9月監修:愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 医長 谷口 浩也
肝臓癌
進行肝細胞癌患者に対するNivolumabの第I/II相試験(CheckMate 040試験)
El-Khoueiry AB, et al.: Lancet 389: 2492-2502, 2017
進行肝細胞癌症例に対する標準的全身治療薬には、生存期間延長のエビデンスを有するキナーゼ阻害薬SorafenibとRegorafenibがある。免疫チェックポイント阻害薬であるNivolumabによる免疫療法はさまざまな癌種において生存期間延長効果を示しており1-4)、肝細胞癌においても、PD-1を発現する腫瘍浸潤リンパ球の存在と結果の相関などから本免疫療法が有用であり得ることを示唆している5-8)。このことから、進行肝細胞癌患者を対象とした、Nivolumab単剤の安全性、および有用性を探索する、非比較、オープンラベル、第I/II相試験であるCheckMate 040試験が行われた。
用量漸増コホートは、米国、スペイン、香港、シンガポールの4ヵ国7施設で、拡大コホートは、カナダ、英国、ドイツ、イタリア、日本、韓国、台湾を加えた11ヵ国39施設で実施された。
対象は、18歳以上で、組織学的に診断された進行肝細胞癌患者であり、用量漸増コホートではChild-Pugh 7点以下、拡大コホートではChild-Pugh 6点以下、かつECOG PS 1以下が適格とされた。また用量漸増コホートにはSorafenibを含む少なくとも1種類以上の全身療法で進行した患者あるいはSorafenib治療を拒否したChild-Pugh Aの患者が登録された。
患者には2週間ごとにNivolumabが経静脈的に投与された。用量漸増コホートにおいてはHBV感染、HCV感染、非感染の3つのグループに分けられ、0.1 mg/kgより10 mg/kgまで3+3デザインで順次投与された。用量制限毒性は3回目のNivolumab投与後2週間までの有害事象で評価された。拡大コホートでは疾患の進行および容認できない有害事象が認められるまで治療が継続された。
プライマリエンドポイントは、用量漸増コホートでは安全性と忍容性、拡張コホートでは奏効率であった。
2012年11月から2016年8月に、用量漸増コホートとして48名、拡大コホートとして214名、合わせて262名の進行肝細胞癌患者が登録された。
用量漸増コホートに登録された48名のうち、37名(77%)がSorafenibの治療を受けており、34名(71%)が肝外転移、19名(40%)が血管浸潤を有する進行症例であった。48名中42名(88%)が病勢進行により治療を中止、2名(4%)がCRを達成したため中止、2名(4%)が有害事象で中止となった。Grade 3/4の治療関連有害事象は12名(25%)にみられた。Nivolumab投与に関連した死亡は認めなかった。抗腫瘍効果は、CR 3名、PR 4名であり、客観的奏効率(ORR)は15%、病勢制御率(DCR)は58%であった。効果は治療早期に生じ、著効症例7名中5名において、投与3ヵ月以内に効果を認めた。増悪までの中央値は3ヵ月、奏効期間の中央値は17ヵ月であり、6ヵ月および9ヵ月の全生存率はいずれも66%であった。全生存期間の中央値は15ヵ月であった。用量漸増コホートの結果、投与量は3 mg/kgに決定した。
拡大コホートでは、214名の進行肝細胞癌症例が登録され、4つのコホートに分けられた(Sorafenib未治療あるいは不耐の非感染コホート56症例、Sorafenib不応の非感染コホート57症例、HCV陽性コホート50症例、HBV陽性コホート51症例)。Nivolumabは用量漸増コホートで決定された3 mg/kgで投与された。
客観的奏効率(ORR)は、20%(CR 3症例、PR 39症例)であり、病勢制御率(DCR)は64%であった。客観的奏効は3ヵ月以内にみられ、用量漸増コホートと同じ傾向であった。奏効期間の中央値は9.9ヵ月であり、病勢制御が得られた138症例中79症例(57%)において少なくとも6ヵ月の病勢安定が得られた。無増悪期間(TTP)は4.1ヵ月であり、6ヵ月および9ヵ月生存率は、それぞれ83%、74%であった。6ヵ月および9ヵ月無増悪生存率は、それぞれ37%、28%であった。
Sorafenib未治療あるいは不耐の非感染コホート、およびSorafenib不応の非感染コホートにおける奏効率は、それぞれ23%(56症例中13例)、21%(57症例中12症例)であり、病勢制御率はそれぞれ75%(56症例中42症例)、61%(57症例中35症例)であった。6ヵ月生存率は、それぞれ89%と75%であり、Sorafenib不応の非感染コホートの全生存期間(OS)は13.2ヵ月であった(他のコホートは未達)。
