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11月
国立がん研究センター中央病院 消化管内科/頭頸部・食道内科 科長 加藤 健

KRAS G12C変異固形癌

KRAS G12C変異固形癌におけるDivarasib(GDC-6036)単剤投与


Adrian Sacher, et al.: N Engl J Med. 389(8): 710-721, 2023

背景
 KRAS遺伝子の変異は、ヒトのがんにみられる最も一般的ながん原性ドライバー変異である1,2)KRASタンパク質の12位のグリシンからシステインへの変異(G12C)は、グアノシン三リン酸(GTP)加水分解により、KRASを常に活性なGTP結合状態にする。KRAS G12Cタンパク質の活性の増加により、腫瘍細胞の生存、増殖、転移を直接促進する複数の下流経路を介して発がんシグナル伝達を促進する。KRAS G12C変異は、非小細胞肺癌(NSCLC)患者の約12~14%、大腸癌患者の4%、その他の固形癌(NSCLCと大腸癌を除く)患者の最大4%に認められ、その頻度は人種や性別によって異なる3-5)。近年、このKRAS G12C阻害薬としてSotorasibやAdagrasibといった薬剤が開発されている。Divarasib(GDC-6036)は、高い効力と選択性を示すように設計された共有結合型のKRAS G12C阻害薬である。システイン残基に結合し、タンパク質を不可逆的に不活性状態にし、発がん性シグナル伝達をオフにする。Divarasibは、SotorasibおよびAdagrasibと比べて、in vitroで5~20倍の活性をもち、最大で50倍の選択性を示した6)。この進行中の第I相試験は、KRAS G12C変異を有する進行もしくは転移性固形癌患者を対象とし、Divarasib単剤もしくは他の抗癌剤との併用療法を評価している。

方法
 本報告はKRAS G12C変異を有する進行性または転移性固形癌患者を対象とし、Divarasib単剤に関する第I相非盲検多施設共同用量漸増・用量拡大試験の報告となる。

 主な適格基準は、18歳以上であること、KRAS G12C遺伝子変異を有する局所進行性または転移性固形癌であること、少なくとも1つ以上の標準治療後であること、RECIST v1.1による測定可能病変を有すること、ECOG PS 0-1であることであった。

 主な除外基準は、KRAS G12C阻害薬による前治療歴があること、活動性で未治療の中枢神経系転移があること、Divarasib開始前4週間以内に癌治療として放射線照射を受けていることなどであった。

 主要評価項目は安全性の評価であり、副次評価項目として薬物動態、抗腫瘍活性、効果・耐性予測のためのバイマーカーも評価した。

 Divarasibは、許容できない毒性作用が発現するか、病勢進行が起こるか、または患者が試験から離脱するまで、50~400mgの用量で1日1回、21日周期で経口投与された。患者は、50mgおよび100mgの用量レベルでDivarasibの単回用量漸増コホートに順次登録された。その後、3+3用量漸増デザインを使用して、200mgおよび400mgの用量コホートに追加患者が登録された。このデザインでは、プロトコールで定義されているように、各3例の患者からなるコホートで用量の減量につながる毒性作用が評価され、拡大用量が同定されるまで用量は漸増された。その後、患者はDivarasib 400mgの用量拡大コホートに登録された。用量拡大コホートには、治療前および治療開始から約1~2週間後に生検を受けた患者で構成される生検コホート(100~400mg)が含まれていた。

 安全性はCTCAE v5.0に従って評価された。

 また効果・耐性予測のためのバイマーカー研究としてTP53STK11KEAP1、およびAPCの変異状態を、治療前に収集された血液サンプルでF1LCDxアッセイを使用して評価した。またPD-L1陽性割合をIHC 22C3 pharmDxアッセイまたは他のアッセイを用いて評価した。

結果
 137例(NSCLC 60例、大腸癌55例、その他の固形癌22例)にDivarasibの投与が行われた。治療期間中央値は全患者で6.9ヵ月、NSCLC患者で8.3ヵ月、大腸癌患者で5.5ヵ月であった。

 患者の年齢中央値は65歳(範囲30~85歳)、治療数中央値は2(範囲0~8)、白人が109例(80%)、アジア人が19例(14%)、黒人が1例(1%)、その他8例(6%)であった。NSCLC患者のうち、60%(評価可能であった45例中27例)がPD-L1陽性割合が1%以上であった。53例(88%)が以前にプラチナ療法を受けており、52例(87%)が以前に抗PD-1または抗PD-L1療法を受けていた。大腸癌患者のうち、55例(100%)がFluorouracilまたはCapecitabine、54例(98%)がOxaliplatin、46例(84%)がIrinotecan、34例(62%)がBevacizumabの治療を受けていた。

