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6月
国立がん研究センター中央病院 消化管内科/頭頸部・食道内科 科長 加藤 健

大腸癌

進行再発大腸癌に対するTrifluridine-Tipiracil+Bevacizumab療法


Gerald W. Prager, et al.: N Engl J Med. 388(18): 1657-1667, 2023

 進行大腸癌における1~2次治療は、Fluoropyrimidine+Oxaliplatin/Irinotecan+血管内皮細胞増殖因子(VEGF)標的治療もしくは上皮増殖因子受容体(EGFR)標的治療が一般的で、3~4次治療の選択肢としては、血管新生阻害作用を有する経口マルチキナーゼ阻害剤のRegorafenibまたはTrifluridine-Tipiracil(FTD-TPI)が使用されることが多い。FTD-TPIは、細胞毒性をもつ核酸アナログであるTrifluridineと、Trifluridineの酵素分解を防ぐチミジンホスホリラーゼ阻害剤であるTipiracilを組み合わせた内服薬である。第III相試験であるRECOURSE試験1)の結果、RAS変異の有無にかかわらず、FTD-TPI療法はプラセボに比べ全生存期間(OS)が著しく延長し、安全性も良好であることからFTD-TPIは進行再発大腸癌の3次治療として単剤で承認された。

 病勢進行後も血管新生を継続的に阻害することは、転移性大腸癌において有効な治療戦略である可能性がある。Bevacizumab(BEV)で継続的にVEGFを阻害することは転移性大腸癌において治療効果が示されており2)、さらに、進行再発患者を対象としたRegorafenibやFruquintinib(VEGFR阻害剤)においても、無作為化第III相試験にて、BSC群と比べより長いOSが示された3,4)。したがって、BEVとFTD-TPIの併用は有意な効果が得られると考えられた。単群および無作為化第II相試験が行われ併用療法はOSを改善しており5-10)、第III相試験であるSUNLIGHT試験は転移再発大腸癌を対象に、FTD-TPI単剤と比較し、FTD-TPIとBEVの併用療法の有効性と安全性を検証するためにデザインされた。

 適格基準は、18歳以上、切除不能な結腸または直腸腺癌、2レジメン以上の治療歴があり、前レジメンが無効中止または不耐であること、RAS遺伝子の変異の有無が既知であること、ECOG PS 0-1、十分な臓器機能を有することとされた。前治療はFluoropyrimidine、Irinotecan、Oxaliplatin、抗VEGF抗体、または抗EGFR抗体を含み、術前化学療法または術後補助化学療法の治療中再発もしくは最終投与6ヵ月以内に再発した場合は、術前化学療法または術後化学療法もレジメン数に含まれた。

 患者は、FTD-TPIとBEVの併用投与(併用群)とFTD-TPI単独投与(FTD-TPI群)に1:1の割合で無作為に割り付けられた。無作為化は、地域(北米、EU、その他の地域)、最初の転移診断からの期間(18ヵ月未満、18ヵ月以上)、RAS遺伝子(野生型、変異型)により層別化された。

 両群ともに、FTD-TPIは、35mg/m2を開始用量とし、28日間を1サイクルとしてday 1-5とday 8-12に1日2回投与された。併用療法群には、day 1とday 15にBEV 5mg/kgが投与された。

 治療は、病勢進行または許容できない毒性が生じるか、同意が撤回されるまで続けられた。FTD-TPIの投与を継続する限り治療を受けているとみなされ、BEVの単剤投与は認められなかった。

 主要評価項目はOSであり、併用群の優越性が検証された。副次評価項目は治験責任医師が評価した無増悪生存期間(PFS)、RECIST v1.1に基づく奏効率、病勢制御率、EORTC QLQ-C30 v3.0およびEQ-5D-5Lを用いたQOL評価、安全性(有害事象、臨床検査、身体検査、バイタルサイン、無作為化後ECOG PSが0または1から2以上へ悪化するまでの期間)であった。有効性は、intention-to-treat(ITT)の原則に従い、無作為化を受けたすべての患者を対象に評価した。安全性は、治験薬を1回以上投与されたすべての患者を対象に評価した。ベースライン時および2サイクルごとに、進行が認められるまで画像診断が行われた。死亡あるいは試験終了まで8週間毎に生存の有無を確認した。AEは、NCI-CTCAE v5.0に基づき評価された。

