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7月
愛知県がんセンター 薬物療法部 医長 谷口 浩也

大腸癌

RAS野生型切除不能大腸癌に対する抗EGFR抗体薬リチャレンジとしてのTrifluridine-Tipiracil+Panitumumabを評価する無作為化比較第II相試験


Stefania Napolitano, et al.: JAMA Oncol. 9(7): 966-970, 2023

 RAS野生型切除不能大腸癌に対する抗EGFR抗体薬併用療法は、重要な治療選択肢であるが1,2)、抗腫瘍効果を示したとしても、KRAS/NRAS遺伝子異常を含む獲得耐性により不応となる3-5)。一方で、抗EGFR抗体薬中止後は、RAS変異型クローンは約4ヵ月の半減期で減衰し、RAS野生型クローンが再増加する6)。三次治療以降で投与されるRegorafenibあるいはTrifluridine-Tipiracil(FTD/TPI)の有効性は限定的であるため、抗EGFR抗体薬リチャレンジが試みられ、複数の第II相試験で有効性が示唆された。しかし、標準治療との比較方法が解決されていなかったため7)RAS野生型切除不能大腸癌に対する三次治療FTD/TPI±Panitumumab(抗EGFR抗体薬リチャレンジ)の無作為化比較第II相試験(VELO試験)を実施した。

 主な適格基準は、①ECOG PSが0-1、②診断時の腫瘍組織がRAS野生型、③一次治療抗EGFR抗体薬併用療法の抗腫瘍効果がPRもしくはCR、④二次治療の期間として抗EGFR抗体薬フリーインターバルが4ヵ月以上、であった。層別化因子を、ECOG PS、一次治療抗EGFR抗体薬の種類、腫瘍占居部位(左側/右側)として、FTD/TPI群(35mg/m2を1日2回、day 1-5、day 8-12に投与、1サイクル28日)とFTD/TPI+Panitumumab(6mg/kg、day 1, day 15)群に1:1で無作為に割り付けられた。

 主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)、副次評価項目は客観的奏効割合(ORR)、全生存期間(OS)、有害事象発生割合であった。また、探索的に治療開始前および増悪時に血中循環腫瘍DNA(ctDNA)解析が行われた。治療開始前は全例Idylla™(PCR法)によりKRASNRASBRAFV600E遺伝子型が解析された。また、治療開始前46例、増悪時24例においてFoundationOne Liquid CDx(F1L CDx、NGS法)により324遺伝子が解析された。

 FTD/TPI群に対するFTD/TPI+Panitumumab群のPFSにおける優越性を検討するために、HR=0.56、両側有意水準0.1、検出力80%とし、必要症例数は112例と算出された。しかし、COVID-19の影響から、62例の登録時点で登録終了となった。

 2019年6月から2022年4月までに62例(両群31例)が登録された。両群間の患者背景に偏りは認めなかった。治療開始前のctDNA解析では、BRAFV600E変異を認めず、RAS/BRAF野生型はFTD/TPI群23例(74.2%)、FTD/TPI+Panitumumab群26例(83.9%)であった。

 治療サイクル数中央値(以降、FTD/TPI群vs. FTD/TPI+Panitumumab群)は2 vs. 4サイクルであった。Grade 3/4の有害事象は29.0% vs. 51.6%であった。全gradeの下痢は13% vs. 19%、全gradeの皮膚障害は0% vs. 77.4%、grade 3/4の皮膚障害は0% vs. 19%とFTD/TPI+Panitumumab群で高頻度であった。減量は29.0% vs. 51.6%とFTD/TPI+Panitumumab群で高頻度であった(p=0.07)。治療関連死および有害事象による治療中止は両群ともに認めなかった。

 主要評価項目であるITT集団におけるPFSは、中央値2.5ヵ月(95% CI: 1.4-3.6)vs. 4.0ヵ月(95% CI: 2.8-5.3)、HR=0.48(95% CI: 0.28-0.82)、p=0.007であり、FTD/TPI+Panitumumab群で有意に延長し、主要評価項目を達成した。確定されたPRはFTD/TPI+Panitumumab群の3例(9.7%)でのみ認められ、4ヵ月以上の病勢制御割合は、38.7% vs. 74.2%と、FTD/TPI+Panitumumab群で有意に良好であった(p=0.009)。また、6ヵ月(9.7% vs. 35.5%)、12ヵ月(0% vs. 12.9%)無増悪生存割合はいずれもFTD/TPI+Panitumumab群のほうが有意に高かった。

 治療開始前ctDNA RAS/BRAF野生型集団では、PFSは中央値2.6ヵ月(95% CI: 1.0-4.3)vs. 4.5ヵ月(95% CI: 2.2-6.8)、HR=0.48(95% CI: 0.26-0.89)、p=0.02であり、FTD/TPI+Panitumumab群で有意に延長した。病勢制御割合(47.8% vs. 80.7%)、6ヵ月(13.0% vs. 38.5%)、12ヵ月(0% vs. 15.4%)無増悪生存割合はいずれもFTD/TPI+Panitumumab群で良好であった。一方、治療開始前ctDNA RAS変異型集団では、FTD/TPIに対するPanitumumabの上乗せ効果は認めなかった(HR=0.72、95% CI: 0.15-1.75、p=0.29)。

