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2月
国立がん研究センター中央病院 消化管内科 医長 加藤 健

大腸癌

Stage III大腸癌術後補助化学療法後の再発リスクと効果予測マーカーとしてのctDNA解析


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Tie J, et al.: JAMA Oncol. 5(12): 1710-1717, 2019

 Stage IIIの大腸癌患者に対する術後補助化学療法は、全生存期間を改善することが既に示されている1,2)。Oxaliplatin含有レジメンの投与期間については、低リスク群(≦T3 and N1)には3ヵ月投与、高リスク群(T4 and/or N2)には6ヵ月投与といったように、術後病理所見によって再発リスクを分けて投与法を変える知見も出てきている3)。また、70歳以上の患者についてはOxaliplatin追加の有用性が示されていないため、Oxaliplatinを省略する考え方もある4-6)。しかし術後補助化学療法を完遂した後の段階での再発リスクを評価する方法はいまだ出てきておらず、再発して初めて術後化学療法の効果がどうであったのかを知るのが現状である。

 Circulating tumor DNA(ctDNA)として知られる腫瘍特異的DNA変異は、ほとんどの進行大腸癌患者の末梢血中に認められ7)、早期癌患者の術後の再発率と関連することがいくつかの論文で示されているが8-10)、術後補助化学療法後の条件での報告については、他癌種も含めて今までなされていない。そこで今回、著者らは標準的な術後補助化学療法が施行されたstage III大腸癌患者に対して、手術後、そして術後補助化学療法後のctDNAを調べ、再発リスクを検討する研究を行った。

 本多施設前向きコホート研究では、オーストラリアの5施設において2014年11月1日から2017年5月30日の期間、R0切除が施行されたstage III大腸癌患者で、ECOG PS 0-2、24週間の術後補助化学療法を施行予定である100例が登録された。3年以内に他の悪性腫瘍を合併している患者は除外された。ctDNAの結果については主治医には開示されずに術後補助化学療法のレジメンは選択され施行された。術後サーベイランスは3ヵ月毎のCEAチェックと年1回のCT検査とした。血液検体(ctDNAとCEA)は手術後(4~10週以内、化学療法前)と術後補助化学療法終了後(最終投与6週以内)に採取された。腫瘍組織検体を用いて、再発大腸癌で報告されている15遺伝子9)の体細胞変異を分析、患者毎に同定された1個の体細胞変異をそれぞれの血漿中ctDNAでの評価に用いた。組織中1個以上の体細胞変異が認められた患者の場合は、健常対照群と比し最も高い変異アレル頻度の遺伝子変異をctDNA解析に用いた。そして、このctDNAと無再発生存期間の検討を行った。

 100例中96例の患者の解析が行われた。内訳は年齢中央値64歳(26~82歳)、男性49例(51%)、観察期間中央値28.9ヵ月(11.6~46.4ヵ月)であった。術後補助化学療法としてOxaliplatin含有レジメンは73例(76%)で行われた。残りの22例(23%)はフッ化ピリミジン単独、1例が化学療法未施行であった。24週間の術後補助化学療法が予定されたが、少なくとも12週施行されたのは85例(89%)、予定の24週完遂できたのは72例(75%)であった。

 腫瘍組織からは96例全例に少なくとも1つの体細胞変異が認められた。術後の血液からは96例中20例(21%)にctDNAが検出された。再発した全24例中10例(42%)がctDNA陽性であり、陽性例の3年無再発生存割合が47%であったのに対し、陰性例の3年無再発生存割合は76%と、術後ctDNA陽性は有意に術後再発高リスクであった(HR=3.8、95% CI: 2.4-21.0、p<0.001)。

 また、術後補助化学療法後の血液からは88例中15例(17%)にctDNAが検出され、ctDNA陽性例の3年無再発生存割合が30%であったのに対して陰性例は77%と、術後化学療法終了後ctDNA陽性はより強く術後再発高リスクであった(HR=6.8、95% CI: 11.0-157.0、p<0.001)。

