は化学放射線療法前にAPRが必要であった。なお、10例(3.4%)は化学放射線療法後に遠隔転移(5例)などの理由により手術を受けず、2例で局所切除が行われたため、253例で解析された。また、80%は規定された期間に手術が行われたが、6%は期間前、14%は期間後に手術が行われ、規定された期間後に手術が行われた症例は11w群(8.6%)よりも7w群(20.8%)で多かった(p=0.0206)。

 括約筋温存率は7w群90.4%、11w群89.1%と同様であり(p=0.7261)、術式は腹腔鏡下手術が多く(82.6%)、開腹手術への移行率は7w群9.5%、11w群14.6%と、11w群で多かった(p=0.2638)。平均手術時間は、7w群291.0分、11w群305.8分と、11w群で長かった(p=0.3577)。

 ITT解析におけるpCR率は、7w群15.0%(133例中20例)、11w群17.4%(132例中23例)であり、両群に差を認めなかった(p=0.5983)。また、per protocol解析におけるpCR率も、7w群17.2%(93例中16例)、11w群15.7%(108例中17例)であり、両群に差を認めなかった(p=0.7800)。

 全体の合併症は、7w群32%、11w群44.5%であり、11w群で有意に多く認められた(p=0.04)。縫合不全は両群間で同程度であったが、内科合併症は7w群19.2%、11w群32.8%(p=0.01)、APR後の会陰創治癒遅延はそれぞれ16.7%、42.9%と(p=0.216)、いずれも11w群が有意に高率であり、平均入院期間は7w群11.7日、11w群13.2日で、有意差はないものの11w群で長かった(p=0.2639)。

 7w群と11w群の病理所見では、腫瘍サイズ(2.8cm vs. 3.1cm, p=0.5151)、ypT0/Tis/T1率(25.6% vs. 27.3%, p=0.7533)、腫瘍縮小グレード(TRG)3/4率(56.0% vs. 55.6%, p=0.9435)は両群で同程度であり、有意差を認めたのは、tumor colloid regression(19.4% vs. 31.4%, p=0.0444)、TMEの質(全切除: 90% vs. 78.7%, p=0.0156)であった。

 以上のように、直腸癌に対する化学放射線療法終了と手術の間隔を7週間から11週間にしてもpCR率は増加を認めなかった。待機時における化学療法の追加に関しては、最近、5-FU/LV+Oxaliplatinの忍容性、安全性、有効性を示す前向きデータがあるため14)、術前化学放射線療法後に化学療法の使用なしに手術まで11週間の間隔を空けるべきではないと考えられる。



監訳者コメント:
Stage II/III 直腸癌に対する術前化学放射線療法後の手術までの至適待機期間は?

 本試験は直腸癌に対し、術前化学放射線療法として5-FU静注またはCapecitabine内服併用下での放射線照射後の、根治手術までの至適待機期間を無作為化比較試験で検証したものである。

 手術までの待機期間をより長くとることでpCR率が上昇することが期待されたが、結果は、11w群は7w群にくらべてpCR率は上昇せず、むしろ術後合併症が増加し、TMEの質が低下するというデメリットが強く出ることが明確に示された点が興味深い。これは4週間の待機期間延長の間に、骨盤内の組織の線維化が進み、手術時の骨盤内操作がより困難になることが原因ではないかと推測される。有意差はないものの、11w群は7w群に比べて、手術時間が長く、開腹移行率が高い傾向にあることも示されている。また、11w群で泌尿器合併症が多く発生している点は、自律神経温存手術の観点からも注目すべきである。放射線治療終了後、長期間待機することで、腫瘍周囲の線維化がより強くなり、術中操作によって直腸間膜が割れやすくなることから、摘出標本のTMEの質が低下していることが推測される。TMEの質は直腸癌術後の局所制御に影響を及ぼすことが知られているため、今後報告される本試験の長期成績結果にも注目すべきであると考える。

 本試験の結果から、至適待機期間は7週間ということが示された。現状では、無治療で待機しているこの待機期間中にも、化学療法を継続することで、さらなるpCR率上昇やDownstagingを得られることが期待され、最近のトピックとなっている。これに関しては、現在進行中のMSKCCによる第II相試験15)などの無作為化比較試験の結果が待たれるところである。

監訳・コメント:静岡県立静岡がんセンター 大腸外科 医長 塩見 明生

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