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11月
監修:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長 加藤 健

大腸癌

大腸癌スクリーニング完遂に対する大腸内視鏡検査アウトリーチvs. 免疫学的便潜血検査アウトリーチの効果:無作為化比較試験


Singal AG, et al.: JAMA. 318(9): 806-815, 2017

 米国では、大腸癌検診は50歳から75歳までを対象に強く推奨されている1)。一度便潜血検査が陰性であっても、逐年の便潜血検査は続けるべきであるし、もちろん、便潜血陽性の場合には大腸内視鏡検査による精査が必要であり、その後の適切なフォローアップがなければ大腸癌死亡抑制効果は限られたものとなる。これまで、手紙による検診受診勧奨が初回の受診率を高めるという報告がなされているが2)、精検大腸内視鏡受診率や初年度以降の便潜血検査が継続して実施されているか等の長期的な検討は過去に報告されていない。

 本試験では3年間に、1)非大腸癌患者において大腸内視鏡検査が完了する、2)大腸内視鏡検査にて大腸癌が診断され2ヵ月以内に治療方針が決定される、3)便潜血陰性であっても年1回の便潜血検査が施行される、4)便潜血陽性であれば6ヵ月以内に精査大腸内視鏡検査が施行される、5)便潜血陽性による精検大腸内視鏡検査にて大腸癌が診断され2ヵ月以内に治療方針が決定される、という5条件のいずれかが満たされることを「検診完遂」と定義した。その上で、手紙により便潜血検査を促す大腸癌検診(便潜血群)、手紙により大腸内視鏡検査を促す大腸癌検診(内視鏡群)、および近医クリニックを自ら受診することによる大腸癌検診(従来群)の3群を比較し、その効果を検討した。

 本検討は、米国テキサス州ダラスのParkland Health and Hospital System、すなわち900床の病院および12の関連クリニックにて2013年3月から2016年7月の期間に大腸癌検診を受診した50〜64歳の19,513人を対象としている。これらの中から、過去10年検診受診歴のない5,999人が、便潜血群:内視鏡群:従来群に2:2:1に無作為に割り付けられた。解析は検診企図解析(いわゆるITT解析)を行った。

 主要評価項目は3年間での検診完遂割合、副次評価項目は腺腫発見率および有害事象である。

 本検討の結果、主要評価項目では、便潜血群、内視鏡群、従来群の検診完遂割合は各々、28.0%、38.4%、10.7%であった。内視鏡群における完遂割合が最も高く、便潜血群、従来群いずれに対しても有意差を認めた(p<0.001、p<0.001)(Bonferroni補正を考慮し、両側p<0.017にて有意と定めている)。また便潜血群は、従来群に比してその完遂率は有意に高かった(p<0.001)。副次評価項目では、便潜血群、内視鏡群、従来群の腺腫発見率は各々5.3%、14.3%、4.0%であり、内視鏡群で腺腫発見率が最も高く、便潜血群、従来群いずれに対しても有意に高かった(p<0.001、p<0.001)。有害事象はいずれの群でも認めなかった。

 本試験では介入により検診完遂割合が高まってはいるものの、いずれも40%未満であり、さらなる検診受診率の改善が必要と考えられる。また、検査方法毎に、検診完遂できないパターンは異なっていた。つまり、便潜血群では、初回の検査受診率は高いものの、便潜血陰性者の1/3が逐年検査を行わず、便潜血陽性の2/3が精検大腸内視鏡検査を施行していない。一方、内視鏡群ではほとんどの対象者が検診を完遂している。これらの改善のために、病院・クリニックへのアクセスを改善させる、支払いを減額する、検診についての教育を普及させる、検診受診のリマインドを行う、等の施策が必要かもしれない。

