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国立がん研究センター東病院 消化管内科 医長 谷口 浩也

大腸癌

大腸癌腹膜播種に対する腹膜減量手術+腹腔内温熱化学療法と腹膜減量手術単独を比較した多施設オープンラベル無作為化第III相比較対照試験(PRODIGE 7)


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François Quénet, et al.: Lancet Oncol. 22(2): 256-266, 2021

 大腸癌のうち、診断時に腹膜播種を認めるものは約7%のみであり、腹膜以外に転移を認めない症例は4%を超える程度で、大腸癌腹膜播種の5年累積発生率は6%である1)。大腸癌腹膜播種はその他の部位への転移に比較して予後が不良とされる2,3)

 大腸癌腹膜播種の治療として全身化学療法が全生存期間(overall survival: OS)をわずかに延長させる唯一の方法とされていたが3)、この15年で、切除可能な腹膜播種は切除したり、腹膜減量手術(cytoreductive surgery: CRS)に加え腹腔内温熱化学療法(HIPEC)をしたりすることが考案された。HIPECは局所に高濃度の抗腫瘍薬を高温で投与することで殺細胞性の効果を高めると考えられている。オランダの第III相対照試験では、全身化学療法群と比較してCRS+HIPEC群でOSを延長することが報告された4)

 しかしながら、HIPECはCRSとともに行われてきたため、HIPECの有用性についてCRS単独との比較検討をした報告はなかった。そこで、腹膜播種を伴う大腸癌に対してCRSに加えてHIPECの有用性を検討する、多施設オープンラベル無作為化第III相比較対照試験PRODIGE 7が行われた。

 対象は18歳から70歳までで、腹膜以外の臓器に転移がなく、腹膜播種係数(Peritoneal Cancer Index: PCI)が25以下、PSが0か1、造血能・肝機能が保たれた、6ヵ月間の全身化学療法が可能と判断された大腸癌患者で、HIPEC施行歴のある患者や腹膜以外に転移のある患者、grade 3以上の神経障害がある患者は除外された。術前の化学療法はどれも許容され、ウォッシュアウト期間は必須ではなかった。

 対象患者はCRS+HIPEC群とCRS単独群に1:1で無作為割付された。層別化因子は、手術施設、術後残存癌の程度、術前の全身化学療法のレジメン数、全身化学療法のタイミング(術前か術後か)であった。手術時にPCI>25、腹膜播種を肉眼的に完全切除できない、もしくは癌遺残1mm未満ではなかった患者は試験から除外された。

 HIPECは、全身化学療法としてFluorouracil 400mg/m2+Folinic Acid 20mg/m2の静脈内投与20分後に43℃のOxaliplatin 460mg/m2(オープンテクニックの場合)もしくは360mg/m2(クローズドテクニックの場合)を2L/m2のブドウ糖液を用いて腹腔内に30分間持続還流させた。

 主要評価項目はOS、副次評価項目は無再発生存期間(RFS)、腹膜の無再発生存期間、有害事象、術後死亡率であった。CRS単独群に対するCRS+HIPEC群のOSハザード比を0.625と仮定し、両側α=0.05、検出力80%で、154イベントが必要であり、必要症例数は264例とした。

 2008年2月11日~2014年1月6日の間に265例がCRS+HIPEC群133例、CRS単独群132例に無作為化された。

 207例(78%)が原発切除後であり、そのうち、128例は術前補助化学療法が施行された。CRS+HIPEC群で110例、CRS単独群で109例が術前に全身化学療法を施行された。両群の術前化学療法施行サイクル数の中央値は6サイクルであった。術前化学療法のレジメンはCRS+HIPEC群で48例(44%)、CRS単独群で46例(42%)がOxaliplatinベースであった。

 CRS+HIPEC群とCRS単独群で各々、抗EGFR抗体製剤の使用は25例(19%)と24例(18%)、抗VEGF抗体製剤の使用は71例(53%)と72例(55%)であった。術前に化学療法を早期に継続できなかった患者は、CRS+HIPEC群30例(27%)、CRS単独群31例(28%)で、中断した理由は有害事象、主治医判断、PD、患者希望の順に多かった。術後に化学療法を早期に継続できなかった患者は、CRS+HIPEC群37例(39%)、CRS単独群31例(30%)の計68例(34%)で、中断理由は有害事象、主治医判断、PDの順に多かった。