 安全性に関しては、検討したいずれの用量(50mg、100mg、200mg、400mgを1日1回投与)においても、用量制限毒性と治療関連死はなかった。127例(93%)に治療関連有害事象があり、悪心101例(74%)、下痢84例(61%)、嘔吐80例(58%)であった。Grade 3の治療関連有害事象は15例(11%)に発現し、下痢5例(4%)、ALT増加4例(3%)、AST増加4例(3%)、悪心嘔吐、疲労、リパーゼ増加、低カリウム血症、血中アルカリフォスファターゼ増加、低リン血症、好中球減少症(各1例)であった。Grade 4の治療関連事象(アナフィラキシー反応)が1例(1%)であった。用量減量が必要な有害事象は19例(14%)、治療中止が必要な有害事象は4例(3%)で認めた。

 NSCLC患者集団において、全投与量レベルでは完全奏効(CR)が1例(2%)、部分奏効(PR)が34例(59%)、病勢安定(SD)が17例(29%)、病勢進行(PD)が4例(7%)であった。奏効割合(ORR)は53.4%(95% CI: 39.9-66.7)、奏効期間(DoR)中央値は14.0ヵ月(95% CI: 8.3-未到達)、無増悪生存期間(PFS)中央値は13.1ヵ月(95% CI: 8.8ヵ月-未到達)であった。400mg投与された39例においては、ORRは56.4%(95% CI: 39.6-72.2)、DoR中央値は11.9ヵ月(95% CI: 6.9-未到達)、PFS中央値は13.7ヵ月(95% CI: 8.1ヵ月-未到達)であった。

 大腸癌患者集団においては、全投与量レベルではCRが1例(2%)、PRが19例(35%)、SDが27例(49%)、PDが6例(11%)であった。ORRは29.1%(95% CI: 17.6-42.9)、DoR中央値は7.1ヵ月(95% CI: 5.5-7.8)、PFS中央値は5.6ヵ月(95% CI: 4.1-8.2)であった。400mg投与された39例においては、ORRは35.9%(95% CI: 21.2-52.8)、DoR中央値は7.7ヵ月(95% CI: 5.7-未到達)、PFS中央値は6.9ヵ月(95% CI: 5.3-9.1)であった。

 その他の固形癌患者集団においては、22例全例に400mgが投与された。PRが8例(36%:膵臓腺癌3例、肛門腺癌、胆管癌、子宮内膜扁平上皮癌、肺大細胞神経内分泌癌、胃腺癌各1例)、SDが11例(50%:膵臓腺癌と胆管癌が各4例、虫垂腺癌、乳癌、十二指腸腺癌が各1例)、PDが1例(5%:胆管癌)であった。

 薬物動態に関しては、Divarasib 400mg単回投与後の平均(±SD)半減期は17.6±2.7時間、血中最高濃度までの到達時間の中央値は2.0時間(範囲0.5~8.0)であった。

 1サイクル目の1日目にctDNAからKRAS G12C変異が検出された70例(NSCLC 26例、大腸癌35例、その他の固形癌9例)において、KRAS G12C変異アレル頻度(VAF)の減少が1サイクル目の15日目という早い段階で観察された。また、PRとなったすべての症例で3サイクル目の1日目のVAFは1%未満であった。

 PFSが3ヵ月以上であった患者のサブグループ(29例:NSCLC 8例、大腸癌16例、その他の固形癌5例)のうち、16例(NSCLC 3例、大腸癌9例、その他の固形癌4例)において、KRASコピー数の増加または増幅、KRAS非G12C変異の出現、RTKやMAPKまたはPI3K経路の変異、RB1コピー数の欠失などが少なくとも1つ認められており、耐性の可能性がある遺伝子変異と考えられた。

結語
 本第I相試験では、NSCLCにおいてDivarasib単剤投与400mgコホートでORRが56.4%、PFS中央値が13.7ヵ月であり、大腸癌においてはORRが35.9%、PFS中央値6.9ヵ月と良好な結果であった。これらは既報におけるSotorasibやAdagrasibの結果と比べても、かなり良好な結果であった。有害事象に関しても主に低gradeの消化器系有害事象のみであり、支持療法で管理可能であった。治療関連有害事象に起因する減量や治療中止もまれであり(減量14%、治療中止3%)7,8)、これらは既報と同等の頻度であった9)

