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8月
静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 医長 山ア 健太郎

大腸癌

Stage I-III大腸癌患者におけるultradeep sequencingによるctDNA解析


この論文は無料です


Reinert T, et al.: JAMA Oncol. May 9, 2019 [Epub ahead of print]

 根治手術後の進行大腸癌の基本的な治療方針として、Stage II大腸癌患者では約10〜15%の治療切除後の微小転移が認められるが1)、術後補助化学療法(ACT)がほとんどの場合実施されていない。一方、Stage III大腸癌患者では手術により根治が得られるのは50%程度であり、ほとんどの場合でACTが実施されている2)。しかしながら、ACTを受けてもStage III大腸癌患者の約30%に再発がみられるという現状である1)

 また、現在、大腸癌治療ガイドラインに基づいた術後サーベイランスが推奨されているにもかかわらず、根治が見込めるタイミングで発見できる異時性再発は約10〜20%にとどまっている3)

 これらの背景からACTを必要としない患者とACTによって治療効果を得ることができる患者とを層別化し、再発リスクの高い患者を検出し、適切なフォローアップ、適切な治療を受けることが可能となるよう再発病変の早期発見を可能とするバイオマーカーが必要である4)

 血中循環腫瘍DNA(ctDNA)は大腸癌の術後フォローアップにおける腫瘍の長期的な評価のための理想的な非侵襲なバイオマーカーとして注目されている5)。今回、Stage I-III大腸癌患者を対象として、微小転移の検出、再発リスクの高い患者の同定、経時的なモニタリングによる再発の早期発見を目的としたctDNAのバイオマーカーとしての有用性の結果を報告する。

 対象は2014年5月から2017年1月までにデンマークの3施設において、Stage I-III大腸癌根治術施行例であった。

 対象例からは術前、術後30日(ACT前)、以後術後3年経過するまで3ヵ月毎に血液サンプルを採取し、国内のガイドラインに沿ったサーベイランスを行った。ctDNA解析は試料解析担当者が対象例の転帰、サンプルの順序を知らされていない状態でretrospectiveに解析され、臨床医と対象例のどちらにもctDNAの解析結果は提供されなかった。

 ctDNAは血漿サンプルからPCR法を用いて16個のmutationをターゲットとした次世代シークエンサー(HiSeq 2500 system、イルミナ社)によって解析し、少なくとも2つ以上の変異体が検出される血漿サンプルをctDNA陽性と定義した。主要評価項目は無再発生存期間(RFS)で、RFSとctDNAの相関については、Cox比例ハザード分析を用いて評価した。

 全登録数130例のうち、5例を除いた125例が解析対象となった。125例から得られた計795個の血漿サンプルからctDNA解析を実施した。追跡期間中央値は12.5ヵ月で、期間内に24例(19.2%)が再発をきたした。

 術前の122例の血漿サンプルのうち、108例(88.5%)にctDNAが検出され、過去の報告同様に、検査のQualityが担保された形となった6)。感度はStage Iで40%、Stage IIで92%、Stage IIIで90%であった。CEA高値は53例(43.3%)にみられた。

 ctDNAによって同定される術後の微小転移と再発との関連を評価するためにACT開始前の術後30日の血漿サンプルを解析に用いた。94例が解析対象となり、84例がctDNA陰性、10例がctDNA陽性を示した。ctDNA陽性10例のうち7例で再発がみられた。一方、ctDNA陰性84例中再発を認めたのは10例のみであり、ACT開始前のctDNA陽性例は有意に再発割合が高かった(HR=7.2、95% CI: 2.7-19.0、p<0.001)。ACT施行例のみを対象としたサブグループ解析でも、ACT前のctDNA陽性は再発の高リスク因子であった(HR=7.1、95% CI: 2.2-22.0、p<0.001)。一方、ACT前のctDNA陰性例ではACT施行の有無にかかわらず再発割合は12%と同等であり、ctDNA陰性例ではACTを実施する必要がない可能性が示唆された。

 ACT前のctDNA陽性例には10例全例でACTが実施されており、7例が再発、3例が無再発であった。治療期間中の無再発例はACT終了後からctDNAが陰転化し追跡期間終了後までctDNA陰性を維持した。経時的にフォローが可能であった再発6例中、4例ではctDNAが陰性化することなく陽性を維持し、2例はACT終了後に陰性化したがすぐにctDNA陽性となった。このようにACT後のctDNA statusを継続的に評価することによって、リアルタイムに患者毎に再発リスクを評価しうることが示された。

 58例のACT後の血漿サンプルを用いた解析では、ctDNA陽性7例全例(100%)で再発を認めたが、ctDNA陰性51例中再発をきたしたのは7例(13.7%)のみであった。単変量解析でACT後のctDNAは有意に再発と相関し(HR=17.5、95% CI: 5.4-56.5、p<0.001)、再発リスク因子であるStage、脈管侵襲陽性、R1/2切除などを因子に加えた多変量解析でも、ctDNAはACT後の独立した再発リスク因子であった。

