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12月
監修:静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 医長 山ア 健太郎

大腸癌

標準治療不応後の切除不能進行・再発大腸癌に対するTAS-102とBevacizumab併用療法の医師主導第Ib/II相臨床試験(C-TASK FORCE)


Kuboki Y, et al.: Lancet Oncol. 18(9): 1172-1181, 2017

 転移再発大腸癌に対する殺細胞性抗癌剤(Fluoropyrimidine、Oxaliplatin、Irinotecan)と、分子標的薬(Bevacizumab、Aflibercept、Ramucirumab、Cetuximab、Panitumumab)の併用療法は全生存期間を約30ヵ月程度まで延長させるようになった1,2)が、化学療法に不応、不耐の患者における効果にはいまだ限りがある。

 Fluoropyrimidine、Oxaliplatin、Irinotecan、Bevacizumab、抗EGFR抗体薬(RAS野生型)による化学療法に抵抗性となった切除不能進行・再発大腸癌に対するサルベージラインの治療としては、腫瘍の血管新生、微小環境および腫瘍形成にかかわる複数のシグナル伝達の阻害作用をもつ経口マルチキナーゼ阻害剤であるRegorafenibが2013年に本邦で製造販売承認されている。

 TAS-102は、TrifluridineとTipiracil Hydrochlorideをモル比1:0.5に配合した新規ヌクレオシド系抗悪性腫瘍剤である3,4)。TAS-102は本邦で行われた第II相試験(J003-1004003)の良好な結果5)を経て、プラセボ比較第III相試験(RECOURSE trial)により有効性が証明され6,7)、世界に先駆けて2014年に本邦で、2015年に米国で、2016年に欧州で製造販売承認された。一方、抗VEGF抗体薬であるBevacizumabは1次治療投与後の2次治療における抗VEGF抗体薬(Bevacizumab、Ramucirumab、Aflibercept)の継続投与の有効性が示されており8-10)、また前臨床試験においてBevacizumabとTAS-102の併用は、それぞれの単剤投与と比較して抗腫瘍効果を増強することが報告されている11)。今回、本邦におけるTAS-102とBevacizumab併用療法の至適投与量と有効性・安全性の評価を目的とした、医師主導第Ib/II相試験が計画された。

 対象患者はFluoropyrimidine、Oxaliplatin、Irinotecan、抗VEGF抗体薬、抗EGFR抗体薬(RAS野生型の場合)を含む抗癌剤治療の全てに不応・不耐となり、Regorafenib、TAS-102による治療歴のない転移再発大腸癌患者である。主要評価項目は、第Ib相部分が安全性と第II相試験での推奨用量の決定、第II相部分が中央判定での16週時点の無増悪生存期間(PFS)であった。第Ib相部分では以下の用法用量にて6例について忍容性の確認を行う予定とした。

 TAS-102:1コースを28日間としTAS-102(35 mg/m2/投与)を1日2回(朝・夕食後)5日間連続経口投与したのち2日間休薬を2回繰り返したのち14日間休薬する。中止規準に該当するまで投与を繰り返す。

 Bevacizumab:1回5 mg/kgを点滴静脈内注射し、投与間隔は2週間とし忍容性が確認された場合は上記用量を推奨容量とする。

 上記用法用量が最大耐用用量と推定された場合にはTAS-102を30 mg/m2/投与に減量し、同様に忍容性の確認を行う予定とした。第II相部分では16週時点の無増悪生存割合の期待値を50%、閾値を25%、α=0.1、β=0.2から、必要症例数は21例と算出された。

 2014年2月〜7月までに25例が登録された。第I相部分(n=6)において用量制限毒性を認めず、推奨用量はTAS-102が35 mg/m2 1日2回、day 1-5、day 8-12、Bevacizumabが5 mg/kg day1、15、4週毎と決定された。主解析は21例(第I相部分の6例を含み、必要症例数達成後に登録された4例を除く)で行われ、16週無増悪生存割合は42.9%(80% CI: 27.8-59.0)であり、主要評価目標を達成した。副次評価項目(対象:全登録例25例)の16週無増悪生存割合(担当医評価)は60.0%(95% CI: 38.7-78.9)であった。また、担当医評価によるPFS中央値は24.1週(95% CI: 15.0-32.0)、奏効率は4%(95% CI: 0.1-20.4)、病勢コントロール率は72%(95% CI: 50.6-87.9)であり、中央判定ではそれぞれ16.3週(95% CI: 8.6-23.6)、0%(0.0-13.7)、64%(95% CI: 42.5-82.0)であった。薬剤関連有害事象として好中球減少(grade 3: 56%、grade 4: 12%)、白血球減少(grade 3: 40%)、発熱性好中球減少症(grade 3: 16%)が多かったが、治療関連死は認められなかった。サイクル数中央値は5サイクル(範囲:2-11)であった。17例(68%)で治療開始延期が、6例(24%)でTAS-102の減量が必要であり、その理由の多くは好中球減少であった。また、7例(28%)で治療期間中にG-CSFの投与を受けていた。事前に計画された解析として大腸癌で頻度の高い遺伝子変異(RASTP53APCPIK3CA等)とPFS、全生存期間(OS)との相関の検討を行ったが、有意な相関は認められなかった。本解析ではBRAF変異例は認められなかった。Trifluridineをリン酸化するThymidine kinase 1の免疫組織化学染色での発現は10%をカットオフ値にした場合に、10%以上の群では10%以下の群と比較してPFSとOSが有意に延長していた(PFS:7.4ヵ月vs. 3.7ヵ月、p=0.016、OS:13.0ヵ月vs. 8.9ヵ月、p=0.01)。しかし、他のカットオフ値(15%、20%、30%)では統計学的有意差は認められなかった。後解析として、MSI検査を実施し、ミスマッチ修復機構が欠損していた症例は1例のみであったが、1年以上治療継続ができており効果は良好であった。DNAの機能障害を起こすTAS-102の作用機序からミスマッチ修復機構が欠損していた症例において、より効果が出た可能性が考えられるが今後の検証が必要である。

