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5月
国立がん研究センター中央病院 消化管内科/頭頸部・食道内科 科長 加藤 健

食道癌 食道胃接合部癌

切除可能食道・食道胃接合部癌に対する術前NivolumabまたはNivolumab+LAG-3阻害薬Relatlimab投与:第Ib相試験とctDNA解析


Ronan J Kelly, et al.: Nat Med. 30(4): 1023-1034, 2024

背景
 切除可能食道胃接合部癌の治療成績は限定的であるが、CheckMate 577試験では術前CRT後の切除例に対する術後補助療法としてのNivolumabの有用性が示された1)。早期の食道胃接合部癌はPD-L1発現が高いことから、免疫逃避機構が働いていることが示唆される2)。前臨床および臨床試験の結果から、術前CRTは食道胃接合部癌においてPD-L1発現を誘導する可能性が示されており、CRTと免疫チェックポイント阻害剤との併用療法を支持する3)。LAG-3は胃癌に過剰発現する共抑制受容体であることから、抗LAG-3抗体と抗PD-1抗体の併用療法は免疫チェックポイント経路に作用し、疲弊したT細胞を再活性化することで抗腫瘍効果を発揮する可能性があるが4)、切除可能食道胃接合部癌に対するCRTと抗PD-1抗体併用療法の周術期治療に関するデータは乏しい。切除可能食道胃接合部癌に対する術前免疫チェックポイント阻害は、原発巣から供給される腫瘍特異抗原を認識し、根治切除後に再発をきたしうる微小残存病変を探し出す腫瘍特異的T細胞をプライミングできるのではないかという仮説に基づき、その適応が探索されている5)。さらにctDNAを用いることにより、術前免疫療法でpCRを得られる患者の同定や、術後の微小残存病変(MRD)の検出による再発高リスク群の同定に寄与する可能性がある6)。現状、術前CRT+免疫チェックポイント阻害剤併用療法を受けた食道・胃癌を対象とした臨床研究はなく、ctDNAの有用性も不明である。本試験は、切除可能なstage II/IIIの食道・食道胃接合部癌を対象に、NivolumabまたはNivolumab+RelatlimabとCRTとの併用療法における有効性や安全性を検討するために計画された(NCT03044613)。

方法
 主な適格基準は、18歳以上、stage II/IIIの食道・食道胃接合部腺癌もしくは扁平上皮癌であった。2つのコホートに分かれ、以下の試験治療が行われた。

 Arm A:Nivolumab 240mgを2週毎2サイクル実施し、その後CRT(CBDCA AUC=2、PTX 50mg/m2、IMRT/VMAT 50.4Gy/28fr)との併用で3サイクル実施

 Arm B:Nivolumab 240mg+Relatlimab 80mgを2週毎2サイクル実施し、その後CRTとの併用で3サイクル実施

 主要評価項目は安全性であり、副次評価項目はfeasibilityであった。探索的検討としてOS、RFS、MPR、pCR、ctDNA解析、血漿検体における腫瘍特異的T細胞の評価、遺伝子発現解析が行われた。

結果
 2017年8月~2021年7月に42例がスクリーニングされ32例が登録された。87.5%が腺癌、81.3%が食道原発、75.0%がリンパ節転移陽性であった。16例がArm Aに割付された。Arm Bに割付された16例のうち9例はNivolumab+Relatlimabを合計5サイクル実施したが、このうち6例にgrade 3以上のirAE(心膜炎2例、副腎不全2例など)が発現したため、プロトコール改訂がなされ、試験治療はNivolumab+Relatlimab 2サイクル後にCRTを行うこととなった。試験治療への変更後においては、毒性は許容される程度であった。28例が試験治療を完遂した。術前治療終了後、2例は手術不適格となった(病勢進行1例、CRT関連のPS低下1例)。また1例は手術拒否となった。29例が外科手術を受け(CRT終了後中央値8週[3.6-11.4週])、8例が術後補助療法を受けた(Arm A 3例はFOLFOX、Arm B 4例はNivolumab)。

 本試験はArm Aにおける安全性は主要評価項目を達成したが、Arm Bはプロトコール改訂を要する有害事象が発現した。Grade 3以上のTRAEは31.3%に発現し(Arm A 18.8%、Arm B 43.8%)、53.1%にany gradeのirAEが発現した(Arm A 31.3%、Arm B 75.0%)。Grade 3以上のirAEは25.0%に生じた(Arm A 12.5%、Arm B 37.5%)。irAEによる免疫チェックポイント阻害剤の投与中断は18.8%、治療中止は12.5%に生じた(皮膚炎2例、肝酵素上昇1例、心膜炎1例)。

