6月
聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学 教授 砂川 優
胃癌 食道胃接合部癌
KEYNOTE-059、KEYNOTE-061、KEYNOTE-062試験における高頻度マイクロサテライト不安定性を有する胃癌/食道胃接合部癌に対するPembrolizumab療法の治療成績
Chao J, et al.: JAMA Oncol. April 1, 2021 [Online ahead of print]
高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)を有する症例に対して、免疫療法は極めて高い有効性が示されている。MSI-H症例ではtumor mutation burden(TMB)が高く、PD-L1発現率も高いため抗PD-1抗体による治療効果が得られやすい。胃癌患者の約5~20%がMSI-H1)症例であるが、この集団に対していずれの治療ラインで抗PD-1抗体を使用するのがベストであるかはまだ明らかになっていない2)。
第II相試験であるKEYNOTE-059試験(単アーム:三次治療以降)3)、無作為化第III相試験であるKEYNOTE-061試験(2アーム:二次治療)4)、無作為化第III相試験であるKEYNOTE-062試験(3アーム:一次治療)5)で胃癌/食道胃接合部癌に対して抗PD-1抗体であるPembrolizumabの長期的な効果が示された。これらの試験のpost hoc解析においてMSI-H胃癌/食道胃接合部癌に対するPembrolizumabの有効性を検証した。
本研究の解析対象であるKEYNOTE-059試験は16ヵ国52施設、KEYNOTE-061試験では30ヵ国148施設、KEYNOTE-062試験では29ヵ国200施設が参加した。それぞれの試験の適格基準と試験治療は以下のとおりである。KEYNOTE-059試験では2レジメン以上の治療歴を有する症例を対象としており、三次治療以降でPembrolizumab(200mg、3週毎、最長2年間)を投与した。KEYNOTE-061試験では二次治療としてPembrolizumab群(P群)または化学療法(Paclitaxel)群(C群)に割り付けられた。KEYNOTE-062試験では一次治療としてPembrolizumab群(P群)またはPembrolizumab+化学療法(Cisplatin+5-FUまたはCapecitabine)群(P+C群)、または化学療法群(C群)に割り付けられた。いずれの試験においても、病状進行の確認または許容できない毒性の出現まで治療は継続された。評価項目は全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)、客観的奏効割合(ORR)、奏効期間であった。
全ての試験でPD-L1発現が陽性の症例が登録された。PD-L1発現は治療前の組織でPD-L1 IHC 22C3 pharmDxを用いて評価し、combined positive score(CPS)≧1をPD-L1陽性とした。MSI-HはMSI分析システムversion 1.2(Promega社)を使用してPCR法で測定された。
患者の登録期間はKEYNOTE-059試験では2015年3月2日から2016年3月26日まで、KEYNOTE-061試験では2015年6月4日から2016年7月26日まで、KEYNOTE-062試験では2015年9月18日から2017年5月26日までとし、データカットオフ日はKEYNOTE-059試験では2018年8月8日、KEYNOTE-061試験では2017年10月26日、KEYNOTE-062試験では2019年3月26日であった。OS、PFS、奏効期間はKaplan-Meier法を使用した。
KEYNOTE-059試験では259例(年齢中央値62歳[範囲24~89歳])、KEYNOTE-061試験では592例(年齢中央値61歳[範囲20~87歳])、KEYNOTE-062試験では763例(年齢中央値62歳[範囲20~87歳])が登録された。各試験のMSI-H症例は、KEYNOTE-059試験では174例中7 例(4.0%)、KEYNOTE-061試験では514例中27例(5.3%)、KEYNOTE-062試験では682例中50例(7.3%)であった。
