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2月
監修:愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 医長 谷口 浩也

大腸癌

肝転移を有する大腸癌を対象としたFOLFOXとFOLFOX+選択的内部照射療法(SIRT)併用療法を比較した3つの第III相試験の統合解析


Wasan HS, et al.: Lancet Oncol. 18(9): 1159-1171, 2017

 肝転移は大腸癌における主要な死因である1)。一方、肝転移を含む完全切除術を施行した場合の5年生存率は35〜40%と報告2)され、そのうちの一部は治癒に至っていると考えられている2)。しかし、近年の全身化学療法の進歩にもかかわらず肝転移を有する大腸癌のうち、実際に切除に至る例は20%程度3)にとどまっている。肝切除以外のliver-directed therapyとしてラジオ波焼灼療法や肝動注療法(HAI)、さらに選択的内部照射療法(selective internal radiation therapy; SIRT)4)が知られている。SIRTとはβ線源イットリウム90を含む放射性微小球を透視下で肝動脈内に注入し、組織内部から直接照射を行う治療である。これまでのSIRTに関する前向き試験は主に後方ラインを対象として行われてきた。3レジメン以上の治療を受けている患者を対象としたHAI vs. HAI+SIRTを比較した試験における肝転移無増悪期間(liver-specific PFS)は9.7ヵ月 vs. 15.9ヵ月(p=0.001)であり、SIRT併用群で有意な延長を認めた5)。さらに、肝臓に限局した転移(liver-limited disease: LLD)を有する大腸癌に対するFOLFOX療法とFOLFOX+SIRTの併用療法の比較第III相試験(SIRFLOX試験)が行われた。この試験においてもliver-specific PFSの延長を認めた[ハザード比(HR)=0.69、95% CI: 0.55-0.90、p=0.002]ものの、全体のPFSの延長は認めなかった(HR=0.93、95% CI: 0.77-1.12、p=0.43)6)。今回の論文は同様の適格基準と試験デザインで行われた第III相試験であるSIRFLOX試験、FOXFIRE試験、FOXFIRE-global7)試験を統合解析した結果である。

 試験は、オーストラリア、ベルギー、フランス、ドイツ、イスラエル、イタリア、ニュージーランド、ポルトガル、韓国、シンガポール、スペイン、台湾、英国、米国の14ヵ国で実施され、計184の施設で行われた。主な適格基準は18歳以上の未治療の切除不能大腸癌患者のうち、肝転移単独もしくは肝転移が主な転移巣(liver-dominant)であることであった。肝外転移の有無、肝転移巣の肝占拠割合(25%≦ vs. >25%)を層別因子とした。治療はFOLFOX単独群を標準アームとしFOLFOX+SIRT(サイクル1のday 3 or 4またはサイクル2のday 3 or 4)併用療法群8)に1:1に割り付けられた。なお、FOXFIRE試験ではL-leucovorin 175 mgもしくはD,L-leucovorin 350 mgを用いたOxMdG(oxaliplatin modified de Gramont chemotherapy)レジメンが、SIRFLOX、FOXFIRE-Global試験では、leucovorin 200 mgを用いたmFOLFOX6が採用されていた。また、FOXFIREではCetuximabとBevacizumabの上乗せが、SIRFLOXとFOXFIRE-GlobalではBevacizumabの上乗せが担当医判断のもと許容された。

 主要評価項目はOS、副次評価項目はPFS、liver-specific PFS、HRQoL、奏効率、肝切除割合、有害事象であった。FOLFOX単独群に対するFOLFOX+SIRT併用療法群のOSのHRを0.8と仮定し、両側α=0.05、検出力80%とすると463イベントが必要であり、必要症例数は両群で計708例と設定された。2006年10月11日から2014年12月23日の間に1,103例がFOLFOX単独群549例、FOLFOXとSIRT併用群554例に無作為化された。

 観察期間中央値は43.3ヵ月であった。OSの中央値はFOLFOX単独群23.3ヵ月、FOLFOX+SIRT併用群22.6ヵ月であり、有意な差は認めなかった(HR=1.04、95% CI: 0.90-1.19、p=0.61)。また、PFSの中央値はFOLFOX単独群10.3ヵ月、FOLFOXとSIRT併用群11.0ヵ月であり有意差は認めなかった(HR=0.90、95% CI: 0.79-1.02、p=0.11)。肝転移増悪イベントの累積発生率は、FOLFOX単独群で有意に高く(HR=0.51、95% CI: 0.43-0.62、p<0.0001)、反対に肝臓外の増悪はSIRT併用群が有意に高かった(HR=1.76、95% CI: 1.47-2.11、p<0.0001)。