 治療開始前ctDNA RAS/BRAF野生型(Idylla™)症例のうち、FTD-TPI群の69.6%(16/23例)、FTD/TPI+Panitumumab群の88.5%(23/26例)でF1L CDxが実施され、EGFR経路関連遺伝子ではKRASPIK3CABRAFMAP2K1EGFR変異、がん抑制遺伝子ではTP53APCARID1ASMAD4変異が高頻度で検出された。FTD/TPI+Panitumumab群のうち治療開始前ctDNAがKRASNRASBRAFV600EEGFRERBB2MAP2K1PIK3CA野生型であった15例では、PFS中央値は6.4ヵ月(95% CI: 3.7-9.2)であり、最良総合効果はPR 2例(13.3%)、SD 11例(73.3%)、PD 2例(13.3%)であった。また、増悪時にF1L CDxが実施された11例のうち6例(54.5%)でEGFR経路関連遺伝子を認めた。

 本試験はRAS野生型切除不能大腸癌三次治療において、抗EGFR抗体薬リチャレンジとしてのFTD/TPI+Panitumumabと標準治療であるFTD/TPIを比較した初めての無作為化比較試験であった。抗EGFR抗体薬リチャレンジとしてのFTD/TPI+Panitumumabが有意にPFSを延長し、4ヵ月以上の病勢制御割合も良好であった。また、治療開始前ctDNA RAS/BRAF野生型に絞り込むこと、さらにはEGFR経路関連遺伝子野生型に絞り込むことで抗EGFR抗体薬リチャレンジがより有効な集団を同定できることが示唆された。本試験のlimitationはサブグループ解析の症例数が少ないことである。本試験の結果を確認するためには、より大規模な第III相比較試験での検証が望まれる。


日本語要約原稿作成:愛知県がんセンター 薬物療法部 榊田 智喜



監訳者コメント:
抗EGFR抗体薬リチャレンジの有効性が示唆された初めての無作為化比較試験

 抗EGFR抗体薬リチャレンジの歴史は長く、初めての報告はSantiniらが2012年に報告した単群第II相試験8)であり、奏効割合54%が示された。しかし、一次治療抗EGFR抗体薬不応の定義が明確ではなく真のリチャレンジではない(リイントロダクションの症例が含まれている)可能性が指摘され、実際にJACCRO CC-08試験9)、JACCRO CC-09試験10)は奏効割合10%未満、一次治療抗EGFR抗体薬不応の定義が明確となったCRICKET試験11)では14%であった。CRICKET試験ではリチャレンジ直前のctDNA RAS野生型/変異型の奏効割合が31%/0%であり、ctDNA RAS野生型が効果予測因子であることが示唆された。その後ctDNA RAS野生型のみを対象としたCHRONOS試験12)、PURSUIT試験13)では20%前後の奏効割合であり、真のリチャレンジとして有効性が期待される集団が明確となった。このような歴史を経て、本報告が抗EGFR抗体薬リチャレンジの有効性を示唆した初めての無作為化比較試験となった。

 症例集積不良により少数例の無作為化比較試験となったことは残念だが、リチャレンジ直前のctDNA RASだけではなく、EGFR経路関連遺伝子がいずれも野生型の症例に絞り込むことで有効性が高まることが示唆されたのは興味深い。一方で、抗EGFR抗体薬リチャレンジにおける至適併用レジメンや至適抗EGFR抗体薬フリーインターバルは未解決であり、さらなる検討が望まれる。

  •  1) Ciardiello F, et al.: CA Cancer J Clin. 72(4): 372-401, 2022 [PubMed]
  •  2) Cervantes A, et al.: Ann Oncol. 34(1): 10-32, 2023 [PubMed]
  •  3) Parseghian CM, et al.: Clin Cancer Res. 25(23): 6899-6908, 2019 [PubMed]
  •  4) Di Nicolantonio F, et al.: Nat Rev Clin Oncol. 18(8): 506-525, 2021 [PubMed]
  •  5) Martinelli E, et al.: Ann Oncol. 31(1): 30-40, 2020 [PubMed]
  •  6) Parseghian CM, et al.: Ann Oncol. 30(2): 243-249, 2019 [PubMed]
  •  7) Ciardiello D, et al.: Cancers (Basel). 13(8): 1941, 2021 [PubMed]
  •  8) Santini D, et al.: Ann Oncol. 23(9): 2313-2318, 2012 [PubMed]
  •  9) Masuishi T, et al.: Br J Cancer. 123(10): 1490-1495, 2020 [PubMed]
  • 10) Tsuji A, et al.: Target Oncol. 16(6): 753-760, 2021 [PubMed]
  • 11) Cremolini C, et al.: JAMA Oncol. 5(3): 343-350, 2019 [PubMed]
  • 12) Sartore-Bianchi A, et al.: Nat Med. 28(8): 1612-1618, 2022 [PubMed]
  • 13) Kagawa Y, et al.: J Clin Oncol. 40(suppl 16): abstr 3518, 2022 [JCO]

監訳・コメント:愛知県がんセンター 薬物療法部 舛石 俊樹

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