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12月
国立がん研究センター中央病院 消化管内科/頭頸部・食道内科 科長 加藤 健

胃癌 食道胃接合部癌

HER2陽性の胃または食道胃接合部腺癌に対するPembrolizumab+Trastuzumab、化学療法併用療法:無作為化プラセボ対照第III相試験(KEYNOTE-811試験)の中間解析


Janjigian YY, et al.: Lancet. October 19, 2023 [Online ahead of print]

 胃または食道胃接合部腺癌の約4分の1にHER2チロシンキナーゼの異常な活性化がみられる1-4)HER2遺伝子増幅またはHER2蛋白の過剰発現がみられる患者に対しては、抗HER2抗体であるTrastuzumabと殺細胞性抗癌剤(フッ化ピリミジン+プラチナ)が推奨される一次治療である5)。一方でPD-1阻害薬と分子標的薬の併用は前臨床研究でHER2陽性胃癌に対し免疫浸潤やT細胞の反応性の改善、寛容原性樹状細胞の克服を示し6,7)、そしてPembrolizumabとTrastuzumab、化学療法併用療法は有意な奏効を示した8,9)。また抗PD-1抗体はHER2陰性胃癌に対し生存期間の延長を示しており、その有効性はcombined positive score(CPS)が1以上の患者でより高かった10,11)。そこで未治療HER2陽性、遠隔転移の胃または食道胃接合部癌に対するTrastuzumab+化学療法(Fluorouracil+Cisplatin[XP]またはCapecitabine+Oxaliplatin[CapeOX])にPembrolizumabを上乗せする有効性と安全性を検証するプラセボ対照、無作為化比較第III相試験であるKEYNOTE-811試験が行われた。本試験は1回目の中間解析でプラセボ群と比較しPembrolizumab群の有意な客観的奏効割合(ORR)の改善が示され、事前の統計学的設定を満たしている12)。今回はプロトコールで規定された2回目、3回目の中間解析の結果である。

 対象は18歳以上のHER2陽性(IHC 3+またはIHC 2+かつISH陽性)の胃または食道胃接合部腺癌患者であった。患者はPembrolizumab群とプラセボ群に1:1で無作為に割り付けられ、層別化因子は地域(オーストラリア、欧州、イスラエル、北米vs. アジアvs. その他)、CPS(1以上vs. 1未満)、化学療法(XP vs. CapeOX)であった。主要評価項目はintention-to-treat(ITT)集団の無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)で、副次評価項目は客観的奏効と奏効持続期間(DoR)であった。

 本試験は3回の中間解析と最終解析が設定された。1回目の中間解析は260例の患者が8.5ヵ月以上のフォローアップを達成した段階で行われ、2回目の中間解析は最後の患者が登録されてから9ヵ月以上経過した段階で行われた。3回目の中間解析はPFSの最終解析とOSの中間解析を目的としており、最後の患者が登録されてから18ヵ月以上経過した段階で行われた。Mauer and Bretzのグラフィカルアプローチにより試験全体の第一種過誤(αエラー)が片側0.025に制御され、ORRに0.002、PFSに0.003、OSに0.02が割り当てられた。

 2018年10月から2021年8月の間に1,327例の患者がスクリーニングされ、698例がそれぞれPembrolizumab群(350例)とプラセボ群(348例)に無作為化割り付けされた。両群の患者背景に偏りはなく、年齢中央値が63歳、98%に遠隔転移があり、胃原発が67%、HER2 IHC 3+が78%、CPS 1以上が85%であった。また化学療法としてCapeOXが全体の85%を占めた。無作為化からデータカットオフまでの期間中央値は2回目の中間解析の時点でPembrolizumab群28.3ヵ月(IQR: 19.4-34.3)、プラセボ群28.5ヵ月(20.1-34.3)、3回目の中間解析の時点でPembrolizumab群38.4ヵ月(29.5-44.4)、プラセボ群38.6ヵ月(30.2-44.4)であった。

