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7月
聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学 准教授 砂川 優

胃癌

DESTINY-Gastric01:HER2陽性進行胃癌における三次治療以降のTrastuzumab Deruxtecan(DS-8201)を検証した無作為化第II相試験


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Shitara K, et al.: N Engl J Med. 382(25): 2419-2430, 2020

 進行胃癌・食道胃接合部癌の15~20%はHER2陽性である1)。HER2陽性胃癌・食道胃接合部癌においては、TOGA試験2)の結果から化学療法(フッ化ピリミジン+白金製剤)+Trastuzumab療法が標準一次治療となった。

 HER2発現の有無によらず、二次治療はRAINBOW試験3)の結果からPaclitaxel+Ramucirumabが推奨され、三次治療以降はIrinotecan、Taxane、Trifluridine-Tipiracil、Nivolumabが選択される。一方でTrastuzumab以外の抗HER2抗体薬は有用性を示せていない。

 Trastuzumab Deruxtecan(DS-8201)は、ヒト上皮細胞増殖因子受容体2(human epidermal growth factor receptor 2:HER2)に対するヒト化モノクローナル抗体とトポイソメラーゼ I阻害作用を有するCamptothecin誘導体を、リンカーを介して結合させた抗体薬物複合体(antibody-drug conjugate:ADC)である。腫瘍細胞の細胞膜上に発現するHER2に結合して細胞内に取り込まれた後、Camptothecin誘導体のトポイソメラーゼI阻害作用により、腫瘍細胞の増殖を抑制する。DS-8201はDESTINY-Breast01試験4)の結果に基づいて、化学療法歴のあるHER2陽性切除不能又は再発乳癌に対し米国および本邦にて承認されている。

 胃癌では第I相試験(DS8201-A-J101)の結果が昨年報告された5)。前治療歴を有するHER2陽性進行胃癌・食道胃接合部癌44例における奏効割合は43.2%、奏効期間中央値は7.0ヵ月、無増悪生存期間中央値は5.6ヵ月と良好な結果であった。

 今回HER2陽性進行胃癌・食道胃接合部癌の三次治療以降におけるDS-8201の有効性・安全性を検証した非盲検多施設共同無作為化第II相試験が行われた。

 フッ化ピリミジン、白金製剤、Trastuzumabを含む2レジメン以上の化学療法歴を有するECOG PS 0または1のHER2陽性(中央判定)進行胃癌・食道胃接合部癌を対象とした。間質性肺炎既往患者は除外した。地域(日本または韓国)、PS(0または1)、HER2 status(3+または2+かつISH陽性)を層別化因子として、DS-8201群と標準治療群(PaclitaxelまたはIrinotecan:医師選択)に2:1で割り付けられた。DS-8201群は6.4mg/kgを3週ごとに、標準治療群はIrinotecan 150mg/m2を2週ごと、Paclitaxel 80mg/m2をday 1,8,15(4週1サイクル)に投与された。

 主要評価項目は中央判定による全奏効割合(ORR)とし、有意差を認めた際の重要な副次評価項目として全生存期間(OS)も統計学的に評価が行うこととされた。他の副次評価項目は奏効期間(DOR)、無増悪生存期間(PFS)、病勢コントロール率(DCR)、4週以上奏効期間を認めた割合、安全性である。探索的評価項目として奏効に至るまでの期間(TTR)、最良効果を設定した。

 2017年11月から2019年5月までの期間に日本の48施設、韓国の18施設から188例が登録され、187例(DS-8201群125例[1例は心電図異常のため投与前中止]、標準治療群62例)が解析対象となった。標準治療群は55例がIrinotecan、7例はPaclitaxelを選択した。前治療レジメン数の中央値は2(範囲2-9)で31例(17%)は4レジメン以上の治療歴を有した。72%の症例でRamucirumab治療歴、86%でTaxane治療歴を有した。Trastuzumab最終投与日からの期間の中央値はDS-8201群で5.9ヵ月(範囲0.7-40.7ヵ月)、標準治療群で6.5ヵ月(範囲0.7-23.0ヵ月)であった。データカットオフ時点でDS-8201群の22%、標準治療群の5%が試験治療を継続していた。治療期間中央値はDS-8201群で4.6ヵ月、標準治療群で2.8ヵ月であった。

