7月
愛知県がんセンター 薬物療法部 医長 谷口 浩也
食道癌
進行・転移性食道扁平上皮癌に対する一次治療としてのTislelizumabと化学療法との有効性、安全性の比較(RATIONALE-306):国際共同無作為化プラセボ対照第III相試験
Jianming Xu, et al.: Lancet Oncol. 24(5): 483-495, 2023
切除不能な進行食道扁平上皮癌に対する一次治療は、白金製剤(CisplatinやOxaliplatin)やFluoropyrimidine系抗腫瘍薬、Paclitaxelを用いた治療が行われてきたが、全生存期間(OS)中央値が約10ヵ月とその治療効果は限定的である。近年、免疫チェックポイント阻害剤の開発が進められ、進行食道扁平上皮癌に対する一次治療として、抗PD-1抗体薬と化学療法の併用療法が有効であることがPembrolizumabとNivolumabで報告されている1,2)。
TislelizumabはPD-1と高い親和性を有するヒト化IgG4モノクローナル抗体であり、進行・転移性食道扁平上皮癌に対する二次化学療法としての有効性・安全性が、RATIONALE-302試験で示された3)。今回、進行・転移性食道扁平上皮癌に対する一次治療としての有効性・安全性を検討する国際共同無作為化二重盲検第III相試験であるRATIONALE-306試験の中間解析の結果が報告された。
本試験には、アジア、欧州、北米、オセアニアの162施設が参加した。対象は、18歳以上で、進行癌に対して全身療法を受けていない切除不能な局所進行または再発、あるいは転移を有する食道扁平上皮癌患者で、PD-L1発現の状態にかかわらず登録された。患者は、医師が選択した化学療法に加えて、3週間おきにTislelizumab 200mgを投与される群(Tislelizumab群)とプラセボを投与される群(プラセボ群)に1:1で無作為に割り付けられた。医師選択化学療法は白金製剤(CisplatinまたはOxaliplatin)とFluoropyrimidine系抗腫瘍薬(FluorouracilまたはCapecitabine)、あるいは白金製剤(CisplatinまたはOxaliplatin)とPaclitaxelのいずれかの2剤併用療法とされた。層別因子は地域(日本を除くアジア、日本、その他の国)、根治的治療歴の有無、医師選択化学療法(白金製剤/Fluoropyrimidine系抗腫瘍薬と白金製剤/Paclitaxel)であった。
主要評価項目はintention-to-treat(ITT)集団におけるOSであり、副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)、全奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、PD-L1 tumor area positivity(TAP)スコア10%以上におけるOS、健康関連のQOL、安全性とした。PD-L1 TAPスコアは腫瘍面積を分母とし、腫瘍細胞+腫瘍関連免疫細胞面積を分子とした割合(パーセント)と定義した。PD-L1発現はVENTANA PD-L1(SP263)アッセイを用いた。
試験は11の国と地域から869例がスクリーニングされ、649例(Tislelizumab群326例、プラセボ群323例)が登録、無作為化された。PD-L1 TAPスコア10%以上の患者はTislelizumab群が116例(36%)、プラセボ群が107例(33%)であった。登録症例の背景因子に両群間で有意差は認めなかった。
中間解析の結果、ITT集団におけるOS中央値は、Tislelizumab群が17.2ヵ月[95%信頼区間(CI):15.8-20.1]、プラセボ群が10.6ヵ月(95% CI: 9.3-12.1)で、ハザード比(HR)=0.66(95% CI: 0.54-0.80)、p<0.0001とTislelizumab群で有意なOSの改善が認められた。PD-L1 TAPスコアによるOSについても検討された。PD-L1 TAPスコア10%以上のOS中央値はTislelizumab群が16.6ヵ月(95% CI: 15.3-24.4)、プラセボ群が10.0ヵ月(95% CI: 8.6-13.3)で、HR=0.62(95% CI: 0.44-0.87)、p=0.0029とTislelizumab群で有意なOSの改善がみられた。PD-L1 TAPスコア10%未満のOS中央値も、Tislelizumab群が15.8ヵ月、プラセボ群が10.4ヵ月とTislelizumab群で良好な傾向であった(HR=0.77、95% CI: 0.59-1.01)。事後解析で、PD-L1発現状態[TAPスコア10%以上、10%未満、combined positive score(CPS)]と治療群の解析が行われたが、治療効果とPD-L1発現状態に有意な相互作用は認めなかった。また、事前に規定されたサブグループ解析では、地域、根治的治療歴の有無、医師選択化学療法の種類を含めた全てでTislelizumab群が優位であった。
