5月監修:聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学 教授 中島 貴子
胃癌 食道癌
切除可能食道/胃癌に対する周術期Bevacizumab
(MRC-ST03試験)
Cunningham D, et al.: Lancet Oncol. 18(3): 357-370, 2017
切除可能な食道/胃癌においては手術に周術期化学療法を加えることで生存改善することが示されているが1,2)、予後は不良で5年生存率は40%程度である3,4)。また、Bevacizumabは進行胃癌患者に対して奏効率およびPFSの改善を認めたもののOSの改善を認めていない5,6)。一方、食道/胃癌においてR0切除は長期生存の重要な予測因子であり7)、術前化学療法における奏効例が多いほどR0切除率は上がり、生存改善につながると考えられる8)。そこで、切除可能な食道/胃癌患者に対する周術期化学療法へのBevacizumabの上乗せ効果を検討する第II/III相試験、MRC-ST03試験が行われた。本試験の第II相段階では最初の200例における安全性と忍容性が検討され、Bevacizumab上乗せは忍容性があり、毒性および手術合併症を有意に増加させないと考えられたため9)、本報告の第III相段階に移行した。
対象は、英国の87施設における18歳以上、WHO PS 0/1で未治療の切除可能な下部食道癌、食道胃接合部癌、胃癌患者である。試験開始時点(2007年1月)での適格症例は胃癌またはSiewert分類type IIIの食道胃接合部癌患者であったが、2009年7月にはtype II、2011年3月にはtype Iおよび下部食道癌患者を含むよう適格規準が変更された。
対象患者は、Epirubicin(50mg/m², day1)+Cisplatin(60mg/m², day1)+Capecitabine(1,250mg /m², day1-21)を3週間毎に術前3サイクル、術後3サイクル投与する群(ECX群)とECX療法にBevacizumab(7.5mg/kg, day1)を追加する群(ECX+Bevacizumab群)に1:1で無作為に割り付けられた。なお、ECX+Bevacizumab群では術後補助化学療法の後の維持療法としてBevacizumab(7.5mg/kg, day1, 3週毎)単剤を6サイクル投与した。手術の施行は術前化学療法の最終投与日の5〜6週間後としたため、術前Bevacizumab投与から手術までの期間は8週間以上であり、術後補助化学療法は手術後6〜10週間後に開始された。
主要評価項目はOS、副次評価項目は肉眼的なDFS(disease-free survival)、PFS、術前化学療法による奏効率、R0切除率であった。ECX群の5年OS割合を40%、Bevacizumab上乗せにより10%の改善を認めると仮定して(ハザード比0.76)、両側α=0.05、検出力80%で420イベントが必要であり、登録期間と追跡期間を考慮して必要症例数は900〜1,100例とされた。
2007年10月31日〜2014年3月25日の間に1,063例が登録され、ECX群533例、ECX+Bevacizumab群530例に無作為に割り付けられた。ベースラインの患者背景は両群でバランスが取れており、年齢中央値63歳、男性81%、stage III/IV 61%で、食道癌14%、食道胃接合部癌 Siewert type I 12%、type II 20%、type III 20%、胃癌36%であった。
追跡期間中央値38.4ヵ月の時点で、3年OS割合はECX群50.3%、ECX+Bevacizumab群48.1%であり、両群で同程度であった(HR=1.09, 95% CI: 0.91-1.29, p=0.36)。また、DFS(HR=1.04, 95% CI: 0.89-1.22, p=0.62)、PFS(HR=1.05, 95% CI: 0.89-1.23, p=0.56)のいずれも両群に差を認めなかった。術前化学療法における奏効率はECX群42%、ECX+Bevacizumab群41%(p=0.70)、病理学的奏効率はそれぞれ33%、30%であった(p=0.51)。
R0切除率はECX群64%、ECX+Bevacizumab群61%であり(p=0.47)、切除例におけるR0切除率は両群ともに75%であった。なお、R0切除率は腫瘍部位により異なり、胃癌が87%と最も高く、Siewert type III 75%、type II 72%、type I 61%、下部食道癌66%であった。
OSに関するサブグループ解析の結果、大部分のサブグループは主解析と概ね同様の傾向を認めた。一方、年齢に関しては傾向が異なり(I²=66%, p=0.053)、特に70歳以上ではECX群で有意に良好であった。ただ、本サブグループにおいてはECX+Bevacizumab群で非疾患関連死が多く認められた。