 試験治療のfeasibilityについては、治療に関連した遅延なく(CRT終了後11週以上)外科手術を行った患者割合で評価された。試験治療終了後1例が手術拒否し、1例は移動の技術的な理由で11.4週目に外科手術を受けたが、その他の28例は遅延なく予定された手術を受けた。

 手術が行われた29例におけるpCRはArm A:40.0%(95% CI: 16.3-67.7%)、Arm B:21.4%(95% CI: 4.7-50.8%)であった。MPRはArm A:53.5%(95% CI: 26.6-78.7%)、Arm B:57.1%(95% CI: 28.9-82.3%)であった。腺癌におけるpCRとMPRは30.8%(95% CI: 14.3-51.8%)、50.0%(95% CI: 30.0-70.0%)、扁平上皮癌におけるpCRとMPRは33.33%(95% CI: 0-90.6%)、100.0%(95% CI: 29.2-100%)であった。R0切除割合は100%であった。RFS中央値と2年RFS率、2年OS率はArm A:34.1ヵ月(95% CI: 21.6-NR)、62.5%(95% CI: 42.8-91.4%)、75.0%(95% CI: 56.5-99.5%)、Arm B:NR、87.1%(95% CI: 71.8-100%)、93.8%(95% CI: 82.6-100%)であった。

Biomarker解析
 治療開始前の腫瘍組織でPD-L1評価可能であった29例のうち、37.9%はCPS<1、62.1%はCPS≧1であった。切除検体において腫瘍が残存していた20例のうちPD-L1発現が評価可能であった15例において、20%はCPS<1、80%はCPS≧1であった。同様にHER2は切除検体において評価され、86.67%が陰性であった。MMRは13例で評価可能であり、全例でpMMRであった。

 治療開始前のPD-L1発現はCPS≧5でpCRとの関連が示唆された(p=0.089)。CPS≧5とCPS<5のサブグループではRFS(中央値NR vs. 29.34ヵ月、p=0.013)、OS(中央値NR vs. NR、p=0.13)とCPS≧5の群で良好な傾向であった。同様の傾向は腺癌のサブグループでも確認された。治療前後でのPD-L1発現に有意な変化はみられず、治療前後のPD-L1発現量の増加とRFSやOSとの間に有意な関連は示されなかった。

 Arm Bにおいて、MPRを得た患者における治療開始前のLAG-3発現は有意に高かった(p=0.016)一方、Arm Aではその傾向は認められなかったことから、LAG-3発現が抗PD-1抗体+抗LAG-3抗体併用療法の効果予測因子である可能性が示唆された。

ctDNAステータスと治療効果
 ctDNAは治療開始時、14日後、28日後、術前、術後(3~12週)に採取された。白血球DNA-informed deep sequencingによって、解析可能であった141の血漿検体において74の遺伝子異常が検出された(CHIP:36%、生殖細胞系列変異:16%、腫瘍細胞由来変異:47%)。腫瘍由来変異は62.5%の患者に検出された一方、37.5%はCHIPもしくは生殖細胞系列変異のみであった。MAF値にかかわらず1つ以上の腫瘍細胞由来変異が検出された場合をctDNA陽性、それ以外をctDNA陰性と定義した。治療開始時のctDNAは病理学的奏効と有意な関連は認められなかった。治療開始時にctDNAが検出可能であった20例のうち、35%(7例)は免疫チェックポイント阻害剤2サイクル終了後(28日時点)、60%(12例)は術前時点、50%(10例)が術後にctDNA陰性となった。5例は全治療期間でctDNA陰性であったが、2例は術前後でctDNAが持続的に陽性であった。免疫チェックポイント阻害剤2サイクル終了時点でのctDNA陽性は残存腫瘍量>20%と相関していた(p=0.034)。免疫チェックポイント阻害剤2サイクル終了時点または術前のctDNA陽性例は残存腫瘍量が高かった一方、これらのポイントでのctDNA検出有無はpCR/MPRとの有意な関連は認めなかった。

 免疫チェックポイント阻害剤2サイクル終了時点でのctDNA陰性群は陽性群と比較してRFSが延長した(p=0.032)。同様に、術前時点でのctDNA陰性群は陽性群と比較してRFSが有意に延長した(p=0.012)。術後ctDNA陰性群は陽性群と比較してRFSが有意に延長した(p=0.007)。non-pCR群(11例)においても、免疫チェックポイント阻害剤2サイクル終了時点でのctDNA陰性例は陽性例と比較してRFSが長かった(p=0.058)。ctDNAと治療開始前のPD-L1発現に関連は認められなかった。さらに、術前ctDNA陽性かつCPS<5の群はRFSおよびOSが有意に短かった。以上の結果は病理学的奏効と長期的な臨床効果の予測困難性を象徴しており、ctDNA解析による分子学的評価が残存腫瘍の検出に有用である可能性が示された。