 本試験は2回目の中間解析でPFSの優越性が示された。PFS中央値はPembrolizumab群10.0ヵ月(95% CI: 8.6-11.7)、プラセボ群8.1ヵ月(95% CI: 7.0-8.5)、HR=0.72、95% CI: 0.60-0.87、p=0.0002であった。24ヵ月時点でPembrolizumab群の25.1%(95% CI: 20.1-30.5)、プラセボ群の14.2%(95% CI: 10.1-19.1)の患者が生存していた。CPS 1以上の患者においてもPembrolizumab群でPFSの延長がみられ(中央値10.8ヵ月[8.5-12.5]vs. 7.2ヵ月[6.8-8.4]、HR=0.70[0.58-0.85])、24ヵ月PFS割合は27.0%(21.5-32.8)vs. 13.3%(9.0-18.5)であった。一方でCPS 1未満の患者においてはPFSに差はみられなかった(中央値9.5ヵ月[8.3-11.3]vs. 9.6ヵ月[7.9-13.0]、HR=1.17[0.73-1.89])。3回目の中間解析でも同様の結果であった。サブグループ解析ではCPS 1未満を除いてどの集団においてもPembrolizumab群のPFSが良好であった。

 2回目の中間解析時点でPembrolizumab群の58%、プラセボ群の61%の患者が死亡した。OS中央値はPembrolizumab群20.0ヵ月(95% CI: 17.8-23.2)、プラセボ群16.9ヵ月(95% CI: 15.0-19.8)、HR=0.87、95% CI: 0.72-1.06、p=0.084で有意差を示せなかった。CPS 1以上のサブグループにおいてはPembrolizumab群が良好なOSを示したが(中央値20.5ヵ月[18.2-24.3]vs. 15.6ヵ月[13.5-18.6]、HR=0.79[0.64-0.98])、CPS 1未満では中央値16.1ヵ月(13.9-20.8)vs. 22.3ヵ月(16.6-30.1)、HR=1.61(0.98-2.64)であった。3回目の中間解析ではOS中央値はPembrolizumab群20.0ヵ月(95% CI: 17.8-22.1)、プラセボ群16.8ヵ月(95% CI: 15.0-18.7)、HR=0.84、95% CI: 0.70-1.01で、CPS 1以上では中央値20.0ヵ月(17.9-22.7)vs. 15.7ヵ月(13.5-18.5)、HR=0.81(0.67-0.98)であった。OSのデータは蓄積中であり最終解析が行われる。後治療についてはPembrolizumab群の39%、プラセボ群の47%に2次治療が投与され、それぞれ16%と18%にTrastuzumabやTrastuzumab Deruxtecanを含むHER2阻害薬が、14%と18%に血管新生阻害薬が、6%と6%に抗PD-1または抗PD-L1薬が投与された。

 ORRはPembrolizumab群で72.6%、プラセボ群で59.8%であった。2回目の中間解析時点で完全奏効(CR)は14%と11%で、CRと部分奏効(PR)の患者のDoRはそれぞれ11.2ヵ月(95% CI: 9.8-13.2)と9.0ヵ月(7.1-11.2)であった。また奏効が得られた患者のそれぞれ31%(95% CI: 24.5-37.6)と19%(12.8-25.4)が少なくとも24ヵ月以上の奏効を維持していた。ORRは3回目の中間解析においても同様であった。

 有害事象は2回目の中間解析時点でPembrolizumab群の99%、プラセボ群の100%に生じた。頻度が高い有害事象は下痢(52%/46%)、悪心(48%/48%)、貧血(45%/46%)、嘔吐(32%/29%)であった。Grade 3以上の有害事象はPembrolizumab群の71%、プラセボ群の65%に生じ、頻度の高い有害事象は貧血(13%/10%)、下痢(10%/8%)であった。治療関連有害事象は両群とも97%の頻度で起こり、grade 3以上の治療関連有害事象はPembrolizumab群で58%、プラセボ群で51%であった。治療関連死はPembrolizumab群で4例(1%)、プラセボ群で3例(1%)であった。3回目の中間解析においても有害事象は同様であった。Grade 3以上の免疫関連有害事象はPembrolizumab群で10%、プラセボ群で3%に生じ、腸炎(3%/2%)が最も頻度が高かった。

