11月監修:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長 加藤 健
胃癌
転移性胃癌におけるPD-1阻害に対する反応性の分子生物学的解析
Kim ST, et al.: Nat Med. 24(9): 1449-1458, 2018
Pembrolizumabはprogrammed cell death 1(PD-1)に結合することで、そのリガンドであるPD-L1との相互作用を阻害する完全ヒト化IgG4-κモノクローナル抗体であり、combined positive score(CPS)≧1の前治療歴を有する進行胃癌患者に対して近年米国で承認された。しかしながら、サルベージラインにおいてCPSと関係なく、10〜26%と一定の奏効割合を示したという報告もある1-3)。そのため、抗PD-1抗体における治療効果を高めるためには、免疫療法の恩恵にあずかることができる胃癌患者を抽出することができる、すなわち効果を正確に予測できるバイオマーカーを同定することが急務であると考えられた。
KEYNOTE-059試験は少なくとも2レジメン以上の前治療歴を有する進行胃癌患者を対象とした第II相試験である1)。その結果、CPS≧1においては奏効割合22.7%(95%信頼区間[CI]:13.8-33.8)であったのに対して、CPS<1においては奏効割合8.6%(95% CI: 2.9-19.0)にとどまるという結果であった。一方で、CPS≧1症例においてmicrosatellite instability(MSI:マイクロサテライト不安定性)に注目すると、MSI-high(MSI-H)においては奏効割合57%(7例中4例)であるのに対して、microsatellite stable(MSS)においては13.3%であった。またMSSのうち9%ではCPS≧1にもかかわらず、反応性に乏しかった。
Chenらが提唱したThe Cancer Genome Atlas(TCGA)によれば胃癌は4つのサブタイプに分けられ4)、そのうちEpstein-Barr virus(EBV)は免疫療法に対する感受性が高いといわれている。EBV陽性胃癌においてはPD-L1やPD-L2をエンコードする遺伝子を含む9番染色体の遺伝子増幅が存在するといわれているが、一方でEBV陽性胃癌においてPembrolizumabの反応性に関する報告は今までにない。他のバイオマーカーとして膀胱癌で報告されているmesenchymal subtypeや肺癌で報告されているcirculating tumor DNA(ctDNA:血中循環腫瘍DNA)のmutational loadなどが候補となる。
以上のような胃癌におけるPD-1阻害に対する反応性を決定する因子に関する情報を得るために、Pembrolizumab単剤が投与される転移性胃癌患者を対象に、第II相試験が実施された。すべての患者において、治療前の生検や、それを用いて行われるTCGAのサブタイプおよび変異量を推測するためのwhole-exome sequencing(WES)、分子生物学的特徴によって患者をカテゴリー化するためのRNA sequencing、EBV DNA sequenceによる原発巣のEBV testingが実施された。加えて、血漿由来のctDNAとの一致があるかどうかも評価された。
2016年3月から2017年2月までの1年間で、61例が登録された。年齢中央値は57歳(26〜78歳)、大部分は男性(70.5%)で、全例、韓国人であった。32例(52.5%)が二次化学療法として、29例(47.5%)が三次化学療法としてPembrolizumabの投与を受けた。6例(9.8%)がEBV陽性、7例(11.5%)がMSI-Hの症例であった。60例が治療前の生検を実施し、そのうち55例がWES可能な品質で、45例がRNA sequencingが可能な品質であった。
カットオフ日までに57例が反応性の評価が可能で、フォローアップ期間中央値は16.2ヵ月であった。Complete response(CR)は3例(4.9%)に認められ、partial response(PR)は12例(19.7%)に認められた。Stable disease(SD)は20例(32.8%)で認められ、奏効割合は24.6%、病勢制御割合は57.4%であった。CRが得られた3例は6ヵ月以上にわたって寛解が得られていた。PRが得られた12例のうち、8例が50%以上の縮小が得られた。
MSI-H症例7例のうち、1例を除いて6例(85.7%)はCR/PRを達成していた。また、EBV陽性症例6例は全例(100%)でPRを達成していた。そのうち1症例では、多発肝転移を有する胃癌でPembrolizumab単剤8サイクル施行後に手術で根治切除が行われた。また、PD-L1の陽性率が判定できる55例のうち、PD-L1のCPS≧1は28例、CPS<1は27例であり、奏効したのはCPS≧1では14例(50%)、CPS<1では0例(0%)であった。
MSI-H症例7例のうち効果がなかった1例に関しては、胃癌の組織中にMSI-HおよびMSSが混在しており、そのheterogeneityによりPembrolizumabに抵抗性であったと考えられる。
Mutational loadとPD-L1の発現は胃癌のサブタイプと関連していると言われている。例えば、MSI-Hの腫瘍においてmutational loadは多く、MSI-HやEBV陽性の腫瘍においてPD-L1の過剰発現が多く認められる。Mutational loadの数は同じ胃癌の中でも異なり、WESが可能な55例のうち、EBV陽性の5例ではmutational loadは多くなかった。EBV陽性胃癌においては抗PD-1抗体の効果はmutational loadのステータスにかかわらないと考えられた。
TCGAによる4つのサブタイプ(EBV陽性、MSI-H、ゲノム安定性、染色体不安定性)とPembrolizumabに対する反応性については、奏効割合はそれぞれ100%/100%/12%/5%であった。
