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10月
監修:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長 加藤 健

胃癌 食道胃接合部癌

進行胃癌・食道胃接合部癌患者の3次治療におけるAvelumabと医師選択の化学療法の無作為化第III相試験:JAVELIN Gastric 300のprimary analysis


Bang YJ, et al.: Ann Oncol. Jul 24, 2018 [Epub ahead of print]

 進行胃癌・食道胃接合部癌の1次治療は、プラチナ系薬剤とフッ化ピリミジン系薬剤の併用が標準治療であり、HER2陽性の場合はTrastuzumabを追加する1-3)。2次治療は、Taxane系薬剤、Irinotecan、Ramucirumabや、RamucirumabとPaclitaxel併用療法が好まれる1,2)。特にアジアにおいては、3次治療も広く行われている4)

 進行胃癌・食道胃接合部癌では免疫回避や免疫チェックポイント蛋白の過剰発現が認められており、抗PD-1/PD-L1抗体薬を用いた免疫療法の根拠となっている5-8)。PD-L1の過剰発現は最大約65%の症例であると報告されており、特定のサブタイプやhigh mutation burdenの腫瘍に関連するとされている。

 Avelumabは、抗PD-L1ヒト化IgG1モノクローナル抗体であり、進行尿路上皮癌、転移性メルケル細胞癌で承認されているが、胃癌・食道胃接合部癌を含むさまざまな固形腫瘍でも有効性が示されている9,10)。JAVELIN Solid Tumor第I相試験のコホートで、Avelumabは胃癌・食道胃接合部癌患者に対して1次または2次治療として投与され、効果と安全性が確認された11)。また日本人を対象としたJAVELIN Solid Tumor JPN試験の化学療法後に進行した胃癌・食道胃接合部癌患者に対する第I相コホートでも有望な結果を示した12)。今回、進行胃癌・食道胃接合部癌患者を対象とした3次治療におけるAvelumabと医師選択の化学療法の無作為化第III相試験の結果を報告する。

 JAVELIN Gastric 300は、進行胃癌・食道胃接合部癌患者の3次治療におけるAvelumabと医師選択の化学療法を比較するオープンラベルの国際多施設無作為化第III相試験である。対象は、18歳以上の2レジメンの治療歴のある組織学的に確認された再発または切除不能進行胃癌・食道胃接合部癌患者である。ECOG PSは0または1。患者は、Avelumabか医師選択の化学療法に1:1に無作為に割り付けられた。Avelumabは、10 mg/kgが2週毎に投与された。化学療法群では、Paclitaxel(80 mg/m2、day1, 8, 15、4週毎)またはIrinotecan(150 mg/m2、day1, 15、4週毎)のどちらかが認められたが、化学療法の対象にならないと判断された場合はBSCも許容された。主要評価項目は、化学療法に対するAvelumabのOSの優越性検証である。主な副次評価項目は、独立した評価委員会(IRC)によるPFS、ORR、安全性と忍容性である。探索的評価項目は、奏効持続期間、奏効までの期間とベースラインからの標的病変縮小、DCR、奏効パラメーター(DCR、ORR、PFS、OS)と関連させた腫瘍細胞のPD-L1発現の評価である。治療中の評価判断は、研究者の裁量により行われたが、本発表における評価は盲検化されたIRCにより行われた。PFSとORRはRECIST v1.1に、有害事象判定はCTCAE v4.03に基づいて行われた。サンプルサイズは、OS中央値の4ヵ月から6ヵ月へと2ヵ月の延長(HR=0.67)を示すために、検出力90%、片側検定の有意水準2.5%と設定し決定された。主要評価項目、主な副次評価項目は地域(アジアと非アジア)により層別化され解析された。

 2015年12月28日〜2017年3月13日の間に459人がスクリーニングを受け、371人が登録された。その内Avelumab群に185人、化学療法群に186人が無作為に割り付けられた。化学療法群の内訳は、120人(64.5%)がIrinotecan、54人(29.0%)がPaclitaxel、3人(1.6%)がBSCのみであった。両群間で地域分布と患者背景は全体的にバランスがとれていた。93人(25.1%)がアジア諸国で登録された。2017年9月14日のデータカットオフ時、Avelumab群の治療継続期間中央値は8.0週(範囲2〜66週)であり、投与回数中央値は3回(範囲1〜31回)であった。化学療法群の治療継続期間中央値は9.0週(範囲4〜58週)であり、投与回数中央値は5回(範囲1〜39回)であった。フォローアップ期間は、両群ともに10.6ヵ月であった。治療継続者は、全体で20人(5.4%)、各群10人ずつ(5.4%)であった。治療中止の最大の理由は病勢増悪であり、Avelumab群139人(75.1%)、化学療法群134人(72.0%)であった。後治療は、Avelumab群58人(31.3%)、化学療法群66人(35.4%)で行われた。後治療の化学療法施行は、両群間でバランスがとれていた。Avelumab群の17人(9.4%)において抗薬物抗体が検出された。

