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3月
聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 主任教授 砂川 優

胃癌 食道胃接合部癌

切除可能な食道胃癌に対する周術期Atezolizumab+FLOT:無作為化多施設第II/III相DANTE/IKF-s633試験の中間解析結果


Lorenzen S, et al.: J Clin Oncol. 42(4): 410-420, 2023

背景
 食道胃腺癌(esophagogastric adenocarcinoma: EGA)における周術期の治療ストラテジーは全生存期間(overall survival: OS)を改善してきた。術前補助療法はR0切除の可能性を高め、histopathologic regression(病理組織学的退縮)を誘導し1)、生存と相関することが示されている2,3)。術後ステージとhistopathologic regressionは術前補助療法の試験における短期評価のサロゲートとして用いられ、長期ベネフィットを予測するものと考えられている1)。周術期の治療ストラテジーとしてFLOT(Fluorouracil+Leucovorin+Oxaliplatin+Docetaxel)は、complete regression(完全退縮)と腫瘍退縮グレード(TRG)1a/bを意味するmajor histopathologic regression(主病理組織学的退縮)の改善を認め、結果としてOSを改善させたが、長期生存割合は未だ満足いくものとはなっていない。

 免疫チェックポイント阻害薬は化学療法に上乗せすることで、化学療法の感受性を高め、免疫非依存性と免疫依存性の癌の特徴を阻害する可能性が報告されている4)。現在、抗PD-1/PD-L1抗体は切除不能または遠隔転移を有するEGAに適用となっているが5,6)、術前補助療法における活用は十分に確立されていない。Atezolizumab(ATZ)はPD-L1を標的とした抗体であり、いくつかの固形癌では転移性腫瘍と同様に術前・術後補助療法においても有効性を示している7,8)

 転移性かつ未治療のEGAに対するPD-1/PD-L1経路の阻害が有効性と安全性を示していることから5,6,9)、周術期のFLOTに抗PD-L1抗体を加えることで臨床転機を改善させる可能性がある。本DANTE試験は局所進行EGAにおけるFLOT±ATZの有効性を評価した初めての無作為化比較試験として実施された。

方法
 本試験は医師主導、非盲検化、第II相無作為化比較試験として行われた。当初、第II相パートの主要評価項目は無増悪生存期間(progression-free survival: PFS)/無病生存期間(disease-free survival: DFS)とし、サンプルサイズは295例とされた。その後、第III相デザインに変換されることとなったため、第II相パートの主要評価項目は術後病理を用いた探索的なものに変更された。

 対象は、遠隔転移がなく、臨床病期(clinical stage)がT≧2 and/or N陽性の胃腺癌または食道胃接合部(gastroesophageal junction: GEJ)腺癌の患者とされた。患者はclinical N stage(cN- vs. cN+)、腫瘍部位(GEJ type I vs. GEJ type II/III vs. 胃)、MSIステータス(MSI/dMMR vs. MSS/pMMR)によって層別化され、1:1に無作為に割り付けられた。

 術後のypTNMステージはUICC第8版を基に評価され、histopathologic regressionはBecker Classificationを用いて評価された。

 A群はFLOT(Docetaxel 50mg/m2、Oxaliplatin 85mg/m2、Leucovorin 200mg/m2、Fluorouracil 2,600mg/m2/24h、全てday 1)+ATZ 840mgが2週間隔で術前4サイクル、術後4サイクル、その後にATZ 1,200mg単剤を3週間隔で8サイクル投与された。B群ではA群と同じFLOTレジメンのみが投与された。治療は病勢進行、死亡、忍容できない毒性または患者の要望に応じて終了とした。

 手術は最終投与の術前FLOTから4~6週後に計画され、手術記録は中央の外科医がレビューした。

 当初、第II相試験の主目的はハザード比から算出した全患者で無作為化し、PFS/DFSの有効性を比較することであり、histopathologic regression、R0切除率、OSは副次評価とされていた。第III相試験への転換後、第II相試験の主目的は探索的な外科的病理結果に変更され、histopathologic complete regression、pathological complete response(pCR)、TRG1a(治療前の検体に基づいて、切除された検体に残存腫瘍がないものと定義)、ypTNMステージが主な評価項目として含まれた。安全性(CTCAE v4.0に従う)、周術期の合併症率/死亡率とR0切除が副次評価項目として含まれた。

 事前設定された仮説がなかったため全てのデータは探索的とされた。結果はITT populationに基づき、安全性と手術結果はそれぞれsafety populationとsurgery populationに基づいた。MSIとPD-L1発現率(CPS<1、CPS≧1、CPS≧5およびCPS≧10)によるhistopathologic regressionがサブグループとして解析された。

結果
 全295例(A群146例、B群149例)がドイツとスイスから登録された。ベースラインの背景は両治療群でバランスが取れていた。ほとんどの患者はGEJを原発とし、cT3かつN陽性であった。CPS≧1はA群の56%とB群の59%、CPS≧5はA群の27%とB群の28%、CPS≧10はA群の19%とB群の17%で、MSIもしくはdMMRはA群の6%とB群の10%であった。

 ITT populationは無作為化された全295例であった。A群の2例とB群の1例が病勢進行、胃出血と同意撤回のため治療が開始されなかった。少なくとも1回以上の治療を受けた残りの292例がsafety populationとされた。A群の136例(94%)とB群の137例(95%)が術前FLOTによる治療を完遂し、A群の125例(85%)が術前治療としてATZの投与を完遂した。手術はA群の141例(97%)とB群の143例(96%)で施行された。A群の103例(71%)とB群の101例(68%)が術後治療を開始し、A群では全4サイクルのうち72例(49%)がATZを、62例(42%)がFLOTを、52例(36%)がFLOT+ATZを完遂した。75例(51%)がATZの維持療法を開始し、55例で完遂した。B群では65例(44%)が全治療サイクルを完遂した。