 統計設定においては、OSにおけるハザード比(HR)の期待値は0.70とし、有意水準0.025の片側log-rank検定を用いて、検出力が90%となるようにデザインされた。一次解析には、合計490例の患者(各群245例)および少なくとも331件のイベント(あらゆる原因による死亡)が必要であった。OSで有意差を示された場合にのみPFSの評価をするhierarchical testing strategyで行った。両側5%の有意水準での層別log-rank検定を使用して、群間のOS、PFSの分布を比較し、層別Cox比例ハザードモデルを使用して、治療差を評価した。

結果
 13ヵ国87施設で659例がスクリーニングを受け、492例が2020年11月25日から2022年2月18日まで無作為化を受けた。各群には合計246例が割り付けられた。背景因子に偏りはなく、64.0%はEUからの登録であった。初回診断から無作為化までの期間は57.5%で18ヵ月以上であり、30.7%がRAS野生型であった。遠隔転移を有する大腸癌に対してのレジメン数は、92.1%が2レジメンであり、全体の2.6%が3レジメン以上であった。全例がFluoropyrimidineベースの治療歴があり、72.0%が抗VEGF療法(47.8%が1次治療、43.9%が2次治療、20.3%が1・2次治療ともにBEV投与を受けた)、RAS野生型患者の93.7%が抗EGFR療法の治療歴があった。RAS遺伝子変異例(69.3%)は、一般的な遠隔転移を有する大腸癌集団よりも多く、RAS野生型の患者が抗EGFR療法の臨床試験に優先的に紹介されていることを反映している可能性があった。治療期間の中央値は、併用群で5.0ヵ月(0.1-18.5)、FTD-TPI群で2.1ヵ月(0.6-14.3)であった。併用群における、FTD-TPIとBEVの相対用量強度の中央値は、それぞれ88.3%と87.6%であり、FTD-TPI群における対用量強度の中央値は90.4%であった。解析時点で、併用群の13.0%、FTD-TPI群の1.6%が治療を継続中であった。治療中止の理由で最も多かったのは病勢進行であった。全体ではCOVID-19感染症パンデミックにより6例が治療中止となった。

有効性
 追跡期間中央値は、併用群で14.2ヵ月(12.6-16.4)、FTD-TPI群で13.6ヵ月(12.7-15.9)であった。OS中央値は、併用群で10.8ヵ月(95%信頼区間[CI]:9.4-11.8)、FTD-TPI群で7.5ヵ月(95% CI: 6.3-8.6)であった(HR=0.61、95% CI: 0.49-0.77、p<0.001)。開始基準を満たさない患者(併用群14例、FTD-TPI群16例)を除外した分析では、OS中央値は併用群で10.8ヵ月(95% CI: 9.6 -12.1)、FTD-TPI群で7.2ヵ月(95% CI: 6.3-8.5)となった(HR=0.59、95% CI: 0.47-0.74)。多変量モデルによる治療効果(FTD-TPIとBEVの相対比較)の推定値は、主要解析と一致した(HR=0.63、95% CI: 0.50-0.78)。6ヵ月全生存割合は併用群で77%、FTD-TPI群で61%、12ヵ月全生存割合はそれぞれ43%、30%であった。PFS中央値は、併用群で5.6ヵ月(95% CI: 4.5-5.9)、FTD-TPI群で2.4ヵ月(95% CI: 2.1-3.2)(HR=0.44、95% CI: 0.36-0.54、p<0.001) 。6ヵ月無増悪生存割合は併用群で43%、FTD-TPI群で16%、12ヵ月無増悪生存割合はそれぞれ16%、1%であった。FTD-TPI+BEVのOSおよびPFSにおける有効性は、すべてのサブグループで観察された。客観的奏効は、併用群では6.1%(95% CI: 3.5-9.9)に認められ、15例が部分奏効、FTD-TPI群では1.2%(95% CI: 0.3-3.5)に認められ、1例が完全奏効、2例が部分奏効であった。

