論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

最新の論文紹介一覧へ
2009年1月~2015年12月の論文紹介
2003年1月~2008年12月の論文紹介

4月
聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 主任教授 砂川 優

胆道癌

根治切除後胆道癌に対する術後補助療法としてのS-1療法の第III相試験(JCOG1202試験)


Nakachi K, et al.: Lancet. 401(10372): 195-203, 2023

【背景】
 胆道癌において治癒を期待できる唯一の治療法は切除であるが、リンパ節転移や切除断端が陽性の場合、再発リスクは非常に高く5年生存割合は30~50%と報告されている1)。英国において胆道癌の術後補助療法として、Capecitabineの有用性を検討する第III相試験(BILCAP試験)が行われた。Intention-to-treat解析では、主要評価項目である全生存期間の延長を示せなかった(51.1ヵ月vs. 36.4ヵ月、調整ハザード比[HR]=0.81、95%信頼区間[CI]: 0.63-1.04、p=0.097)が、事前に規定されたper-protocol解析では、全生存期間は有意に延長しており(HR=0.75、95% CI: 0.58-0.97、p=0.028)、この結果をもってCapecitabineは欧米において術後補助療法の標準治療とみなされている2)

 日本では、S-1が膵癌および胃癌に対する術後補助療法として生存期間の延長を示し、さらに進行胆道癌に対するS-1療法やGemcitabine+S-1併用療法においても良好な成績が報告されている3-5)。根治切除後胆道癌に対する術後補助療法としてのS-1療法の実現可能性も確認され6)、今回、検証試験として第III相試験(JCOG1202試験)が行われた。

【方法】
 対象は、20~80歳、performance status(PS)0/1の根治切除(R0/R1)が得られたT2-4N0M0またはT1-4N1M0の肝外胆管癌、胆囊癌、十二指腸乳頭部癌、T1-4N0-1M0の肝内胆管癌とされた。主要評価項目は全生存期間で、経過観察群およびS-1群の3年生存割合がそれぞれ57%および47%と仮定し、S-1群の全生存期間のHRが0.74となることを検証する優越性試験として計画され、検出力80%、片側α=0.05として、440例の登録、285イベントが必要と設定された。施設、原発巣、リンパ節転移を調整因子として、患者はランダムに経過観察群またはS-1群に1:1に割り付けられた。S-1群では、S-1を4週間経口投与し、その後2週間休薬する6週間を1サイクルとして計4サイクル(6ヵ月)行われた。

【結果】
 2013年9月から2018年6月までに440例が登録され、経過観察群に222例、S-1群に218例が割り付けられた。観察期間中央値は45.4ヵ月(IQR: 32.1-60.1ヵ月)であった。主要評価項目の全生存期間中央値は経過観察群で6.1年(95% CI: 4.2-not estimable[NE])、S-1群でNE(95% CI: 5.2-NE)であり、また、3年生存割合は経過観察群で67.6%(95% CI: 61.0-73.3%)、S-1群で77.1%(95% CI: 70.9-82.1%)であり、S-1群で有意に良好であった(HR=0.69、95% CI: 0.51-0.94、片側p=0.0080)。再発は440例中211例(経過観察群115例[52%]、S-1群96例[44%])にみられ、肝転移再発が最も多かった。副次評価項目である無再発生存期間中央値は、経過観察群で3.5年(95% CI: 2.0-NE)、S-1群で5.3年(95% CI: 4.1-6.1)であり、3年無再発生存割合は、経過観察群で50.9%(95% CI: 44.1-57.2%)、S-1群で62.4%(95% CI: 55.6-68.4%)であり、S-1群で有意に良好であった(HR=0.80、95% CI: 0.61-1.04、両側p=0.088)。

 全生存期間と無再発生存期間のサブグループ解析では女性、リンパ節転移陽性およびステージ3または4A患者においてS-1療法の有用性が示されたが、治療を含めたいずれの因子においても有意な交互作用はみられなかった。S-1療法が行われた207例のうち、150例(72%)がプロトコール治療を完遂し、残りの57例は治療を中止した。治療中止の理由としては、有害事象に対する患者拒否が最も多く(24例)、続いて有害事象(14例)、病勢増悪(13例)であった。減量は40例(19%)で行われ、33例(16%)で1回、7例(3%)で2回の減量が必要であった。

