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5月
愛知県がんセンター 薬物療法部 医長 谷口 浩也

大腸癌

簇出はStage III大腸癌の独立した予後因子(IDEA-France第III相試験の事後解析)


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Basile D, et al.: Ann Oncol. 33(6): 628-637, 2022

 IDEA試験は、SCOT試験(英国、デンマーク、スペイン、オーストラリア、スウェーデン、ニュージーランド)、TOSCA試験(イタリア)、CALGB/SWOG 80702試験(米国、カナダ)、IDEA-France試験(フランス)、ACHIEVE試験(日本)、HORG試験(ギリシャ)の6つの無作為化第III相試験をプール解析し、Stage III大腸癌(結腸~上部直腸)に対する術後補助化学療法としてのFOLFOX(5-FU/LV+Oxaliplatin)またはCAPOX(Capecitabine+Oxaliplatin)の投与期間について、3ヵ月投与と6ヵ月投与とを比較した試験である1,2)。3ヵ月投与群では有害事象が軽度であり、特に低リスク例(T1-3 and N1)では6ヵ月投与に対する3ヵ月投与の非劣性が示された1,2)。しかしながら、低リスク例(T1-3 and N1)の患者でも約20%が再発することから3)、より正確に再発リスクを層別化し、補助療法の強度と期間を決定するアルゴリズムの構築が必要である1,4)

 近年、簇出が、大腸癌の独立した予後バイオマーカーとして有望視されている。簇出は癌発育先進部間質に浸潤性に存在する単個または5個未満の構成細胞から成る癌胞巣である。上皮間葉転換(epithelial-mesenchymal transition: EMT)の形態学的表現と考えられており、腫瘍微小環境において重要な役割を担っている5)。2016年のInternational Tumor Budding Consensus Conference(ITBCC 2016)において、簇出の国際的な評価基準が定義された6)

 現在、pT1大腸癌では、簇出が中等度から高度な症例(Bd2-3)は、リンパ節転移と相関を認め、簇出が内視鏡的切除後の追加腸切除を考慮する因子として利用されている7-9)。また、Stage II大腸癌では、簇出が高度(Bd3)な症例は予後不良であり、簇出が術後補助化学療法の適応を決定する因子の一つとして考慮されている10)。しかしながら、これまでStage III大腸癌における簇出の予後因子としての検討は、小規模かつ後方視的な研究に限定されていた11)。そこで、筆者らの研究グループはIDEA-France試験12)を事後解析し、Stage III大腸癌における簇出の予後因子としての意義を検討した。加えて、術後補助化学療法の投与期間を決定する上で簇出を考慮する意義、IDEA-France試験において予後因子としての有用性が確認されたImmunoscore®(腫瘍内および浸潤辺縁部のCD3+ T細胞とCD8+ T細胞の密度に基づいて算出されるスコア。低スコアは予後不良)13)と簇出との関係についても検討した。

 今回の事後解析では、IDEA-France試験に登録された2,022例のうち、病理標本の利用および同意取得が可能であった1,048例が対象とされた。簇出は、スキャンされたヘマトキシリン・エオジン(HE)染色スライドを用いて、ITBCC 2016で定められた評価基準に基づいて、2人の病理医による中央判定によって3つのグレードに分類された:Bd1(0-4個/0.785mm2 [20×10倍視野に相当])/Bd2(5-9個)/Bd3(10個以上)。

 主要評価項目は、無病生存期間(DFS:無作為化から再発まで、またはあらゆる原因による死亡までの期間)、副次評価項目は全生存期間(OS:あらゆる原因による死亡までの期間)とした。簇出の予後因子としての有用性について、多変量Coxモデルを適用し、交絡因子候補で調整して、簇出と転帰との関係を評価した。

