7月監修:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長 加藤 健
固形癌
Molecular profilingを基にした進行固形癌に対する分子標的治療:MyPathway試験(マルチバスケット型第IIa相試験)
Hainsworth JD, et al.: J Clin Oncol. 36(6): 536-542, 2018
Molecular profilingは、現在では肺癌や乳癌、大腸癌やその他の癌において分子標的治療を選択するうえで日常的に行われている選別方法である。この20年間においてHER2やEGFR、BRAFやHedgehog経路をターゲットとした治療をそれぞれ上記に挙げたような癌種において行うことで、良好な治療効果が得られている1-4)。
これらの遺伝子異常は、往々にしてその癌種固有のものではなく、さまざまな癌種で発現している。しかし、大抵、そういった異常は頻度が5%未満と非常に低いものであり、従来型の臨床試験においては、解析に必要な症例を集めること自体が非常に困難であり、臨床開発していく上で大きなハードルとなっている。
最近提唱されてきた、バスケット型の試験は、原発の部位や組織型をベースとして治療法を決める従来型の試験ではなく、癌種によらず、その腫瘍がもつ特異的遺伝子異常により患者選別をする新しいタイプの臨床試験方法である5,6)。
本試験の形式は、多施設共同、非無作為化、マルチバスケット型の臨床第IIa相試験である(NCT02091141)。
対象患者は、PS=0〜2で、HER2やEGFR、BRAFもしくはHedgehog経路に異常を伴った進行再発難治性固形腫瘍患者としている。分子学的異常についての検査は今回の研究段階で行われた訳ではなく、事前に各施設においてに個別に行われた検査データが用いられたが、CLIA認証された検査室での検査を行っていることや直近の腫瘍組織検体を用いることが条件とされた。また、既にその分子学的異常に対しての治療が承認されている(もしくはそれが間近な)癌種については、試験対象から除外されている。
HER2については、IHC(3+)もしくはFISH/CISH陽性(HER2/CEP17 ratio>2.0 or Copy number>6)もしくはNGS(next-generation sequencer)でのCopy number増加、NGSでのActivating mutation(exon 20 insertions, deletions around amino acids 755 or 759、その他いくつかのnonsynonymous amino acid substitutions)が異常として定義され、BRAFについてはNGSでのV600E変異もしくは他のBRAF変異と定義し、EGFRではNGSでのActivating mutation(nonsynonymous exon 18 or exon 21 mutations、もしくはexon 19 deletions)と定義、Hedgehog経路については、NGSでのSMO activating mutation(W535Lやその他のmutations)、PTCH-1のloss-of-function mutationの検出と定義された。
HER2過剰発現(もしくは増幅、変異)に対してはPertuzumab+Trastuzumabを、BRAF変異に対してはVemurafenibを、Hedgehog経路変異に対してはVismodegibを、EGFR変異に対してはErlotinibを、それぞれ現時点で効果が証明されていない使用適応外癌種に対し投与し、その治療効果を検証している(それぞれのレジメンの投与は、FDAで承認されている用法用量に準じ、化学療法は併用しないこととした)。
主要評価項目は各々のコホートにおいてのORRとした。副次評価項目はduration of response(DOR)、PFS、1年OSとした。
2014年4月1日〜2016年11月1日の期間に、35の異なる腫瘍タイプを有する251人の患者が米国の38施設から集められ、試験治療を受け、230人が治療効果を評価された。これらの患者は、前治療として中央値で2.5レジメン(範囲:0-9)を試験治療前に受けていた。
230人中、分子学的異常はHER2が最も多く151人(66%)。続いてBRAFが49人(21%)、Hedgehogが21人(9%)、EGFRは9人(4%)であった。
癌種としては肺癌(NSCLC)が最も多く54人(23%)、続いて大腸癌42人(18%)、胆道癌15人(7%)、卵巣癌14人(6%)、膀胱癌・膵癌(各々13人[6%])と続き、そのほか27癌種がエントリーされた。
全体では14癌種の中の52人の患者が奏効を示した(ORR=23%、CR=4、PR=48)。その内訳を下記に示す。
<HER2増幅/過剰発現>
HER2増幅/過剰発現が最も多かった変化であり、Trastuzumab+Pertuzumab併用療法を受けた114人中30人が奏効を示した(ORR=26%、CR=2、PR=28)。
癌種別にみると、大腸癌(ORR=38%)、膀胱癌(33%)、胆道癌(29%)、唾液腺癌(80%)、膵癌(22%)などが良好な効果を示した。
<HER2遺伝子変異>
36人がTrastuzumab+Pertuzumab併用療法を受け、ORR=11%であった。
<BRAF遺伝子変異>
V600変異(すべてV600E)とそれ以外の変異の患者ではVemurafenibの効果が大きく違っていた。V600E変異を認めた26人(うち肺癌が14人と最多)の奏効は46%(CR=2、PR=10)と非常に良好であったが、V600以外の変異(K601EやG464V、G469Aなど)の患者では、23人中、奏効を得たのがわずか1名(ORR=4%)であった。
<Hedgehog経路変異もしくはEGFR変異>
21人がHedgehog経路の変異を伴っていたが(PTCH-1=18、SMO=3)、Vismodegibに効果を示したのは、3人(ORR=14%)であった。
EGFR変異は9人に認め、Erlotinibの効果がみられたのは1人のみであった(ORR=11%)。
