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2009年1月〜2015年12月の論文紹介
2003年1月〜2008年12月の論文紹介

6月
監修:愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 医長 谷口 浩也

肺癌 消化器癌

肺癌/消化器癌患者に対する早期からの統合緩和ケア


Temel JS, et al.: J Clin Oncol. 35(8): 834-841, 2017

 進行癌患者の外来治療において、専門家による緩和ケアの重要性は高まっており1,2)、外来患者に対して癌治療と緩和ケアを同時に行うことで患者報告アウトカムが改善することが報告されている3-6)。新たに進行癌と診断された患者に対する緩和ケアの早期導入の有用性についてはあまり検討されてこなかったが、切除不能非小細胞肺癌患者を対象にした臨床試験では、早期からの統合された緩和ケアによりQOL、抑うつ症状、疾患理解が改善することが示されている7,8)。一方、癌治療の意図を理解できず終末期ケアの選択に関与しない進行癌患者は終末期ケアによる転帰が不良であることが報告されており9-11)、緩和ケアの目的はQOLや症状の改善に限らない12)。そこで、新たに診断された治癒切除不能な癌患者に対する早期からの統合された緩和ケアの有用性を評価する非盲検無作為化試験が行われた。

 対象は、18歳以上、ECOG PS 0-2で転移巣に対する治療歴がない、診断8週間以内の治癒切除不能な肺癌(非小細胞肺癌、小細胞肺癌、中皮腫)、および大腸癌以外の消化器癌(膵癌、食道癌、胃癌、肝胆道癌)患者であった。

 対象患者は、癌種により層別化され、癌治療と早期からの統合緩和ケアを行う群(早期緩和ケア群)と通常の癌治療を行う群(通常ケア群)に1:1で無作為に割り付けられた。早期緩和ケア群では、登録4週間以内および死亡まで月1回以上外来緩和ケアチームと面会し、患者、腫瘍内科医、緩和ケア医の裁量による追加の緩和ケア訪問が可能であった。通常ケア群では、腫瘍内科医、患者および家族による要望があった場合のみ緩和ケア医との面会が可能であった。QOLはFACT-G(Functional Assessment of Cancer Therapy-General)13)により評価され、気分と不安についてはPHQ-9(Patient Health Questionnaire-9)とHADS(Hospital Anxiety and Depression Scale)14,15)、予後に関する患者理解、腫瘍内科医とのコミュニケーションについてはPTPQ(Prognosis and Treatment Perceptions Questionnaire)16)により評価された。

 主要評価項目は、ベースラインから12週時点におけるFACT-Gスコアの変化であった。ベースラインから12週時点におけるFACT-Gスコアの4〜5ポイント改善を臨床的に意味のある変化であるとし、α=0.05、検出力80%で、データ欠落を考慮して必要症例数は350例であった。

 2011年5月2日〜2015年7月20日の間に350例が登録され、通常ケア群175例、早期緩和ケア群175例に割り付けられた。患者の大部分は白人であり、通常ケア群と比べて早期緩和ケア群では平均年齢がやや高く、併存疾患が多かった。また、通常ケア群において、12週時点で20.0%、24週時点で34.3%が緩和ケアチームと面会していた。

 ベースラインから12週時点におけるFACT-Gスコアの平均変化値は、通常ケア群1.13ポイント減少、早期緩和ケア群0.39ポイント増加であり(t[296]=−0.96, SE=1.59, p=0.339, Cohen's d=0.11)、24週時点における平均変化値は通常ケア群3.40ポイント減少、早期緩和ケア群1.59ポイント増加であった(t[238]=−2.59, SE=1.93, p=0.10, Cohen's d=0.33)。PHQ-9、HADS-DepressionおよびHADS-Anxietyスコアは両群で有意差を認めなかったが、ベースライン変数を調整したANCOVAモデルでは、24週時点におけるFACT-G、PHQ-9は早期緩和ケア群で有意に良好であった。また、終末低下モデルを用いたところ、死亡前2ヵ月、4ヵ月時点におけるFACT-G、PHQ-9は早期緩和ケア群が有意に良好だったが、死亡前6ヵ月時点においては有意差を認めなかった。

 12週時点において、癌治療のゴールが治癒であると考えている症例の割合は両群で同程度であったが、予後の理解が治療決定や疾患への対処において「とても有益」または「極めて有益」であると報告した症例は早期緩和ケア群で多く認められた。また、24週時点において、終末期の希望について腫瘍内科医と話し合った症例は早期緩和ケア群で多く認められた(p=0.004)。

 介入効果が癌コホート(肺癌または消化器癌)により差異を認めたためサブグループ解析を行ったところ、肺癌コホートでは12週、24週時点におけるFACT-G、PHQ-9は早期緩和ケア群が有意に良好であったが、消化器癌コホートでは両群に有意差を認めなかった。また、終末低下モデルを用いたところ、肺癌コホートでは死亡前2ヵ月、4ヵ月、6ヵ月時点におけるFACT-G、PHQ-9はいずれも早期緩和ケア群が有意に良好であったが、消化器癌コホートでは両群に有意差を認めなかった。なお、肺癌コホートと消化器癌コホートのベースライン特性、緩和ケア訪問数に差はなかったが、肺癌コホートに比べて消化器癌コホートは男性の割合が高く、ベースラインから24週時点における入院数が多かった。