Mesenchymal subtypeは悪性黒色腫や膀胱癌において免疫療法のnegative predictorであり、胃癌においても予後不良を決定する因子と考えられている。本研究においてはmesenchymalである6例(TCGAにおけるゲノム安定性4例、染色体不安定性2例)はいずれもPembrolizumabは奏効しなかった(奏効割合0%)。一方、non-mesenchymalでは全体として奏効割合は30.7%であった。しかし、MSI-HやEBV陽性を除くと、奏効割合は10%であった。以上から、mesenchymal subtypeは胃癌においても免疫療法のnegative predictive valueをもつとみなすことができる。
ctDNAを解析することで、腫瘍のmutational loadを非侵襲的かつ効果的に要約することができ、Pembrolizumabへの反応性が高い患者を同定することができると仮定した。73もの遺伝子のシークエンスを同定するパネル(Guardant360)を用いて、腫瘍と血液いずれの検体も利用可能な23例を対象としてctDNAのmutational load scoreと腫瘍組織のmutational loadの関連性を調べた。
その結果、ctDNAのmutational load scoreと腫瘍組織のmutational load は全体的に一致していたが、MSI-Hの1例では腫瘍組織のmutational loadが低く、この症例では組織内にMSI-HやMSSが混在していたため、Pembrolizumabの効果が低いと考えられた。組織検体では組織内のheterogeneityのため腫瘍全体のmutational loadを反映しておらず、ctDNAのmutational load scoreのほうがPembrolizumabに対する反応性とよく相関していた。
組織およびctDNAのmutational loadの高低によるprogression-free survival(PFS)の比較としては、組織とctDNAいずれにおいてもmutational loadの高い症例でPFSが長い傾向にあった。また、治療開始時と6週後におけるctDNAの変化は膀胱癌や非小細胞肺癌において強いpredictive markerであることが知られているが、本研究においても6週後にctDNAが減少した症例のほうが増加した症例に比較して、PFSが長い傾向にあった。
結論として、PD-L1だけでなく、MSI-HとEBV陽性は免疫療法における信頼できるバイオマーカーであると考えられた。特にEBV陽性において、免疫療法が高い奏効を示すことは本研究で初めて示された。また、ctDNAは侵襲的な腫瘍組織の生検ができない、もしくは望まない患者において、免疫療法の効果を予測するために適したオプション、もしくは補完的ツールであると考えられた。
日本語要約原稿作成:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 今関 洋
監訳者コメント:
MSI-Hのみならず、EBV陽性胃癌は、抗PD-1抗体の効果予測因子である
切除不能胃癌に対して、本邦では3次治療以降でPD-1抗体のNivolumabが適正使用であり、一方、PembrolizumabはCPS≧1%と判定された3次治療以降でFDAによって承認を受けている。バイオマーカーは、既にMSI-Hが明らかとなっており、同対象に対する有効性は極めて高く、FDAでは初めて臓器にかかわらず、MSI-H固形癌に対するPembrolizumabの適応を2017年5月に承認している。本検討では、これらのMSIを含め、EBV、CPS、mutation burden、リキッドバイオプシーを検討するため、Pembrolizumabを受ける胃癌症例を対象に、第II相試験が実施された。
EBV陽性胃癌では、有効性が高いことが明らかとなり、胃癌に対してもMSI-Hでは高い有効性が再現されたこと、また他癌種で既に報告されていたmutation burdenの多い腫瘍に有効性が高いこと、CPSと奏効との関連も既報(KEYNOTE-061:胃癌2次治療におけるPembrolizumab vs. PTX療法の第III相試験)と同様であった。胃癌取扱い規約における特殊型に分類されるリンパ球浸潤癌の大部分、報告によっては9割程度にEBVの感染が確認される。形態学的特徴であるlace like patternやリンパ球の浸潤といった特徴からEBV関連を疑い、免疫染色で確定することがほとんどである。しかし、形態でEBV関連を疑わないような症例にもEBV陽性も少数存在しているため、EBVのスクリーニングの範囲をどうするかなどは今後の検討を要する。また、このような腫瘍は宿主免疫を刺激する要素をもっているため、TILを再活性化することに成功すれば、抗腫瘍効果が得られると推測される。
現時点では、本邦ではNivolumabが、3次治療以降における適正使用のポジショニングとなっているため、本検討で判明している因子を有する症例では、積極的に3次治療での使用を検討するべきと考えられる。
- 1) Fuchs CS, et al.: J Clin Oncol. 35(15_suppl): 4003-4003, 2017
- 2) Kang YK, et al.: Lancet. 390(10111): 2461-2471, 2017 [PubMed]
- 3) Muro K, et al.: Lancet Oncol. 17(6): 717-726, 2016 [PubMed]
- 4) Cancer Genome Atlas Network: Nature. 513(7517): 202-209, 2014 [PubMed]
監訳・コメント:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 岩佐 悟
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