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4月
愛知県がんセンター 薬物療法部 医長 谷口 浩也

直腸癌

進行直腸癌に対する術前短期放射線療法+全身化学療法と術前化学放射線療法を比較した多施設共同無作為化第III相試験(STELLAR試験)


この論文は無料です


Jin J, et al.: J Clin Oncol. March 9, 2022
[Online ahead of print]

 これまで進行直腸癌に対する欧米の標準治療は長年、術前化学放射線療法(CRT)+直腸間膜全切除(TME)であった。術後補助化学療法(Adj)については全生存(OS)の延長につながるエビデンスが乏しく、コンプライアンス不良が最大の理由と考えられている。一般的にCRT+TME後であればAdjの治療完遂率は約50%と報告されている。術前放射線治療に関しては、短期放射線治療(SCRT)は長期間を要するCRTと比較して、生存延長・局所制御・副作用において同等であることが、2つの無作為化比較試験(RCT)で示されている1,2)。そこで本試験は、Adjのコンプライアンス不良とCRTの治療長期化、この2つの弱点を改善する可能性のあるSCRT+consolidation chemotherapy(CNCT)と、標準治療であるCRT+Adjを比較するようにデザインされた。SCRT+CNCTのほうが、毒性の増加は認めても、CRT+Adjに対して生存延長効果は非劣性であろうと想定された。

 既報では、PRODIGE 23試験においてinduction chemotherapy(INCT)+CRTにより有意に無病生存率(DFS)が延長し、Adjと比較してINCTの高い忍容性が示された3)。Polish II試験ではCRT単独と比較して、SCRT+CNCTはOSを延長することが報告された4)。さらに、RAPIDO試験においてはSCRT+CNCTは、CRT単独と比較して無遠隔再発生存率を有意に改善することが報告された5)

 本試験は、SCRTを用いたtotal neoadjuvant therapy(TNT)が、既報を含めた欧米だけでなく、アジアにおいてもCRTに対して非劣性を示すかという点で注目された。

 本試験の主な適格基準は、18~70歳、ECOG 0-1、cT3-4 and/or N+、中・下部進行直腸癌で、Stage IV例は除外された。MRIは直腸間膜(mesorectal fascia: MRF)浸潤、リンパ節転移、壁外血管浸潤(extramural vascular invasion: EMVI)の評価のため必須とされた。患者は、中国の16施設から集積され、腫瘍の位置、cStage、MRF statusを割り付け因子として、TNT群とCRT群に無作為化された。

周術期治療内容
[TNT群]
術前:RT(5Gy×5)+CAPOX 4コース(L-OHP 130mg/m2、Capecitabine 1,000mg/m2
*CAPOXはSCRT後7~14日以内に投与開始
術後:CAPOX 2コース
[CRT群]
術前:RT(50Gy/25Fr、5週間)with Capecitabine(825mg/m2
術後:CAPOX 6コース

 主要評価項目はDFSで、副次評価項目はOS、無遠隔転移生存率、局所再発割合と術後合併症であった。既報を参考にCRT群の3年DFSを65%と想定し、TNT群のsafety marginを11%として、非劣勢マージンを3年DFSが54%以上、HR<1.43とした。非適格例5%とし、検出力80%、片側タイプ1エラーを5%として、サンプルサイズは600例に設定された。

結果
 2015年8月30日から2018年8月27日までの間で629例が対象となり、最終的に599例が本試験に登録された。TNT群302例、CRT群297例に割り付けされ、最終的にプロトコール治療が行われたのは591例であった。

治療コンプライアンスと毒性
 TNT群では術前放射線治療であるSCRTの完遂率は100%であったが、CRT群では1.4%で線量の減量が、2.4%で放射線治療の中断が必要であった。術前化学治療の完遂率は、TNT群で82.6%に対してCRT 群で95.2%であった(p<0.001)。減量・延期なしでの完全完遂率は、TNT群で74.8%に対してCRT群で93.2%であり(p<0.001)、TNT群では治療完遂率は有意に不良であった。治療期間中のgrade 3以上の毒性は、TNT群で26.5%に認めたのに対して、CRT群で12.6%と有意にTNT 群で高率であった(p<0.001)。最も頻度の高かった毒性は骨髄抑制であり、grade 3以上をTNT群で15.8%、CRT群で2.0%に認めた(p<0.001)。

短期成績
 術前治療後に再評価した591例中、cCR例はTNT群で33例(11.1%)、CRT群で13例(4.4%)であった。それぞれ、28例(9.4%)と10例(3.4%)が手術を回避したが、TNT群で2例(7.1%)、CRT群で1例(10.0%)の再燃を認めた。その他、非cCR例において手術を拒否した53例と、治療完遂後に心筋梗塞で急逝した1例、手術前に遠隔転移を指摘された25例を除いて、最終的にTNT群235例とCRT群230例が原発巣切除された。放射線治療の開始日、術前治療の終了日から手術までの期間は、それぞれTNT群で21(4~64)週と6(3~32)週、CRT群で14(10~57)週と9(5~36)週であった。術後在院日数の中央値は両群ともに中央値で8日であった。Dindo分類grade 3以上の術後合併症率は、TNT群で14.0%に対して、CRT群で15.7%と両群で同等であった(p=0.625)。

 原発切除された465例中、TNT群で54例(23.0%)、CRT群で60例(26.1%)に対してはAdjを施行されなかった。TNT群で108例(60.0%)、CRT群で82例(48.3%)に対して事前に予定されたAdjが完遂された。Grade 3以上の毒性は、TNT群で3.3%に対してCRT群で11.8%と有意にCRT群で多かった(p=0.003)。