 Divarasibは良好な安全性と強い抗腫瘍効果を示し、単剤としても他の抗癌療法との併用としても有望な薬である。


日本語要約原稿作成:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 松隈 国仁



監訳者コメント:
より強力な親和性をもったDivarasibは有望な結果を示し、第2世代のKRASG12C阻害薬の有効性が期待される

 KRASG12C変異に対する薬は現在、肺癌や大腸癌を中心に急速に開発が進んでいる。SotorasibとAdagrasibはすでに肺癌でFDA承認がなされ、続いて他の薬物療法との併用療法が検証されている。有効性は単剤では非小細胞肺癌で奏効割合がSotorasibは28%、またAdagrasibは43%と報告される。一方で大腸癌では単剤での有効性が限定され、抗EGFR抗体薬との併用でSotorasibが30%、Adagrasibが46%と報告されている。本試験では単剤で奏効割合が肺癌において56.4%、大腸癌において35.9%と非常に良好な結果であった。また安全性に関しては既報の薬剤とほぼ同等の結果であった。本試験では効果判定が中央判定でなかったことや人種差に偏りがあったこと、単群での少数例であることなどの制限はあるが、特に大腸癌においてDivarasib単剤でSotorasibやAdagrasibと抗EGFR抗体薬併用療法と同等の有効性を示しており、今後の開発が期待される。ESMO 2023において、同様に親和性と選択性を高めたKRASG12C阻害薬であるD-1553のCetuximabとの併用療法による第II相試験の結果が報告されている。この試験においては標準治療が終了したKRASG12C変異を有する大腸癌が対象となったが、奏効割合が45%と良好な結果が報告された10)。DivarasibやD-1553、また同様に高い効果が報告されているLY353798211)といった薬剤はまだ開発途中で早期相の結果だが、SotorasibやAdagrasibといったすでに承認されている薬剤よりもより高い有効性が期待できる。KRASG12C阻害薬はすでに第2世代が出現しつつあると考えられる。

 一方で大腸癌におけるKRASG12C阻害薬の無増悪生存期間は奏効割合が良好であったDivarasibにおいても5.6ヵ月と非小細胞肺癌と比較して短く、早期の耐性出現が課題となっている。これらはKRASG12Cの薬剤耐性に加えて、他のKRAS変異や下流経路の活性化が生じており、単剤での限界を示唆している。本結果を踏まえて、AtezolizumabやCetuximab、Bevacizumab、Erlotinib、GDC-1971、PI3Kα阻害薬などの薬剤との併用治療が検証されており、今後の治療開発がどのようになっていくか、非常に注目される。

  •  1) Cox AD, et al.: Nat Rev Drug Discov. 13(11): 828-851, 2014 [PubMed]
  •  2) Simanshu DK, et al.: Cell. 170(1): 17-33, 2017 [PubMed]
  •  3) Lee JK, et al.: NPJ Precis Oncol. 6(1): 91, 2022 [PubMed]
  •  4) Nassar AH, et al.: N Engl J Med. 384(2): 185-187, 2021 [PubMed]
  •  5) Scharpf RB, et al.: Cancer Res. 82(21): 4058-4078, 2022 [PubMed]
  •  6) Purkey H: Discovery of GDC-6036, a clinical stage treatment for KRAS G12C-positive cancers. Presented at the AACR Annual Meeting, New Orleans, April 8-13, 2022
  •  7) Skoulidis F, et al.: N Engl J Med. 384(25): 2371-2381, 2021 [PubMed]
  •  8) de Langen AJ, et al.: Lancet. 401(10378): 733-746, 2023 [PubMed]
  •  9) Jänne PA, et al.: N Engl J Med. 387(2): 120-131, 2022 [PubMed]
  • 10) Xu RH, et al.: Safety and efficacy of D-1553 in combination with cetuximab in KRAS G12C mutated colorectal cancer (CRC): A phase II study. Abstract 5500, ESMO Congress 2023
  • 11) Murciano-Goroff YR, et al.: A first-in-human phase 1 study of LY3537982, a highly selective and potent KRAS G12C inhibitor in patients with KRAS G12C-mutant advanced solid tumors. Presented at the AACR Annual Meeting, Orlando, April 14-19, 2023

監訳・コメント:国立がん研究センター中央病院 消化管内科 廣瀬 俊晴

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