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8月
愛知県がんセンター 薬物療法部 医長 谷口 浩也

胃癌 食道胃接合部癌

DESTINY-Gastric02試験:欧米におけるHER2陽性胃癌・食道胃接合部癌に対する二次治療でのTrastuzumab Deruxtecanの単群第II相試験


Eric Van Cutsem, et al.: Lancet Oncol. 24(7): 744-756, 2023

背景
 進行胃・食道胃接合部癌の約15~20%はHER2陽性である1)。TOGA試験の結果から、HER2陽性胃・食道胃接合部癌において、化学療法(Fluoropyrimidine+白金製剤)+Trastuzumab療法が標準治療となっている2)。また、KEYNOTE-811試験の結果、FDAでは切除不能・進行胃癌の一次治療において化学療法+TrastuzumabへのPembrolizumabの併用が承認された3)。一方で、一次治療でのTrastuzumab併用療法によりHER2発現が消失することにより二次治療での抗HER2薬は治療抵抗性となることが示唆されている4)

 Trastuzumab DeruxtecanはHER2に対するヒト化モノクローナル抗体とトポイソメラーゼI阻害剤を切断可能なリンカーを介して結合させた抗体薬物複合体(antibody-drug conjugate: ADC)である。腫瘍細胞の細胞膜上に発現するHER2に結合して細胞内に取り込まれた後、腫瘍内のライソゾーム酵素によって選択的に切断され、高い膜透過性によりHER2発現腫瘍細胞の近隣腫瘍細胞にも抗腫瘍効果をもたらすバイスタンダー効果を有する5-7)

 日本と韓国で実施された非盲検無作為化第II相試験であるDESTINY-Gastric01試験の結果、Fluoropyrimidine、白金製剤、Trastuzumabを含む2レジメン以上の化学療法歴を有するHER2陽性胃癌患者に対して、Trastuzumab Deruxtecanは主治医選択の化学療法と比較して客観的奏効率および全生存期間において有意に良好な結果を示し標準治療として確立されている8)

 欧米とアジアでは食事、喫煙の有無、ヘリコバクター・ピロリ菌感染などのさまざまな要因により胃癌の予後が異なる可能性があることが示唆される9,10)。また、アジア諸国では検診ガイドラインが定められており、比較的早期の段階で胃癌の診断がなされるが、欧米の国々では胃癌患者の予後や5年生存率は一般的に不良である。

 今回、欧米にて行われたDESTINY-Gastric02試験の主要結果およびアップデート解析の結果を報告する。本試験の目的は一次治療としてTrastuzumabベースレジメンの治療を受け、HER2陽性が維持されていることが確認された切除不能または遠隔転移を有する胃・食道胃接合部癌患者を対象にTrastuzumab Deruxtecanの有効性および安全性を評価することである。

方法
 本試験は米国、ベルギー、スペイン、イタリア、英国の24施設が参加した多施設共同単群第II相試験である。対象は18歳以上、一次治療としてTrastuzumabを含む治療を受けた切除不能または遠隔転移を有する胃・食道胃接合部癌、中央判定でHER2陽性(IHC 3+または2+かつISH陽性)、Eastern Cooperative Oncology Group(ECOG)Performance Status(PS)0または1、臓器機能が保たれている、RECIST v1.1による測定可能病変を有する症例であった。Trastuzumab投与後の生検サンプルは腫瘍組織のheterogeneityを考慮し、複数のコア生検を採取することが規定されていた。

 間質性肺炎の既往歴を有する、またはスクリーニング時に間質性肺炎の併存が疑われる症例は除外された。

 Trastuzumab Deruxtecan 6.4mg/kgを3週毎に静脈内投与され、病勢増悪、許容できない有害事象、同意撤回、死亡のいずれかが発生するまで治療は継続された。

 主要評価項目は、中央判定による確定全奏効割合(ORR)(初回の奏効確認から4週間以降での評価)で、副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)、全奏効期間(OS)、担当医判断によるPFS、OS、奏効期間(DOR)、安全性である。統計設定としては閾値奏効率を27%、期待奏効率を45%、検出力90%として必要症例数は72例と定められた。

結果
 2019年11月から2020年12月に89例がスクリーニングされ10例は中央判定でHER2陰性であったため除外され79例が登録された。年齢中央値は60.7歳(範囲52.0-68.3)、男性が57例(72%)、白人が69例(87%)、アジア人が4例(5%)であった。

 2021年4月9日の一次解析データカットオフ(追跡期間中央値5.9ヵ月[範囲4.6-8.6ヵ月])の時点でORRは30例(38%、95% CI: 27.3-49.6)、完全奏効(CR)は3例(4%)、部分奏効(PR)は27例(34%)であった。追跡期間のアップデートが行われ、2021年11月のデータカットオフ時点で治療を継続していた症例は10例(13%)、試験治療を終了し後治療に移行した症例は39例であった。

 2021年11月のデータカットオフ(追跡期間中央値10.2ヵ月[範囲5.6-12.9])時点でORRは33例(42%、95% CI: 30.8-53.4)、CRは4例(5%)、PRは29例(37%)であった。DOR中央値は8.1ヵ月(95% CI: 5.9-NE)、PFS中央値は5.6ヵ月(95% CI: 4.2-8.3)、OS中央値は12.1ヵ月(95% CI: 9.4-15.4)であった。

