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1月
聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 教授 砂川 優

胃癌 食道癌

PD-L1低発現の胃食道腺癌に対する一次治療における免疫チェックポイント阻害薬の治療効果


この論文は無料です


Zhao JJ, et al.: J Clin Oncol. December 3, 2021
[Online ahead of print]

 近年、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、進行胃/接合部/食道癌(GEAC)の一次治療において、化学療法と併用することで有意な生存期間延長効果を示すことが証明されている1-2)。CheckMate-649試験1)とKEYNOTE-590試験2)の結果から、米国食品医薬品局は全ての進行胃癌に対する一次治療でのNivolumabと、進行食道/接合部癌に対する一次治療でのPembrolizumabの使用を承認した。これらの試験では、ICIの効果予測バイオマーカーとして、combined positive score(CPS)によるPD-L1タンパク発現が調べられた。

 PD-L1高発現の腫瘍では化学療法にICIを併用するメリットが明らかであるが、PD-L1低発現の腫瘍ではその有効性が明らかでない。上記の臨床試験では、全登録患者およびPD-L1発現陽性患者(CPS:1以上、5以上、または10以上)におけるICIの効果が報告されているが、全患者で示されたICIのベネフィットが主にPD-L1陽性患者でのベネフィットに起因しているかどうかは不明である。そこで、既報のKaplan-Meier(KM)曲線を再構築し、患者生存データを抽出することにより、これまでに報告されていないPD-L1低発現サブグループにおけるICIの治療効果を明らかにした。

 EMBASE、Scopus、PubMed、Web of Science、ASCO Meeting Libraryを検索し、GEACの一次治療においてICI単独または併用化学療法の結果を報告した第III相試験を抽出した。全患者とPD-L1 CPSサブグループの両方のKM曲線が報告されている試験のみを選択した。PD-L1発現データの欠損例が多い試験は除外した。

 Guyotらの画像再構築アルゴリズム3)を用いて、既報のKM曲線からtime-to-eventアウトカムを再構築した。マージナルコックス比例ハザードモデルを用いてハザード比(HR)を計算した。再構築されたKM曲線の形状、HR、ログランク検定値、12および24ヵ月の生存割合、全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)、number at riskについて、オリジナルデータとの類似性が評価された。全体とPD-L1 CPSサブグループのKM曲線からそれぞれ再構築されたtime-to-eventアウトカムを用いて、Hungarianのアルゴリズム4)による患者マッチングを行った。マッチした患者のデータを全体の患者データから差し引き(Subtraction)することにより、未報告のサブグループにおける患者データを抽出した(KMSubtraction5))。未報告のサブグループでのKM曲線を作成し、マージナルコックス比例ハザードモデルによるHRを計算した。

 3つの試験(CheckMate-6491)、KEYNOTE-0626)、KEYNOTE-5902))が本解析の対象として選択された。CheckMate-649試験ではPD-L1 CPS 1-4の患者サブグループ、KEYNOTE-062試験ではPD-L1 CPS 1-9の患者サブグループが、生存データが未報告のサブグループであった。画像再構築アルゴリズムを用いて得られた患者データによって、オリジナルのものと類似したKM曲線、HR、ログランク検定値を再現することができた。また、KMSubtractionの手法を用いて、既報のサブグループ(KEYNOTE-590試験におけるPD-L1 CPS 10未満、CheckMate-649試験におけるPD-L1 CPS 1未満および5未満など)でのKM曲線やHRをほぼ正確に再現することができた。