 原発切除が行われたA群141例とB群143例のうち、R0切除はそれぞれ135例(96%)と136例(95%)であった。pCRまたはTRG1aは35例(24%)と22例(15%)、major regressionであるTRG1a/bはそれぞれ71例(49%)と57例(38%)であり、ATZ併用で高い割合であった。A群vs. B群でypT0が23% vs. 15%、ypN0が68% vs. 54%で、ypT0N0は23% vs. 14%であった。 MSI/dMMRのTRG1a/bはそれぞれ75%と47%であった。

 サブグループではCPS≧10の症例で、TRG1aが33% vs. 12%、TRG1a/bが67% vs. 39%とATZの上乗せで改善が顕著であった。MSIを除外しても同様の結果であった(28% vs. 5%)。

 Safety populationには292例、surgery populationには284例が含まれたが、両群で1例ずつ術前治療が開始されずに手術を受けたため、これらはsurgery populationには含まれたが、safety populationには含まれなかった。

 少なくとも1回の治療が延期された患者はA群で90%、B群で80%であった。化学療法の用量調整が行われた患者はA群で69%、B群で54%であった。理由として最も多かったものは毒性で、次いで主治医判断であった。

 術後合併症と入院期間は両群で同等であった。術後60日以内の死亡はA群で4例(敗血症2例、心原性ショック2例)、B群で3例(心肺不全、敗血症、ARDS)であった。

 治療の関連性にかかわらず、少なくとも1回以上の深刻な有害事象(serious adverse event: SAE)の割合は両群で69% vs. 66%であった。最も頻度の高い手術に関連のないgrade 3-4の有害事象は両群で同等であり、好中球減少、白血球減少、下痢吐き気末梢感覚神経障害であった。3例の致死的有害事象(A群の敗血症、B群の敗血症と肺炎)が治療関連とされた。

 病勢進行と死亡以外の原因で治療を中断した割合は48% vs. 45%と両群で変わりなく、最も多かった理由は両群ともに患者希望(20% vs. 22%)、次いで毒性(18% vs. 11%)と術後合併症(9% vs. 8%)であった。

まとめ
 切除可能なEGAに対し、周術期FLOTにATZを上乗せすることでhistopathologic regressionの改善が示され、特にCPSが高い症例において、その効果は顕著であった。しかし、本試験は第III相試験にコンバートすることとなったため、第II相パートでは主要評価項目の統計学的設定が行われず、探索的な結果の報告となっている。安全性においては術後合併症も含めて両群間で大きな違いはなく周術期治療でのATZの上乗せは安全かつ管理可能なものであった。


日本語要約原稿作成:聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 永田 祐介



監訳者コメント:
切除可能なEGAに対する化学療法+ICIの腫瘍退縮改善効果が示された

 DANTE試験の結果から、切除可能なEGAに対して化学療法に免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor: ICI)を併用することで、組織学的な腫瘍退縮を改善することが示された。特にCPSが高い患者においては、ICI併用による効果が顕著に認められた。DANTE試験と同様の患者を対象として、周術期化学療法へのICI併用を検討したMATTERHORN試験およびKEYNOTE-585試験が報告され10,11)、ICI併用によってpCR割合の増加を示した。MATTERHORN試験ではPD-L1発現に基づいたサブグループ解析がなされ、発現が高い患者ではpCRが良好であったことが示されている12)。以上のことから、EGA、特にPD-L1発現が高い患者に対して術前の化学療法にICIを併用することで組織学的な腫瘍退縮が改善することは明確である。ただし、周術期のFLOTとICIの併用は、本邦において安全性と有用性が確立されておらず、実臨床では使用できない。

 一方で、KEYNOTE-585試験の主要評価項目である無イベント生存期間(EFS)においてICI併用で改善傾向を示したが(中央値44.4ヵ月vs. 25.3ヵ月、ハザード比0.81、p=0.0198)、統計学的な有意差を示せなかった11)。そのため、ICI併用による組織学的な腫瘍退縮の改善が生存期間の延長に寄与するかは明らかではない。DANTE試験やMATTERHORN試験ではEFSやDFSは未発表であり、今後の結果が注目される。

  • 1) Al-Batran SE, et al.: Lancet Oncol. 17(12): 1697-1708, 2016 [PubMed]
  • 2) Li Z, et al.: PLoS One. 13(1): e0189294, 2018 [PubMed]
  • 3) Al-Batran SE, et al.: Lancet. 393(10184): 1948-1957, 2019 [PubMed]
  • 4) Davern M, et al.: Cancer Lett. 495: 89-99, 2020 [PubMed]
  • 5) Janjigian YY, et al.: Lancet. 398(10294): 27-40, 2021 [PubMed]
  • 6) Sun JM, et al.: Lancet. 398(10302): 759-771, 2021 [PubMed]
  • 7) Schmid P, et al.: N Engl J Med. 379(22): 2108-2121, 2018 [PubMed]
  • 8) Herbst RS, et al.: Nature. 515(7528): 563-567, 2014 [PubMed]
  • 9) Janjigian YY, et al.: Nature. 600(7890): 727-730, 2021 [PubMed]
  • 10) Janjigian YY, et al.: Ann Oncol. 34(suppl 2): S1315-S1316, 2023
  • 11) Shitara K, et al.: Lancet Oncol. 25(2): 212-224, 2024 [PubMed]
  • 12) Janjigian YY, et al.: J Clin Oncol. 42(3_suppl): LBA246, 2024 [JCO]

監訳・コメント:聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 伊澤 直樹

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