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2009年1月〜2015年12月の論文紹介
2003年1月〜2008年12月の論文紹介

3月
監修:愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部 医長 谷口 浩也

大腸癌

Oxaliplatin併用化学療法に対するBevacizumabの上乗せ効果:肝類洞障害と血小板減少に対する影響


Overman MJ, et al.: J Natl Cancer Inst. 110(8): djx288, 2018

 Oxaliplatinを用いた化学療法は、大腸癌に対する基本的な化学療法の一つである。Oxaliplatinにより惹起される肝類洞障害(HSI)は容量依存性毒性として知られ、門脈圧亢進、脾腫を生じることが画像上も認識されている1-5)

 大腸癌(CRC)術後6ヵ月間のFluoropyrimidine/Oxaliplatinによる補助化学療法において、HSIのため45%のCRC患者に脾腫と血小板減少を認めた1)。また化学療法後のCRC肝転移症例の肝切除症例では、HSIのため術中出血量増加や術後合併症に繋がるとされる2,3,6,7)

 Bevacizumab(Bev)はOxaliplatinによるHSIを抑制することが報告されており、初回化学療法でOxaliplatinを用いて化学療法を行ったCRC患者でBevがHSIを抑制するかを検討した。

 2種類のコホート研究を用いてBev投与群(Bev群)と非投与群(Non-Bev群)を抽出、対象とし、HSI関連項目(血小板数、脾腫の程度や出現時期)について統計学的解析を行った。

 @ Single-Institution Nonrandomized Exploratory Cohort:2003年1月〜2010年1月の期間で、MD Anderson Cancer Centerにおいて3ヵ月以上のFluoropyrimidine/Oxaliplatin併用療化学法を施行した306人のうち、検討適格基準を満たす184人のCRC患者を対象とした。

 A NO16966 Randomized Confirmatory Clinical Trial Cohort:2004年2月〜2005年2月の期間で、切除不能進行CRC患者1,401人を対象としてFluoropyrimidine/Oxaliplatinを用いた化学療法にBevを併用した群とプラセボを用いた群の治療成績を比較した多施設共同RCT登録患者の中から無作為に抽出した200人を対象とした。

 @ Exploratory Cohort:184人中、Bev群が138人、Non-Bev群が46人であった。2群間で患者背景に有意差は認めなかった。30%以上の脾腫となるまでの期間の中央値はBev群7.6ヵ月、Non-Bev群5.5ヵ月と有意差を認めた(p=0.02)。6ヵ月間で、30%以上の脾腫を認めた割合はNon-Bev群63%、Bev群44%と有意差を認めた(p=0.08)。6ヵ月間で、血小板が10万/mm3未満に低下した割合は2群間ともに17%と有意差は認めなかったが(p=0.69)、15万/mm3未満に低下した割合はNon-Bev群70%、Bev群56%と有意差を認めた(p=0.04)。30%以上の脾腫を認めた群と認めなかった群で比較すると、治療後3ヵ月で血小板が10万/mm3未満に低下した割合は、脾腫を認めた群40%、認めなかった群16%と有意差を認めた(p<0.001)。Coxモデルにて評価するとBev群では脾腫を認めた患者が1.61倍低下した(HR=0.62、95% CI: 0.38-1.02、p=0.06)。同様にBev群では血小板が15万/mm3未満に低下した患者は1.59倍低下した(HR=0.63、95% CI: 0.40-1.00、p=0.05)。

 A NO16966 Cohort:200人中、Bev群は106人、プラセボ群は94人であった。2群間の患者背景に有意差は認めなかった。6ヵ月間で、30%以上の脾腫を認めた割合はBev群41%、プラセボ群58%と有意差を認め(p=0.01)、50%以上ではBev群21%、プラセボ群48%であった(p<0.001)。30%以上の脾腫となるまでの期間の中央値はプラセボ群5.4ヵ月、Bev群7.6ヵ月と有意差を認め(p=0.01)、50%以上ではプラセボ群6.3ヵ月、Bev群11.3ヵ月であった(p<0.001)。血小板が10万/mm3未満に低下するまでの期間の中央値はプラセボ群6ヵ月、Bev群では判定不能であった(p<0.001)。6ヵ月間で、血小板が10万/mm3未満に低下した割合はプラセボ群51%、Bev群19%と有意差を認めた(p<0.001)。Grade 1または2の血小板低下を認めた症例は、Bev群で統計学的に少なかった。また平均血小板数が最も減少したのは、プラセボ(Non-Bev)群かつ30%以上の脾腫を認めた症例群であった。化学療法前の脾臓径が、脾腫に影響するか、ということを検証するため、脾臓サイズ203 cm3を基準値とすると、加療前脾臓径が203 cm3より大きくかつBev群で、最も脾腫の発生を抑制した。@の検討においても217 cm3を基準値とすると同じ結果が得られた。

 遠隔転移を伴うCRCの一次治療において、血小板減少率はOxaliplatinによるHSIの結果としての脾腫に相関することが、この試験により示された。さらにBevの使用によりgrade 1または2の血小板減少が回避された。

 化学療法前に適切な血小板数を維持することは重要である。NO16966試験では、血小板が75,000/mm3以下では治療延期に、50,000/mm3以下では治療用量の減量に繋がった。治療の延期は有害事象とは定義されないため、grade 2血小板減少の正確な割合は不明である。しかし、6ヵ月間でgrade 2の血小板減少が生じた割合はプラセボ群23%、Bev群4%と、17%の差が治療延期の原因となった。この差が両群の治療効果に影響したかは不明であり、NO16966試験においてBev群では血小板減少の頻度低下がみられたが、全体の毒性はBev群のほうが強かった(30% vs. 21%、grade 3または4に限ると21% vs. 15%)。