 主要評価項目であるORR(中央判定)は、DS-8201群51%、標準治療群14%とDS-8201群において有意に高値であった(p<0.001)。4週以上奏効期間を維持した割合はDS-8201群51例(43%)、標準治療群7例(12%)であった。DS-8201群の10例は4週以上CRを維持したが、標準治療群では認めなかった。DS-8201群80%以上、標準治療群約半数以上の症例で何らかの腫瘍縮小を認めていた。奏効維持期間中央値はDS-8201群11.3ヵ月、標準治療群3.9ヵ月、奏効までの期間中央値はDS-8201群1.5ヵ月、標準治療群1.6ヵ月であった。DCRはDS-8201群86%、標準治療群62%であった。

 OS中央値はDS-8201群12.5ヵ月、標準治療群8.4ヵ月であった(HR=0.59、p=0.01)。187例中101例がデータカットオフ時点で死亡イベントを発生していた(DS-8201群125例中62例、標準治療群62例中39例)。6ヵ月および12ヵ月生存割合はDS-8201群80%、52%、標準治療群66%、29%であった。

 DS-8201群の48%、標準治療群の74%が後治療に移行した。PD-1またはPD-L1抗体はDS-8201群31%、標準治療群45%で用いられた。PFS中央値はDS-8201群5.6ヵ月、標準治療群3.5ヵ月であった(HR=0.47、95% CI: 0.31-0.71)。6ヵ月および12ヵ月無増悪生存割合はDS-8201群43%、30%、標準治療群21%、0%であった。

 ORR、OSにおけるサブグループ解析では、いずれのサブグループにおいてもDS-8201群が標準治療群に対し良好であった。DS-8201群におけるORRはHER2 3+はIHC2+かつISH陽性よりも良好であった(58% vs. 29%)。

 全gradeの有害事象はDS-8201群全例と標準治療群の98%で報告された。

 Grade 3/4の有害事象はDS-8201群の79.2%、標準治療群の53.2%に発現し、主なものは好中球数減少(それぞれ51.2%、24.2%)、貧血(37.6%、22.6%)、白血球数減少(20.8%、11.3%)、食欲減退(16.8%、12.9%)であった。

 発熱性好中球減少症はDS-8201群の5%、標準治療群の3%に発症した。有害事象による治療中断はDS-8201群で62%、標準治療群で37%、治療中止はそれぞれ15%、6%報告された。DS-8201群で、cycle 6開始後に好中球減少症を伴わない肺炎による治療関連死を1例認めた。標準治療群では認めなかった。間質性肺炎はDS-8201群の12例(10%)で認められ、標準治療群では認めなかった。初回発症日は中央値84.5日目(範囲36-638日)、大半がgrade 1/2であった(grade 1:2:3:4=3例:6例:2例:1例)。用量変更やステロイド投与などにより8例が回復または改善傾向にあった。左室機能低下は両群ともに認めなかった。

 DS-8201は、2レジメン以上治療歴を有するHER2陽性進行胃癌・食道胃接合部癌に対して有意に奏効割合、全生存期間の延長を認めた。骨髄抑制と間質性肺炎については減量や中止等の適切な対応が必要である。


日本語要約原稿作成:大阪国際がんセンター 腫瘍内科 長谷川 晶子



監訳者コメント:
待望のTrastuzumab後の抗HER2療法 ~Trastuzumab Deruxtecan(DS-8201)~

 HER2陽性進行再発乳癌の抗HER2療法は、Trastuzumab(Tmab)を嚆矢とし、①併用薬剤を変更しTmabを継続するbeyond progression、②Tmab不応後の殺細胞薬剤+Lapatinib、③一次治療の殺細胞薬剤+Pertuzumab+Tmab、④Tmab不応後のT-DM1、が確立した。しかしHER2陽性胃癌では一次治療のFU+白金+Tmab以降、①~④は全て不成功に終わった(二匹目のドジョウはいない)。要因の一つは胃癌の不均一性(heterogeneity)である。

 DS-8201はTmabにDeruxtecanを結合させた抗体薬物複合体である。

 ①DeruxtecanのSN-38より強力な薬効、②T-DM1より高い薬物抗体比、に加え③高い膜透過性による「バイスタンダー効果」にてHER2陰性近隣癌細胞にも抗腫瘍効果をもたらす。特に③によるheterogeneityの克服が期待された。

 本試験結果はそれを裏付けるものであり、HER2陽性胃癌の待望の薬剤といえる。間質性肺炎発症頻度(10%)は無視できないが、grade 3以上は3%であり注意深い観察にて対応可能と考える。

 本試験結果はASCO2020にて発表され本論文に同日掲載された。胃癌新薬がNEJMに掲載されたのは異例であり、日本を中心とする研究グループがそれを成し遂げたことは意義深い。適応拡大の日が待ち遠しい。

監訳・コメント:大阪国際がんセンター 腫瘍内科 杉本 直俊

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