今回の結果で用いた4つの変異コホートにおける早期段階での評価では、それぞれ一定の効果が観察され、バスケット型試験の有用性が示唆された。このMyPathway試験は今後さらに2〜3年追加継続の予定であり、続けての個別の検証に繋がるものと考える。
特に良好な効果が得られたHER2増幅/過剰発現大腸癌患者の米国での頻度は2〜6%(年間2,000人ほど)であり7-9)、抗HER2治療のORR=38%、DOR=11ヵ月という結果は、十分HER2がdriverとなりうることを改めて示唆した。それは、膀胱癌(ORR=33%)、胆道癌(ORR=29%)、唾液腺癌(n=5と少数だがORR=80%)でも同様であった。BRAF変異に対するVemurafenibも前述のように、特にV600E変異患者においてORR=46%と良好な結果が得られている。その中でも最多であったNSCLCにおいてもORR=43%と、既報の2本の試験10,11)と同様の結果が得られており、有望であると考えられる。現在NSCLCの実臨床で実施されているEGFR、ALK、ROS-1などの検査とともに、BRAF V600E検査も重要な検査となりうると考えられる。ちなみにBRAF V600E変異のNSCLCでの頻度は約2%である12)。
バスケット型試験は現在多く行われ、その有用性が検討されているが、まだ確立された方法ではない。このMyPathway試験においては、現在FDAで治療法として承認されている4つのターゲットを用いて、それぞれ現時点では未認可の治療困難固形腫瘍群に対する治療を行ったところ、それぞれで効果の大小はみられたものの、一定のドライバー変異としての効果を生むことが確認できた。特にHER2増幅/過剰発現をもつ大腸癌、膀胱癌、胆道癌、唾液腺癌とBRAF V600E変異をもつNSCLCでは効果良好であった。
日本語要約原稿作成:埼玉医科大学国際医療センター 消化器腫瘍科 堀田 洋介
監訳者コメント:
HER2陽性大腸癌に対するPertuzumab+Trastuzumab療法に期待!
MyPathway試験は、多施設共同、非無作為化、マルチバスケット型の臨床第IIa相試験であり、2014年4月から開始され、現在も登録が進んでいるところである。ClinicalTrials.govをみると、本論文の4治療群以外にAlectinibとAtezolizumabの治療群が追加となっている。論文の”Statistical Analysis”によると、HER2増幅/過剰発現とHER2遺伝子変異型で明らかに有効性の違いがあることがわかったため、それぞれを別解析することにしたと書かれている。また、昨年のASCO-GI 2017において、HER2増幅/過剰発現の大腸癌コホートが発表され、大腸癌全体での奏効率は本論文に記されているように38%であったが、KRAS statusでみると、KRAS変異型(n=9)では奏効例はなくPFSも1.4ヵ月である一方、KRAS野生型(n=25)では奏効率52%でPFSは5.7ヵ月と有効性に明らかな差があった13)。以上より、昨年9月よりRASおよびBRAF変異のないHER2陽性(増幅/過剰発現)大腸癌に対してPertuzumab+Trastuzumab療法とCetuximab+Irinotecan療法を比較する無作為化第II相試験が登録開始となっている(S1613試験:NCT03365882)。
本年4月より国内でもがんゲノム医療中核拠点病院・連携病院が指定され、がんゲノム医療の整備が進んでいる。また来年度にはがんゲノム遺伝子パネル検査が保険承認される見込みである。そこで得られた結果から、国内でも、例えばがんゲノム医療中核拠点病院・連携病院グループ間で、本論文と同様のバスケット型試験が行われ、さらにそこで得られた知見により無作為化試験へと進んでいくような道筋ができることが望まれる。
- 1) Slamon DJ, et al.: N Engl J Med 344(11): 783-792, 2001 [PubMed]
- 2) Shepherd FA, et al.: N Engl J Med 353(2): 123-132, 2005 [PubMed]
- 3) Chapman PB, et al.: N Engl J Med 364(26): 2507-2516, 2011 [PubMed]
- 4) Sekulic A, et al.: J Am Acad Dermatol. 72(6): 1021-1026.e8, 2015 [PubMed]
- 5) Conley BA, et al.: Semin Oncol. 41(3): 297-299, 2014 [PubMed]
- 6) Schilsky RL: Nat Rev Clin Oncol. 11(7): 432-438, 2014 [PubMed]
- 7) Seo AN, et al.: PLoS One 9(5): e98528, 2014 [PubMed]
- 8) Sartore-Bianchi A, et al.: Lancet Oncol. 17(6): 738-746, 2016 [PubMed]
- 9) Richman SD, et al.: J Pathol. 238(4): 562-570, 2016 [PubMed]
- 10) Hyman DM, et al.: N Engl J Med. 373(8): 726-736, 2015 [PubMed]
- 11) Blay J-Y, et al.: Ann Oncol. 27(suppl_6): 55PD, 2016
- 12) Marchetti A, et al.: J Clin Oncol. 29(26): 3574-3579, 2011 [PubMed]
- 13) Hurwitz H, et al.: J Clin Oncol. 35(suppl 4s): abstract 676, 2017
監訳・コメント:埼玉医科大学国際医療センター 消化器腫瘍科 濱口 哲弥
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