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9月
聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 主任教授 砂川 優

大腸癌

切除不能進行・再発大腸癌に対するFruquintinibとプラセボを比較した国際共同第III相試験:FRESCO-2


Arvind Dasari, et al.: Lancet. 402(10395): 41-53, 2023

 切除不能進行・再発大腸癌(mCRC)に対する標準的な前方治療は、殺細胞性抗癌薬と分子標的薬を症例毎に最適に組み合わせて行われる1,2)。一方、後方治療では、Trifluridine-TipiracilやRegorafenibを用いた治療法が行われ、これらの治療法によって生存期間が延長することが示されている3,4)。しかし、その他の有効な後方治療の選択肢は存在しないため、さらなる治療開発が望まれている。

 Fruquintinibは、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)の1、2および3への選択性が高い経口チロシンキナーゼ阻害薬である5-7)。中国で行われた第III相試験(FRESCO)では、少なくとも2レジメン以上の化学療法を受けたmCRC患者に対し、Fruquintinibはプラセボと比較して全生存期間(OS)の有意な改善をもたらした8)。これを受けて2018年にFruquintinibが中国で承認された。しかし、中国でのmCRCに対する治療はその他の地域と異なっており、前方治療としてVEGF阻害薬やEGFR阻害薬が標準的に投与されておらず、後方治療においてもTrifluridine-TipiracilとRegorafenibはまだ承認されていなかった。一方、米国で行われたmCRC患者に対する第Ib相試験において、FruquintinibはTrifluridine-TipiracilやRegorafenibの投与歴にかかわらず、有望な抗腫瘍効果と安全性を示すことが確認された9)。そこで、高度に治療を受けたmCRC患者に対し、Fruquintinibの有効性および安全性を評価するため、国際共同第III相試験であるFRESCO-2が行われた。

 対象患者は北米、欧州、アジア、オーストラリアの14ヵ国(124施設)からリクルートされた。主な適格基準は、1)18歳以上(日本は20歳以上)、2)フッ化ピリミジン、Oxaliplatin、Irinotecan、抗VEGF療法、および抗EGFR療法(RAS野生型の場合)を含む全ての標準治療を受け、Trifluridine-TipiracilまたはRegorafenibに対して不応または不耐である、3)RAS/BRAF/MSIのステータスが分かっている、4)ECOG PS 0-1、5)RECIST v1.1での測定可能病変あり、であった。MSI-Hの症例では免疫チェックポイント阻害薬が、BRAF V600E変異の症例ではBRAF阻害薬が、その地域で承認されている場合には、それぞれ投与されていることが必須とされた。

 適格患者は、Fruquintinib群とプラセボ群に2:1で無作為に割り付けられた。層別化因子は、前治療歴(Trifluridine-Tipiracil vs. Regorafenib vs. 両方)、RASステータス(野生型vs. 変異型)、および遠隔転移を有する期間(≦18ヵ月vs. >18ヵ月)であった。なお、Regorafenibの投与歴を有する患者は全体の50%までとなるよう制限された。Fruquintinibおよびプラセボは28日サイクルで1~21日目に経口投与され、両治療群間でのクロスオーバーは許容されなかった。

 主要評価項目はOS、副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)、客観的奏効割合、病勢制御割合、奏効期間、安全性であった。統計学的事項として、OSのハザード比(HR)を0.73(OS中央値:Fruquintinib群6.8ヵ月vs. プラセボ群5.0ヵ月)と仮定し、両側α=5%、検出力=90%により、必要症例数は687例と設定された。

 2020年8月12日から2021年12月2日の間に691例の患者がリクルートされ、461例がFruquintinib群に、230例がプラセボ群に割り付けられた。全患者の年齢中央値は64歳で、436例(63%)がRAS変異型であり、495例(72%)が肝転移を有していた。前治療ライン数の中央値は4(IQR: 3~6)で、502例(73%)は3レジメン以上の前治療を受けていた。また、666例(96%)に抗VEGF療法、268例(39%)に抗EGFR療法の前治療歴があり、全ての患者はTrifluridine-Tipiracil(361例[52%])、Regorafenib(58例[8%])、または両方(272例[39%])の前治療歴を有していた。

 主要評価項目であるOSは、Fruquintinib群で有意に良好であった(中央値7.4ヵ月vs. 4.8ヵ月、HR=0.66、95%信頼区間[CI]0.55-0.80、p<0.0001)。PFSもFruquintinib群で有意に良好であった(中央値3.7ヵ月vs. 1.8ヵ月、HR=0.32、95% CI: 0.27-0.39、p<0.0001)。OSとPFSは、事前に規定されたいずれのサブグループにおいてもFruquintinib群において良好な結果であった。客観的奏効はFruquintinib群で7例(2%)に認め、プラセボ群では認められなかった(p=0.059)。完全奏効は両群で認めず、Fruquintinib群の奏効期間の中央値は10.7ヵ月であった。病勢制御割合はFruquintinib群56%、プラセボ群16%であった(p<0.0001)。