安全性
 AEは各群の98.0%に発生した。Grade 3以上は、併用群で72.4%、FTD-TPI群で69.5%の患者において報告され、重篤なAEは、それぞれ24.8%、31.3%に報告された。

 頻度の多いAEは、好中球減少症、悪心、貧血であった。FTD-TPI群よりも併用群で頻度が多かったAEは、高血圧(併用群10.2%、FTD-TPI群2.0%)、吐き気(各37.0%、27.2%)、好中球減少(各62.2%、51.2%)であり、うちgrade 3以上の好中球減少は各々43.1%、32.1%であった。治療期間中にG-CSF製剤を併用したのは、併用群では29.3%、FTD-TPI群では19.5%であった。

 治験責任医師の判定において、FTD-TPIによるAEは併用群89.8%、FTD-TPI群81.3%に、BEVによるAEは併用群の48.4%に認められた。治療関連死の報告はなかった。中止に至ったAEは、併用群およびFTD-TPI群ともに12.6%に認められた。うち、治験責任医師が治療との関連性を判断したのは、それぞれ2.4%および2.0%であった。減量投与は、併用群で16.3%、FTD-TPI群で12.2%、投与の延期は、それぞれ69.5%、53.3%で生じた。PSが2以上に悪化するまでの期間の中央値は、併用群で9.3ヵ月(95% CI: 8.3-10.6)、FTD-TPI群で6.3ヵ月(95% CI: 5.6-7.2)であった(HR=0.54、95% CI: 0.43 to 0.67)。

 以上のように、FTD-TPI+BEVは、FTD-TPI単独に比べて有意なOS、PFSの延長、良好な病勢制御を示し、転移再発大腸癌患者にとって有効な治療選択肢となることが示された。


日本語要約原稿作成:高知大学医学部腫瘍内科学 栗岡 勇輔



監訳者コメント:
進行再発大腸癌に対する後方治療における新たな標準治療としてのFTD-TPI+Bevacizumab療法

 進行再発大腸癌に対する後方治療において、FTD-TPI±BEV、Regorafenibに加えFruquintinibの登場が見込まれているが、本SUNLIGHT試験を受けて、FTD-TPI+BEV併用療法は頭一つ抜けた存在になったと言える。

 ただ、本試験においては、30%弱の症例が前治療として抗VEGF療法未投与であり本邦での実臨床の状況とは異なる点や、これらの集団がFTD-TPI+BEV併用療法の治療効果をより後押しした可能性が示唆されている。

 また、サブグループ解析において、少数例ではあるがMSI-H/dMMR症例に対して、よりBEV併用による有効性および良好な治療効果が示唆されており、今後、実臨床における後方治療ではMSI-H/dMMR大腸癌に対してFTD-TPI+BEV併用療法を適切に提案・実施することが望まれる。

 一方で、本試験の併用療法群における毒性は既報5-7)に比べ比較的軽度であったが、併用療法群の29.3%においてG-CSF投与が実施されていたことが背景として考えられ、この点も実臨床の状況とは異なる点に注意が必要である。

 本試験結果を受け、本邦で実施されていたFTD-TPI単独療法に対する隔週投与FTD-TPI+BEV併用療法の有効性を検証する第III相試験であるJCOG2014(ROBiTS)試験は途中中止となってしまったが、今後の報告での両療法の有効性および安全性の違いにも注目したい。

  •   1) Mayer RJ, et al.: N Engl J Med. 372(20): 1909-1919, 2015 [PubMed]
  •   2) Bennouna J, et al.: Lancet Oncol. 14(1): 29-37, 2013 [PubMed]
  •   3) Grothey A, et al.: Lancet. 381(9863): 303-312, 2013 [PubMed]
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監訳・コメント:高知大学医学部腫瘍内科学 佐竹 悠良

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