HCV陽性コホートおよびHBV陽性コホートにおける奏効率はそれぞれ20%、14%であり、病勢制御率はそれぞれ66%、55%であった。またウイルス学的には、HCV症例においてHCV-RNAの低下がみられる症例があり、HBV症例では再活性化はみられなかった。
Grade 3/4の治療関連有害事象は40例(19%)、grade 3/4の重篤な治療関連有害事象は9例(4%)に認めたが、治療関連死は認められなかった。
組織中のPD-L1発現割合を解析したところ、1%以上の発現は20%にみられたが、残りの80%においては1%未満の発現であった。このうち客観的奏効は、1%以上のPD-L1の発現がみられた患者のうち26%に、PD-L1発現が1%未満であった患者のうち19%に認められた。
Nivolumab単剤において、15〜20%の客観的奏効率がみられ、病勢制御率は58〜64%であった。また、キナーゼ阻害薬投与の有無に関係なく効果を示すことから、ファーストライン、セカンドラインいずれの位置づけでも有効であることが示唆される。奏効期間も長期間であり、治療選択肢の少ない進行肝細胞癌に対しNivolumabが非常に有効であることが示唆される。安全性についても忍容性があり、他の癌種における安全性と同等であった。治療前の腫瘍のPD-L1発現は治療効果とは明らかな影響を及ぼさなかった。現在、SorafenibとNivolumabを比較する第III相試験が進行中である。
日本語要約原稿作成:近畿大学医学部 消化器内科 千品 寛和
監訳者コメント:
Nivolumabは進行肝細胞癌に対する有効な治療選択肢になり得る可能性がある
肝細胞癌患者に対する標準的全身化学療法薬は、SorafenibとRegorafenibのみであり、治療選択肢が少ないこと、および有害事象による治療継続困難などが問題となっている。Nivolumabは癌に対する初めての免疫療法薬であり、さまざまな癌種に対して次々と適応承認されている。CheckMate 040試験は、Nivolumab単独療法の安全性、有効性を探索する試験であり、本報告が肝細胞癌に対する免疫チェックポイント阻害剤の初めてのエビデンスとなる。
本試験の結果、Nivolumab単独療法の奏効率は20%であり、従来のSorafenib、Regorafenibと比べ高いこと、いったん奏効すれば効果が持続すること(Long lasting durable response)から、進行肝細胞癌に対する有効な治療法になり得る可能性がある。実際、この試験結果に基づき、2017年9月22日にNivolumabはSorafenibによる治療歴を有する肝細胞癌に対してFDAに迅速承認された。日本においては、現在行われているSorafenibとNivolumabを比較する第III相試験の結果次第である。
忍容性については、制御可能であると結論付けられており、実際、Sorafenib、Regorafenibほどの自他覚症状がみられないことが多いが、ひとたび免疫関連有害事象が発現すれば重篤化することがあり、注意が必要である。
また、高額な医療費の問題も生じてくる可能性が高く、本試験ではバイオマーカー探索として組織におけるPD-L1の発現の多寡と奏効割合について探索されたが、残念ながらPD-L1の発現の多寡と奏効に関連はみられなかった。今後、奏効予測、および有害事象予測となるバイオマーカーの探索も急務である。
- 1) Whiteside TL, et al.: Clin Cancer Res. 22(8): 1845-1855, 2016 [PubMed]
- 2) Weber JS, et al.: Lancet Oncol. 16(4): 375-384, 2015 [PubMed]
- 3) Motzer RJ, et al.: N Engl J Med. 373(19): 1803-1813, 2015 [PubMed]
- 4) Topalian SL, et al.: Cancer Cell. 27(4): 450-461, 2015 [PubMed]
- 5) Prieto J, et al.: Nat Rev Gastroenterol Hepatol. 12(12): 681-700, 2015 [PubMed]
- 6) Shi F, et al.: Int J Cancer. 128(4): 887-896, 2011 [PubMed]
- 7) Flecken T, et al.: Hepatology. 59(4): 1415-1426, 2014 [PubMed]
- 8) Breous E, et al.: J Hepatol. 54(4): 830-834, 2011 [PubMed]
監訳・コメント:近畿大学医学部 消化器内科 上嶋 一臣
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