術前または術後補助化学療法のいずれかに生じた有害事象の頻度および重篤度は両群で同程度であり、grade 3以上の好中球減少は術前ではECX群27%、ECX+Bevacizumab群26%、術後ではそれぞれ33%、32%であった。ECX+Bevacizumab群で術後補助化学療法が施行された257例中179例(69%)でBevacizumabによる維持療法が施行され、そのうち16例(9%)は維持療法中にgrade 3/4の有害事象を認めた。最も多く認められた重篤な有害事象は(ECX群 vs. ECX+Bevacizumab群)、消化器障害(60 vs. 63イベント)、縫合不全(30 vs. 69イベント)、好中球減少を伴わない感染症(42 vs. 53イベント)であった。術後合併症はECX群48%、ECX+Bevacizumab群57%とECX+Bevacizumab群でやや多く、特に創傷治癒関連の合併症はECX+Bevacizumab群で多く認めた(7 vs. 12%)。生命を脅かす合併症は両群で同程度(いずれも8%)であった。なお、ECX+Bevacizumab群で縫合不全の増加を認めたのは食道胃切除が施行された集団のみであったため(食道胃切除施行例における縫合不全の発現頻度: 9 vs. 24%)、食道胃切除が予定される患者の登録は全体で1,057例が登録された時点で中止となり、すでに登録済みの場合は術前Bevacizumab投与が中止された。
以上のように、切除可能な食道/胃癌に対する周術期化学療法において、ECX療法へのBevacizumab上乗せによるOS改善は認められなかった。食道/胃癌患者のOS改善のためには、新たな治療法の探索が必要である。
監訳者コメント:
局所進行胃癌に対する周術期化学療法のベストレジメンは?
欧州ではMAGIC試験の結果をうけて、局所進行胃癌に対しては周術期化学療法+手術が標準治療となった。一方、アジアではACTS-GC試験、CLASSIC試験の結果から手術+術後補助化学療法が標準治療と考えられている。しかし、アジアにおいても術前化学療法は有望な治療戦略の一つと考えられており、術前化学療法の優越性を検証することを目的としたランダム化比較試験が各国で行われている。わが国においても、cT3-4N1-3胃癌を対象とし、術前3コースのS-1+Oxaliplatin併用化学療法の優越性を検証することを目的とした第III相試験(JCOG1509)が行われている。
局所進行胃癌に対して術前化学療法を行う際のレジメンは、腫瘍縮小効果が期待され、かつ手術に伴う合併症を増加させないものである必要がある。AVAGAST試験でbevacizumab併用化学療法は主要評価項目である全生存期間の延長効果を示すことはできなかったものの、奏効割合、PFS(progression free survival)はbevacizumab併用群で優れており、術前化学療法としての有効性が期待されていた。しかし、MRC-ST03試験ではOSの改善効果は示されず、安全のためにbevacizumab最終投与から手術まで8週間以上の間隔があけられていたにもかかわらず食道胃切除例での縫合不全の頻度を増加させるという結果であった。本試験で結論づけられているように食道/胃癌患者のOS改善のためには、より安全かつ有効な治療法の探索が必要であろう。
術前化学療法の開発においては、切除不能再発・進行胃癌に対してFirst lineで有効性が示されたレジメンを候補レジメンとすることが一般的である。Ramucirumab、免疫チェックポイント阻害剤を含むレジメンなども、現在進行中の試験結果によっては術前化学療法の治療レジメンの候補になりうる。標準治療・術式のことなる欧州の試験結果をわが国の臨床に即座に外挿することはできないが、術前化学療法は依然有望な治療選択肢の一つであり、今後も海外における治療開発の動向を注視する必要がある。
- 1) Cunningham D, et al.: N Engl J Med. 355(1): 11-20, 2006[PubMed]
- 2) Ychou M, et al.: J Clin Oncol. 29(13): 1715-1721, 2011[PubMed]
- 3) American Cancer Society. Survival rates for cancer of the esophagus, by stage.
- 4) American Cancer Society. Survival rates for stomach cancer, by stage.
- 5) Ohtsu A, et al.: J Clin Oncol. 29(30): 3968-3976, 2011[PubMed]
- 6) Shen L, et al.: Gastric Cancer. 18(1): 168-176, 2015[PubMed]
- 7) Kelsen DP, et al.: J Clin Oncol. 25(24): 3719-3725, 2007[PubMed]
- 8) Fields RC, et al.: Br J Cancer. 104(12): 1840-1847, 2011[PubMed]
- 9) Okines AF, et al.: Ann Oncol. 24(3): 702-709, 2013[PubMed]
監訳・コメント:国立がん研究センター東病院 胃外科 徳永 正則
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