 主な解析結果は以下の通り。
・1,048例のうち、Bd1が39%、Bd2が28%、Bd3が33%であった。
・Bd1群とBd2-3群との間で患者背景の一部に差を認め、Bd2-3群では、穿孔症例が有意に少なく、神経侵襲あり、静脈侵襲あり、VELIPI(vascular emboli, lymphatic invasion, perineural invasion)陽性の症例が有意に多かった。術後補助化学療法の投与期間およびImmunoscore®は、Bd1群とBd2-3群との2群間に有意差はなかった。
・3年DFS率はBd1群79.4%(95% CI: 75.1~83.1)、Bd2群69.3%(95% CI: 63.6~74.3)、Bd3群65.4%(95% CI: 60.1~70.1)(p=0.002)であった。Bd2とBd3を一つの集団として検討した場合、Bd2-3群の3年DFS率は67.2%であり、Bd1群と比較して有意に不良であった(p=0.0009)。年齢、性別、リスクグループ、組織学的グレードおよび投与期間で調整した結果、Bd2-3はDFSの独立した予後不良因子であった(HR=1.41、95% CI: 1.12~1.77、p=0.003)。
・5年OS率は、Bd1群89.1%(95% CI: 85.6~91.9)、Bd2群81.6%(95% CI: 76.5~85.7)、Bd3群80.2%(95% CI: 75.5~84.0)であった(p=0.0063)。Bd2-3群の5年OS率は80.8%であり、Bd1群と比較して有意に不良であった(p=0.001)。年齢、性別、performance status、リスクグループ、投与期間およびsidednessで調整した結果、Bd2-3はOSの独立した予後不良因子であった(HR=1.65、95% CI: 1.22~2.22、p=0.001)。
・サブグループ解析では、高リスク例(T4 and/or N2)およびImmunoscore®低スコアいずれの部分集団においても、3年DFS率および5年OS率ともにBd1群に比べてBd2-3群が有意に不良であった。一方で、Immunoscore®中-高スコアの部分集団では、Bd1群とBd2-3群との間でDFS、OSともに有意差は認められなかった。
・術後補助化学療法の投与期間に関して、1,048例のうち、518例が6ヵ月投与、530例が3ヵ月投与であった。Bd2-3の部分集団では、3ヵ月投与群と比較して、6ヵ月投与群でDFSが良好な傾向を認めた(HR=0.78、95% CI: 0.60~1.02、p=0.073、3年DFS率:65.9% vs. 61.8%)。リスクグループとBdとを組み合わせた部分集団で検討すると、低リスク例(T1-3 and N1)かつBd1の部分集団では、3ヵ月投与と比べて6ヵ月投与の有益性は認められなかった(p=0.11)。一方で、低リスク例(T1-3 and N1)かつBd2-3の部分集団、またBdにかかわらず高リスク例(T4 and/or N2)の部分集団においては、3ヵ月投与と比較して6ヵ月投与の数値的な有益性が認められた。

 以上の結果から、研究グループは、評価可能な症例のみによる事後解析のため慎重な解釈を要するものの、「Stage III大腸癌では、ITBCC 2016基準に基づいて簇出をルーチンに評価すべきであり、簇出とImmunoscore®はStage III大腸癌患者の治療の個別化において補完的な役割を果たすことができる」としている。


日本語要約原稿作成:防衛医科大学校 外科学講座 阿尾 理一



監訳者コメント:
Stage III大腸癌における簇出:治療選択の要素としてはさらなる検討が必要

 簇出(tumor budding)は、ITBCC 2016において国際的なコンセンサスに基づいた評価基準が定義され、Stage I~II大腸癌の治療方針を考える上で、海外においてその地位が高まった感がある。本論文は、Stage III大腸癌症例における簇出の予後予測能としての意義に関するエビデンスが限られていることから、IDEA-France試験の症例において、ITBCC 2016で定められた評価基準に基づいた簇出の評価を行った事後解析の結果について報告したものである。なお、ITBCC 2016で提唱された簇出の評価基準は、本邦の「大腸癌取扱い規約」第8版(2013年7月)における定義が採用されており(文献6:Lugliら)、「大腸癌取扱い規約」第9版(2018年7月)において、pT1癌のみならずpT2以深の癌においても簇出を評価することが望ましい旨が記載されていることは、本論文を読む際にはぜひご承知おきいただきたい点である。

 本論文では、Oxaliplatinを含む術後補助化学療法が行われたStage III大腸癌(腫瘍の占居部位が腹膜反転部以下の症例は除外)患者1,048例において、簇出Bd2-3はDFSおよびOSの独立した不良因子であった。また、筆者らは、T因子・N因子を用いたリスク分類(T1-3 and N1/T4 and/or N2)やImmunoscore®と簇出を組み合わせることで、さらに予後を分別することができたと報告している。また、筆者らは、TNM分類やImmunoscore®、簇出を組み合わせることで、術後補助化学療法の投与期間を選択する治療の個別化につなげる可能性を示唆している。

 しかしながら、論文中でlimitationとして筆者らも触れているように、本事後解析は病理標本の評価が可能であった約半数の症例を用いたサブグループ解析であり、Bd2-3が予後不良因子である旨、他の因子と組み合わせることで予後を細分化できる旨を述べることは可能と考えるが、リスク分類や簇出で“サブグループのサブグループ”に分けた上で観察された6ヵ月投与群と3ヵ月投与群との比較結果の確からしさは限定的である。加えて、IDEA-France試験の症例の90%はFOLFOX療法を受けており、本邦の術後補助化学療法としてCAPOXが頻用されていること、IDEA試験ではFOLFOXとCAPOXとの間で結果に異なる傾向が認められていること等を踏まえると、本邦の日常診療への外挿性についても高いとは言えなそうだ。とはいえ、通常の病理診断で使用されるHE染色のみを用いた“安価”な評価である簇出が、予後予測因子としてのみならず、治療効果の大きさの予測因子となることは、費用対効果の観点からも非常に利が大きい。筆者らも述べている通り、前向き試験等によるさらなる検討に期待を寄せるところである。

監訳・コメント:東京医科歯科大学 医療イノベーション推進センター 石黒 めぐみ

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