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1月
聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 主任教授 砂川 優

食道癌

PD-L1低発現の食道扁平上皮癌に対する一次治療の抗PD-1抗体+化学療法の有効性について:JUPITER-06試験の事後解析およびメタ解析


Wu HX, et al.: J Clin Oncol. December 6, 2022 [Online ahead of print]

 近年、切除不能・再発進行食道癌の一次治療として、抗PD-1抗体+化学療法(FP療法:Fluoropyrimidine+Cisplatin)が標準治療として確立した。しかしながら、同治療の承認は地域によって異なり、欧州医薬品庁(EMA:European Medicines Agency)はPD-L1高発現(PD-L1 CPS(combined positive score)≧10もしくはTPS(tumor proportion score)≧1%)に限定して同治療を承認している。一方で、米国食品医薬品局(FDA:Food and Drug Administration)や本邦の厚生労働省はPD-L1の発現にかかわらず承認している。承認のもととなったKEYNOTE-590試験やCheckMate 648試験のPD-L1発現によるサブグループ解析の結果からこのような承認の違いが生じたと考えられる。

 FP療法に対するPembrolizumabの上乗せ効果を示したKEYNOTE-590試験1)では、PD-L1発現によるサブグループ解析においてPD-L1 CPS≧10の集団においてのみ効果が認められ(全生存期間[OS:overall survival]中央値13.9ヵ月vs. 8.8ヵ月、HR[hazard ratio]=0.57、95% CI: 0.43-0.75)、CPS<10の集団では明らかな効果はみられなかった(OS中央値10.5ヵ月vs. 11.1ヵ月、HR=0.99、95% CI: 0.74-1.32)。同様に、FP療法に対するNivolumabの上乗せ効果を検証したCheckMate 648試験2)においても全体集団でOSの延長効果が示されているが、PD-L1発現によるサブグループ解析ではPD-L1 TPS≧1%以上の集団においてのみclinical benefitが示されている。しかしながら、同様に化学療法に対する抗PD-1抗体の上乗せ効果を検証したJUPITER-06試験を含む他の試験において、PD-L1の発現による明らかな効果の違いを認めなかったという報告もあり、PD-L1低発現における抗PD-1抗体の上乗せ効果に関してはさらなる検証が必要と考えられた。

 そこで、今回の論文ではPD-L1低発現(PD-L1 CPS<10またはTPS<1%)の食道扁平上皮癌における一次治療の抗PD-1抗体+化学療法の有効性を検証すべく、JUPITER-06試験の事後解析とKEYNOTE-590試験やCheckMate 648試験を含む複数の試験のメタ解析の結果が報告されている。

JUPITER-06試験の事後解析
 JUPITER-06試験3)は、切除不能・再発進行食道癌(扁平上皮癌)を対象として一次化学療法(TP療法:Paclitaxel+Cisplatin)に対するToripalimab(抗PD-1抗体)の上乗せ効果を検証した中国で行われた無作為化第III相試験である。最終解析における無増悪生存期間(PFS:progression-free survival)および中間解析におけるOSいずれにおいても有意な延長効果が示されている。事前に設定されたPD-L1の発現によるサブグループ解析(PD-L1 CPS≧1 vs. <1およびCPS≧10 vs. <10)では、PD-L1の発現によって抗PD-1抗体の上乗せ効果に明らかな相違がないことが既に示されている。今回の事後解析では、PD-L1 TPS(≧1% vs. <1%)によるサブグループ解析が行われている。なお、PD-L1 TPSとCPSの相関関係も今回解析されているが、高い相関関係が示されている(Spearmanの順位相関係数0.86、95% CI: 0.83-0.89、p<0.0001)。