 術後のサーベイランス中に血漿サンプルを継続的にモニタリングした75例中、ctDNAは感度88%、特異度98%で再発を同定したが、CEAでは感度69%、特異度64%であった。ctDNA陽性15例中14例(93.3%)で再発がみられ、一方、ctDNA陰性60例のうち再発は2例(3.3%)のみであった。単変量解析で、ctDNA陽性はRFSにおいて、強力な負の予後因子であることが示唆された(HR=43.5、95% CI: 9.8-193.5、p<0.001)。多変量解析でも、ctDNAは独立した再発リスク因子であった(HR=39.9、95% CI: 7.5-211.0、p<0.001)。

 ctDNAは画像上の再発よりも平均8.7ヵ月早く再発を検出したが、CEAでは画像上再発より早く再発を検出することはできなかった。ctDNAが陽性化してから画像上再発確認までctDNAは陽性のままであった。画像上再発までにctDNAの変異対立遺伝子頻度が中央値で5倍、最大300倍まで増加したことを確認した。これにより画像上再発まで腫瘍量が著増し、画像上再発の時期には、再発腫瘍に対する根治的な治療介入ができない可能性がある。今後はctDNA statusに応じたサーベイランスの時期を検討する必要がある。

 また、再発した11例に対して、臨床的に重要な変異をターゲットとする遺伝子パネルを用いて、臨床試験や他の癌種で適応となっているアクショナブル変異の解析を行った。ctDNA陽性11例のうち、術前の試料で7例(63.6%)の患者にアクショナブル変異が検出され、全てのctDNA陽性試料を用いると9例(81.8%)にアクショナブル変異が検出された。ctDNAの対立遺伝子頻度とアクショナブル変異の対立遺伝子頻度は有意に相関していた。

 以上の結果からctDNAは、術後の再発リスクの評価、ACTの有効性のモニタリング、臨床的に意味のあるアクショナブル変異の検出、および早期再発のバイオマーカーとして有用であることが示された。今後はctDNA statusに応じて治療を層別化した臨床試験に応用することで、さらなる知見が期待される。


日本語要約原稿作成:兵庫医科大学病院 下部消化管外科 木村 慶



監訳者コメント:
Dawn of a new era for the adjuvant treatment stratified and monitored by ctDNA status

 さまざまな癌種で血中循環腫瘍DNA(circulating tumor DNA; ctDNA)解析の予後因子としての臨床的有用性が近年報告されており、大腸癌領域でも、本論文だけではなくすでにいくつかの少数の後ろ向き解析にてctDNAの予後因子としての役割が示唆されている7-10)。今後ctDNAの治療開発が進めばctDNAの値によって治療強度を変える薬物療法が標準となる可能性がある。

 本論文では、ctDNAの予後因子としての役割だけではなく、
1. ctDNA陽性例が薬物療法によって陰性へと変化する、「ctDNA陰転化」の治療効果予測因子としての有用性 2. ctDNAのCEAより感度の高い腫瘍マーカーとしての有用性 についても示唆した形となっており、ctDNAをモニタリングすることによる術後療法という新たな治療開発の可能性を示した。

 本論文の著者である、Dr. Reinert、Prof. AndersenはStage I-IIIの大腸癌を対象に、1,000例規模のコホート試験を昨年より開始している(Circulating Tumor DNA Analysis to Optimize Treatment for Patients With Colorectal Cancer (IMPROVE): NCT03637686)。特にStage II大腸癌においてはEORTC/AIOやJohns Hopkins Medicineが主導となり、ctDNAによって治療を層別化する臨床試験が開始/開始予定であり、これらの新規試験の結果次第ではいわゆる“high risk Stage II”の定義についての議論に終止符が打たれることになるかもしれない。

 しかしながら、NGS(next-generation sequencing)を用いたctDNA解析に対するコストの問題(1検体15〜30万円程度といわれている)、ctDNA検査法を含めたQuality Assuranceの問題、ctDNA陽性例に対して有効な薬物療法が定まっていない点、など解決すべき点も多く、実用化に向けてさらなるEvidenceの集積を期待したい。

  •  1) Osterman E, et al.: Dis Colon Rectum. 61(9): 1016-1025, 2018 [PubMed]
  •  2) Babaei M, et al.: Int J Cancer. 142(7): 1480-1489, 2018 [PubMed]
  •  3) Snyder RA, et al.: JAMA. 319(20): 2104-2115, 2018 [PubMed]
  •  4) Pita-Fernández S, et al.: Ann Oncol. 26(4): 644-656, 2015 [PubMed]
  •  5) Schøler LV, et al.: Clin Cancer Res. 23(18): 5437-5445, 2017 [PubMed]
  •  6) Cohen JD, et al.: Science. 359(6378): 926-930, 2018 [PubMed]
  •  7) Tie J, et al.: Gut. 68(4): 663-671, 2019 [PubMed]
  •  8) Tie J, et al.: Sci Transl Med. 8(346): 346ra92, 2016 [PubMed]
  •  9) Tie J, et al.: J Clin Oncol. 36(15_suppl): 3516-3516, 2018 [JCO]
  • 10) Esquivel M, et al.: J Clin Oncol. 37(4_suppl): 552-552, 2019 [JCO]

監訳・コメント:兵庫医科大学病院 下部消化管外科 片岡 幸三

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