 完全減量切除術は、CRS+HIPEC群133例中119例(89%)、CRS単独群132例中121例(92%)で施行された。追跡期間中央値63.8ヵ月の時点で265例中159例(60%)にイベントがあった。主要評価項目であるOSの中央値はCRS+HIPEC群41.7ヵ月(95% CI: 36.2-53.8)、CRS単独群41.2ヵ月(95% CI: 35.1-49.7)であり、CRS+HIPEC群の優越性は示されなかった(HR=1.00、95.37% CI: 0.63-1.58、p=0.99)。1年および5年生存率はCRS+HIPEC群で86.9%(95% CI: 79.7-91.6)と39.4%(95% CI: 30.6-48.1)、CRS単独群で88.3%(95% CI: 81.4-92.8)と36.7%(95% CI: 28.1-45.4)であった。

 RFSの中央値はCRS+HIPEC群13.1ヵ月(95% CI: 12.1-15.7)、CRS単独群11.1ヵ月(95% CI: 9.0-12.7)であり、両群に差はなかった(HR=0.91、95% CI: 0.71-1.15、p=0.43)。1年および5年の無再発生存率はCRS+HIPEC群で59.0%(95% CI: 50.0-66.9)と14.8%(95% CI: 9.3-21.6)、CRS単独群で46.1%(95% CI: 37.3-54.5)と13.1%(95% CI: 7.8-19.8)であった。

 腹膜の無再発生存期間は両群に差はなく、多発転移の頻度もCRS+HIPEC群で29%、CRS単独群で31%と差は認められなかった。

 退院から初回の化学療法までの期間はCRS+HIPEC群67日(IQR: 50-85)、CRS単独群56日(IQR: 45-68)とCRS+HIPEC群のほうが有意に長かった(p=0.0036)。

 サブグループ解析のうち、PCIが11~15の患者において、OS(HR=0.437、95% CI: 0.21-0.9、p=0.021)、RFS(HR=0.405、95% CI: 0.21-0.78、p=0.005)ともにCRS+HIPEC群で有意に延長した。なお、CRS+HIPEC群のPCIの中央値は10であった。

 術後30日以内の死亡はCRS+HIPEC群で2例(2%)、CRS単独群で2例(2%)あり、術後31~60日にはさらにCRS+HIPEC群で2例(2%)、CRS単独群で1例(1%)を認め、全ての死因は治療関連死に分類された。両群間に死亡率の差は認めなかった。

 術後30日以内のgrade 3以上の有害事象はCRS+HIPEC群で56例(42%)、CRS単独群で42例(32%)に認めたが、両群に有意差はなかった。腹腔内に生じた有害事象の中で最も多かったものは消化管穿孔であり[CRS+HIPEC群14例(11%)、CRS単独群9例(7%)]、次いで膿瘍が多かった[CRS+HIPEC群7例(5%)、CRS単独群4例(3%)]。術後31~60日におけるgrade 3以上の有害事象はCRS+HIPEC群で34例(26%)、CRS単独群で20例(15%)と、有意にCRS+HIPEC群で有害事象が多かった(p=0.035)。

 以上のように、本試験では、腹膜播種を伴う大腸癌の治療として、CRS単独と比べ、CRS+OxaliplatinによるHIPECの有用性は示されなかった。


日本語要約原稿作成:国立国際医療研究センター 消化器内科 瀬戸(木村)花菜



監訳者コメント:
大腸癌腹膜播種に対する腹腔内温熱化学療法が、生存期間延長について現時点では否定されるも、今後の研究に期待。

 大腸癌腹膜播種症例に対する腹腔内温熱化学療法(HIPEC)が、腹膜減量手術とともにされる手技であることから、HIPEC単独の意義が科学的に証明されていなかったが、PRODIGE 7により、現時点ではOxaliplatinによるHIPECについて、その有効性が否定されることとなった。初めて第III相試験でHIPEC単独の意義が検討され、今後の治療開発について議論できる重要な試験である。

 なお、著者らはリミテーションで、HIPEC群の上乗せ効果が試験前にはわからなかったため、18ヵ月の上乗せ効果は高く見積もりすぎだったこと、CRS単独群のうち16例が後に腹膜播種再発をした際にHIPECを行ったこと、全症例のRAS変異、BRAF変異の結果を得られておらず、層別化因子に含まれていないこと、などを挙げている。

 現時点で、大腸癌の腹膜播種に対してHIPECは施行しないことが推奨される。一方、PCIによるサブグループ解析で、PCIが11~15の症例では、有効性が示唆されることより、腹膜播種の程度が軽すぎても、重すぎても、HIPECによる上乗せ効果が得られないことが予想される。また、腹腔内投与する抗癌剤が、Oxaliplatinでなく、より効果が期待できる薬剤がみつかれば、HIPECが、OS延長に寄与できる可能性がありうる。

 HIPECが、今後の研究開発で、明確な効果が得られる治療法になることが期待される。また、大腸癌腹膜播種の研究を進めるにあたって、日本の日常臨床でもPCIをスコアリングする必要がある。

監訳・コメント:国立国際医療研究センター 消化器内科 小島 康志

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