 以上のように、中間解析の結果からPFSはPembrolizumab群で統計学的に有意な改善を認めた。一方でOSの改善は中間解析では統計学的に有意な水準に達しておらず、最終解析の結果が待たれる。

 本試験結果を受け、FDAはPembrolizumab+Trastuzumab、化学療法併用療法の適用をCPS 1以上に限定した。


日本語要約原稿作成:大阪医科薬科大学病院 消化器内科 化学療法センター 角埜 徹



監訳者コメント:
HER2陽性胃癌に、Pembrolizumabのいち早い承認が期待される

 今年のESMOで消化器領域では最も注目された演題の一つである、KEYNOTE-811試験の中間解析の報告である。HER2陽性、CPS 1以上の患者において、Pembrolizumabの上乗せによるPFSの延長がみられているが、CPS 1未満ではみられなかった。OSも同様の傾向であった。この結果を受けて、ヨーロッパでは、CPS 1以上の患者に、Pembrolizumabを上乗せすることが承認され、ESMOのガイドラインでも、CPS 1未満の患者には推奨されないこととなった。

 米国では一足早く、有効率も1回目の中間解析では奏効率が、標準化学療法群51.9%に対しPembrolizumab群74.4%であり、FDAで条件付き承認とされ、臨床上、用いられるようになっていた。しかしながら、今回の結果で、米国での承認はヨーロッパ同様、CPS 1以上に限定された。なお、奏効率は今回の報告では、59.8%に対し72.6%とあり、差が薄まってはいるが12.8%の違いはみられている。

 もちろん、日本での承認も期待される。OSが最終解析で有意差がつくまで待たないといけないのか、CPS 1未満の患者に対する適応がどうなるのか、大いに注目される。

 臨床現場としては、OSに関しては、Trastuzumab Deruxtecanという有効な薬剤が多くの国で承認となり、後治療として使われていることを考えると、最終解析で有意差がつかないとしても、今回のPFSでのpositiveな結果をうけて、ドラッグラグのない、いち早いPembrolizumabの適応拡大を期待したい。またCPS 1未満も適応となることにも期待する。いずれにせよ、2011年にTrastuzumabがファーストラインとして、承認されたのちの大きな変化が、間近にきていることを感じさせるデータであり、バイオマーカーによるきめ細かい適応の判断が、より要求されるようになるであろう。

  •  1) Bartel M, et al.: J Clin Oncol. 37(4_suppl): 40-40, 2019 [JCO]
  •  2) Cancer Genome Atlas Research Network: Nature. 541(7636): 169-175, 2017 [PubMed]
  •  3) Janjigian YY, et al.: Cancer Discov. 8(1): 49-58, 2018 [PubMed]
  •  4) Cancer Genome Atlas Research Network: Nature. 513(7517): 202-209, 2014 [PubMed]
  •  5) Bang YJ, et al.: Lancet. 376(9742): 687-697, 2010 [PubMed]
  •  6) Di Pilato M, et al.: Cell. 184(17): 4512-4530, 2021 [PubMed]
  •  7) Stagg J, et al.: Proc Natl Acad Sci USA. 108(17): 7142-7147, 2011 [PubMed]
  •  8) Janjigian YY, et al.: Lancet Oncol. 21(6): 821-831, 2020 [PubMed]
  •  9) Rha SY, et al.: J Clin Oncol. 38(15_suppl): 3081-3081, 2020 [JCO]
  • 10) Janjigian YY, et al.: Lancet. 398(10294): 27-40, 2021 [PubMed]
  • 11) Sun JM, et al.: Lancet. 398(10302): 759-771, 2021 [PubMed]
  • 12) Janjigian YY, et al.: Nature. 600(7890): 727-730, 2021 [PubMed]

監訳・コメント:大阪大学医学部附属病院 がんゲノム医療センター 佐藤 太郎

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