 次に、KMSubtractionの手法を用いて解析した未報告のPD-L1 CPSサブグループでの結果を示す。CheckMate-649試験でのPD-L1 CPS 1-4のサブグループでは、Nivolumabの化学療法への有意な上乗せ効果を認めなかった(OS:HR=0.950、95%信頼区間[CI]: 0.747-1.209、p=0.678;PFS:HR=0.958、95% CI: 0.743-1.236、p=0.743)。同様に、KEYNOTE-062試験でのPD-L1 CPS 1-9のサブグループでも、Pembrolizumabの化学療法への有意な上乗せ効果を認めなかった(OS:HR=0.836、95% CI: 0.658-1.061、p=0.141;PFS:HR=0.924、95% CI: 0.730-1.169、p=0.510)。一方、KEYNOTE-062試験でのPD-L1 CPS 1-9のサブグループにおいて、Pembrolizumab単独療法は化学療法と比較してOSは同等であった(HR=1.027、95% CI: 0.811-1.300、p=0.827)が、PFSは有意に不良であった(HR=2.092、95% CI: 1.661-2.635、p<0.001)。オリジナルデータとしてすでに報告されている他の全てのPD-L1低発現サブグループにおいても、ICIの化学療法に対する有意な生存期間延長効果は認められなかった。

 結論として、現在では全てのGEACにおいて一次治療でのICIの使用が推奨されているものの、本研究ではPD-L1発現の低い患者サブグループにおいてICIを化学療法に併用することの生存期間延長のメリットがはっきり示されなかった。この結果から、GEACの一次治療においてICIをどのような患者に選択すべきかについて、今後さらなる再評価を行う必要性があると考えられた。


日本語要約原稿作成:聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 新井 裕之



監訳者コメント:
PD-L1低発現の切除不能・再発胃癌患者に対する一次化学療法としての免役チェックポイント阻害薬併用の有効性は限定的か?

 本論文は、PD-L1低発現の胃食道腺癌に対する免疫チェックポイント阻害薬の治療効果に関する有効性について、3試験を用いて検討したものである。これらのうち、胃癌に対するPembrolizumabは未承認であり、また食道腺癌は本邦では稀であることから、CheckMate-649(CM-649)の検討が最も興味深い。

 2021年11月25日に治癒切除不能な進行・再発の胃癌に対して化学療法との併用療法として、Nivolumabが適応拡大された。ATTRACTION-4ではPD-L1 CPSに関する結果は報告されなかったが、CM-649では、CPS≧5、CPS≧1、全ての患者におけるOSとPFSで有意差を認めた。もっともハザード比(HR)が低くNivolumabの効果が期待されるCPS≧5の患者が全体の60%を占めたことが、CPS≧1および全患者の結果に強く影響したと予測されたものの、CPSの低発現患者の結果は公表されず、このような患者における免疫チェックポイント阻害薬の併用効果は不明であった。そのため、本研究論文は大変興味深いものであった。

 実は、今回の胃癌に対するNivolumabの適応拡大の承認審査の際に、CM-649でのCPS≧5、5>CPS≧1、CPS<1のデータが提出されている。その結果は、審査報告書7)や最適使用推進ガイドライン8)で閲覧可能であり、5>CPS≧1の患者のOSのHR[95%信頼区間(CI)]は0.97(0.76-1.24)であった。この値は、本研究結果(HR=0.950、95% CI: 0.747-1.209)と近似しており、本研究で用いられたKMSubtractionの手法の精度の高さが示された。今後、この手法を用いることで、本当に興味のあるサブグループのHRを予測できることが期待され、我々の実臨床において治療選択の判断に大変役立つ可能性がある。

 しかし、本研究の問題点として、まず、臨床試験の試験薬毎に免疫染色キットやCPSのカットオフ値が異なり、これらを統合した解釈が難しい。さらに、これらはサブグループの結果であり、症例数が検証デザインで設定されていないため、結果の解釈には注意を要する。

 本タイトルの臨床的疑問の解決には、PD-L1測定キットやカットオフ値を統一した大規模臨床研究が必要であり、今後、PD-L1低発現胃癌患者に対するNivolumab併用療法の有効性が明らかにされることが期待される。

監訳・コメント:埼玉医科大学国際医療センター 腫瘍内科 廣中 秀一

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