 PD-L1 TPSによるサブグループ解析において、PFS中央値(試験治療群:TP療法+Toripalimab vs. 対照群:TP療法)は、TPS≧1%で各々5.7ヵ月vs. 5.5ヵ月(HR=0.59、95% CI: 0.44-0.79、p=0.0005)、TPS<1%では各々6.1ヵ月vs. 5.7ヵ月(HR=0.59、95% CI: 0.40-0.88、p=0.0089)であり、いずれのサブグループにおいても試験治療群で有意にHRが低く、良好な結果であった。OS中央値は、TPS≧1%で各々16.9ヵ月vs. 10.8ヵ月(HR=0.61、95% CI: 0.42-0.90、p=0.0133)、TPS<1%では未到達vs. 11.6ヵ月(HR=0.63、95% CI: 0.37-1.08、p=0.0913)であった。TPS<1%においては、有意差はなかったものの試験治療群で良好な傾向がみられた。客観的奏効率(ORR)は、TPS≧1%で各々65.6% vs. 52.5%、TPS<1%では各々74.4% vs. 54.4%であり、いずれも試験治療群で上乗せ効果が認められている。以上より、JUPITER-06試験の事後解析において、TPS statusによらず化学療法に対する抗PD-1抗体のclinical benefitがあることが示された。さらなる検証のため次項のメタ解析がなされた。

メタ解析(PD-L1低発現における化学療法+抗PD-1抗体の効果について)
 PD-L1低発現の食道扁平上皮癌患者における化学療法に対する抗PD-1抗体の上乗せ効果を検証するため、PubMed、Embase、Cochraneのデータベースを用いて、2010年1月1日から2022年4月30日までに公表された無作為化比較試験が検索された。PD-L1の評価方法に関しては、FDAとEMAにおける異なる承認状況を考慮して、PD-L1 TPS(cut off値=1%)とCPS(cut off値=10)が用いられた。どちらを使用しても患者は概ね50%ずつに分けられ、PD-L1高発現と低発現がほぼ均等に2分された。

 試験間の異質性の評価にはCochranのQ検定およびI2検定が使用された。HRやOR(odds ratio)のメタ解析は、有意な異質性がある場合(CochranのQ検定のp<0.1もしくはI2>50%)は変量効果モデル(random-effects model)が使用され、それ以外の場合は固定効果モデル(?xed-effects model)が使用された。両側検定でp<0.05を統計学的に有意とした。

 KEYNOTE-590、CheckMate 648、ESCORT-1st、JUPITER-06、ORIENT-15の5つの試験が本解析の対象となった。TPS<1%の集団のメタ解析(CheckMate 648、ESCORT-1st、JUPITER-06、ORIENT-15の4試験)において、対照群(化学療法)に対する試験治療群(化学療法+抗PD-1抗体)のOSのHRは0.74(95% CI: 0.56-0.97、p=0.0312)、PFSのHRは0.66(95% CI: 0.50-0.86、p=0.0027)であり、TPS<1%の集団における化学療法に対する抗PD-1抗体の有意な上乗せ効果が示された。さらに、CPS<10の集団のメタ解析(KEYNOTE-590、CheckMate 648、JUPITER-06、ORIENT-15の4試験)では、対照群に対する試験治療群のOSのHRは0.77(95% CI: 0.66-0.89、p=0.0007)であり、PFSについてはCheckMate 648を除いた3試験で解析が行われ、HRは0.63(95% CI: 0.47-0.84、p=0.0016)であった。従って、CPS<10の集団においても化学療法に対する抗PD-1抗体の上乗せ効果が示される結果となった。

 以上より、JUPITER-06試験および複数の無作為化比較試験のメタ解析において、PD-L1低発現(CPS<10もしくはTPS<1%)の患者における化学療法に対する抗PD-1抗体の上乗せ効果が実証され、PD-L1低発現の患者に対する化学療法+抗PD-1抗体の適応が支持される結果であった。

 これまでPD-L1高発現は抗PD-1抗体単剤の治療効果因子として報告されている4,5)が、化学療法併用の抗PD-1抗体の効果とPD-L1の発現の関連は明らかではない。今回の解析では進行食道扁平上皮癌に対する化学療法併用の抗PD-1抗体はPD-L1の発現にかかわらず効果が示されており、すなわちPD-L1の発現は治療効果の予測因子とならないことが示された。同様の結果は他癌種でも報告されており、非小細胞肺癌においてもPD-L1の高発現が抗PD-1抗体の予測因子となる一方で、一次治療の化学療法+抗PD-1抗体の効果はPD-L1の発現によらないことが示されている6,7)

