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9月
国立がん研究センター中央病院 消化管内科/頭頸部・食道内科 科長 加藤 健

食道癌

進行食道扁平上皮癌における術前DCF療法の術前CF療法に対する有効性のリアルワールドデータを用いた検証


Matsuda S, et al.: Ann Surg. July 15, 2022 [Online ahead of print]

背景
 外科的切除可能な進行食道扁平上皮癌(ESCC)に対しては、JCOG9907において、術前Cisplatin+5-FU(CF)療法の術後CF療法に対する全生存期間(OS)における優越性が示されたことから、本邦では術前CF療法が標準治療とされてきた1)。一方、欧米では、CROSS trialにおいて、術前化学放射線療法(NACRT)の有用性が示されて以降、Carboplatin+PaclitaxelによるNACRTが標準治療となっている2)

 そのため、術前Docetaxel+Cisplatin+5-FU(DCF)療法の術前CF療法に対する優越性、およびNACRTの術前CF療法に対する優越性を検証することを目的として、JCOG1109が実施された。2022年、主要評価項目の結果が報告され、術前DCF療法群の術前CF療法群に対するOSにおける優越性が示された3)[ハザード比(HR)=0.68、95% CI: 0.50-0.92、p=0.006]。一方で、術前CF-RT療法の術前CF療法に対するHR(95% CI)は、0.84(0.63-1.12、p=0.12)であり、術前CF-RT療法の術前CF療法に対する優越性は示されなかった。これらの結果から、本邦においては、2022年2月より術前DCF療法が標準治療となった。JCOG1109は、外科的切除可能ESCCにおける、3剤併用術前化学療法の有効性を示した唯一のランダム化第III相試験であり、リアルワールドデータを用いて結果を検証することで、JCOG1109の外的妥当性を高めることにつながると考えられた。さらに、76歳以上の高齢者など、JCOG1109に含まれない患者におけるDCF療法の有用性を評価することは、臨床的意義が高い。今回、日本食道学会食道外科専門医認定85施設より収集されたデータを用いて、後方視的に術前CF療法に対する術前DCF療法の有効性を検討した。

対象と方法
 2010年から2015年に、日本食道学会食道外科専門医認定85施設において、cStage I、II、III(cT1N0とcT4bを除く)、または鎖骨上リンパ節転移によるcStage IVと診断され、術前化学療法(NAC)後に食道亜全摘術を受けたESCC患者を対象とした。

 比較検討のため、CF療法群とDCF療法群を、傾向スコア(PS)を用いてマッチングした。PSは、交絡変数(年齢、性別、治療前BMI、cT、cN、cM、治療前血清SCC値、血中NLR(好中球・リンパ球比)、ヘモグロビン値、原発巣の局在)から、CF療法を受けた患者に対するDCF療法を受けた患者のロジスティック回帰モデルによって推定された。生存曲線はKaplan-Meier法を用いて推定し、2群間の比較はすべてlog-rank検定で行われ、Cox比例ハザードモデルを用いてHRが算出された。

結果
 2010年から2015年の間に4,048例が外科的切除可能進行ESCCと診断され、NACとしてCFまたはDCFが投与され、食道亜全摘術が施行された。PSマッチング前のCF群は2,785例(68.8%)、DCF群は1,263例(31.2%)であり、1対1のPSマッチングにより、CF群とDCF群それぞれ1,074例が選択された。マッチング後の患者背景は、両群間で有意差は認めなかった。

 術後病理診断、NACに対する治療効果、手術内容、術後合併症について解析した結果、CF群のpStage(0/I/II/III/IVa/IVb)[34(3.2%)/95(8.9%)/266(25%)/460(43%)/120(11.3%)/90(8.4%)]はDCF群[82(7.7%)/118(11%)/312(29.2%)/361(33.7%)/116(10.8%)/81(7.6%)]に比べより進行していた(p<0.001)。これは、組織学的奏効(grade 1b/2/3)において、DCF群[205(19.2%)/259(24.1%)/104(9.7%)]がCF群[130(12.2%)/147(13.8%)/45(4.2%)]と比較し良好であった結果(p<0.001)とも一致するものであった。術式に関しては、DCF群のほうが、3領域リンパ節郭清を伴う食道切除術と胸骨後経路再建を受けた割合が高かった。手術時間や再建臓器に有意差は認めなかったが、出血量はDCF群で有意に多かった。術後肺炎[CF、DCF:194(18.6%)、181(16.9%)、p=0.324]および縫合不全[CF、DCF:125(11.7%)、106(9.9%)、p=0.197]の発生率は,両群間で同程度であった。