副次評価項目のPFSでもTislelizumab群で有意な改善が認められた。PFS中央値はTislelizumab群が7.3ヵ月(95% CI: 6.9-8.3)、プラセボ群が5.6ヵ月(95% CI: 4.9-6.0)で、HR=0.62(95% CI: 0.52-0.75)、p<0.0001であった。ORRは、Tislelizumab群が63%、プラセボ群が42%でオッズ比=2.38(95% CI: 1.73-3.27)、p<0.0001と有意にTislelizumab群が高かった。DOR中央値は、Tislelizumab群が7.1ヵ月(95% CI: 6.1-8.1)、プラセボ群が5.7ヵ月(95% CI: 4.4-7.1)であった。安全性については、grade 3-5の治療関連有害事象は、Tislelizumabが216例(67%)、プラセボ群が207例(64%)と報告された。頻度の高いgrade 3/4の治療関連有害事象は、好中球減少、白血球減少、貧血であった。また、治療中に発現した副作用で投与中止となったのは、Tislelizumab群が94例(29%)、プラセボ群が60例(19%)であった。Tislelizumab群では6例の治療関連死(消化管出血、心筋炎、肺結核、電解質異常、呼吸不全)が報告された。
以上のRATIONALE-306試験の中間解析結果より、進行・転移性食道扁平上皮癌に対する一次治療としてTislelizumab+医師選択化学療法併用療法は、プラセボ+化学療法と比較して臨床的に有意な治療効果を認めた。また、安全性は許容範囲内であり、新たな安全性シグナルは確認されなかった。
日本語要約原稿作成:国立がん研究センター東病院 消化管内科 宮下 優
監訳者コメント:
切除不能進行・再発食道癌に対する一次治療として、Tislelizumabと化学療法併用療法の有効性および安全性が示された
切除不能進行・再発食道癌に対する一次治療として、これまでに化学療法単独と比較して、7種類の抗PD-1抗体薬(Pembrolizumab、Nivolumab、Tislelizumab、Sintilimab、Toripalimab、Camrelizumab、Serplulimab)と化学療法の併用療法の有効性および安全性が第III相試験において示されている。本邦においては、PembrolizumabおよびNivolumabの2種類の抗PD-1抗体薬と化学療法との併用療法が一次治療として使用可能である。
本試験には、本邦から66例(Tislelizumab群33例、プラセボ群33例)が登録されており、Tislelizumabは将来的に本邦での承認も期待される薬剤である。KEYNOTE-590試験(Pembrolizumab+化学療法vs. プラセボ+化学療法)およびCheckMate 648試験(Nivolumab+化学療法vs. Nivolumab+Ipilimumab vs. 化学療法)と比較した場合の本試験の特徴として、①アジアからの登録割合が最も高い(75%)、②複数の併用化学療法レジメンが許容されている(Paclitaxel+Cisplatin、フッ化ピリミジン+Cisplatin、フッ化ピリミジン+Oxaliplatin、Paclitaxel+Oxaliplatin)、③PD-L1陽性集団と陰性集団における有効性の違いが少ない、という点が挙げられる。PembrolizumabおよびNivolumabについては、一次治療における併用化学療法は5-FU+Cisplatin療法のみが認められているが、実際には腎機能低下や心機能低下等の理由でCisplatinの使用が懸念される症例も少なくない。本試験では併用化学療法レジメンが複数存在しており、5-FU+Cisplatin療法以外の化学療法レジメンとの併用がもし可能となれば、実臨床において一定のメリットがあるだろう。また、食道癌一次治療におけるPD-L1発現と抗PD-1抗体薬の有効性の関連性については意見が分かれるところだが、本試験結果を解釈する場合には、使用抗体(SP263)および評価方法(TAP)の違いには注意すべきである。
食道癌一次治療に関しては、LEAP-014試験においてLenvatinib+Pembrolizumab+化学療法、SKYSCRAPER-08試験においてAtezolizumab+Tiragolumab+化学療法の有効性および安全性がそれぞれ検証されており、さらなる治療開発が期待される。
- 1) Sun JM, et al.: Lancet. 398(10302): 759-771, 2021 [PubMed]
- 2) Doki Y, et al.: N Engl J Med. 386(5): 449-462, 2022 [PubMed]
- 3) Shen L, et al.: J Clin Oncol. 40(26): 3065-3076, 2022 [PubMed]
監訳・コメント:国立がん研究センター東病院 消化管内科 小谷 大輔
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