 奏効率はSIRT併用群72%、FOLFOX単独群63%であった(pooled OR=1.52、95% CI: 1.18-1.96、p=0.0012)。肝切除割合はSIRT併用群17%、FOLFOX単独群16%であり有意差を認めなかった(pooled OR=1.07、95% CI: 0.78-1.48、p=0.67)。

 サブグループ解析では右側原発症例においてSIRT群のOSが有意に良好であった(HR=0.67、95% CI: 0.48-0.92)。肝転移のみに限局しているか否か、肝転移の占拠率、年齢、Bevacizumabの有無などその他のサブグループでは両群に有意な差は認められなかった。BevacizumabはSIRT併用群の197例(36%)、FOLFOX単独群の256例(47%)で投与された。CetuximabはFOXFIRE試験全体で13例(4%)に投与されていた。

 重篤な有害事象は、SIRT併用群507例中274例(54%)、FOLFOX単独群571例中244例(43%)で認め、死亡例はそれぞれ10例と11例であった。Grade 3以上の有害事象はSIRT併用群で有意に多く(pooled OR=1.42、95% CI: 1.09-1.89、p=0.0089)、grade 3以上の血液毒性はSIRT併用群で507例中231例(46%)、FOLFOX単独群571例中165例(29%)とSIRT群で多く認められた。

 以上より、肝転移を有する大腸癌の1次治療にFOLFOXにSIRTを併用してもOSの延長効果が認められないことが明らかとなった。よって1次治療でFOLFOXとSIRTを併用することは推奨されない。


日本語要約原稿作成:名古屋医療センター 臨床腫瘍科 能澤 一樹



監訳者コメント:
FOLFOXに内照射によるLiver directed therapyの上乗せを検証した第III相試験

 残念ながらSIRTを併用することでOSの優越性を示すことができずネガティブな結果である。しかし、Liver specific PFSではSIRT群で有意な延長が認められたように、SIRTが肝転移に対する治療効果を有していることは明らかと言える。SIRT群では非併用群と比べてgrade 3以上の毒性が多く出現しており、Treatment exposureの低下のため、肝転移制御効果が相殺された可能性がある。従って、化学療法とSequentialにSIRTを行うなど新たな戦略を検証する必要がある。サブグループ解析では右側原発例においてSIRT群のOSが優れる傾向があった。右側原発という予後不良群においてSIRTの上乗せ効果がある可能性が示唆される。最後に、重要な点として、Liver directed therapyに関する良質な無作為化比較試験の報告は限られている中,化学療法+内照射という異なったModalityの有無を比較する大規模な臨床試験が実施し得ることを示したことは特筆すべきことと考える。

 Multi-modality approachが重要な切除不能大腸癌においては現在主流の全身化学療法のみならず内照射、Ablation therapyなどの局所制御をいかに併用、組み込んでいくか今後も治療開発の継続が必要と考えられる。

  •  1) Helling TS, et al.: Ann Surg Oncol. 21(2): 501-506, 2014 [PubMed]
  •  2) Kanas GP, et al.: Clin Epidemiol. 4: 283-301, 2012 [PubMed]
  •  3) Jones RP, et al.: Annu Rev Med. 68: 183-196, 2017 [PubMed]
  •  4) Nicolay NH, et al.: Nat Rev Clin Oncol. 6(12): 687-697, 2009 [PubMed]
  •  5) Gray B, et al.: Ann Oncol. 12(12): 1711-1720, 2001 [PubMed]
  •  6) van Hazel GA, et al.: J Clin Oncol. 34(15): 1723-1731, 2016 [PubMed]
  •  7) Dutton SJ, et al.: BMC Cancer. 14: 497, 2014 [PubMed]
  •  8) Sharma RA, et al.: J Clin Oncol. 25(9): 1099-1106, 2007 [PubMed]

監訳・コメント:名古屋医療センター 臨床腫瘍科 杉山 圭司

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