1月監修:静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 医長 山ア 健太郎
大腸癌
直腸癌に対するロボット支援下手術と従来型腹腔鏡下手術の開腹移行に対する有用性の比較:無作為化臨床比較試験ROLARR
Jayne D, et al.: JAMA. 318(16): 1569-1580, 2017
大腸癌における腹腔鏡下手術は近年増加傾向にあるが、直腸癌に対しては議論が別れる。近年の開腹手術と腹腔鏡下手術を比較した2つの大規模多施設無作為化試験1,2)は腹腔鏡下手術を支持する一方、腹腔鏡下手術の非劣性を示せなかった臨床試験3,4)もある。ロボット支援下手術は3Dシステムや多関節機能付き鉗子、カメラの安定性などにより、直腸における腹腔鏡下手術の限界を克服する可能性を秘めており、いくつかの小規模非無作為化試験5,6)ではその安全性や有効性が支持された。メタ解析7,8)では従来の腹腔鏡下手術に比べ、患者の短期的な転帰や病理結果における優越性は示せず、手術時間がより長くかかることが指摘されているが、同時に開腹手術への移行が減少したとしている。排尿機能や性機能の温存に優れていると報告した非無作為化試験9,10)もある。これらのことから直腸癌におけるロボット支援下手術は国際的に普及したが、安全性や有効性に関するデータはまだ限定的であり十分であるとは言えない。2009年に英国において、当時のロボットシステムの限定的な採用を拡大すべく、多国間多施設無作為化臨床試験であるRobotic vs. Laparoscopic Resection for Rectal Cancer(ROLARR)試験が開始された。本稿はその6ヵ月間フォローアップの短期的な結果を示したものである。
直腸癌に対して切除術を行った症例において、開腹移行のリスクをロボット支援下手術と従来型腹腔鏡下手術で比較した。
主要評価項目は開腹手術への移行と設定した。副次評価項目は術中ならびに術後の合併症、circumferential resection margin陽性(以下CRM+)、その他の病理学的評価、生活の質(QOL)、排尿機能・性機能(International Prostate Symptom Score、International Index of Erectile Function、Female Sexual Function Index)、腫瘍学的評価とした。また、術者のロボット支援下手術や腹腔鏡下手術の経験症例数と治療効果に関係があるかを解析するため感度分析が行われ、サブグループ解析は、開腹移行率に関しては性別・BMI・術式、CRM+に関しては性別・BMI・Tステージでそれぞれ検討された。英国と米国の計190人の患者においては手術費用の比較も行われた。
2011年1月7日から2014年9月30日にかけて、10ヵ国29施設の40人の術者によって1,276人の患者が登録され、このうち36.9%にあたる471人が無作為に割り付けられた。234人が腹腔鏡下手術群、237人がロボット支援下手術群となり、高位前方切除術・低位前方切除術・腹会陰式直腸切断術のいずれかが施行された。471人の割り付け患者(年齢中央値64.9歳[SD: 11.0]、男性320人[67.9%])のうち、466人(98.9%)に手術が施行され、456人が治療を完遂した。フォローアップは術後30日と6ヵ月の時点で行われた。
腹腔鏡下手術群とロボット支援下手術群間の背景に有意差は認められず、術式は低位前方切除術317例(68.0%)・腹会陰式直腸切断術97例(20.8%)であった。手術時間中央値はロボット支援下手術群で37.5分長かった(腹腔鏡下手術群vs. ロボット支援下手術群;mean[SD]298.5[88.71]vs. 261.0[83.24]分)。
術者の経験症例数中央値は腹腔鏡下手術91例(範囲45-180例)、ロボット支援下手術50例(30-101例)であった。
開腹移行は466例中47例(10.1%)で、腹腔鏡下手術群28/230例(12.2%)、ロボット支援下手術群19/236例(8.1%)で両群間において有意差は認められなかった(OR=0.61[95% CI: 0.31-1.21]、p=0.16)。ロジスティック回帰解析では、肥満(OR=4.69[95% CI: 2.08-10.58]、p<0.001)、男性(OR=2.44[95% CI: 1.05-5.71]、p=0.04)、低位前方切除術(OR=5.44[95% CI: 1.60-18.52]、p=0.007)が開腹移行に有意にかかわる因子として抽出された。
