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12月
国立がん研究センター中央病院 消化管内科/頭頸部・食道内科 科長 加藤 健

大腸癌

KRAS G12C遺伝子変異を有する治療抵抗性大腸癌に対するsotorasibとpanitumumabの併用療法


Marwan G Fakih, et al.: N Engl J Med. 389(23): 2125-2139, 2023

 KRAS(Kirsten rat sarcoma viral oncogene homologue)のコドン12番目におけるグリシン-システイン変異(KRAS G12C)は、転移性大腸癌患者の約3~4%にみられるドライバー変異であり、予後不良因子の可能性がある1,2)

 初回治療(fluoropyrimidineベースの化学療法とbevacizumabの併用または非併用)に抵抗性を示す患者において、標準的な後方治療であるtrifluridine-tipiracilまたはregorafenibは、客観的奏効率1~2%、無増悪生存期間(PFS)中央値2.0ヵ月以下であり有害事象も伴う3,4)

 これまでKRAS遺伝子変異大腸癌患者の治療に特化した標的治療薬は承認されていない。KRAS G12C阻害剤(sotorasibおよびadagrasib)の単剤投与は、KRAS G12C変異型非小細胞肺癌患者の予後を改善するが、大腸癌患者においてKRAS G12C阻害剤単独投与での有効性は限定的である5)。KRAS G12C阻害により生じる治療抵抗性は、主に上皮成長因子受容体(EGFR)経路の上流での再活性化によって出現し、前臨床モデルにおけるKRAS G12C阻害とEGFR阻害の併用による相乗活性によって支持されている6-8)KRAS G12C遺伝子変異を有する治療抵抗性大腸癌患者を対象とした、最近の単群第Ib相試験であるCodeBreaK 101では、Sotorasib単独療法での奏効率9.7%に対し、sotorasib-panitumumab療法の奏効率は30%であった9,10)。第II相試験によるsotorasibの推奨用量は1日1回960mgである。しかし、sotorasibの薬物動態特性が非線形であるため、1日1回240mgでの低用量投与法を検討中である11-13)

 今回、KRAS G12C遺伝子変異を有する治療抵抗性転移性大腸癌患者を対象に、2種類の異なる用量のsotorasib(960mgと240mg)とpanitumumabとの併用療法の有効性と安全性を、治験担当医師が選択した標準治療(trifluridine-tipiracilまたはregorafenib)と比較評価する国際共同第III相CodeBreaK 300試験を実施した。

 対象は、KRAS G12C変異を有する転移性大腸癌に対し、KRAS G12C阻害剤未治療例とし、2022年4月19日から2023年3月14日の間に、12ヵ国の76施設で合計219例の患者がスクリーニングを受け、欧州(65.6%)、アジア(22.5%)、北米(10.6%)、その他の地域(1.2%)の160例であった。彼らをsotorasib 960mg 1日1回投与+panitumumab投与群(53例)、sotorasib 240mg 1日1回投与+panitumumab投与群(53例)、標準治療群(54例、うち37例がtrifluridine-tipiracil投与、14例がregorafenib投与)に無作為に割り付けた。

 主要評価項目は、無増悪生存期間(PFS)とし、無作為化から病勢進行、または死因によらず死亡、のいずれか先に発生するまでの期間とした。副次評価項目は、全生存期間(OS)、客観的奏効率、奏効期間、奏効までの期間、盲検化された独立中央審査委員会による病勢制御率(完全奏効+部分奏効+7週間以上の病勢安定と定義)、安全性、QOL(結果はここでは報告されない)、薬物動態であった。sotorasib(940mg、240mg)-panitumumab群それぞれの標準治療に対する病勢進行または死亡のハザード比(HR)を0.4と仮定し、両側α=0.05、検出力90%では90件のイベントが必要であり、必要症例数は153例とした。主要評価項目における統計解析では、まずsotorasib 960mg-panitumumab群と標準治療群のPFSを両側α=0.025で検定し、統計学的有意差が示された場合、両側α=0.03125でsotorasib 240mg-panitumumab群と標準治療群のPFSを比較することで、共に検証する。

