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国立がん研究センター中央病院 消化管内科/頭頸部・食道内科 科長 加藤 健

KRASG12C変異癌

癌におけるKRASG12C阻害に対する獲得耐性


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Awad MM, et al.: N Engl J Med. 384(25): 2382-2393, 2021

 KRAS変異は代表的な癌遺伝子で、変異すると活性化GTPの状態が定常化し、MAPK経路やPI3K経路などの腫瘍化シグナルを促進する。近年KRASG12C変異(KRASの12番目のコドンでグリシンからシステインへアミノ酸置換が生じている変異。以下KRASG12C)のスイッチIIポケットに共有結合し、シグナルを阻害するものが開発された1-5)KRASG12Cは肺腺癌で約13%、大腸癌で約3%認められ、その他の癌では稀である6,7)。早期フェーズの臨床試験においてKRASG12Cの非小細胞肺癌(NSCLC)と大腸癌において、AdagrasibとSotorasib4,5,8)は効果が確認されており、Adagrasibの奏効率はNSCLC 45%9,10)、大腸癌17%11)で、Sotorasibの奏効率はNSCLC 37.1%(無増悪生存期間6.8ヵ月)、大腸癌7.1%であった。しかし一方で獲得耐性も認めているが、その機序は不明である4,5,12-14)

 本研究では、KRYSTAL-1試験のKRASG12C患者へのAdagrasib療法で耐性を獲得した検体の組織学的およびゲノム解析を施行した。さらにはdeep mutational scanning(DMS)を用いて、KRASG12C阻害薬の獲得耐性機序に寄与しうる二次的変異の解明が試みられた。

 KRYSTAL-1試験では、KRASG12CでAdagrasib投与中にRECIST(Response Evaluation Criteria In Solid Tumors)version 1.1で少なくとも12週間SD、あるいは、PRまたはCRを認めた後PDとなった場合を、耐性獲得と定義して本研究の対象とした。

 獲得耐性の分析として以下の3つの検討を行った。

 ①検体を用いた耐性機序解析:Adagrasib治療前後の耐性獲得時に、生検検体とcirculating tumor DNA(ctDNA)あるいはいずれかを採取し、組織学的またはゲノム解析を行い比較した。

 ②In vitro系での薬物耐性機序の確認:耐性変異させたBa/F3細胞株(インターロイキン3依存性マウスの培養株)と、変異させていないKRASG12Cの細胞株を用いて、AdagrasibとSotorasibで処理をし、薬剤用量に対する細胞生存能力を比較した。

 ③DMSによる網羅的薬剤耐性獲得変異検出:インターロイキン3非存在下かつKRASG12C阻害薬(MRTX1257[Adagrasib類似物]またはSotorasib)存在下で、Ba/F3細胞株培養を7日培養後、DMSによる解析を施行し、網羅的に耐性獲得変異を検出した。

①の結果
 対象患者は38例(NSCLC 27例、大腸癌10例、虫垂癌1例)であった。耐性獲得時に組織生検10例、ctDNA検査32例で、組織およびctDNA検査を施行したものは4例。38例中32例(84%)でAdagrasib耐性獲得時に、もとのKRASG12Cの変異を認めた。ただし変異を認めなかった6例はctDNAが検出感度以下であった可能性がある。
 Adagrasib耐性機序は38例中17例(45%)で確認された。Adagrasib結合ポケットのKRAS変異による獲得耐性を4例に認めた(NSCLCではY96C:1例、R68SとH95D:1例、大腸癌ではH95QとH95R:1例、H95R:1例)。KRASにおける活性型変異であるG12D、G12V、G13DやG12R、Q61H、G12Wを数名に認めた。
 その他の変異としては、RTK-RAS-MAPK経路ではNRASのQ61K:1例、BRAFのV600E:2例、MAP2K1/MEK1のK57T:1例、K57N:2例、I99_K104欠失:1例、E102_I103欠失:2例、EGFRのA289V:1例を認めた。
 大腸癌患者3例でCCDC6-RETEML4-ALKといった、癌遺伝子再構成を認めた。また1例の大腸癌患者では多数の遺伝子再構成が検出された。
 2例の患者ではKRASG12Cの高度な増幅を認めた。またMET遺伝子増幅を2例に認め耐性機序の可能性がある。
 治療前後の生検可能であった10例(NSCLC 9例、大腸癌1例)のうち2例で、遺伝学的耐性機序なしに、腺癌から扁平上皮癌へと形質転換を認めている。
 38例中17例(45%)で耐性機序を確認した。9例(53%)は少なくとも1つのKRAS変異または増幅を認めた。12例(71%)ではRAS経路に関連した遺伝子の耐性変異もしくは再構成を認めた。これらのうち7例(41%)で2つ以上の耐性機序が存在している。またctDNA施行例で、複数の耐性機序が存在した例は、NSCLC(7例中2例)より大腸癌(5例中4例)に多い傾向があったが、有意差はなかった。