 術後ctDNA陽性でかつ術後補助化学療法後ctDNA陽性の場合、術後補助化学療法後にctDNAが陰転化した患者より、再発リスクが上昇していた(HR=3.7、95% CI: 1.1-17.0、p=0.04)。術後補助化学療法後にctDNAが陽性化した患者は、術後と術後補助化学療法後のどちらもctDNAが陰性の場合より再発リスクは有意に高かった(HR=6.5、95% CI: 7.2-642.0、p<0.001)。

 血清CEAについては、術後で7例(7%)が上昇しており、うち6例がctDNA陽性であった。また術後補助化学療法後のCEAでは12例(14%)が上昇しており、うち6例がctDNA陽性であった。その6例中、転移を認めたのは5例であった。CEA上昇ありでctDNA陰性であった6例では1例のみに転移を認めた。CEA上昇の術後および術後補助化学療法後の再発リスクはそれぞれ術後HR=3.4(95% CI: 1.5-50、p=0.02)、術後補助化学療法後HR=3.05(95% CI: 1.4-21.0、p=0.01)であった。

 単変量解析・多変量解析の結果、術後ctDNAは他の臨床病理学的因子(年齢・性別・T因子・N因子・脈管侵襲・再発リスク[high risk group: pT4 and/or pN2])とは独立した再発リスク因子であった(HR=7.5、95% CI: 3.5-16.1、p<0.001)。

 以上のように、術後ctDNAは再発予測マーカーであり、術後補助化学療法後においても再発リスクの高い患者を同定するマーカーであった。特に画像上再発が認められていない高再発リスク患者に対して、さらなる化学療法を追加するアプローチが有用である可能性が考えられた。


日本語要約原稿作成:埼玉医科大学国際医療センター 消化器腫瘍科 堀田 洋介



監訳者コメント:
微小遺残病変(MRD)の存在を予測しうるバイオマーカーとしてのctDNA

 Stage III大腸癌に対する術後化学療法により術後微小遺残病変(minimal residual disease: MRD)を根絶し再発および全生存期間を改善することができる。ただし、stage III大腸癌術後患者は、『MRD陰性にて手術単独で根治する術後補助化学療法「不要」例』、『MRD陽性だが術後補助化学療法によりMRDを根絶し再発が阻止できた「有効」例』、『MRD陽性かつ術後補助化学療法にて制御できず再発した「無効」例』のヘテロな集団となる。不要例では術後補助化学療法はovertreatmentとなり、MRD陰性を予測する強力なツールがあれば不要例を化学療法の有害事象から守ることができる。一方、無効例にとっては、よりintensiveな化学療法で制御を目指し、それでもMRDが制御できなければ維持療法を続けて予後の改善を目指すというような戦略になるだろう。これまではMRDを予測する方法がなかったためstage III全例に術後化学療法を行っている現状があった。そのような中で今回のctDNA解析はMRDを予測する強力なツールになりそうである。すなわち術後または術後補助化学療法後ctDNA陽性例は再発高リスクであり、術後化学療法により陰転化しない、または術後化学療法後に陽転化する概ね再発してしまう集団である。一方、術後補助化学療法により陰転化した症例では予後が改善していることから、術後ctDNA陽性例ではよりctDNA陰転化率の向上を目指してintensiveな術後化学療法を行う、さらに化学療法後の有効性判断の指標としても有用になりうると思われる。一方、ctDNA陰性例はctDNA陽性例に比べて再発低リスクであるが、著者が述べているように再発例の42%しか術後ctDNAでみつけられておらず、なかなか不要例を判断するツールとしては感度が低く検査精度を高めるためのひと工夫が必要であると思われる。論文中に示されているようにすでにいくつか前向き試験が行われているとのことであるので、今後の動向に注目していきたい。

監訳・コメント:埼玉医科大学国際医療センター 消化器腫瘍科 濱口 哲弥

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