 メタ解析におけるlimitationとしては5つの無作為化試験の異質性が挙げられる。ESCORT-1st、JUPITER-06、ORIENT-15の3試験はアジア人を対象としている一方でKEYNOTE-590、CheckMate 648は30%以上が非アジア人であった。食道扁平上皮癌に関して、アジア人と白人では遺伝的・臨床的特徴が異なり、免疫チェックポイント阻害薬の効果に違いがあることが報告されており8)、アジア人を対象とした3試験と白人を含む2試験においてPD-L1低発現における化学療法併用の抗PD-1抗体の効果に違いが生じた一因となった可能性がある。このほか、併用する化学療法の種類の違いやPD-L1抗体のアッセイの違いが試験の異質性として考えられた。

 結論として、食道扁平上皮癌に対する一次治療の化学療法+抗PD-1抗体は、PD-L1低発現の患者に対しても有効性が認められた。マルチオミクス解析なども含めて、化学療法併用の抗PD-1抗体の効果予測に関するバイオマーカーの探索が望まれる。


日本語要約原稿作成:聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 久保田 洋平



監訳者コメント:
食道扁平上皮癌ではPD-L1の発現にかかわらず、化学療法+抗PD-1抗体が生存期間を改善させることが示された

 本邦における切除不能進行再発食道癌に対する免疫チェックポイント阻害薬(ICI)はKEYNOTE-590試験1)およびCheckMate 648試験2)の結果に基づき、化学療法(5-FU+CDDP)に抗PD-1抗体であるPembrolizumabもしくはNivolumabの併用療法が承認され、一次治療として使用可能である。ただし、CheckMate 648試験からTPS<1%の患者では化学療法にNivolumab併用の上乗せ効果が示されなかったことから、食道癌診療ガイドライン2022年版ではTPSを考慮することとされている。

 本研究のメタ解析から、食道扁平上皮癌ではPD-L1の発現にかかわらず、化学療法に加えて抗PD-1抗体の併用が生存期間を改善させることが示され、PD-L1低発現の食道扁平上皮癌に対してもICIを含んだ治療が重要であることを再認識させられた。5つの無作為化試験のPD-L1抗体(22C3、28-8、6E8、JS311)は異なっていたが、非小細胞肺癌において22C3、28-8およびJS311は高い一致率(約80?90%)を示しており9)、PD-L1抗体の違いが今回の結果に及ぼす影響は軽微だろうと考える。一方で、化学療法と抗PD-1抗体の併用療法におけるPFS中央値は6ヵ月程度であり、いまだ十分な治療とはいえない。現在、化学療法とPembrolizumabにマルチキナーゼ阻害薬であるLenvatinibの併用を検証した第III相臨床試験(NCT04949256)などが進行中であり、さらなる新規治療の開発が期待される。

  •  1) Sun JM, et al.: Lancet. 398(10302): 759-771, 2021 [PubMed] 
  •  2) Doki Y, et al.: N Engl J Med. 386(5): 449-462, 2022 [PubMed]
  •  3) Wang ZX, et al.: Cancer Cell. 40(3): 277-288.e3, 2022 [PubMed]
  •  4) Huang J, et al.: Clin Cancer Res. 24(6): 1296-1304, 2018 [PubMed]
  •  5) Shah MA, et al.: JAMA Oncol. 5(4): 546-550, 2019 [PubMed]
  •  6) Gandhi L, et al.: N Engl J Med. 378(22): 2078-2092, 2018 [PubMed]
  •  7) Paz-Ares L, et al.: N Engl J Med. 379(21): 2040-2051, 2018 [PubMed]
  •  8) Deng J, et al.: Nat Commun. 8(1): 1533, 2017 [PubMed]
  •  9) Wang Z, et al.: JAMA Netw Open. 3(10): e2013770, 2020 [PubMed]

監訳・コメント:聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 伊澤 直樹

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