 頻度が多い全gradeの有害事象は、高血圧(Fruquintinib群37% vs. プラセボ群9%)と無力症(34% vs. 23%)であった。Grade 3以上の有害事象はFruquintinib群で63%、プラセボ群で50%に認め、頻度の高いものは高血圧(14% vs. 1%)、無力症(8% vs. 4%)、手足症候群(6% vs. 0%)であった。治療関連死亡は各群で1例ずつ認めた(Fruquintinib群:消化管穿孔、プラセボ群:心不全)。有害事象による休薬/減量はFruquintinib群で47%/24%、プラセボ群で27%/4%に認め、Fruquintinib群で減量理由となった主な有害事象は手足症候群(5%)、高血圧(4%)、無力症(4%)であった。治療中止に至った有害事象の頻度はFruquintinib群で20%、プラセボ群で21%であった。

 以上のように、高度に前治療を受けているmCRC患者に対して、Fruquintinibはプラセボと比較してOSとPFSを有意に延長した。その結果、FruquintinibはmCRCの治療において、世界的にも新たな治療選択肢となり得ることが示された。


日本語要約原稿作成:聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 小川 和起



監訳者コメント:
選択的VEGFR1-3阻害薬であるFruquintinibはmCRCの4次治療以降において有意な生存延長効果を示した

 本論文で紹介するFRESCO-2試験は、中国で行われたFRESCO試験でプラセボに対し有意な生存延長効果を示したFruquintinibの有効性・安全性をグローバルで検証した第III相試験である。試験結果は主要評価項目であるOSにおいてFruquintinibの優越性が検証され、Kaplan-Meier曲線をみてもすべてのtime pointにおいてFruquintinib群の生存曲線が綺麗に上を行っており、見事なpositive studyである。したがって、mCRCの後方治療においてFruquintinibが世界的にも新たな標準治療の選択肢となると考えられる。

 FRESCO-2試験について特記すべきは、前治療のレジメン数が中央値で4(IQR: 3~6)という非常にheavily treatedの患者を対象に行われた試験であるという点である。これは標準的な前方治療だけでなく、後方治療としてTrifluridine-Tipiracil(FTD/TPI)とRegorafenibの少なくとも一つが投与されていることを適格基準として規定していたためである。実際に、Fruquintinib群の91%がFTD/TPI、48%がRegorafenibの既投与例であった。そして、前治療の内容にかかわらず、Fruquintinibの生存延長効果が認められたことは注目に値する。RegorafenibはVEGFR1-3、TIE2、PDGFR、FGFR、c-KIT、RET、CSF1Rといった複数のキナーゼに対する阻害作用をもつ。一方で、FruquintinibはVEGFR1-3のみを選択的に阻害する。本試験でRegorafenib耐性例に対してもFruquintinibが有効性を示したことは、大腸癌において血管新生がVEGF/VEGFR経路に強く依存しており、この経路を選択的に阻害することがいかに重要であるかを改めて認識させる結果である。

 Fruquintinibが臨床導入された場合、後方治療の最適なシークエンスは臨床的疑問点となる。近年報告されたSUNLIGHT試験では、FTD/TPIにBevacizumabを併用することで有意に生存期間が延長した。プラセボではなくactive drugを対照として優越性を示したFTD/TPI+Bevacizumab療法が後方治療のエビデンスの中では頭一つ抜き出ていると言えるだろう。一方、RegorafenibとFruquintinibは、試験が異なるため直接比較はできないが、プラセボに対する生存延長効果はどちらも同程度と考えられる。安全性の観点では、手足症候群、倦怠感、下痢の頻度はRegorafenibで多く、高血圧はFruquintinibで多い。有害事象による休薬/減量の頻度はCORRECT試験でのRegorafenib群で61%/38%、FRESCO-2試験でのFruquintinib群で47%/24%であった。このことからFruquintinibのほうがless toxicである可能性があり、全身状態の悪化しやすい後方治療では優先して投与しやすい可能性がある。この点については今後さらなる議論が必要であろう。

  • 1) Cervantes A, et al.: Ann Oncol. 34(1): 10-32, 2023 [PubMed]
  • 2) National Comprehensive Cancer Network: NCCN clinical practice guidelines in oncology: colon cancer, version 3, 2022
  • 3) Mayer RJ, et al.: N Engl J Med. 372(20): 1909-1919, 2015 [PubMed]
  • 4) Grothey A, et al.: Lancet. 381(9863): 303-312, 2013 [PubMed]
  • 5) Sun Q, et al.: Cancer Biol Ther. 15(12): 1635-1645, 2014 [PubMed]
  • 6) Duda DG, et al.: Trends Mol Med. 13(6): 223-230, 2007 [PubMed]
  • 7) Ellis LM, et al.: Nat Rev Cancer. 8(8): 579-591, 2008 [PubMed]
  • 8) Li J, et al.: JAMA. 319(24): 2486-2496, 2018 [PubMed]
  • 9) Dasari A, et al.: J Clin Oncol. 40(4_suppl): 93-93, 2022 [JCO]

監訳・コメント:聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 新井 裕之

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