データカットオフ時点での追跡期間の中央値はKEYNOTE-059試験で5.6ヵ月(範囲0.5~37.6)、KEYNOTE-061試験で7.9ヵ月(範囲0.2~27.7)、KEYNOTE-062試験で11.3ヵ月(範囲0.2~41.2)であった。KEYNOTE-059試験では全例治療を終了しており、7例中3例(42.9%)が2年間のPembrolizumab療法を完遂していた。KEYNOTE-061試験ではP群における治療完遂例は15例中3例(20%)で、治療継続中の症例は15例中4例(26.7%)であったが、C群では治療を完遂した症例、現在も治療継続中の症例は存在しなかった。KEYNOTE-062試験では治療完遂した症例はP群で14例中6例(42.9%)、P+C群で17例中6例(35.3%)、C群で19例中1例(5.3%)、治療継続中の症例はP群で14例中1例(7.1%)、P+C群では17例中2例(11.8%)、C群で19例中1例(5.3%)であった。
MSI-H症例におけるOS中央値はKEYNOTE-059、061試験のP群でいずれも未到達(KEYNOTE-059試験[95% CI: 1.1-未到達]、KEYNOTE-061試験[95% CI: 5.6-未到達])であったのに対してKEYNOTE-061試験におけるC群のOS中央値は8.1ヵ月(95% CI: 2.0-16.7)であった。KEYNOTE-062試験ではP群で未到達(95% CI: 10.7-未到達)、P+C群でも未到達(95% CI: 3.6-未到達)であったのに対してC群で8.5ヵ月(95% CI: 5.3-20.8)であった。
KEYNOTE-059試験でMSI-H症例に対するPembrolizumab療法での12ヵ月生存割合は71%(95% CI: not available)、KEYNOTE-061試験ではP群73%(95% CI: 44-89)であったのに対してC群は25%(95% CI: 6-50)であった。KEYNOTE-062試験ではP群で79%(95% CI: 47-92)、P+C群で71%(95% CI: 43-87)、C群では47%(95% CI: 24-67)であった。KEYNOTE-059、061試験での P群の24ヵ月生存割合はそれぞれ57%(95% CI: not available)、59%(95% CI: 31-79)、KEYNOTE-062試験ではP群で71%(95% CI: 41-88)、P+C群で65%(95% CI: 38-82)、C群で26%(95% CI: 10-57)であった。
MSI-H症例に対するPembrolizumab療法のPFS中央値はKEYNOTE-059試験では未到達(95% CI: 1.1-未到達)で、KEYNOTE-061試験ではP群で17.8ヵ月(95% CI: 2.7-未到達)、C群で3.5ヵ月(95% CI: 2.0-9.8)であった。KEYNOTE-062試験ではP群で11.2ヵ月(95% CI: 1.5-未到達)、P+C群では未到達(95% CI: 3.6-未到達)、C群では6.6ヵ月(95% CI: 4.4-8.3)であった。
MSI-H症例に対するPembrolizumab療法のORRはKEYNOTE-059試験では57.1%(95% CI: 18.4-90.1)、KEYNOTE-061試験ではP群46.7%(95% CI: 21.3-73.4)、C群16.7%(95% CI: 2.1-48.4)であった。KEYNOTE-062試験では、P群57.1%(95% CI: 28.9-82.3)、P+C群64.7%(95% CI: 38.3-85.8)、C群36.8%(95% CI: 16.3-61.6)であった。奏効期間中央値(DOR)はKEYNOTE-059、061試験の両方でPembrolizumab療法は未到達(KEYNOTE-059試験[範囲20.0~26.8ヵ月]、KEYNOTE-061試験[範囲5.5~26.0ヵ月])、C群においても未到達(範囲2.2~12.2ヵ月)であった。KEYNOTE-062試験のDORは、P群で21.2ヵ月(範囲1.4+~33.6ヵ月)、P+C群では未到達(範囲1.6+~34.5+ヵ月)、C群では7.0ヵ月(範囲2.0~30.4+ヵ月)であった。
本研究の結果、MSI-Hを有する胃癌/食道胃接合部癌症例において、治療ラインにかかわらず、化学療法のみの場合と比較して、PembrolizumabまたはPembrolizumabと化学療法の併用により、優れた抗腫瘍効果が得られることが示された。一方で、MSI-H胃癌/食道胃接合部癌における一次治療での化学療法の治療効果は乏しい傾向にあった。これは今まで報告されたケースシリーズ6-9)の傾向と一致している。また、KEYNOTE-062試験において、P群とC群では比較的早い段階で生存曲線に差を認めており、MSI-H症例ではPembrolizumabを早期に使用することが有益であることが示唆された。MSI-H症例での免疫チェックポイント阻害剤に対する治療抵抗性に関してさまざまな見解があるが、腫瘍内のミスマッチ修復酵素が不均一に失活することがPembrolizumab療法の治療効果が減弱する原因の一つである可能性が報告されている10)。また、MSI-H大腸癌患者を対象とした第III相試験であるKEYNOTE-177試験では、Pembrolizumab群が化学療法群と比較してPFSを有意に改善したことが報告されている11)。さらに、胃癌/食道胃接合部癌を対象とした第III相試験のCheckMate 649試験ではNivolumabと化学療法の併用療法が、化学療法に比べてOSを改善したことが報告されており、サブグループ解析においてMSI-Hが免疫チェックポイント阻害剤の効果予測因子であることが示されている12)。
