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4月
聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 主任教授 砂川 優

胃癌

進行胃癌に対するニ次治療を対象としたオープンラベル、多施設共同のランダム化、バイオマーカー統合アンブレラ試験:K-Umbrella Gastric Cancer試験


Choong-kun Lee, et al.: J Clin Oncol. 42(3): 348-357, 2024

背景
 胃癌における標的治療は抗HER2療法が確立しているが、HER2陽性例は胃癌全体の15%にとどまる1,2)。このため、HER2陰性例に対するバイオマーカーを標的とした治療開発が求められている。二次治療においてはPaclitaxelとの併用療法の開発が進められているが、依然、より有効な治療が求められている。異なる変異を有する同一癌種において、中央判定ポートレートを用いて、複数の薬剤の効果を評価し、個々の患者に適した治療法を提供するため、アンブレラ試験が提案されてきた3)。Korean-Umbrella Gastric Cancer(K-Umbrella GC)試験は、HER2陰性胃癌の二次治療において、標準治療(standard-of-care:SOC)をコントロールとして、バイオマーカーに基づいた標的薬とPaclitaxelの併用療法の有効性と安全性を評価するアンブレラ試験である。

方法
 K-Umbrella GC試験は、標準治療であるコントロール群をバイオマーカー別で分けたマルチアームで共有する新規デザインのアンブレラ型デザインを採用した、オープンラベルのランダム化第II相試験であり、韓国の8施設のがんセンターで実施された。

 適格基準は、19歳以上、組織学的に胃腺癌と診断されている、一次化学療法としてフッ化ピリミジン系薬剤とプラチナ製剤による併用療法が施行されている、評価可能病変を有することであった。

 Yonsei Cancer Centerの病理部門において、一次治療中に採取された腫瘍組織のIHCとISH法を用いて、HER2、EGFR、PTEN、MMR蛋白、EBV、PD-L1が中央判定された。事前に規定したバイオマーカーが適格となった症例は、コントロール群 vs. バイオマーカー群に1:4に割り付けられた。バイオマーカー群は次の4つのコホートに分類された。(1)EGFRコホート:EGFR陽性(EGFR IHC 2+/3+)に対するpan-ERBB阻害薬、(2)PTENコホート:PTEN loss/null(PTEN H-score<100)に対するPIK3Cβ阻害薬、(3)NIVOコホート:免疫関連バイオマーカー陽性(CPS≧1またはdMMR/MSI-H、EBV関連)に対する抗PD-1抗体、(4)NONEコホート:バイオマーカー陰性例に対するSOC。

 バイオマーカー群ではSOC(Paclitaxel 80mg/m2、day 1, 8, 15、4週サイクル)と標的薬との併用療法が施行された。標準治療と併用する標的薬は、(1)EGFRコホートではAfatinib 1日1回40mgの経口投与、(2)PTENコホートではGSK2636771 1日1回200mgの経口投与、(3)NIVOコホートではNivolumab 3mg/kgを2週に1回、が併用された。2つ以上のバイオマーカーコホートに適格となる患者は、著者らの後ろ向き解析に基づき事前に規定された頻度の低いコホートに優先的に割り付けられた4)。PTENコホート>NIVOコホート>EGFRコホートの順の優先度であった。

 コントロール群とNONEコホートではSOCによって治療された。SOCは2018年5月に韓国でRamucirumab+Paclitaxelの併用療法が承認されたことを受けて、2018年7月より、Paclitaxel単剤療法から、Paclitaxel+Ramucirumab併用療法(Paclitaxel 80mg/m2、day 1, 8, 15;Ramucirumab 8mg/kg、day 1, 15、4週サイクル)に変更となった。

 本研究はRAINBOW試験を参考に、HR:0.659の無増悪生存期間(progression-free survival:PFS)の改善を目指し統計設定された5)。36ヵ月の登録期間、6ヵ月の追跡期間、ドロップアウト率10%、検出力89.5%として、400例(バイオマーカー群320例、コントロール群80例)の登録が計画された。

結果
 2016年5月から2021年3月までの間で、722例がバイオマーカーの中央判定を施行された。このうち、371例がコントロール群とバイオマーカー群に無作為に割り付けられ、53例の不適格例が除外された後、治療を受けたのは318例であった。27.7%は事前に規定したバイオマーカーを有さず、20.1%の症例は2つ以上のバイオマーカーを有していた。重複を考慮すると、免疫関連バイオマーカー陽性、EGFR陽性、PTEN loss/nullはそれぞれ、40.3%、30.2%、18.2%であった。最終的にコントロール群が64例、バイオマーカー群はEGFRコホート67例、PTENコホート37例、NIVOコホート48例、NONEコホート102例であった。患者背景はコントロール群、バイオマーカー群でバランスが取れていた。統計学的な有意差はなかったが、バイオマーカー群でPS不良例が多かった。全体の半分以上の症例が低分化腺癌であり、胃切除歴を有していた。一次治療は多くがフッ化ピリミジン系薬剤+プラチナ製剤の2剤併用療法であった。