 ITT集団371人全てが無作為化された。OS中央値はAvelumab群4.6ヵ月(95% CI: 3.6-5.7)、化学療法群5.0ヵ月(95% CI: 4.5-6.3)であった(HR=1.1、95% CI: 0.9-1.4、p=0.81)。サブグループ解析で、Irinotecan群とPaclitaxel群間に有意差は認めなかった。病勢制御を認めた患者(Avelumab群:41人[22.1%]、化学療法群82人[44.1%])の評価では、OS中央値はAvelumab群で良好であった(12.5ヵ月[95% CI: 7.8-17.8]vs. 8.0ヵ月[95% CI: 7.0-11.0])。PFS中央値はAvelumab群1.4ヵ月(95% CI: 1.4-1.5)、化学療法群2.7ヵ月(95% CI: 1.8-2.8)であった(HR=1.73、95% CI: 1.4-2.2、p>0.99)。地域とPD-L1発現などによるOSのサブグループ解析では、両群間に差を認めなかったが、PFSのサブグループ解析では、一貫して化学療法群で良好であった。ORRは、Avelumab群2.2%(n=4、95% CI: 0.6-5.4)、化学療法群4.3%(n=8、95% CI: 1.9-8.3)であった。データカットオフ時、Avelumab群で3人、化学療法群で5人の奏効が継続していた。治療奏効までの期間中央値は、Avelumab群で12.2週(範囲5.7〜17.6週)、化学療法群で11.6週(範囲4.3〜23.6週)であった。奏効継続期間中央値は、Avelumab群では決定できず(範囲1.4〜5.5ヵ月)、化学療法群で5.5ヵ月(範囲1.7〜7.0ヵ月)であった。

 安全性の解析は、試験治療が行われた全患者とBSC単独患者を合わせたAvelumab群184人、化学療法群177人で行われた。全gradeの治療関連有害事象は、Avelumab群90人(48.9%)と化学療法群131人(74.0%)で生じた。Grade 3以上の有害事象は、Avelumab群17人(9.2%)と化学療法群56人(31.6%)で認めた。治療中止になった治療関連有害事象は、Avelumab群7人(3.8%)と化学療法群9人(5.1%)で生じた。治療関連死は、Avelumab群では認めなかったが、化学療法群1人(0.6%)で生じた。包括的レビューの結果、AvelumabによるirAEは12人(6.5%)で生じ、grade 3以上のものは4人(2.2%)であった。内訳は自己免疫性肝炎、自己免疫性甲状腺機能低下症、腸炎、AST上昇であった。治療関連infusion reactionは、Avelumab群で39人(21.2%)、化学療法群で5人(2.8%)であった。

 以上、進行胃癌・食道胃接合部癌患者における3次治療では、Avelumabは化学療法と比較してOS、PFSの改善は認めなかった。


日本語要約原稿作成:九州大学病院 血液・腫瘍・心血管内科 土橋 賢司



監訳者コメント:
進行胃癌に対する3次治療としての抗PD-L1抗体Avelumabは、主要評価項目であるOSの優越性を示せず。

 JAVELIN Gastric 300試験は、切除不能再発転移性胃癌・胃食道接合部癌患者に対する3次治療として、抗PD-L1抗体Avelumab単剤療法と主治医選択の化学療法(IrinotecanまたはPaclitaxel単剤療法)を比較した多施設共同国際第III相試験である。

 Nivolumabのプラセボに対する優越性が示されたATTRACTION-2試験は同じラインを対象としてはいたが、4次治療以降の症例が80%を占めていた。本研究はほぼ全例2次(13%)または3次治療(86%)の症例を対象としており、また化学療法を対照群とした3次治療における免疫チェックポイント阻害薬の有効性を検証した世界で初めての第III相試験であった。

 Avelumab群は主要評価項目のOS、副次評価項目のPFS、ORR、いずれも化学療法群に対して優越性を示すことができなかった。OSのサブグループ解析では地域、PD-L1発現などで両群に差を認めなかったが、PFSのサブグループ解析では一貫して化学療法群で良好という結果であった。また、Avelumab群で長期奏効例が多いという傾向もみられなかった。一方、治療関連有害事象に関してはAvelumab群で少なく、irAEも予想される範囲内であった。

 AvelumabはJAVELIN Solid Tumor第I相試験の胃癌コホートなどで有望な効果を示しており、本研究の結果が注目されていたが期待外れの結果となった。胃癌での免疫チェックポイント阻害薬は、2次治療を対象としたPembrolizumab対Paclitaxelの比較試験(KEYNOTE-61試験)でも優越性を示すことができておらず、改めて開発の難しさが示された。今後は、PD-L1、dMMR、TMBなどを含めたバイオマーカーの検討、殺細胞性抗癌薬や血管新生阻害薬との併用試験などの結果が待たれるところである。

  •  1) Smyth EC, et al.: Ann Oncol. 27(Suppl 5): v38-v49, 2016
  •  2) NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology: Gastric Cancer. V2, 2018
  •  3) Bang YJ, et al.: Lancet. 376(9742): 687-697, 2010 [PubMed]
  •  4) Salati M, et al.: ESMO Open. 2(3): e000206, 2017 [PubMed]
  •  5) Cancer Genome Atlas Research Network. Nature. 513(7517): 202-209, 2014 [PubMed]
  •  6) Amatatsu M, et al.: Cancer Sci. 109(3): 814-820, 2018 [PubMed]
  •  7) Kawazoe A, et al.: Gastric Cancer. 20(3): 407-415, 2017 [PubMed]
  •  8) Yuan J, et al.: Oncotarget. 7(26): 39671-39679, 2016 [PubMed]
  •  9) Patel MR, et al.: Lancet Oncol. 19(1): 51-64, 2018 [PubMed]
  • 10) Nghiem P, et al.: J Clin Oncol. 36(Suppl): abstr 9507, 2018
  • 11) Chung HC, et al.: Oral presentation at American Association for Cancer Research Annual Meeting 2018, Abstr CT111, 2018
  • 12) Hironaka S, et al.: Ann Oncol. 27(Suppl 7): mdw521.047, 2016

監訳・コメント:九州がんセンター 臨床研究センター 江ア 泰斗

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