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5月
国立がん研究センター東病院 消化管内科 医長 谷口 浩也

食道癌

局所進行食道癌に対する陽子線治療と強度変調放射線治療の無作為化第IIB相試験


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Lin SH, et al.: J Clin Oncol. 38(14): 1569-1579, 2020

 局所進行食道癌に対する集学的治療は、術後合併症(postoperative complications: POCs)や化学放射線療法(chemoradiotherapy: CRT)後の晩期有害事象として心臓や肺に重大な合併症を招く可能性がある。食道癌に対する標準的な放射線治療は3次元原体照射(three-dimensional conformal radiotherapy: 3D CRT)であるが、より新しい技術の強度変調放射線治療(intensity-modulated radiotherapy: IMRT)は正常組織への線量を減らすことができ1,2)、単施設や集団ベースのデータでは3D CRTと比較して心臓や肺の合併症発生率や死亡率を大幅に減少する可能性が示されている3,4)。現在、IMRTは多くの施設で標準治療となっている。

 3D CRTやIMRTは光子線を用いているが、陽子線治療(proton beam therapy: PBT)はより重い粒子線固有の物理特性を利用した先進的な治療法である5)。多くの線量測定研究によって、PBTが3D CRTやIMRTと比較して心臓や肺の線量を低減できることが報告され6-11)、遡及的解析では毒性やPOCsの低減、治療成績の向上をもたらす可能性が示されている12-14)。しかし、PBTは光子線治療と比較して高額であり15,16)、現時点では線量分布上の優越性が臨床的・経済的意義のある利益をもたらすことを示すエビデンスは十分でない。

 本無作為化第IIB相試験では有効性評価にprogression-free survival(PFS)、安全性評価に毒性の複合指標であるtotal toxicity burden(TTB)を用いて、局所進行食道癌に対するPBTとIMRTを比較した。

 試験デザインは第IIB相、単施設、非盲検、無作為化試験。

 対象は18歳以上、Karnofsky performance score≧60(またはZubrod performance status: 0-2)、頸部/胸部食道・胃食道接合部・胃噴門の扁平上皮癌または腺癌、stage II-III、同時併用CRTに適格の患者。切除可能性の有無は問わず、内視鏡的粘膜切除術後例も許容された。既照射例は照射野の重複が最小限/なしの場合のみ許容された。CRT前の導入化学療法は許容されたが、放射線単独/化学療法単独での治療は除外された。他の悪性腫瘍に対する全身療法を受けている患者、活動性の転移病変がある患者、臨床的に制御されていない心肺疾患・肝腎疾患・胃腸疾患・血液疾患を有する患者は除外された。

 PBT群とIMRT群に1:1で無作為割り付けされた。調整因子は導入化学療法(yes vs. no)、切除可能性(yes vs. no)、stage(I-II vs. III)、組織診断(扁平上皮癌vs.腺癌)。

 全患者に同時併用化学療法(レジメンは腫瘍内科医の裁量)+放射線治療(50.4 Gy/28 fr、daily fractions)が施行された。CRT後4~6週でPET/CT、EGD/EUSによってrestagingされ、食道切除術適応であればCRT後8~10週またはCRTの有害事象が改善した時点で手術が行われた。

 PBTはpassive scatteredまたはscanning beam techniquesが用いられ、IMRTはstatic beamまたはvolumetric arc techniquesが用いられた。ターゲットはgross tumor volume(GTV)+頭尾方向4cm・周囲1cmのマージン、およびリンパ節転移とし、原発巣の部位に基づいて予防照射が行われた。

 主要評価項目はPFSとTTBで、PFSは登録から再発または死亡までの期間、TTBは13項目(11の有害事象)で定義された(POCsの7項目は術後30日までに評価、繰り返し起こり得る有害事象の6項目は無作為割り付けから1年まで評価)。これら有害事象の重症度は項目ごとにCTCAE v4.0、必要となった介入、発症の有無、のいずれかで評価された。定量化するために、それぞれの重症度あるいは発症に対して0~100の重み付けが行われた。各患者のTTBはすべての有害事象のスコアの合計として計算された。統計解析の方法論、試験デザイン、重症度の重み付けプロセスについての詳細はHobbsらの報告17)を参照。

 副次評価項目は有害事象、QOL、全生存(overall survival: OS)、手術を受けた患者の病理学的奏効率である。有害事象はCTCAE v4.0、QOLはEQ-5D-5L(European Quality of Life Five Dimension Five Level)を用いて評価し、OSは登録から死亡までの期間と定義した。加えて、放射線誘発性免疫抑制の程度を判定するためにリンパ球の絶対数も評価した(登録時、CRT中は毎週、CRT後1ヵ月、その後3~4ヵ月毎)。

 本試験にはベイズの群逐次デザインが用いられ17)、予測される臨床情報の33%、50%、67%が利用可能になった時点でそれぞれ中間解析が計画された。

 TTBの群間比較にはマルコフ連鎖モンテカルロ法による事後解析を用いた。TTBとPOCsの重症度の平均に対して2標本t検定が追加で行われた。PFSとOSはカプランマイヤー法を用いて推定され、層別化ログランク検定にて群間比較が行われた。

