12月監修:静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 医長 山ア 健太郎
大腸癌
大腸癌肝転移の肝切除後における癌特異的生存率の予後予測因子としての残肝虚血
Yamashita S, et al.: JAMA Surg. 2017 Oct 18 [Epub ahead of print]
効果的な全身化学療法の導入と肝切除の普及によって、結腸直腸癌肝転移(CLM)患者の長期生存成績は有意に改善している1)。しかし、CLMの肝切除を受けた患者の30%以上は一年以内に再発する2)。CLM肝切除後の患者の予後については現在もさまざまな検討がされており、これまでに臨床的、放射線学的、病理学的、さらに最近では分子学的(KRAS、NRAS変異)な指標と関連することが示されている3-5)。
肝切除中に生じる虚血再灌流障害は、肝細胞機能不全や炎症性サイトカインとマトリックス分解酵素の上昇を惹起し、結腸直腸癌の微小転移の進行を促進することが動物モデルにおいて示されている6,7)。しかし、予定残肝の虚血(RLI)が根治的肝切除を受けたCLM患者の予後に与える影響についてはこれまでに報告されていない。RLIは、血流のない肝実質を残す不正確な肝切除や、肝区域の流入血管や流出血管に予期せぬダメージを与える大量肝切除によって生じ得る8-10)。
近年、CLM患者に対して肝実質をより温存する肝切除が再発時の切除率を向上させることが示された11)。この知見により、腫瘍を一括で切除する拡大切除に比べ、複数個所の非解剖学的肝切除を行う機会が増加している。しかし、解剖学的切除(各グリソン支配領域の完全切除)ではRLIがより生じにくいと考えられる9)。ALLPS手術で生じる肝S4のRLIによる悪影響が、conventional ALLPSとpartial ALLPSとの比較で検証されている12)。不正確な肝切除後に残存する失活した肝組織が予後に影響するかどうかはこれまでに議論されていない。
以上の背景から、この後ろ向き研究は、根治的肝切除後のCLM患者の予後にRLIが及ぼす影響を検証することと、広範なRLIに対する予測因子を解析すること、の2点を目的として行われた。
MDアンダーソンがんセンターで2008〜2014年の間にCLMに対して肝切除を受けた629例のうち、@肝病変への前治療歴(手術またはアブレーション)、A二期的肝切除、Bアブレーションの併用、C肝外病変の併存、DR2切除(肉眼的癌遺残)、E90日以内の死亡、に該当する199例が除外され、残った430例のうち、肝切除後30日以内に造影CTが施行された202例を対象とした。
評価項目は次のとおりである。性別、年齢など術前因子、原発腫瘍因子(部位、深達度、リンパ節転移)、肝切除前後の化学療法、血液データ、手術因子(Pringle法の有無、出血量、赤血球輸血、手術時間、肝切除の程度[3区域以上の切除をmajor肝切除と定義]、解剖学的切除か非解剖学的切除か)、CLM因子(同時性か異時性か、最大径、個数、切除断端[SM<1 mmをR1と定義]、分化度)、肝切除後3ヵ月時点のNLR(=総好中球数/総リンパ球数、NLR>5を高値と定義)。
術前の化学療法後、断端陰性が確保可能で、20〜30%の残肝が維持され、主要脈管が温存可能であればCLM切除可能と判定した。予定残肝不足が予期される症例では門脈塞栓術(PVE)が施行された。解剖学的肝切除は以下のように定義された13):クイノーの1区域の完全切除、もしくはクイノーの1区域以下の切除で、隣接する肝内門脈三次分枝の支配領域の組み合わせ。解剖学的切除を行うか否かは術中所見と患者の全身状態から外科医が判断した。
RLIは過去に報告されたCT評価基準を採用し8-10)、門脈相における肝実質の造影効果の減弱もしくは消失と定義された。RLIの重症度はgrade 0(なし)、1(辺縁に限局)、2(肝区域の一部)、3(1区域)、4(壊死)に分類された9)。患者はRLI grade≦1とRLI grade≧2の2群に分類された。
結果は全202例中、RLIを97例(48.0%)に認め、grade 1が47例(23.3%)、grade 2が45例(22.3%)、grade 3が5例(2.5%)であった。152例(75.2%)がRLI grade≦1、50例(24.8%)がRLI grade≧2であった。RLI grade≧2の患者群は、RLI grade≦1の患者群と比較し、有意に解剖学的肝切除が少なく(24.0 vs. 40.1%、p=0.04)、多発CLMが多く(70.0 vs. 51.3%、p=0.02)、術後major合併症が多く(36.0 vs. 21.7%、p=0.04)、術後在院期間が長かった(中央値8 vs. 7日、p=0.06)。術前化学療法は168例(83.2%)に、術後化学療法は184例(91.1%)に施行された。RLI grade≧2の患者群では有意に術後化学療法が少なく(82.0 vs. 94.1%、p=0.009)、術後3ヵ月時点のNLR高値が多かった(30.0 vs. 10.5%、p<0.001)。