②の結果
 AdagrasibはKRASG12Cのコドン12のシステインと共有結合するため、KRAS G12D/R/V/W変異により耐性が発生すると考えられる。①の研究で(AdagrasibとSotorasibの共通の結合部である)スイッチIIポケットに関連するKRAS R68S、H95D/Q/R、Y96C変異が確認された。そこでKRASG12Cの2次性変異(R68S、H95D、H95Q、H95R、Y96C)させた2重変異株(Ba/F3細胞株)を作製し検証を行った。KRASG12C(対照群)では、AdagrasibとSotorasibともに感受性良好で、用量依存性のシグナル阻害が認められた。一方2次性変異株(R68S、H95D、H95Q、H95R、Y96C)では、Adagrasibは全て耐性を示したが、Sotorasibでは、R68S、Y96Cに耐性を示すも、H95D、H95Q、H95R(以下H95D/Q/R)では耐性を示さなかった。

③の結果
 KRASG12C阻害薬(MRTX1257またはSotorasib)存在下で、DMSによる解析を行った。MRTX1257ではコドン12、68、95、96に複数の変異を認め、さらにコドン9、64、99、117にも強い抵抗性を示した。Sotorasibではコドン8、9、12、96、117で抵抗変異を認めた。両剤の変異はおおむね一致するがMRTX1257ではコドン72、99でも抵抗変異を多く認め、両剤の共有結合作用の違いが影響していると考えられた。多くの変異が薬剤結合部位関連であるが、コドン13、59、61、117、146のような、結合ポケット以外の発癌性変異(GTP加水分解阻害や、GDPとGTP間のヌクレオチド交換促進)も認められた。またH95D/Q/RとY96Cに加え、1つまたは両剤へ耐性を付与する17個の追加変異も認められた。異なるアレルや薬剤間の耐性比較をするため、G12R変異を対照として、相対的評価でスコア化した。Y96CはAdagrasibとSotorasibの両剤に耐性を示したが、H95D/Q/R変異はAdagrasibに耐性を示すが、Sotorasibには耐性を示さなかった。両剤共通の共有結合ポケット関連外のG13D、A59S、K117N、A146Pなどの変異は、G12RやY96Cより弱い耐性を示した。

 以上の結果から、耐性獲得機序は3つのカテゴリーが考えられた。
1.KRASの2次性変異または増幅
2.KRASを直接介さず、RTK-RASシグナル経路の2次性変異および遺伝子再構成による活性化
3.組織学的形質転換(肺腺癌→扁平上皮癌)

 Adagrasibの獲得耐性機序は、その作用部位に関連するスイッチIIポケット関連の2次性変異以外に複数の他の経路の形成があり多様である。KRASG12C阻害薬の開発には、別の結合様式の薬剤や、効果的な併用レジメンの開発が必要と考えられる。


日本語要約原稿作成:埼玉医科大学国際医療センター 腫瘍内科・消化器腫瘍科 三原 良明



監訳者コメント:
KRASG12C変異型大腸癌では併用療法による開発が展開されることになると考えられる

 KRAS変異はあらゆる癌種の重要なドライバー変異の一つであり、これを標的とした創薬が進められてきたが失敗の連続であった。今回、非小細胞肺癌に多くみられるKRASG12Cの薬剤結合部位を標的とした分子標的薬が開発され、非小細胞肺癌および大腸癌で有効性を認めたことが公表された。本論文はAdagrasib単剤を用いた試験に参加した患者のなかでRECIST ver1.1評価にて、①12週以上SD、②PRもしくはCRが確認され、増悪した患者の治療前後の組織もしくはctDNAを用いて、さらにin vitroの系によりvalidation studyを行い、同薬剤の獲得耐性機序を検討したものである。本論文より同剤の獲得耐性機序は、①KRASに二次的変異や遺伝子再構成、あるいはG12Cの増幅が発生する、②RAS経路の遺伝子に二次的変異や遺伝子再構成が発生する、③腺癌から扁平上皮癌への形質転換が発生する、の3つの機序が確認された。①と②が重複して発生するものもあった。非小細胞肺癌に比べると大腸癌のほうが複数の二次的変異や遺伝子再構成を来すことが多かった。これは非小細胞肺癌に比べて大腸癌のほうが単剤での奏効率や無増悪生存期間が短いことと関連していると考えられる。さらに、EGFR変異型非小細胞肺癌のT90M変異のように、初代TKIにより誘導される変異による耐性を克服するような次世代TKIが開発されているが、KRASG12CではKRASの他のさまざまな部位やRAS経路関連遺伝子に変異や遺伝子再構成が起こるために、獲得耐性機序を活かした次世代TKIを開発することは困難である。そのためKRASG12Cのみではなく、RAS機能を制御する蛋白の阻害薬やRAS経路を制御するような他の薬剤との併用療法の開発が重要となってくる。先の欧州臨床腫瘍学会(ESMO 2021)では、KRASG12C変異型大腸癌に対するAdagrasib単剤もしくはCetuximabとの併用療法の臨床試験の結果が公表され、単剤での奏効率22%、病勢制御率87%、PFS 5.6ヵ月に対して、併用療法では奏効率43%、病勢制御率100%、PFS未達、という結果が公表されている15)。よってKRASG12C変異型大腸癌では併用療法による開発が展開されることになると考えられる。

監訳・コメント:埼玉医科大学国際医療センター 腫瘍内科・消化器腫瘍科 濱口 哲弥

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