 観察期間中央値7.8ヵ月において、主要評価項目であるPFS中央値はsotorasib 960mg-panitumumab群で5.6ヵ月、sotorasib 240mg-panitumumab群3.9ヵ月、標準治療群2.2ヵ月であり、標準治療群に対しsotorasib-panitumumab群で有意に良好であった(sotorasib 960mg:HR=0.49[95% CI: 0.30-0.80]、p=0.006)(sotorasib 240mg:HR=0.58[95% CI: 0.36-0.93]、p=0.03)。

 客観的奏効率は、sotorasib 960mg-panitumumab群で26.4%(95% CI: 15.3-40.3)、sotorasib 240mg-panitumumab群で5.7%(95% CI: 1.2-15.7)であったのに対し、標準治療群では0%(95% CI: 0.0-6.6)であった。また、奏効期間中央値は、sotorasib 960mg-panitumumab群で4.4ヵ月(95% CI: 3.6ヵ月~未達)であり、他の群では奏効が不十分であったため推定されていない。

 OSは、追跡期間が不十分であるが、標準治療群と比較してsotorasib 960mg-panitumumab群のHR=0.77[95% CI: 0.40-1.45]、240mg群のHR=0.91(95% CI: 0.48-1.71)であった。

 治療関連有害事象は、sotorasib 960mg-panitumumab群では53例中50例(94.3%)、sotorasib 240mg-panitumumab群では53例中51例(96.2%)、標準治療群では51例中42例(82.4%)に出現した。sotorasib-panitumumab両群で最も多くみられた有害事象は、低マグネシウム血症(sotorasibの960mg群で28.3%、240mg群で30.2%)、発疹(それぞれ28.3%、24.5%)、ざ瘡様皮膚炎(それぞれ22.6%、37.7%)であった。標準治療群で最も多かった有害事象は好中球減少症(31.4%)および悪心(29.4%)であった。Grade 3以上の重篤な治療関連有害事象は、sotorasib 960mg-panitumumab群、sotorasib 240mg-panitumumab群、標準治療群でそれぞれ35.8%、30.2%、43.1%に出現し、最も多かったのは、sotorasib 960mg-panitumumab投与群では、ざ瘡様皮膚炎(11.3%)、低マグネシウム血症(5.7%)、発疹(5.7%)、sotorasib 240mg-panitumumab群では低マグネシウム血症(7.5%)および下痢(5.7%)、標準治療群では好中球減少症(23.5%)、貧血(5.9%)および高血圧(5.9%)であった。

 以上のように、治療抵抗性大腸癌においてsotorasibとpanitumumabの併用療法は、4次治療に対しPFSで有意な延長を認めた。本試験の結果より、KRAS G12C変異を有する標準治療抵抗性大腸癌における4次治療として、sotorasibとpanitumumabの併用療法は新たな標準治療であることが示された。


日本語要約原稿作成:埼玉医科大学国際医療センター 腫瘍内科・消化器腫瘍科 鈴木 康太



監訳者コメント:
KRAS G12C変異型大腸癌にKRAS G12C阻害薬とEGFR阻害薬併用療法が加わる!

 本CodeBreaK 300試験は国内施設を含む12ヵ国76施設が参加した国際共同治験であり、ESMO congress 2023の消化器癌領域で注目された演題のひとつである。すでにKRAS G12C変異型非小細胞肺癌において、KRAS G12C阻害薬であるsotorasib(商品名:LUMAKRAS[ルマケラス])は、2022年4月に国内実地臨床で使用されている薬剤である。LUMAはラテン語で「光」や「明るさ」を意味する語源をもち、明確な道筋を照らすことを意味する言葉であり、KRAS変異のひとつであるKRAS G12C変異を標的とすることの造語から命名されたとのことである。KRAS変異は多くのがん種にみられる遺伝子異常であり、これまでさまざまな薬剤が開発されたものの上市されるまでに至らなかったが、まさに本剤はRAS阻害剤の開発に「光」をもたらしたと言っても過言ではない。

 sotorasibは単剤でも非小細胞肺癌では予後を改善するものの、大腸癌ではEGFR経路上流の再活性化により効果が限定されることからEGFR阻害剤を併用する必要がある5-8)。これはBRAF V600E変異型大腸癌に対してBRAF阻害剤とEGFR阻害剤の併用が必要であることと似た現象であるといえる14)

