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1月
聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 教授 砂川 優

高齢者 有害事象

高齢者機能評価に基づく介入が高齢がん患者の化学療法関連有害事象に与える影響について


Li D, et al.: JAMA Oncol. 7(11): e214158, 2021

 65歳以上の高齢者はがん罹患の60%、がん死亡の70%を占めており、高齢者にとってがんは重要な疾患である1)。しかし、高齢者の多くは加齢に伴う身体や認知機能低下といった脆弱性によりがんの経過に影響を及ぼすが、日常臨床で十分に対処されていない。包括的な高齢者機能評価(GA)は通常では見落とされがちな脆弱性を拾い上げ2)、化学療法関連有害事象の予測に役立つ可能性があり3-5)、近年国際的に臨床試験や日常臨床での使用が推奨されている6-11)

 GAに基づく介入が死亡率や予期せぬ入院、機能低下を減少させ得るとの報告があるが12-14)、実際に介入が高齢者の臨床経過に与える影響に関するデータは限られている15)。そのため、GAに基づく介入が予後への悪影響なく化学療法関連の有害事象を減少させることを仮説として、単施設で無作為化比較試験が行われた。

 対象は固形癌と診断され、殺細胞性抗癌薬を含んだ新規の化学療法レジメンを開始する65歳以上の高齢者であった。化学療法前にGAを行った後、2:1の割合でGAに基づく介入群(GAIN群)と通常治療群に割り付けられた。主要評価項目はNCI CTCAE 4.0版でgrade 3以上の重篤な有害事象割合、副次評価項目は事前指示書作成率、救急外来受診や緊急入院割合、平均在院日数、減量・延期や早期中止のような治療変更などであった。化学療法終了または治療開始から6ヵ月のいずれか早い時点までフォローアップされた。Grade 3以上の重篤な有害事象割合はGAIN群で30%、通常治療群で50%と予測され、検出力90%、両側検定でタイプ1エラーを5%としてサンプルサイズは600例と見積もられた。有害事象割合の比較はχ2検定とFisherの正確検定を用い、平均在院日数の比較はKruskal-Wallis検定を用いて解析された。生存期間はKaplan-Meier解析により、死亡日もしくは治療開始から1年または最終確認日のいずれかの日程を用いて算出された。

 2015年8月から2019年2月に605例が対象となり、GAIN群402例、標準治療群203例に割り付けられた。年齢中央値は71歳(65~91歳)、女性は59.0%、多くは白人(78.7%)の非ヒスパニック系(80.7%)であった。消化管癌が33.4%と最も多く、stage 4は71.4%であった。両群で患者背景およびGAの結果や化学療法の有害事象を予測するCARG毒性スコアに有意差はなかった。GAにより介入を推奨され実施した割合はGAIN群で76.8%であったのに対し、通常治療群ではわずか12.5%であった。主要評価項目である重篤な有害事象割合はGAIN群で50.5%、通常治療群で60.6%と有意に10.1%減少していた(95% CI: -1.5%~-18.2%、p=0.02)。GAIN群で血液毒性は8.0%(p=0.003)、非血液毒性は8.2%(p=0.007)とともに有意に減少していたが、両方の有害事象割合に有意差はなかった。副次評価項目である事前指示書作成率は治療前のベースラインで差はなかったが、6ヵ月のフォローアップ終了時にGAIN群で有意に高かった(GAIN vs.通常治療:28.4% vs. 13.3%、p<0.001)。その他の救急外来受診や緊急入院割合、平均在院日数や治療変更状況に有意差は認めなかった。

 本研究はGAに基づく多職種チームによる介入の効果を評価する最初の大規模な無作為化比較試験であり、grade 3以上の重篤な有害事象はGAIN群で10%以上有意に減少した。一方、救急外来受診や緊急入院割合、平均在院日数のほか、再入院や減量や早期中止などの治療変更と生存割合は両群で有意差を認めなかった。GAIN群では介入割合は高いものの治療自体の変更は多くなく、6ヵ月および1年生存割合が通常治療群と同等であったことから、治療効果への悪影響はみられなかった。さらに、GAIN群で事前指示書の作成率が有意に高く、これは高齢がん患者治療に精通する診療看護師がチームの一員であったことが寄与したと考えられた。単施設で行われ、新規レジメン開始を対象としているなどの他の試験との相違は制約点となるが、両群の背景のバランスが取れており、GA介入群での脱落率が1%程度と低く、推奨に対して76.8%の割合で介入を実施できていたことが強調点とされる。脆弱性を伴う高齢がん患者において、救急外来受診や緊急入院を減少させる適切な介入について検証するさらなる研究が望まれる。

 今回の無作為化比較試験より、GAに基づく多職種チームの介入は重篤な化学療法関連有害事象を有意に減少させ、化学療法を行う高齢がん患者にとって臨床的に有用であることが示された。全ての高齢がん患者の通常診療の一部としてGAに基づく介入が行われることが望ましい。


日本語要約原稿作成:聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 土井 綾子



監訳者コメント:
高齢者機能評価はがん薬物療法による有害事象を軽減するのに有用である

 がん薬物療法を行う65歳以上のがん患者で、高齢者機能評価を行い、その評価結果に基づいて必要な介入、生活支援を実践することで、薬物療法関連の有害事象を軽減できたとする初めての比較試験の報告である。本研究では、身体機能、併存症、精神機能、社会活動性、社会支援、栄養、認知機能、ポリファーマシー、宗教的状況、臨床症状について評価を行い、必要な対応を検討している。

 これまでに、NCCNやASCO、国際老年腫瘍学会のガイドラインでも高齢者機能評価の実施は推奨されている。本邦でも、日本臨床腫瘍学会と日本癌治療学会が作成した「高齢者のがん薬物療法ガイドライン」において弱い推奨となっている。一方で、これを支持するためのエビデンスは限定的であったため、今回の報告は意義深い。

 米国からは、本研究のほかにも高齢者固形癌で化学療法を行う患者を対象として高齢者機能評価を行うことで、生存期間の延長につながっているといった比較試験の報告があり16)、併せて高齢者機能評価の重要性を示すものである。

 これまで一般疾患において示されていた高齢者機能評価とその介入による臨床的アウトカムの改善効果が、がん患者においても報告されたことになる。本研究で行った多職種チームによる介入を医療制度が異なる本邦においてどのように工夫するのかについては議論が必要であるが、本邦では介護保険制度における認定調査、ケアプラン作成の過程を通じて、支援につなげる方法が実際的ではないだろうか。医療スタッフ、ケアスタッフが協力するための仕組みや運用が重要であろう。

監訳・コメント:杏林大学医学部 腫瘍内科学 長島 文夫

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