 データカットオフとなった2022年4月18日時点で、観察期間中央値35ヵ月(95% CI:26.1-55.3)であり、コントロール群 vs. バイオマーカー群でPFS中央値4.0ヵ月 vs. 3.7ヵ月(p=0.76)、全生存期間(overall survival:OS)中央値8.7ヵ月 vs. 8.6ヵ月(p=0.61)と両群で同程度であった。バイオマーカー群の中の各コホートにおけるPFS中央値はコントロール群で4.0ヵ月(95% CI:3.0-4.6)、EGFRコホートで4.0ヵ月(95% CI:3.0-4.5)、PTENコホートで2.8ヵ月(95% CI:2.4-4.4)、NIVOコホートで3.9ヵ月(95% CI:2.7-5.6)、NONEコホート3.5ヵ月(95% CI:2.8-5.1)であった。OS中央値はコントロール群で8.7ヵ月(95% CI:7.1-9.9)、EGFRコホートで8.1ヵ月(95% CI:6.3-10.1)、PTENコホートで7.0ヵ月(95% CI:5.2-9.1)、NIVOコホートで10.7ヵ月(95% CI:5.8-12.9)、NONEコホートで9.1ヵ月(95% CI:7.6-11.3)であった。全体ではPTENコホートが最も予後不良であり、一方、NIVOコホートが最も予後良好であった。また、コントロール群の45.3%、バイオマーカー群の58.7%がRECIST v1.1における測定可能病変を有していた。奏効割合に治療コホート間の差はなく、病勢制御割合はコントロール群、EGFRコホート、PTENコホート、NIVOコホート、NONEコホートでそれぞれ、80.7%、81.3%、67.6%、77.1%、78.1%であり、PTENコホートは他と比較して病勢制御割合が不良であった。

 治療関連有害事象はコントロール群 vs. バイオマーカー群で87.5% vs. 88.6%、grade 3/4に限定すると60.9% vs. 60.2%であった。Grade 3/4の有害事象で最も多かったのが、血液毒性で、非血液毒性はほとんどがgrade 1/2であり、両群で同程度であった。しかし、grade 3/4の下痢(6.3% vs. 1.6%)と食欲不振(2.8% vs. 0%)はバイオマーカー群でより高頻度であった。

 SOCによる治療を施行された症例(コントロール群とNONEコホート)において、EGFR 3+、PTEN lossを有する症例では、有さない症例と比較してSOCによる予後が不良であった。EGFR 3+の症例では有意差はないもののAfatinib+PaclitaxelによってSOCと比較して良好なPFSを認めた(Afatinib+Paclitaxel vs. SOC:4.0ヵ月 vs. 2.2ヵ月、p=0.086)。しかし、PTEN lossを有する症例ではGSK2632771+Paclitaxelで予後の延長は認めなかった(GSK2632771+Paclitaxel vs. SOC:2.7ヵ月 vs. 2.4ヵ月、p=0.47)。免疫関連バイオマーカーを有する症例は、有さない症例と比較してOSが不良であるのに対して(7.1ヵ月 vs. 10.3ヵ月、p=0.046)、Nivolumabを併用することでOSの延長を認めた(有する症例 vs. 有さない症例:10.7ヵ月 vs. 7.1ヵ月、p=0.097)。

結語
 バイオマーカー群はコントロール群と比較して生存期間を延長することはできなかったが、アンブレラ型の臨床試験によるIHCベースのスクリーニングと進行胃癌の二次治療への治療配置は、新規薬剤への効率的な早期スクリーニングとして実施可能であった。


日本語要約原稿作成:国立がん研究センター東病院 消化管内科 松原 裕樹



監訳者コメント:
胃癌二次治療におけるバイオマーカーに基づいた標的薬とPaclitaxelの併用療法のアンブレラ型の臨床試験のfeasibilityを示す

 本試験は、韓国で行われた進行胃癌に対するニ次治療を対象とした多施設共同のランダム化、バイオマーカー統合アンブレラ試験である。2024年4月現在、実地臨床において、切除不能進行胃癌に対するバイオマーカーとして、HER2に加えて、免疫関連としてdMMR/MSI-H、PD-L1 CPSが測定可能となっている。さらに、2024年3月26日、本邦において、抗CLDN18.2抗体Zolbetuximabが、CLDN18.2陽性の切除不能進行胃癌を対象に承認された。また、2024年5月1日HER2陽性の切除不能進行胃癌の一次治療としてPembrolizumabとTrastuzumab、化学療法の併用は、Trastuzumabと化学療法の併用よりも有意に全生存期間を延長したことがプレスリリースされ、PD-L1 CPS 1以上の患者で特に有効性が認められた。また、FGFR2b陽性進行胃癌に対する一次治療としてBemarituzumabと化学療法の併用も有望視されており、現在、第III相試験が行われている。胃癌ではこのように一次治療においてHER2、PD-L1 CPS、CLDN18.2、FGFR2bとバイオマーカーの細分化が進んでいる。さらに胃癌においては標的分子の発現の不均一性に加えて、治療修飾による経時的な発現の変化がみられる。本試験は、バイオマーカー群のコントロール群に対する生存期間の延長は認めなかったが、アンブレラ型の臨床試験における一次治療後のIHCベースのスクリーニングと標的薬へのアクセスのfeasibilityを示した点で意義のある試験と考えられる。このようなjust beforeのタイミングでの生検やctDNAによるバイオマーカー評価が今後の進行胃癌の治療開発において、ますます重要になってくると考えられる。

  • 1) Cancer Genome Atlas Research Network: Nature. 513(7517): 202-209, 2014 [PubMed]
  • 2) Van Cutsem E, et al.: Gastric Cancer. 18(3): 476-484, 2015 [PubMed]
  • 3) Park JJH, et al.: CA Cancer J Clin. 70(2): 125-137, 2020 [PubMed]
  • 4) Kim HS, et al.: Oncotarget. 7(28): 44608-44620, 2016 [PubMed]
  • 5) Wilke H, et al.: Lancet Oncol. 15(11): 1224-1235, 2014 [PubMed]

監訳・コメント:国立がん研究センター東病院 消化管内科 川添 彬人

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