 CodeBreaK 300試験はsotorasib 960mgもしくはsotorasib 240mgにpanitumumabを併用した試験治療群と、trifluridine-tipiracilもしくはregorafenibをinvestigator’s choiceした群を標準治療群とした比較試験であり、今回の報告は主要評価項目であるPFSの検定に必要な91イベントを確認した2023年6月15日をdata-cutoff日として解析された結果となる。今回の解析ではsotorasib 960mg-panitumumab群とsotorasib 240mg-panitumumab群ともに標準治療群に比較して統計学的に優れていたことが検証された。本試験ではsotorasib 960mg-panitumumab群とsotorasib 240mg群を直接比較するような統計設定にはなっていないが、それぞれの標準治療との有効性で比較してみると、PFSとOSにおけるHR(OSは現時点ではimmature)および奏効率ではsotorasib 960mg群で良好な傾向である。さらに有害事象でもsotorasib 960mg群は240mg群ともmanageableな結果であった。以上から、もちろんOSのupdate dataを確認する必要があろうが、sotorasib 960mg-panitumumab療法が実地臨床に導入されることになると思われる。

 今後は、BRAF阻害剤におけるBREAKWATER試験15)のように化学療法との併用にて初回化学療法における有用性を検討することになるのだろうか。すでに非小細胞肺癌ではsotorasibと化学療法との併用により奏効率89%と良好な成績が得られたとの国内医師主導第II相治験の結果が報告されている16)。同治療法の国内実地臨床への導入と今後の開発が期待されるところである。

  •  1) Fakih M, et al.: Oncologist. 27(8): 663-674, 2022 [PubMed]
  •  2) Henry JT, et al.: JCO Precis Oncol. 5: PO.20.00256, 2021 [PubMed]
  •  3) Grothey A, et al.: Lancet. 381(9863): 303-312, 2013 [PubMed]
  •  4) Mayer RJ, et al.: N Engl J Med. 372(20): 1909-1919, 2015 [PubMed]
  •  5) Fakih MG, et al.: Lancet Oncol. 23(1): 115-124, 2022 [PubMed]
  •  6) Amodio V, et al.: Cancer Discov. 10(8): 1129-1139, 2020 [PubMed]
  •  7) Awad MM, et al.: N Engl J Med. 384(25): 2382-2393, 2021 [PubMed]
  •  8) Ryan MB, et al.: Cell Rep. 39(12): 110993, 2022 [PubMed]
  •  9) Kuboki Y, et al.: Ann Oncol. 33(suppl 7): S680-S681, 2022
  • 10) Strickler JH, et al.: N Engl J Med. 388(1): 33-43, 2023 [PubMed]
  • 11) Shah M, et al.: N Engl J Med. 385(16): 1445-1447, 2021 [PubMed]
  • 12) Nakajima EC, et al.: Clin Cancer Res. 28(8): 1482-1486, 2022 [PubMed]
  • 13) Lumakras (sotorasib) prescribing information. Thousand Oaks, CA: Amgen, 2021 (package insert) (https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2021/214665s000lbl.pdf)
  • 14) Kopetz S, et al.: N Engl J Med. 381(17): 1632-1643, 2019 [PubMed]
  • 15) Clinical Trial Information: NCT04607421 [ClinicalTrials.gov]
  • 16) Akamatsu H, et al.: 2023 ASCO Annual Meeting #9006

監訳・コメント:埼玉医科大学国際医療センター 腫瘍内科・消化器腫瘍科 濱口 哲弥

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