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10月
聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 主任教授 砂川 優

食道癌

切除可能食道癌における術前化学放射線療法から外科的切除までの期間の延長を検討した多施設共同無作為化比較試験(NeoRes II試験)


Nilsson K, et al.: Ann Oncol. August 30, 2023 [Online ahead of print]

背景
 ESMOの食道癌診療ガイドライン2022では、切除可能な局所進行食道癌(T1N1-3M0またはT2-4aN0-3M0)に対する術前補助療法として、扁平上皮癌に対してはCarboplatinとPaclitaxelに41.4Gy(23回照射)の放射線療法を併用する化学放射線療法(CRT)が推奨され、腺癌および食道胃接合部腺癌に対しては上記のCRTもしくはFLOTレジメン(5-FU+Leucovorin+Oxaliplatin+Docetaxel)による化学療法の2つが推奨されている1)。従来、食道癌患者に対する術前CRTと手術の間隔は、4~6週間が最も一般的に推奨されている2-5)。しかしながら、術前CRT終了から外科的切除までの最適な間隔はわかっていない。CROSS試験は上記の術前CRTの有効性を検討した第III相無作為化比較試験であり、切除可能な食道癌366例を対象に、術前にCarboplatinとPaclitaxelを毎週5サイクル投与+総放射線量41.4Gyを行う群と手術療法単独群に分けて追跡し、主要評価項目である全生存期間の改善(49.4ヵ月vs. 24.0ヵ月、p=0.003)を示した6)。CRT群コホートに基づく観察研究では、術前CRT終了後6.5~12週間の間で、手術が遅れるにつれて組織学的完全奏効の確率が徐々に高くなることが報告されている7)。以上のことから、術前CRT後の手術までの期間を10~12週間に延長する群と、標準的な4~6週間の群を比較した多施設共同無作為化比較試験(NeoRes II試験)が実施された。

方法
 本試験は欧州の大学病院10施設(スウェーデン6施設、ノルウェー3施設、ドイツ1施設)で行われた。主要な適格基準は、80歳以下、臨床病期がT1N1-3M0またはT2-4aN0-3M0の食道または食道胃接合部の腺癌または扁平上皮癌、ECOG PSが0-1、術前CRT(Carboplatin AUC 2、Paclitaxel 50mg/m2を毎週5サイクル投与+総放射線量41.4Gy)の内、化学療法の80%以上(5サイクル中4サイクル)、総放射線量の90%(23分割中21分割=37.8Gy)以上を完遂していること、術前CRT後に手術可能と判断されることなどであった。主要な除外基準は、食道上部3分の1(内視鏡的には切歯から腫瘍上縁まで22cm以下)に腫瘍が位置すること、非黒色腫皮膚癌を除く重複癌、抗癌治療施行中、試験プロトコール不耐と予測されること、CRT終了後に局所または遠隔の病勢進行が認められた患者などであった。

 患者はCRT終了後2週間以内に登録され、各群に1:1で無作為に割り付けられた。層別化因子は、研究施設、組織型、腫瘍占拠部位であった。割り付けはオープンラベルとし、盲検化は行われなかった。標準的な手術までの期間が設定された群(標準群)では、CRT終了後4~6週後に外科的切除が計画された。手術までの期間が延長された群(延長群)では、CRT終了後10~12週後に切除が計画された。延長群の患者では、局所腫瘍進行の徴候を検出するために、CRT終了後4~6週目に内視鏡による腫瘍評価や嚥下障害の評価が行われた。局所腫瘍の進行が確認された場合や嚥下機能の低下が認められた場合には、必要に応じて画像検査を行い、腫瘍の増大を認める場合にはその時点での外科的切除が勧められた。外科的切除は、2領域リンパ節郭清を伴う開胸食道切除術、またはSiewert II型腫瘍の場合は拡大胃全摘術を選択した。

 主要評価項目は腺癌患者における原発巣の組織学的完全奏効割合であった。副次評価項目は扁平上皮癌患者および全患者の原発巣における組織学的完全奏効割合と腫瘍退縮グレード(TRG)、腫瘍切除割合、切除断端陰性、切除リンパ節および転移リンパ節の数、全患者および組織型別の全生存期間および無増悪生存期間であった。手術標本は盲検化された状態で病理医により検討された。TRGは原発性腫瘍の線維化に対する腫瘍細胞の割合として定義され、TRG 1は組織学的完全奏効、TRG 2は残存腫瘍細胞が1~10%、TRG 3は残存腫瘍細胞が10%超~50%、TRG 4は残存腫瘍細胞が50%超の4段階で評価された。

 本試験の統計設定はCROSS試験の術前CRT群コホートの結果に基づき7)、腺癌患者における組織学的完全奏効割合23.6%から43.1%への増加を検出するために、計176の手術標本が必要とされた(検出力80%、両側有意水準0.05)。データはintention-to-treat解析がなされた。