腫瘍特異的T細胞と治療効果
 pCRが得られた4例中4例において循環腫瘍特異的T細胞が検出されたが、pCRを得られなかった3例においては、1例のみで循環腫瘍特異的T細胞が検出された。RFSおよびOSの長かった2例では、腫瘍特異的T細胞が検出され、腫瘍縮小が得られていた一方、RFSが3.7ヵ月であった1例では、腫瘍特異的T細胞は検出されず、治療経過中ctDNAは持続的に陽性であった。

まとめ
 本試験は切除可能な食道・食道胃接合部癌における免疫チェックポイント阻害剤とCRTを併用する術前治療の安全性と有用性を検討した。試験途中、Relatlimab併用群で重篤なirAEの発現が認められたためプロトコール改訂がなされたが、改訂後の試験治療は忍容性が認められた。このためdual ICI併用CRTは今後、適正なシークエンスを探る必要があると筆者らは結論付けている。本試験では、術前治療中のctDNAクリアランスが腫瘍特異的T細胞応答やMRDの検出、RFSやOSなどの臨床効果と関連することが示され、pCRやMPRなどの病理学的指標よりも正確かつ鋭敏な再発予測に用いることができる可能性が示唆された。


日本語要約原稿作成:がん研究会有明病院 消化器化学療法科 下嵜 啓太郎



監訳者コメント:
切除可能食道・食道胃接合部癌の術前ICI+CRTの安全性、feasibilityはある程度示された

 切除不能食道・食道胃接合部癌においては免疫チェックポイント阻害剤が導入され、一般化しつつある。次なる対象は切除可能癌における周術期化学療法で、現在複数の試験が進行中である。ATTRACTION-5試験では術後の化学療法に対しNivolumabの上乗せ効果は示されなかったことより、ICIは主に術前治療で検討されている。本研究はさらにその先を考え、ICI+ICIの併用、さらにはその上CRTとの併用を検討したものである。

 すでに先行して臨床試験が実施されている他癌種ではICIとCRTとの同時併用については、NSCLCのPACIFIC-2試験が有用性を示せなかったこともあり、その効果増強は未だ確立されていない。

 本試験は食道原発・腺癌が主な対象であることから、本邦の実臨床に外挿することは困難であるが、術前治療中のctDNAのクリアランスがRFS・OSと関連すること、pCRは治療効果との関連が乏しいこと、ICIで効果が認められた症例には腫瘍特異的T細胞のexpansionが認められたことなどは重要な知見であろう。一方、pCR、MPRなどの病理学的奏効や、RFS、OSに抗LAG-3抗体の併用効果を実感するほどの差はみられなかった。

 ctDNAの解析では特筆すべき遺伝子異常は報告されなかった。それぞれのコホートにはclinical stage 3の症例も含まれており、より進行した症例でもICI→ICI+CRT同時併用の効果はある程度示されていた。しかしCRT単独や逐次ICI→CRTと比較していないことから、ICIによる上乗せがどのくらいあったかは検討できない。また、LAG-3抗体併用群では重篤なirAEの発現が認められたためプロトコール改訂がなされ、CRTは逐次併用となっている。

 全体として、切除可能食道・食道胃接合部癌の術前ICI+CRTの安全性、feasibilityはある程度示されたものと言えるが、LAG-3抗体の上乗せは明らかとは言えず、毒性が明らかに増加したことから、本試験の結果からはPD-1+LAG-3とCRTの同時併用を今後展開していくことは難しいようである。スケジュールの変更にてさらなる開発が進められるか、今後の展開に注目したい。

  • 1) Kelly RJ, et al.: N Engl J Med. 384(13): 1191-1203, 2021 [PubMed]
  • 2) Thompson ED, et al.: Gut. 66(5): 794-801, 2017 [PubMed]
  • 3) Kelly RJ, et al.: Ann Surg. 268(6): 992-999, 2018 [PubMed]
  • 4) Tawbi HA, et al.: N Engl J Med. 386(1): 24-34, 2022 [PubMed]
  • 5) Topalian SL, et al.: Cancer Cell. 41(9): 1551-1566, 2023 [PubMed]
  • 6) Sivapalan L, et al.: J Immunother Cancer. 11(1): e005924, 2023 [PubMed]

監訳・コメント:群馬大学大学院医学系研究科 内科学講座 腫瘍内科学分野 高張 大亮

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