これらのデータは進行胃癌の治療においてMSI-Hステータスを測定することを支持している。
本研究はMSI-Hの症例数が限られており、多変量解析の妥当性などの統計学的解釈に限界があった。さらに本研究対象試験の全ての症例においてMSIステータスが判明しているわけではないため、選択バイアスが生じた可能性がある。しかしながら、MSIステータスが評価不能な患者の臨床的特徴の分布は、研究集団全体の分布と類似していた。
まとめ
今回の解析結果より、進行胃癌/食道胃接合部癌においてMSI-HはPembrolizumab治療の効果予測のバイオマーカーであることが示唆された。MSI-H症例に対するPembrolizumabによる治療はいずれの治療ラインにおいてもOSや奏効割合、さらにDORなども優れた結果であり、長期生存が見込まれる症例が多くみられた。
日本語要約原稿作成:大阪国際がんセンター 腫瘍内科 石塚 保亘
監訳者コメント:
MSI-H胃癌に対する新たな治療選択
化学療法後に増悪した進行・再発のMSI-Hを有する固形癌に対しては、Pembrolizumabが本邦でも既に日常診療で使用可能である。本邦における承認は、大腸癌以外のMSI-H固形癌を対象としたKEYNOTE-158試験とMSI-H大腸癌を対象としたKEYNOTE-164試験のデータに基づいている。しかし、KEYNOTE-158試験における胃癌症例は13例(奏効率46.2%)のみで、一定の効果はみられたものの少数例であり、限定的なデータであった。一方、胃癌治療開発の枠組みでKEYNOTE-059試験(第II相、単アーム:三次治療以降)3)、KEYNOTE-061試験(第III相、2アーム:二次治療)4)、KEYNOTE-062試験(第III相、3アーム:一次治療)5)がそれぞれの治療ラインでのPembrolizumabの有効性を検証する試験として行われ、いずれの治療ラインにおいてもPembrolizumabが一定の効果を有することが報告された。本研究は、これらの試験におけるMSI-H症例を抽出し、それぞれの治療ラインにおけるPembrolizumabの効果を検証する目的で行われた。
結論から言うと、MSI-Hを有する胃癌/食道胃接合部癌症例において、Pembrolizumabは治療ラインにかかわらず、化学療法と比較して優れた抗腫瘍効果を得られることが示された。奏効期間中央値は未到達もしくは20ヵ月前後であり、長期間の有効性が示された。この結果は前述のKEYNOTE-158試験におけるMSI-H胃癌に対するPembrolizumabの有効性を裏付けるものであった。一方、欧米ではCheckMate 649試験12)の結果を受けて、一次治療からのimmune checkpoint inhibitor(ICI)と化学療法の併用療法がFDAで承認された。本邦においても今後はMSI statusの有無にかかわらず一次治療からのICIの使用が標準治療となる可能性がある。CheckMate 649試験におけるMSI-H症例(n=44)の生存期間中央値は未到達(HR=0.37、95% CI: 0.16-0.87)であり、MSI-H症例に対するICIの有効性が示唆された。しかし、MSI-H症例であってもICIの恩恵が得られない集団も一定数存在している。さらに、本研究においても、MSI-H症例への化学療法の治療効果は比較的乏しい結果であった。ICIへの治療抵抗性の解明と効果予測ができるバイオマーカーの開発、さらにICIの効果を高める有望なcombinationなどの治療開発が必要であろう。
また、MSI-Hを有する切除不能胃癌または食道胃接合部癌の一次治療において、Nivolumabと低用量Ipilimumabの併用療法の有効性を検証する第II相試験(NO LIMIT試験:WJOG13320G/CA209-7W7)が本邦で現在進行中であり、その結果にも期待したい。
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監訳・コメント:大阪大学大学院医学系研究科 先進癌薬物療法開発学 山口 敏史
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