 R0切除率に関しては、TNT群で91.5%に対してCRT群で87.8%であり両群に有意差は認めなかった(p=0.189)。また、ypN0率はTNT群で71.1%に対して、CRT群68.7%であり両群に有意差を認めなかった(p=0.578)。cCRにより手術を回避した例を含む全CR率は、TNT群で21.8%に対してCRT群で12.3%と有意にTNT群で高かった(p=0.002)。

長期成績
 観察期間の中央値は35.0ヵ月(8.3~63.9ヵ月)で、ITT解析した599例のうち202例で再発した(TNT群99例、CRT群103例)。主要評価項目の3年DFSは、TNT群で64.5%(95% CI: 58.3-70.7)、CRT群で62.3%(95% CI: 56.1-68.5)であった。HRは0.883であり、95% CIの上限値が非劣性マージンの1.43を下回ったことから、TNTのCRTに対する非劣性が証明された。コホート全体で、原病死は107例(TNT群47例、CRT群60例)であった。3年OSはTNT群で86.5%(95% CI: 82.1-90.8)であったのに対し、CRT群では75.1%(95% CI: 69.4-80.8)と2群間に有意差を認めた(HR=0.67、95% CI: 0.46-0.97、p=0.033)。metastasis-free survival(MFS)やlocoregional recurrence(LRR)に関しては2群間で有意差は認めなかった。

考察
 本試験は、SCRT+CNCTによるTNT群が、標準治療であるCRT+Adjに対してDFSにおいて非劣性であることを示した。TNT群は高い忍容性とコンプライアンスを有し、少なくとも局所制御や生存延長効果としては良好であったことから、本試験結果は欧米だけでなくアジアにおける実臨床においてTNTを支持する新たなエビデンスとなり得る。

 本試験は、既報と以下の相違点がある。Polish II試験はAdjを行わない点で、PRODIGE 23試験はCRTをベースとした点で異なる。一方で、Polish II試験とはTNT群とCRT群の3年DFSとLRRが同等であった点で一致する。RAPIDO試験とPRODIGE 23試験では、TNT群で有意に3年の遠隔再発率が低値であったのに対し、Polish IIとSTELLARでは同等であった。

 いずれにしても、遠隔再発率はOxaliplatinベースの化学療法を加えても20~30%であることから、より強力な全身治療が必要であることを示している。LRRについては、Polish II試験を除いては両群で10%前後だが、Polish II試験のみ21~22%と高率である。その原因として、Polish II試験は、根治切除不能な骨盤に固定されたcT3またはcT4例を対象としている点、STELLARとPolish IIは中・低位直腸のみだが、RAPIDOとPRODIGE 23は上部直腸も含んでいる点には留意が必要である。さらにPolish II試験と同様、本試験はTNT群で有意差をもって良好な3年OSであったことは注目すべきであるが、Polish II試験では8年の長期フォローの結果OSのbenefitは消失した6)。したがって、TNTの長期予後、特にOSへの影響を評価するには5~10年の長期観察が必要であると考える。

 本試験では、TNT群においてSCRTに加えて4サイクルのCAPOX療法が82.6%に許容されたが、一方で、grade 3以上の毒性がCRT群と比較して有意に高率であった。TNT群がCRT群よりも毒性が高いことは、その他のRCTと同様の結果であった。しかし、本試験のgrade 3以上26.5%は、よりintensiveなRAPIDO試験やPRODIGE 23試験よりも低値で、FOLFOXを3コース行うPolish II試験とほぼ同等であった。レジメンや投与コースは異なるが、これらのRCTの結果から言えることは、術前化学療法は放射線治療と併用する補助療法として少なくとも効果的かつ安全であるということである。

結論
 CRTと比較して毒性は若干高いものの、SCRT+CNCTによるTNTは中・下部進行直腸癌に対するCRT+Adjに代わる治療戦略となり得る。


日本語要約原稿作成:名古屋大学 腫瘍外科 小倉 淳司



監訳者コメント:
局所進行直腸癌に対してTNTが有効である可能性が示された

 欧米を中心に進んできた局所進行直腸癌に対するTNTという治療戦略であるが、アジアからも第III相試験の結果が発表された。本試験では、IMRTによるSCRTと化学療法の組み合わせのTNT戦略が、長期予後である3年のDFSにおいてCRTに対する非劣勢を証明した。そして、観察期間は短いもののOSで有意差が得られ、TNTが局所制御だけでなく長期予後を改善できる可能性が示された本試験の意義は世界的に大きいと考える。また、層別化因子には、治療前MRIの所見であるMRFやEMVIなどが含まれ、比較的進行度の高い症例が登録されて試験治療が実施された。TNT群においては、cCRが得られた33例中28例において手術回避が選択されており、本来、遠隔転移の制御で導入されたTNT戦略が、臓器温存を含めた長期予後の改善へシフトしていることを伺わせる結果であった。今回の報告から、局所進行直腸癌に対して、MRI診断による再発リスク解析を行い、それに応じたTNTを実施することで長期予後の改善、ならびに奏効例には臓器温存を行うことでQOLの維持、永久人工肛門の回避、手術合併症の回避が可能になるのではないかと考える。本邦においても第III相試験を行い、局所進行直腸癌に対する臓器温存を含めた長期予後の改善を目的としたTNTを標準治療にすることが急がれる。

監訳・コメント:大阪急性期・総合医療センター 下部消化器外科 賀川 義規

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