 また化学療法に起因する好中球減少と治療効果に関する検討も行われた。好中球減少を来した症例では、TAS-102単剤では予後の延長を認めたことが既に報告12,13)されており、本試験でも同様にgrade 1以上の好中球減少を認めた症例では予後は延長する結果であった(PFS:5.7ヵ月vs. 1.9ヵ月、p<0.0001、OS:12.0ヵ月vs. 4.1ヵ月、p<0.0001)。

 以上のように本試験では標準治療不応後の切除不能進行・再発大腸癌に対するTAS-102とBevacizumab併用療法の安全性が確認され有効性が認められた。本試験の結果を踏まえ導入化学療法後のメンテナンス試験(ALEXANDRIA; NCT02654639)や強力な治療が適応にならない患者に対する1次治療(TASCO1; NCT02743221)など今後、複数の臨床試験が予定されている。


日本語要約原稿作成:がん研有明病院 消化器化学療法科 大隅 寛木



監訳者コメント:
標準治療抵抗性の大腸癌に対してTAS-102とBevacizumabの併用療法が新たな治療選択肢となる可能性が示唆された

 TAS-102は毒性プロファイルから、他の薬剤との併用も十分検討される価値が高い薬剤であると言える。前臨床試験の結果から、殺細胞性薬剤ではCPT-11との併用において相乗効果が得られることがわかっており、TAS-102とCPT-11の併用が国内外で試みられているものの、血液毒性が問題となり、現在適切な投与量、投与スケジュールは定まっていない。一方、分子標的治療薬は、TAS-102と毒性プロファイルが重ならないことから、良いパートナーと考えられてきた。TAS-102とBevacizumabの併用は、前臨床試験において良好な抗腫瘍効果が認められており、またTrifluridine(FTD)の腫瘍内への取り込みもBevacizumabとの併用で高まることが報告されている。

 今回行われた第Ib/II相臨床試験は25例という小規模な試験ではあるが、TAS-102及びRegorafenib以外の薬剤を全て使用し、それらの薬剤全てに不応・不耐となっている患者を対象にしており、同様にサルベージラインで開発された薬剤の過去の治療成績と比較すると、高い腫瘍制御率と予後の延長が報告されたことは、今後のサルベージラインにおける有望な治療選択肢になる可能性を十分示唆していると考えられる。また、TAS-102及びBevacizumabともに、安全性、QOLの面から医師、患者にとって使用しやすい薬剤同士の併用であり、実地臨床でも十分受け入れられる治療法と言えるであろう。ただし、本治験は限られた施設での少数例の報告であるため、今後、より多くの情報を集めていく必要がある。また、好中球減少の頻度はTAS-102単剤より高く報告をされており、血液毒性に対する管理に留意は必要である。

 現在、国内外でTAS-102とBevacizumabの併用療法は多くの臨床試験が計画・開始されており、欧州では強力な治療が適応にならない患者に対する1次治療(TASCO1試験)が実施されており、日本においては、2次治療におけるFluoropyrimidine+CPT-11+Bevacizumabに対する全生存期間の非劣性を検証するTRUSTY試験が進行中である。また、サルベージラインにおいても、本治験の検証的試験が複数計画・進行している。さらに、OxaliplatinやCPT-11との併用も引き続き探索されている。将来、TAS-102とBevacizumabの併用療法がどのように実地臨床を変えていくことになるのか期待されるところである。

  •  1) Heinemann V, et al.: Lancet Oncol. 15(10): 1065-1075, 2014 [PubMed]
  •  2) Stintzing S, et al.: Lancet Oncol. 17(10): 1426-1434, 2016 [PubMed]
  •  3) Tanaka N, et al.: Oncol Rep. 32(6): 2319-2326, 2014 [PubMed]
  •  4) Dexter DL, et al.: Cancer Res. 32(2): 247-253, 1972 [PubMed]
  •  5) Yoshino T, et al.: Lancet Oncol. 13(10): 993-1001, 2012 [PubMed]
  •  6) Mayer RJ, et al.: N Engl J Med. 372(20): 1909-1919, 2015 [PubMed]
  •  7) Grothey A, et al.: Lancet. 381(9863): 303-312, 2013 [PubMed]
  •  8) Bennouna J, et al.: Lancet Oncol. 14(1): 29-37, 2013 [PubMed]
  •  9) Tabernero J, et al.: Lancet Oncol. 16(5): 499-508, 2015 [PubMed]
  • 10) Van Cutsem E, et al.: J Clin Oncol. 30(28): 3499-3506, 2012 [PubMed]
  • 11) Tsukihara H, et al.: Oncol Rep. 33(5): 2135-2142, 2015 [PubMed]
  • 12) Hamauchi S, et al.: Clin Colorectal Cancer. 16(1): 51-57, 2017 [PubMed]
  • 13) Kasi PM, et al.: BMC Cancer. 16: 467, 2016 [PubMed]

監訳・コメント:国立がん研究センター東病院 先端医療科・消化管内科 久保木 恭利

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