 以上のように、進行癌患者に対する早期からの統合された緩和ケアは、QOL改善、抑うつ症状の低下を認め、終末期の希望に関する医師とのコミュニケーションを強化した。一方、肺癌患者と消化器癌患者では介入効果が異なっており、異なる集団に対する最適な緩和ケアを同定するためには、さらなる研究が必要である。



監訳者コメント:
早期からの緩和ケアの有用性は癌種ごとに異なる可能性

 Temelらが2010年にNEJMへ発表した、早期からの緩和ケアのRCTの追試と言える研究である。今回は、前回の対象患者であった肺癌だけではなく、大腸癌を除く消化器癌へと対象患者を広げ、対象患者数も多くなった。

 批判的な見方をすれば、本研究はPrimary Endpointを満たしておらず、Negative Studyと評価される。また、TemelらもLimitationで記載している通り、単施設における偏った集団に対する試験であることから汎用性が疑問視されるとも言える。

 一方で、好意的な見方をすれば、Secondary Endpointである24週でのQOLでは有意差があり、単施設であるからこそ、日常的にがん治療医と緩和ケア医が統合された診療が行われてしまっているからこそ有意差がつきにくかった結果ともとれる。世界的な研究を総合的に評価した時に、早期からの緩和ケアの有用性は否定されるものではない。

 本研究で最も重要な点は「癌種によって、早期からの緩和ケアのアウトカムが変わる」ということである。世界的には「早期からの緩和ケアの有用性は理解できたが、全ての癌種において診断後すぐに専門的緩和ケアが介入すべきなのか」という点に懐疑的である。また、そのように介入することの費用対効果やマンパワーの問題なども指摘されている。本研究は、その点について癌種によって(加えてそれ以外の個人的要因によって)介入の時期や方法について対応を変化させるべきではないかという可能性を示した。どのように個別の対応が必要かということは、今後のさらなる研究が必要とTemelらは述べているが、2016年にHuiらがLancet Oncologyに報告された国際デルファイ研究で、その方向性が示されている。このデルファイ研究は、日本を含む60名の腫瘍内科医・緩和ケア医に「〜の症状があったら」「〜の時期であれば」専門的緩和ケアに紹介すべきだと思うか?という質問への回答をまとめたものだが、その紹介時期のコンセンサスとして「生存期間中央値1年以内の治癒不能がんで、診断から3ヵ月以内」「治癒不能がんで2nd line化学療法後の病状進行時」が望ましいと報告されている。

 少なくとも、医療者のみならず患者・家族自身が必要と自覚していなくても、早期から緩和ケアが介入し、終末期に向けての話し合いや精神的ケアを行っていくことには大きな意義がある。その介入時期について、これらの研究を参考に、日本においてもコンセンサスを広めていくことが重要である。

  •  1) Hui D, et al.: Nat Rev Clin Oncol. 13(3): 159-171, 2016[PubMed
  •  2) Zimmermann C, et al.: JAMA. 299(14): 1698-1709, 2008[PubMed
  •  3) Smith TJ, et al.: J Clin Oncol. 30(8): 880-887, 2012[PubMed
  •  4) Bakitas M, et al.: JAMA. 302(7): 741-749, 2009[PubMed
  •  5) Zimmermann C, et al.: Lancet. 383(9930): 1721-1730, 2014[PubMed
  •  6) Ferrell B, et al.: J Pain Symptom Manage. 50(6): 758-767, 2015[PubMed
  •  7) Temel JS, et al.: N Engl J Med. 363(8): 733-742, 2010[PubMed
  •  8) Temel JS, et al.: J Clin Oncol. 29(17): 2319-2326, 2011[PubMed
  •  9) Weeks JC, et al.: N Engl J Med. 367(17): 1616-1625, 2012[PubMed
  • 10) Wright AA, et al.: JAMA. 300(14): 1665-1673, 2008[PubMed
  • 11) Zhang B, et al.: Arch Intern Med. 169(5): 480-488, 2009[PubMed
  • 12) Ferrell B, et al.: J Pain Symptom Manage. 33(6): 737-744, 2007[PubMed
  • 13) Cella D, et al.: Qual Life Res. 11(3): 207-221, 2002[PubMed
  • 14) Verdam MGE, et al.: Qual Life Res. 26(6): 1439-1450, 2017[PubMed
  • 15) Kroenke K, et al.: J Gen Intern Med. 16(9): 606-613, 2001[PubMed
  • 16) El-Jawahri A, et al.: Cancer. 120(2): 278-285, 2014[PubMed

監訳・コメント:川崎市立 井田病院 かわさき総合ケアセンター 医長 西 智弘

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