 2012年4月3日に開始された本試験は、67%の中間解析直前、NRG-GI006試験(食道癌に対するPBT vs. IMRTの多施設第III相試験)が開始される前に、外部の効果安全性評価委員会によって終了が承認された。2019年5月27日のデータロック時点で145例の患者に無作為割り付けが行われ(IMRT 72例、PBT 73例)、そのうち107例(IMRT 61例、PBT 46例)が評価可能であった。PBT群の評価不能患者の大部分(22例、81%)は保険がおりなかったためにIMRTで治療が行われた。IMRT群の評価不能患者の大部分(7例、63%)は患者がPBTを希望したためにPBTで治療が行われた。PBT群の80%でpassive scattered techniqueが用いられた。化学療法は両群とも中央値で5コース(範囲:IMRT 2~6コース、PBT 3~6コース)施行され、レジメンは以下の通りであった:Fluorouracil/Capecitabine+Taxane(59例、55%)、Carboplatin+Taxane(23例、22%)、Fluorouracil+Oxaliplatin(20例、19%)。51例(IMRT 30例、PBT 21例)がCRT後に食道切除術を施行された(p=0.55)。病理学的完全奏効率に差はなかった(両群で29~30%、p=0.60)。

 IMRT群よりPBT群の平均TTBが低くなる事後確率は0.9989で、67%時点の中間解析で試験中止基準となる0.9942を超えた。事後平均TTBはIMRT群(39.9、95%最高事後密度信用区間26.2-54.9)がPBT群(17.4、95%最高事後密度信用区間10.5-25.0)の2.3倍であった。平均POCsスコアはIMRT群(19.1、7.3-32.3)がPBT群(2.5、0.3-5.2)の7.6倍であった。両群のTTBとPOCsスコアをt検定で比較するとp値はそれぞれ0.018と0.02であった。PBT群はIMRT群と比較して心肺毒性とPOCsのスコアが低く、最も顕著であったのは心房細動、無症候性胸水、軽度の放射線肺臓炎、ARDS、再挿管であった。CRTを完遂した患者のうち3例でgrade 5の有害事象が起こり、全てIMRT群であった。1例は術後47日にARDS、肺炎、持続性心房細動にて死亡。他2例はCRT完遂12日後と15日後に肺塞栓症と心筋梗塞にて死亡した。個々の有害事象について群間で有意差はなかった。

 経過観察期間中央値は44.1ヵ月で、3年PFSはIMRT群44.5%(95% CI: 31.3-56.9%)、PBT群44.5%(95% CI: 28.8-59.1%)であった。PFS中央値はそれぞれ18.1ヵ月(95% CI: 10.0ヵ月-not reached)、28.5ヵ月(95% CI: 7.1ヵ月-not reached)であった(p=0.70)。IMRT群よりPBT群のPFS割合が低くなる事後確率は0.58で統計学的有意性は達成されなかった。3年OSはIMRT群50.8%(95% CI: 36.2-63.6%)、PBT群51.2%(95% CI: 34.8-65.4%)であった(p=0.60)。OS中央値はそれぞれ73.6ヵ月(95% CI: 24.4ヵ月-not reached)、42.1ヵ月(95% CI: 14.5ヵ月-not reached)であった。

 QOLは群間で有意差がなかった。

 リンパ球数はベースラインおよび導入化学療法後で群間に差がなかったが、CRT中はIMRT群で有意に減少し(2〜5週間のすべての時点でp<0.05)、grade 4のリンパ球減少が有意に多かった(4週時点33% vs. 14%、5週時点52% vs. 27%、いずれもp<0.05)。

 両群でGTVとPTVの体積は同等であったが、PBT群ではGTV(52.6 vs. 52.3 Gy、p=0.006)とPTV(52.4 vs. 52.1 Gy、p=0.02)に有意に高い平均線量が投与された。また、PBT群では肺線量(V5: 41.4% vs. 19.7%、V20: 13.6% vs. 8.4%、平均:8.4 vs. 4.8 Gy、全てp<0.001)、心臓線量(平均:19.8 vs. 11.3 Gy、p<0.001)、肝臓線量(平均:12.1 vs. 2.4 Gy、p<0.001)が低く、脊髄の最大線量は同等であった(38.4 vs. 38.3 Gy、p=0.47)。

 本研究は腫瘍管理におけるPBTの有用性を支持する初めての無作為化試験のエビデンスであり、局所進行食道癌に対するPBTはIMRTと同等のPFSを有し、臨床的により安全な治療選択肢であることが示唆された。


日本語要約原稿作成:国立がん研究センター東病院 放射線治療科 奥村 真之



監訳者コメント:
局所進行食道癌にはIMRTよりPBTが総合的に勝る可能性が示唆された

 本論文は、局所進行食道癌に対して陽子線治療(PBT)と強度変調放射線治療(IMRT)のどちらが有効性・安全性を加味したうえで総合的に優れているかを評価した試験である。結果的にはPBTが有効性を担保し、良い安全である可能性が示唆されたということであった。

 本論文の背景では線量分布上の比較ではPBTが優れていることは前提としてあるため、放射線治療医の目線からするとPBTとIMRTを比較している、というより線量分布上の差が臨床上の差になっているのかという放射線治療の根本を問うものとなっていてドキドキしながら拝読した。評価にはtotal toxicity burden(TTB)という斬新な指標が用いられている。この指標はQOL評価に近いものがあり構造が複雑なため、正確に物事を反映しているかどうかはわかりづらく臨床との距離を若干感じざるを得ない。

 さらにベイズ法を用いた検定法では「最初に予想した差にどれぐらい一致した差がreal worldで得られるのか」というものを評価しており、先ほど述べたように線量分布で優れている分だけPBTがこれぐらい勝るだろうという仮説に近ければ近いほどpositive resultになるという今までにない解析方法である。

 精読すると頻度論的にも大きな差が出ており、「PBTが有効性を担保し、良い安全である可能性が示唆された」ということは間違いないと思われるが、数学的に正当なものを追求した結果、臨床への応用がやや進まなくなるのではという懸念も感じたいわゆる数学的に先進的な論文である。

監訳・コメント:国立がん研究センター東病院 放射線治療科 全田 貞幹

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