 脾臓の取り込みによる血小板減少は、骨髄抑制による血小板減少と違い出血のリスクが低かった。脾臓の取り込みによる血小板減少であれば体内の血小板総数は正常とほとんど変わらないとの報告があり8)、末梢血中の血小板数低下が骨髄抑制による影響か、脾臓の取り込みによる影響かを判断することが重要である。

 OxaliplatinにBevを併用することによる肝障害の抑制、血小板低下の抑制に関しては、以前より術前化学療法後の肝切除症例における報告や1,9-12)、多くの第III相臨床試験の検討報告があるが、血小板低下率に関しては報告がない13,14)

 Oxaliplatinによって増加するVEGF-Aは、類洞上皮を開窓させ、類洞表皮障害と限局的類洞閉塞の原因となる活性酸素を誘導することが知られている15-17)。これらの報告がOxaliplatinによるHSIに対し、VEGF-Aの抑制が効果的であることを裏付けている。

 さまざまな制約はあるものの、今回の解析結果はBevやOxaliplatinに関するさらなる知見に繋がる。治療延期や治療用量に関しては血小板低下のみならず、他の臨床検査因子も影響するが、OxaliplatinによるHSIのリスクが高い患者を特定するさらなる研究は、将来的にどの患者においてBevの併用が血小板低下の発症予防に繋がるかを明らかにする可能性はある。

 以上より、Bevの併用はOxaliplatinによるHSIを軽減し、血小板減少も抑制するが、血小板減少抑制の要因は不明瞭である。Bev併用の恩恵を最大限に受けることができる患者群を特定するさらなる研究が待たれる。


日本語要約原稿作成:金沢赤十字病院 外科 宮田 隆司



監訳者コメント:
Oxaliplatinを用いた化学療法による肝類洞障害と血小板減少をBevacizumabの併用により予防できるか。

 Oxaliplatinは大腸癌化学療法において中心的役割を担う抗癌剤であるが、肝類洞内皮障害(hepatic sinusoidal injury: HSI)と脾腫および血小板減少の懸念がある。以前からVEGF-A阻害剤であるBevacizumab(Bev)を併用するとHSIおよび脾腫、血小板減少が軽減されるとの報告があり、それを支持する基礎研究も数多く報告されている。本論文では大腸癌化学療法に関する2種類のコホート研究からBevがHSIや脾腫および血小板減少を抑制するかを検討しており、結果としてBevを併用した患者群では脾腫発生率を有意に減少させ、脾腫発生までの期間も有意に延長した。また、血小板減少もBev併用により有意に抑制された。著者らは今回の検討が後ろ向きコホート研究であるため、プラセボ群を設定したRCTをもってBev併用効果を検討することが理想であると前置きしたうえで、結論としてBev併用はOxaliplatinによるHSIを軽減し、血小板減少も抑制するが、血小板減少抑制の要因は不明瞭であり、Bev上乗せによる恩恵を最大限に受けられる患者群を特定する必要があると述べている。

 ただ、著者も述べているように血小板減少は脾腫以外に化学療法そのものにも影響を受ける。さらにHSIの存在やその程度が組織学的に確認されていないことが本研究の大きな問題点であり、今後の検討に期待したい。

  •  1) Overman MJ, et al.: J Clin Oncol. 28(15): 2549-2555, 2010 [PubMed]
  •  2) Mehta NN, et al.: Eur J Surg Oncol. 34(7): 782-786, 2008 [PubMed]
  •  3) Nakano H, et al.: Ann Surg. 247(1): 118-124, 2008 [PubMed]
  •  4) Vauthey JN, et al.: J Clin Oncol. 24(13): 2065-2072, 2006 [PubMed]
  •  5) Slade JH, et al.: Clin Colorectal Cancer. 8(4): 225-230, 2009 [PubMed]
  •  6) Aloia T, et al.: J Clin Oncol. 24(31): 4983-4990, 2006 [PubMed]
  •  7) Kandutsch S, et al.: Eur J Surg Oncol. 34(11): 1231-1236, 2008 [PubMed]
  •  8) Aster RH: J Clin Invest. 45(5): 645-657, 1966 [PubMed]
  •  9) Klinger M, et al.: Eur J Surg Oncol. 35(5): 515-520, 2009 [PubMed]
  • 10) Hubert C, et al.: HPB (Oxford). 15(11): 858-864, 2013 [PubMed]
  • 11) Ribero D, et al.: Cancer. 110(12): 2761-2767, 2007 [PubMed]
  • 12) Rubbia-Brandt L, et al.: Histopathology. 56(4): 430-439, 2010 [PubMed]
  • 13) Giantonio BJ, et al.: J Clin Oncol. 25(12): 1539-1544, 2007 [PubMed]
  • 14) de Gramont A, et al.: Lancet Oncol. 13(12): 1225-1233, 2012 [PubMed]
  • 15) May D, et al.: PLoS One. 6(7): e21478, 2011 [PubMed]
  • 16) Kopetz S, et al.: Cancer Res. 69(9): 3842-3849, 2009 [PubMed]
  • 17) Yokomori H, et al.: Liver Int. 23(6): 467-475, 2003 [PubMed]

監訳・コメント:金沢大学 消化器・腫瘍・再生外科学 田島 秀浩

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