 米国のPreventive Services Task Force(USPSTF)では年1回の便潜血検診は、10年に1回の大腸内視鏡による検診と同様の効果を得られるとしている。しかしながら、これは便潜血陽性者が100%精検大腸内視鏡検査を受けるという前提に基づいた計算であり、より実臨床的な研究が必要である。米国における医療保険制度は州により差異がある。また低所得者・高齢者に対するメディケア・メディケイドなどの公的保険があるが、さらにそれらの保険に入ることができない受診者をカバーするためのセーフティーネットがある3)。著者らの施設はこのセーフティーネットヘルスシステムを導入しているため、本試験は実臨床的かつ、人種・所得の偏りがない試験である。

 本検討では観察期間を3年間と設定したが、長期成績の側面からは必ずしも十分とはいえない。また、腺腫発見率について検討しているものの、大腸癌死亡抑制に影響する早期大腸癌の診断については群間差を統計学的に検討できるほどの数を得られていない。これらについては、現在進行中の多施設共同研究であるCONFIRMやCOLONPREV4)などの結果を待つ必要がある。さらに、本検討においては死亡・生存を検討するだけのイベント数がないことにも留意する必要がある。

 本試験のリミテーションとして、介入は非常に簡便な1枚の手紙のみで行われていること、大腸内視鏡検査は予約枠によって制限されていること、腺腫発見率の差は便潜血陽性後の精検大腸内視鏡検査を受ける割合が少ないことが影響している可能性があること、検診受診割合の絶対値が少ないこと、大腸内視鏡検査の適応が確認できず、全ての群に一部診断的内視鏡検査のコンタミネーションがあること等が挙げられる。

 結論として、本試験は、過去にない大規模な3年間の検診完遂率を検討した無作為化比較試験であり、50〜64歳のセーフティーネット導入施設における検診受診について、大腸内視鏡および便潜血検査、各々に対する受診勧奨により、通常の検診と比較して検診完遂率が高かった。


日本語要約原稿作成:国立がん研究センター中央病院 内視鏡科 高丸 博之



監訳者コメント:
大腸内視鏡による大腸癌検診は検診完遂率・腺腫発見率ともに高い

 大腸癌は全大腸内視鏡を一度でも施行した場合に大腸癌罹患率のみならず死亡率までも抑制できることが多くのコホート研究で明らかになっている。そこで米国では大腸内視鏡による大腸癌検診を推進した結果、死亡率が順調に低下しているにもかかわらず、日本では便潜血による大腸癌検診の受診率低迷ならびに精密検査受診率の低さから、大腸癌死亡率が低下していない現状が大きな問題となっている。

 本研究は、3年間の検診完遂率を検討した無作為化比較試験であり、手紙により便潜血検査を促す大腸癌検診(便潜血群)、手紙により大腸内視鏡検査を促す大腸癌検診(内視鏡群)、および近医クリニックを自ら受診することによる大腸癌検診(従来群)の3群を比較し、その効果を検討した論文である。

 結果、便潜血群、内視鏡群ともに従来群と比較して主エンドポイントの検診完遂率が高かったのみならず、副次評価項目の腺腫発見率は内視鏡群で便潜血群、従来群いずれに対しても有意に高く、有害事象はいずれの群でも認めなかった。

 便潜血群では、初回の検査受診率は高いものの、便潜血陰性者の1/3が逐年検査を行わず、便潜血陽性の2/3が精検大腸内視鏡検査を施行していない。一方、内視鏡群ではほとんどの対象者が検診を完遂していることを考慮すると、大腸内視鏡の保険点数も安く設定されている日本において、全大腸内視鏡による大腸癌検診を対策型検診として検討すべき時期に来ているのではないか?

  •  1) US Preventive Services Task Force: JAMA. 315(23): 2564-2575, 2016 [PubMed]
  •  2) Gupta S, et al.: JAMA Intern Med. 173(18): 1725-1732, 2013 [PubMed]
  •  3) Sabik LM, et al.: Med Care. 51(11): 978-984, 2013 [PubMed]
  •  4) Quintero E, et al.: N Engl J Med. 366(8): 697-706, 2012 [PubMed]

監訳・コメント:国立がん研究センター中央病院 内視鏡科 斎藤 豊

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