 S-1群でみられたgrade 3、4の有害事象として、好中球減少(14%)、胆道感染症(7%)があったが、その他の項目においては経過観察群と比較して概ね同等であった。また、S-1群では倦怠感や食欲不振、下痢口内炎などの消化器毒性、皮疹、色素沈着などの皮膚毒性が多くみられた。

【考察】
 本試験は、胆道癌の術後補助療法としてintention-to-treat解析で有意に良好な予後の延長効果を示した最初の試験であり、HRも0.69と既報の中で最も良好であった。また、本試験の結果は、胆道癌の術後補助療法における経口フルオロピリミジンの有効性を示すエビデンスを強化し、BILCAP試験の結果を補完するものである。S-1療法が有効であった理由として、S-1療法の忍容性が高く治療完遂割合が72%と高かったこと、PSが良好な患者やR0切除の割合が高く、それらの患者における全生存期間のHRが良好であったこと、BILCAP試験では含まれていない十二指腸乳頭部癌が含まれ、全生存期間のHRが良好であったことなどが考えられる。Limitationとしては、イベント数が少ないために無再発生存割合の評価に対する検出力が低くなり、Kaplan-Meier曲線が6年のところで交差してしまったことが挙げられる。3年以降は打ち切りが多くデータがimmatureとなったため、5年後の最終解析の結果が待たれる。

【結語】
 日本人における根治切除後胆道癌に対する術後補助療法としてのS-1療法は経過観察群と比較して有意に良好な全生存期間の延長効果を示し、忍容性も良好であった。根治切除後胆道癌に対する術後補助療法としてのS-1療法は標準治療になると考えられる。

日本語要約原稿作成:国立がん研究センター東病院 肝胆膵内科 澁木 太郎



監訳者コメント:
胆道癌切除後の補助療法は、S-1が標準治療に

 胆道癌切除後の補助療法は、Capecitabineと経過観察を比較した第III相試験(BILCAP)にて、intent-to-treat analysisでは統計学的に有意な差は認められなかったが、臨床的には意義のある差と判断され、海外ではCapecitabineが標準治療(みなし)として位置付けられていた。国内では、このASCOT試験の結果待ちの状態であった。ASCOT試験の主要評価項目であるintent-to-treatの対象における全生存期間は、S-1群で3年生存割合のおよそ10%の上乗せが示され、ハザード比も0.69と死亡のリスクを31%も下げており、統計学的にも有意な差が示された。副次評価項目である無再発生存期間も経過観察が十分に行われている3年までは良好な曲線の開きが示された。今後、本試験は5年まで経過観察を行い、最終解析が行われる予定である。また、この試験の結果、胆道癌の補助療法は本邦ではS-1が標準治療として位置付けられることとなった。S-1とCapecitabineで製剤が異なるものの、ともに同じ経口のフッ化ピリミジン製剤であり、胆道癌の切除後には、5-FU系の経口抗癌剤を6ヵ月服用することが国際的にも推奨されることになる。今後は、この5-FU系の経口抗癌剤による術後補助化学療法を標準治療として、さらなる有望な術後補助療法や術前補助慮法の開発が進んでいくことが期待される。

  • 1) Ishihara S, et al.: J Hepatobiliary Pancreat Sci. 23(3): 149-157, 2016 [PubMed]
  • 2) Primrose JN, et al.: Lancet Oncol. 20(5): 663-673, 2019 [PubMed]
  • 3) Shirasaka T, et al.: Anticancer Drugs. 7(5): 548-557, 1996 [PubMed]
  • 4) Uesaka K, et al.: Lancet. 388(10041): 248-257, 2016 [PubMed]
  • 5) Sakuramoto S, et al.: N Engl J Med. 357(18): 1810-1820, 2007 [PubMed]
  • 6) Nakachi K, et al.: Int J Clin Oncol. 23(5): 894-899, 2018 [PubMed]

監訳・コメント:国立がん研究センター東病院 肝胆膵内科 池田 公史

論文紹介 2023年のトップへ

このページのトップへ
MEDICAL SCIENCE PUBLICATIONS, Inc
Copyright © MEDICAL SCIENCE PUBLICATIONS, Inc. All Rights Reserved

GI cancer-net
消化器癌治療の広場