 全症例において治療関連有害事象を認めた。Grade 3以上の治療関連有害事象は56%で報告され、重篤な有害事象は42%で認められた。

 また、薬剤に関連した有害事象は75例(95%)で報告され、grade 3以上の有害事象は24例(30%)、重篤な有害事象は10例(13%)であった。

 Grade 3以上の有害事象の内訳は貧血が11例(14%)、悪心が6例(8%)、好中球数減少が6例(8%)、白血球数減少が5例(6%)であった。

 治療中止に至った有害事象は15例(19%、10例[13%]が薬剤関連)でみられ、原因として最も頻度の高い有害事象は間質性肺疾患(ILD)、肺臓炎であり8例(10%)で認めた。減量に至った有害事象は17例(22%、14例[18%]が薬剤関連)でみられ、悪心が6例(8%)、好中球数減少が4例(5%)であった。投与中断に至った有害事象は23例(29%、8例[10%]が薬剤関連)で認めた。頻度の高い重篤な有害事象は肺臓炎が3例(4%)、ILDが2例(3%)、悪心が2例(3%)であった。

 2021年11月8日のデータカットオフ時点で、Trastuzumab Deruxtecanに関連したILDまたは肺臓炎は8例(10%)にみられ、grade 1が2例(3%)、grade 2が4例(5%)、死亡が2例(3%)であった。ILDまたは肺臓炎が発現するまでの期間の中央値は80.5日(範囲56.5-148.0)、存続期間中央値は36.0日(範囲20.0-56.0)であった。

 11例(14%)が死亡し、治験責任医師および独立委員会によりそのうち2例(3%)はTrastuzumab Deruxtecanに関連するILDまたは肺臓炎によるものと考えられた。

 Grade 2の左室駆出率低下(安静時の左室駆出率が40%以上50%未満、またはベースラインからの減少が10%以上20%未満と定義)が57例中6例(11%)に認められたが、臨床的な心不全イベントは認めなかった。

 本試験はCOVID-19のパンデミックの最中に試験の登録が行われておりCOVID-19により4例の患者が治療を中断し、2例の患者の死因となった。

 本試験は単群の第II相試験であるが欧米においてもアジアと同様にTrastuzumab既治療例におけるHER2陽性胃癌に対するTrastuzumab Deruxtecanの安全性と有効性が示された。

 また、Trastuzumab DeruxtecanがHER2陽性胃癌の二次治療における治療選択となりうる可能性を示唆する結果であった。

 現在、Trastuzumab既治療例におけるHER2陽性胃・食道胃接合部癌を対象に二次治療としてPaclitaxel+RamucirumabとTrastuzumab Deruxtecanを比較した無作為化第III相試験であるDESTINY-Gastric04試験が行われており結果が待たれる。


日本語要約原稿作成:愛知県がんセンター 薬物療法部 石塚 保亘



監訳者コメント:
欧米でもHER2陽性進行・再発胃癌に対するTrastuzumab Deruxtecanの有効性・安全性が確認

 本研究は、HER2陽性の進行・再発胃癌において、欧米諸国で行われた非盲検無作為化第II相試験である。アジアと欧米では、Helicobacter pyloriの罹患率、組織型(アジアではdiffuse typeが多い)、食道胃接合部癌の頻度、胃癌の罹患率そのものも大きく異なり、胃癌全体を取り巻く背景に違いがある11,12)。本試験の治療成績は先にアジアで実施されたDESTINY-Gastric01試験の結果と相違ないものであり、欧米でもHER2陽性胃癌に対するTrastuzumab Deruxtecan(T-DXd)の有効性が示されたと考えられる。毒性に関してもILDまたは肺臓炎は10%程度と報告されており、日本人の毒性プロファイルと大きな差異はなかった。

 一方で、最近はKEYNOTE-811試験の結果がプレスリリースされた13)。HER2陽性胃癌の一次治療において、化学療法とTrastuzumab併用療法に対するPembrolizumabの上乗せ治療が、主要評価項目である無増悪生存期間の延長を達成したものの、全生存期間における統計学的な上乗せは示されなかった。本試験の結果を受け、HER2陽性胃癌の一次治療で免疫チェックポイント阻害薬の併用療法が本邦において保険承認されるかどうかは、現時点では不透明である。FDAと同様に保険承認されれば、HER2陽性胃癌においても一次治療から免疫チェックポイント阻害薬の併用療法を用いる時代に突入することとなる。このほかにもHER2陽性胃癌では、多くの治験が実施されており、HER2陽性胃癌を取り巻く環境は大きく変わっていくかもしれない14)

 また、CLDN18.2陽性胃癌においては一次治療でZolbetuximabの承認申請が行われたことも胃癌領域ではトピックスになっている15)。胃癌の化学療法で使用可能な薬剤が増え、一次治療から薬剤の使い分けを考慮するという治療レジメンの細分化が今後進んでいくものと思われる。今後の展開に大いに期待したい。

監訳・コメント:愛知県がんセンター 薬物療法部 成田 有季哉

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