 生存解析の結果、OS(HR=0.868、95% CI: 0.770-0.978、p=0.002)、無再発生存期間(RFS)(HR=0.8450、95% CI: 0.761-0.949、p=0.004)は、DCF群でCF群より有意に良好であることが示された。JCOG1109では75歳以下のESCC患者が登録されていたことから、年齢層別によるサブグループ解析が行われた。その結果、75歳以下ではCF療法に対するDCF療法の生存率における優位性が保たれていたが、76歳以上ではCF療法とDCF療法のOS、RFSに有意差は認められなかった。76歳以上の高齢者において組織学的奏効について検討したところ、grade 1b以上の割合はCF群31.8%、DCF群64.7%であった。また、術後合併症については、DCF群では68例中21例(30.9%)に術後肺炎が発生し、CF群[88例中18例(20.9%)]と比較して高い傾向にあった(p=0.221)。75歳以下の患者を対象に、cStageによる層別化のもとで生存率解析が行われた結果、DCF療法はcStage III(HR=0.795、95% CI: 0.677-0.934、p=0.005)、cStage IVa(HR=0.613、95% CI: 0.386-0.974、p=0.004)であり、有意にOSを改善させる可能性が示された。RFSにおいても、cStage IIIおよびIVaにおいて良好な結果が得られた。

 NACレジメン、リンパ節郭清範囲、術後補助療法の有無、手術アプローチを共変量として用いて多変量解析を行った結果、DCF療法は、OS(HR=0.809、95% CI: 0.714-0.917、p=0.001)およびRFS(HR=0.811、95% CI: 0.722-0.910、p<0.001)を有意に改善させることが確認された。

まとめ
 リアルワールドデータを用いた検証の結果、外科的切除可能進行食道扁平上皮癌に対する術前DCF療法の有用性が示された。これは、術前DCF療法の術前CF療法に対する優越性を明らかにしたJCOG1109の結果と一致するものであった。一方で、76歳以上においては、DCF療法の有用性は示されなかった。本結果は、ESCCに対する術前DCF療法の有用性を支持するとともに、高齢者や全身状態不良例に対する治療方針検討の一助になると考えられた。


日本語要約原稿作成:慶應義塾大学医学部外科学教室 辻 貴之



監訳者コメント:
切除可能進行食道扁平上皮癌に対する術前DCF療法の適応は?

 JCOG1109の結果を受けて、外科的切除可能進行食道扁平上皮癌に対する本邦の標準治療は、術前DCF療法+手術となった3)。2022年2月に発出された日本食道学会ガイドライン速報版においても、「食道癌の術前治療としてドセタキセル+シスプラチン+5-FU療法を行うことを強く推奨(エビデンスの強さA)する」とされている。そして今回、日本食道学会食道外科専門医認定85施設によるリアルワールドデータを用いた研究において、DCF療法がCF療法に対してより有効であることが示されたことは、JCOG1109を支持する結果となった。

 一方で、傾向スコアマッチングを行った状況下ではあるものの、DCF療法には、同一TNM分類の中でも、臨床的悪性度の高い患者が含まれていた可能性も高く、RCTではない点に留意したうえで結果を解釈する必要がある。

 また、本研究においては、JCOG1109の対象には含まれない、76歳以上の高齢者に対する検討が行われた結果、DCF療法の有用性は認められなかった。術前化学療法の奏効という点では76歳以上のサブグループにおいても、一定の組織学的奏効が得られていた。一方で、JCOG1109および本研究において、75歳以下では術後肺炎、縫合不全の発生頻度はDCF療法群とCF療法群で変わらなかったものの、76歳以上の高齢者においては、術後肺炎の発生頻度がDCF群において高い傾向があった。術前化学療法の強度を高めることで、術後合併症やその後の中長期的な経過に負の影響を及ぼしている可能性があり、今後の検討課題と考える。

 76歳以上の高齢者やフレイルな対象に対して術前DCF療法が選択されない場合に、CF療法とするのか、手術先行とするのかについては、今後の重要な検討課題である。さらに本邦では、術前化学療法+Nivolumab併用療法の安全性試験であるFrontier試験4)に加えて、DCF療法と同じく3剤併用化学療法でありながら、胃癌・食道胃接合部癌に対する既報では発熱性好中球減少症の頻度が比較的低かった5)5-FU+Oxaliplatin+Docetaxel(FLOT)療法を用いた、食道扁平上皮癌に対する術前化学療法としての第II相試験(NCT04699994)も進行中であり、今後の治療開発が期待される。

  •  1) Ando N, et al.: Ann Surg Oncol. 19(1): 68-74, 2012 [PubMed] 
  •  2) van Hagen P, et al.: N Engl J Med. 366(22): 2074-2084, 2012 [PubMed]
  •  3) Kato K, et al.: J Clin Oncol. 40(4_suppl): 238-238, 2022 [JCO]
  •  4) Yamamoto S, et al.: Future Oncol. 16(19): 1351-1357, 2020 [PubMed]
  •  5) Al-Batran SE, et al.: Lancet. 393(10184): 1948-1957, 2019 [PubMed]

監訳・コメント:慶應義塾大学医学部外科学教室 松田 諭

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