結果
 2015年2月11日から2019年3月28日までに、419例の患者がスクリーニングされ、249例が試験に登録され、無作為化された。125例が標準群に、124例が延長群に割り付けられた。標準群では2例、延長群では3例が同意を撤回し、治療前に打ち切られた。標準群では、5例(4%)が手術不適と判断され、1例(1%)が術中に肝転移を認めた。延長群では、3例(2%)が手術を辞退し、1例(1%)が手術不適とされ、10例(8%)がCRT終了8~10週間後の18F-FDG-PET-CT検査(7例)または手術時(3例)に遠隔転移があると診断されたため切除されず、1例(1%)が術中に重度肝硬変と診断されたため切除されなかった。合計223例(90%)に外科的切除が施行され、標準群では117例(95%)、延長群では106例(88%)であった(p=0.036)。患者背景は両群でバランスがとれていたが、扁平上皮癌患者は両群ともに20%程度であった。手術までの期間の中央値は標準群では39.5日、延長群では75日であった。

 主要評価項目である腺癌患者における原発巣の組織学的完全奏効の割合に関して、延長群は標準群に対する優越性を示さなかった(26% vs. 21%、p=0.429)。副次評価項目であるTRG、切除断端陰性、切除リンパ節数、転移リンパ節数に関しては、2つの組織型のいずれにおいても、また全患者においても、両群間で統計学的な有意差を認めなかった。追跡期間の中央値は36.4ヵ月であった。全患者のうち、25%(第1四分位)の患者が死亡するまでの期間は、延長群で有意に悪化した(26.5ヵ月vs. 14.2ヵ月、p=0.003)。同様に腺癌患者においても有意に悪化を認めた(29.7ヵ月vs. 14.2ヵ月、p=0.002)。扁平上皮癌患者では、延長群において悪化する傾向を認めた(22ヵ月vs. 13.6ヵ月、p=0.216)。全試験期間を通じて、延長群と標準群との間に全患者における死亡率の差は認められなかったものの、延長群は7ヵ月後に死亡リスクが上昇した。

 TRG群別に検討すると、TRG 4の患者において、延長群で有意に全生存期間が不良であった(ハザード比=2.5、95%信頼区間:1.1-5.8、p=0.026)。無増悪生存期間の解析でも、全生存期間と同様の結果が示された。年齢、性別、PS、併存疾患、腫瘍の位置、臨床的TおよびN病期を含む全生存期間のサブグループ解析では、両群間で有意差があるサブグループは認めなかった。2022年3月の追跡調査最終日において、標準的切除群では51例(44%)、手術期間延長群では43例(41%)で再発を認め、再発頻度や再発部位に関して、両群間で有意差は認めなかった。

まとめ
 食道癌患者に対する術前CRT終了から手術までの期間の延長は、組織学的完全奏効や他の病理学的評価項目を改善しなかった。一方で、延長群患者は、標準群患者と比較して、第1四分位患者の全生存期間が悪化し、TRG 4のサブグループにおいて、全生存期間が有意に不良であった。CRT後にルーチンで6週間以上手術を遅らせることには注意が必要であることが示唆された。


日本語要約原稿作成:聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 内田 吉保



監訳者コメント:
本試験から、食道または食道胃接合部の腺癌または扁平上皮癌に対しては、術前CRT終了後4~6週の間に手術を行うことが望ましい

 本試験は前向きに無作為化され、病理学的な治療効果は各群が盲検化された状態で病理医による診断が実施されていた。また、両群ともに9割程度の患者において手術までの治療が完遂されていた。そのため、術前のCRT終了後から手術までの期間を延長することによる病理学的意義を検討した質の高い研究であると考える。

 本試験において、CRT終了から手術までの期間を延長することによって、主要評価項目である原発巣の組織学的完全奏効割合の改善は示されず、TRG、切除断端陰性、切除リンパ節数、転移リンパ節数などのいずれの評価項目においても両群で有意な差を認めなかった。また、延長群で短期的な死亡率の上昇を示し、特にCRTに効果が乏しかったTRG 4(残存腫瘍細胞が50%超)の患者においては、延長群で全生存期間が有意に不良であった。以上のことから、食道または食道胃接合部の腺癌または扁平上皮癌に対する術前CRT後の手術までの期間を延長することによる利益はなく、CRT終了後4~6週の間に手術を行うことが望ましいと結論づけられる。

 CheckMate 577試験では、術前CRTおよび切除が施行され、病理学的に遺残を認めた食道癌に対する術後化学療法として、Nivolumabの有用性を示した8)。本試験において、術後化学療法がどの程度施行されていたかは不明であり、各群において術後補助化学療法が生存期間に及ぼす影響についてはさらなる検討が期待される。

  • 1) Obermannová R, et al.: Ann Oncol. 33(10): 992-1004, 2022 [PubMed]
  • 2) Klevebro F, et al.: Ann Oncol. 27(4): 660-667, 2016 [PubMed]
  • 3) Stahl M, et al.: J Clin Oncol. 27(6): 851-856, 2009 [PubMed]
  • 4) Burmeister BH, et al.: Lancet Oncol. 6(9): 659-668, 2005 [PubMed]
  • 5) Shapiro J, et al.: Lancet Oncol. 16(9): 1090-1098, 2015 [PubMed]
  • 6) van Hagen P, et al.: N Engl J Med. 366(22): 2074-2084, 2012 [PubMed]
  • 7) Shapiro J, et al.: Ann Surg. 260(5): 807-813, 2014 [PubMed]
  • 8) Kelly RJ, et al.: N Eng J Med. 384(13): 1191-1203, 2021 [PubMed]

監訳・コメント:聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 伊澤 直樹

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