学習効果が開腹移行に及ぼす影響について感度解析を行ったところ、腹腔鏡下手術の経験症例数よりも、腹腔鏡下手術の経験を問わず、ロボット支援下手術の経験症例数が多いほど開腹移行を減少させることが示された。
開腹移行率に対して性別によるサブグループ解析を行ったところ、男性で39/317例(12.3%)であった(腹腔鏡下手術群25/156例[16.0%]、ロボット支援下手術群14/161例[8.7%])。男性における開腹移行率はロボット支援下手術群で低かった(OR=0.46[95% CI: 0.21-0.99]、p=0.04)。
病理学的データ解析は459例で可能であり、CRM+は26例(5.7%)であった。内訳は、腹腔鏡下手術群で14/224例(6.2%)、ロボット支援下手術群で12/235例(5.1%)であり、有意差を認めなかった(OR=0.78[95% CI: 0.35-1.76]、p=0.56)。また、外科的剥離面の評価や術中・術後合併症、30日死亡率、排尿機能障害、性機能障害などを含むその他の副次評価項目に関しては、2群間で統計学的な有意差は認められなかった。
米国と英国の190症例から腹腔鏡下手術群とロボット支援下手術群の手術費用を比較したところ、費用中央値はロボット支援下手術群で有意に高かった(p=0.02)。これは主に、手術室の使用時間が長いため、また、手術機器が高額なためであった。
本試験で、腹腔鏡下手術群とロボット支援下手術群を比較し、開腹移行率およびCRM+、術中/術後合併症、6ヵ月後のQOLに統計学的な差は認めなかった。本検討における手術は、腹腔鏡下手術においては十分な経験のある術者によるものであったが、ロボット支援下手術においてはさまざまな段階にある術者が行っていた。感度分析では、ロボット支援下手術の経験症例数が開腹移行率に影響する可能性が示唆されたが、今回、さまざまな学習段階の術者が含まれる条件下においては、ロボット支援下手術の優越性を示すことはできなかった。
日本語要約原稿作成:東京医科歯科大学大学院 消化管外科学分野 松宮 由利子
監訳者コメント:
ROLARR試験結果の解釈
ROLARR試験は、初の直腸癌に対するロボット支援下手術の従来型腹腔鏡下手術に対する有用性の多国間多施設無作為化臨床試験であり、その結果が注目されていた。主要評価項目は開腹移行割合であり、腹腔鏡下手術群12.2%、ロボット支援下手術群8.1%で統計学的な差を認めず、ロボット支援下手術の優越性を示すことが出来なかった。
当初、開腹移行率を腹腔鏡下手術群25%でサンプルサイズを設定していたことや、術者背景にロボット支援下手術群の経験に対して、腹腔鏡下手術群の経験が多かった点などが、結果に影響した可能性も考察されている。サブグループ解析において、男性、肥満や低位前方切除術など比較的困難な手術においては、ロボット支援下手術の開腹移行率が有意に少なくなっており、困難症例には良い適応であることが示された。ロボット支援下手術群の欠点はコストが高いことであり、本試験でもロボット支援下手術群では$13,668と腹腔鏡下手術群の$12,556より有意に高いが、その額は腹腔鏡下手術群の1.09倍に留まっていた。着目すべきは、ロボット支援下手術群の開腹移行率はロボット手術の経験にのみ相関し、腹腔鏡手術の経験数には依存しないという結果である。すなわちロボット手術に関しては腹腔鏡手術の経験が必ずしも必要ないということであり、今後のロボット支援下手術の術者規定や導入、普及の議論に、一石を投じる内容と考える。
本試験では、さまざまな学習段階の術者が含まれる条件下においては、開腹移行率におけるロボット支援下手術の従来式腹腔鏡下手術に対する優越性が示されなかったが、前向き比較試験をすることで、今後、益々普及するであろうロボット手術というものの実際が明るみになってきている。今後は局所再発率等、真の価値あるエンドポイントを設定した試験が望まれる。
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監訳・コメント:東京医科歯科大学大学院 消化管外科学分野 絹笠 祐介
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