RLI grade≧2の独立した危険因子を多変量解析すると、非解剖学的肝切除(OR=3.29、95% CI: 1.52-7.63、p=0.002)、最大腫瘍径≧3 cm(OR=2.74、95% CI: 1.35-5.70、p=0.005)、多発CLM(OR=2.51、95% CI: 1.25-5.24、p=0.009)、の3項目であった。
生存解析では観察期間中央値37ヵ月(6.1〜96ヵ月)、肝切除後の無再発生存率(RFS)と癌特異的生存率(CSS)はRLI grade≧2の患者群で有意に不良であった(いずれもp<0.001)。3年RFS割合はgrade 0で45.0%、grade 1で26.2%、grade 2で7.1%、grade 3で0%であった。5年CSS割合はgrade 0で70.6%、grade 1で50.1%、grade 2で24.1%、grade 3で0%であった。
多変量解析では、RFSの独立した予後不良因子は、RLI grade≧2(HR=2.68、95% CI: 1.84-3.86、p<0.001)、RAS変異(HR=1.50、95% CI: 1.06-2.12、p=0.02)、多発CLM(HR=1.43、95% CI: 1.01-2.07、p=0.049)の3項目であった。同様に、CSSの独立した予後不良因子は、RLI grade≧2(HR=2.90、95% CI: 1.69-4.94、p<0.001)、RAS変異(HR=2.15、95% CI: 1.27-3.64、p=0.005)、最大腫瘍径≧3 cm(HR=1.70、95% CI: 1.01-2.88、p=0.045)の3項目であった。
以上のように、本研究ではRLI grade≧2の患者群はRLI grade≦1に比べCLM肝切除後のRFSとCSSが有意に不良であり、RLI grade≧2がRFSとCSSの独立した予後因子であった。RLI grade≧2は、腫瘍径、多発CLM、非解剖学的肝切除と有意に関連した。
日本語要約原稿作成:静岡県立静岡がんセンター 肝胆膵外科 大木 克久
監訳者コメント:
大腸癌肝転移に対する肝切除術式:肝実質温存(非解剖学的肝切除)vs. 解剖学的肝切除
肝切除後に生じうる肝虚血の程度が生存成績に与える影響を後ろ向きに検討した論文である。これまで切除可能大腸癌肝転移切除後の成績に関して、臨床的、放射線学的、病理学的、分子学的など多くの腫瘍因子が挙げられてきた。また、手術においては肝実質温存肝切除が予後の改善につながるとされてきた。
本論文では、肝切除後の肝虚血のgradeが高いと予後不良であり、虚血領域が腫瘍免疫に悪影響を与えていると考察されている。肝虚血は肝切除術式により改善可能であり、解剖学的肝切除が予後の改善につながると結論している。一般的な腫瘍因子とは異なる虚血肝組織が多く残ることが予後不良因子である点が興味深い。
肝切除後の肝虚血は発熱や腹腔内感染の原因ともなりうるため、多大な領域の虚血肝組織が発生する非解剖学的肝切除は予定されない。肝虚血自体が問題となるのであれば、脈管解剖の十分な理解と適切な術式立案をすることで非解剖学的肝切除でも肝虚血を最小限にすることは可能である。その場合の結果についてはこれからの検討に期待したい。また、肝実質温存肝切除後では肝転移再発時の2回目以降の肝切除(いわゆる再肝切除)による切除率が向上することから、特に解剖学的肝切除後の後治療の可否や予後に与える影響などが今後のトピックとなると思われる。
この後ろ向き研究ではCT検査実施の適応が明らかにされておらず、また腫瘍個数、肝切除後補助療法など背景には差があるために、結果の解釈には注意が必要である。解剖学的肝切除を推奨したこの他の報告には、MargonisらのKRAS変異のある予後不良の患者では解剖学的肝切除を行ったほうが良好な生存成績が得られたことを示したものがある14)。いずれも後ろ向きの単施設の検討結果であるため、予後不良因子としての最終的な結論を出すには前向き試験での確認が望ましいと思われる。
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監訳・コメント:静岡県立静岡がんセンター 肝胆膵外科 伊藤 貴明
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