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聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学 教授 砂川 優

結腸癌

Stage II/III結腸癌におけるKRAS/BRAF遺伝子変異の意義:システマティックレビュー


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Formica V, et al.: J Natl Cancer Inst. Sep 20, 2021
[Online ahead of print]

 結腸癌の多くは治癒可能な病期で診断される。領域リンパ節転移を有するstage IIIおよびT4、組織学的分化度grade 3、不十分なリンパ節郭清および腸閉塞や消化管穿孔などの因子を有する、いわゆるハイリスクstage IIの結腸癌に対してはフッ化ピリミジンとOxaliplatin併用療法による術後補助化学療法が標準治療として確立されている1)。昨今、特にOxaliplatinによる毒性の軽減が注目され、いかに有効性を保持しながら治療期間を短くするかについて議論がなされてきた2)。再発リスク因子に関する検討は、治療期間もしくは併用療法の検討など術後補助化学療法のストラテジーの検討のため重要である。

 切除不能進行または再発結腸癌においてKRAS遺伝子変異は抗EGFR抗体薬の負の治療効果予測因子として確立されている3,4)。またBRAF遺伝子変異は予後不良因子であるとともに、マイクロサテライト不安定性(MSI)と関連する5,6)。しかしこれまでstage II/III結腸癌に対する術後補助化学療法の臨床試験でもKRAS遺伝子変異およびBRAF遺伝子変異の意義について検討が行われてきたが一定の見解は得られていないため、今回システマティックレビューおよびメタアナリシスを行った。

 システマティックレビューおよびメタアナリシスでは、無作為化比較第III相試験のpost-hoc解析からKRAS遺伝子変異もしくはBRAF遺伝子変異を有するstage II/III結腸癌患者の無病生存期間(DFS: disease-free survival)および全生存期間(OS: overall survival)を、KRAS遺伝子およびBRAF遺伝子いずれも野生型の結腸癌患者と比較した。PRISMAガイドラインに従って、PubMedより2010年1月から2021年2月までに発表された文献からシステマティックレビューを行った。

 QUASAR 2試験7)、PETACC-8試験8)、MOSAIC試験9)、N0147試験10)、PETACC-3試験11)、NSABP C-07試験およびNSABP C-08試験12)、CALGB 89803試験13)、およびQUASAR試験14)の9つの試験が抽出された。10,893例の登録患者のうち、3,539例のKRAS遺伝子変異結腸癌患者および1,226例のBRAF遺伝子変異結腸癌患者をレビューした。

 主たるメタアナリシスでは、KRAS遺伝子変異を有する結腸癌患者はDFSおよびOSいずれも野生型の結腸癌患者に比べて有意に不良であった(DFS: HR=1.36、95% CI: 1.15-1.61、p<0.001;OS: HR=1.27、95% CI: 1.03-1.55、p=0.03)。BRAF遺伝子変異を有する結腸癌患者のOSは野生型の結腸癌患者に比べて有意に不良であった(HR=1.49、95% CI: 1.31-1.70、p<0.001)。しかしDFSについてのメタアナリシスでは異質性が認められ(I2=72.8%、p<0.001)、BRAF遺伝子変異を有する結腸癌患者は野生型の結腸癌患者に比べて有意な差は認められなかった(HR=1.33、95% CI: 1.00-1.78、p=0.05)。多変量メタアナリシスでもこれらを裏付ける結果が得られ、またBRAF遺伝子変異を有する結腸癌患者におけるDFSは野生型の結腸癌患者と有意な差が認められなかった(p=0.14)。

 主たるメタアナリシスで認められた異質性を規定する因子について検討するため、MSIについてのデータが得られたQUASAR 2、PETACC-3、PETACC-8、CALGB 89803およびN0147試験についてHRを調整しメタ回帰分析を行った。MSIによる調整なしではDFS、OSいずれもKRAS遺伝子変異の有無で有意な差が認められなかったのに対して(DFS: HR=1.25、95% CI: 0.93-1.67、p=0.13;OS: HR=1.09、95% CI: 0.70-1.69、p=0.70)、MSIによる調整を行った場合にKRAS遺伝子変異を有する結腸癌患者はDFS、OSいずれにおいても野生型の結腸癌患者と比較して有意に不良であった(DFS: HR=1.43、95% CI: 1.15-1.79、p=0.001;OS: HR=1.33、95% CI: 1.03-1.71、p=0.03)。また、BRAF遺伝子変異を有する結腸癌のOSは、MSIによる調整にかかわらず野生型に比べて有意に不良であったが、MSIによる調整を行うことでその差はより顕著となった(MSIによる調整なし:HR=1.34、95% CI: 1.11-1.62、p<0.001;MSIによる調整あり:HR=1.67、95% CI: 1.37-2.04、p<0.001)。さらにBRAF遺伝子変異を有する結腸癌のDFSは、MSIによる調整を行うことによって野生型の結腸癌患者と比べて有意に不良であることが明らかとなった(HR=1.59、95% CI: 1.22-2.07、p<0.001)。MSIによる交互作用も示された(Pinteraction=0.02)。

 本メタアナリシスにより、切除不能進行結腸癌だけではなく結腸癌術後においてもKRAS遺伝子変異もしくはBRAF遺伝子変異がMSIを考慮することによりDFSおよびOSにおける予後不良因子であることが示された。これらの結果を前向きに検証すること、また、これらを考慮した治療強度、期間などの術後補助化学療法の開発も求められる。


日本語要約原稿作成:NTT東日本関東病院 腫瘍内科 水上 拓郎



監訳者コメント:
周術期結腸癌診療におけるKRAS/BRAFジェノタイピングの使用は合理的か?

 本研究では9試験の登録患者10,893名のうち3,539名のKRAS遺伝子変異および1,226名のBRAF遺伝子変異結腸癌患者を対象としたシステマティックレビューである。結腸癌術後においてKRASもしくはBRAF遺伝子変異がMSI statusを考慮することによりDFSおよびOSにおける予後不良因子であることが示された。しかし公表バイアスを認め異質性も比較的大きく、結果に関しては慎重な解釈が必要と考える。とくにstage IIに関しては、対象としていない試験やhigh riskの定義も異なるためとくに注意が必要である。MSSのBRAF/KRAS変異腫瘍はより攻撃的な腫瘍生物学を有しており周術期段階から観察され転移段階でも維持されていることが示唆されたことは、周術期結腸癌診療に対するKRAS/BRAFジェノタイピングの使用を合理的なものと考えさせる。しかし、臨床病理学的再発予測との関連や他のRASBRAF変異など関連シグナル分子の遺伝子変異の生物学的意義や差違なども明確にしなければ、治療レジメン、強度、期間など術後補助化学療法開発に、より多くの知見をもたらすことは難しい。現在、血中循環腫瘍DNAを用いて最適な周術期治療を検討するプロジェクト「CIRCULATE-Japan」が進行中であり、術後再発リスクの予測を含めた周術期治療における遺伝子変異タイプによる個別化医療の開発に期待したい。

監訳・コメント:NTT東日本関東病院 腫瘍内科 内野 慶太

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