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5月
国立がん研究センター中央病院 消化管内科/頭頸部・食道内科 科長 加藤 健

食道癌

オリゴ転移を有する食道扁平上皮癌に対する、全身化学療法への局所治療の上乗せの効果検討(ESO-Shanghai 13試験)


Qi Liu, et al.: Lancet Gastroenterol Hepatol. 9(1): 45-55, 2024

 食道扁平上皮癌は、中国国内では6番目に多い癌種で、死因の第5位を占める。過去数十年に渡って、転移または再発食道扁平上皮癌に対しては全身化学療法が標準的に行われてきたが、その長期予後は不良であった。
 HellmanとWeichselbaumが1995年に「オリゴ転移」の概念を提唱して以来1)、オリゴ転移を有する食道癌に対して積極的な局所治療が全生存期間を延長することを示唆する複数の後ろ向き研究や単アーム試験が実施されてきた2-5)
 しかし、免疫チェックポイント阻害薬が治療薬として登場してからは、食道癌領域において同様の研究は行われていなかった。
 ESO-Shanghai 13試験は、オリゴ転移を有する食道扁平上皮癌に対して、全身化学療法に積極的な局所治療を追加する意義があるかを調査した6施設共同第II相ランダム化比較試験である。2019年3月5日から2021年9月16日まで、116例の患者が集積され、104例が適格とされた。53例が局所治療併用群に、51例が化学療法単独群にそれぞれ割り当てられ、主要評価項目は無増悪生存期間、副次評価項目は全生存期間であった。

 参加基準は、(1)食道扁平上皮癌であること、(2)原発巣が手術ないしは放射線療法によって3ヵ月以上制御された状態であること、(3)転移臓器は3個、転移個数は4個、転移巣の最大短径は5cmを超えないこと、(4)少なくとも1個の病変が病理組織学的に食道扁平上皮癌の転移と証明されており、すべての病変が局所治療可能であること、(5)年齢は18歳以上で、ECOG PS 0-1であること、(6)転移巣は過去に局所治療歴がないこと、(7)全ての病変がRECIST v1.1で測定可能であることとされた。リンパ節病変については、所属リンパ節はすべて1個の病変としてまとめてカウントされ、非所属リンパ節転移はステーションごとにカウントされた。
 除外基準は、(1)食道の原発巣が制御されていない、または局所再発のみであること、(2)広範な転移の既往歴があること、(3)重度の臓器機能障害、制御不能な急性感染症、または重度の併存症を合併していること、(4)制御不能な脳転移または脊髄圧迫症状を伴う椎体転移があること、(5)繰り返しの排液が必要な制御不能な胸水、心囊液、または腹水があること、(6)登録前3ヵ月以内に抗癌剤による治療を受けていたこと、(7)妊娠または授乳中であることであった。

 使用薬剤は、一次治療がPaclitaxel、Cisplatinで、二次治療以降はPaclitaxel、Docetaxel、またはIrinotecanが選択された。局所治療として放射線療法を受けた群は、化学療法期間中に放射線照射が行われた。両群とも、化学療法は4コース目まで施行された。また、試験期間中に抗PD-1抗体療法が承認されたため、プロトコールの変更が行われ、抗PD-1抗体による治療も使用可能となった。
 二次治療として、抗PD-1抗体単剤による治療を、病勢増悪もしくは許容できない有害事象が出現するまで継続するか、一次治療として抗PD-1抗体とPaclitaxel、またはFluorouracil・Cisplatin二剤との併用療法を4コース行ったのち、病勢増悪もしくは許容できない有害事象が出現するまで抗PD-1抗体単剤での治療を継続する形で、抗PD-1抗体が使用された。

 局所治療併用群では、すべての転移病変に対してday 1から2週間以内に治療が開始され、まずはSABR(stereotactic ablative body radiotherapy:1回あたり7 Gy以上5回までの照射)が検討された。SABR以外では、従来の放射線療法(45-50 Gy/25-28 fr.もしくは50-66 Gy/25-34 fr.)が考慮された。手術療法は完全切除が期待できる場合にのみ行われ、達成できなかった場合は二期的手術もしくは術後放射線照射が施行された。肝転移や肺転移に対しては、最大短径5cmの単発病変や、3cmの多発病変にアブレーションが実施された。
 化学療法単独群では、緩和的放射線照射など症状緩和を目的とする標準治療の範囲内でのみ追加治療が許容された。
 治療効果判定は、局所治療の2週間後と、化学療法を2コース実施するごとに行われ、評価についてはRECIST v1.1が使用された。
 病勢が進行した段階で中止と判定されたが、抗PD-1抗体による治療を受けた患者は、中止と判定された後のCTで増悪がない場合、pseudo PDとみなされ、1年経過するまで4コースごとに評価を受け、病勢増悪がない限り治療継続が許容された。
 治療終了後、最初の2年間は3ヵ月ごとに、次の5年間は6ヵ月ごとに、その後は1年ごとに効果判定が実施された。両群とも、新規病変が発生した場合は医師の裁量のもと、追加の局所療法が許容された。

 2019年3月5日から2021年9月16日まで、116例の患者が集積され、104例が適格とされた。53例が局所治療併用群に、51例が化学療法単独群にそれぞれ割り当てられた。両群間で、患者背景、転移臓器や転移個数、前治療に差はなかった。93例(89%)は根治治療後の初めての再発、転移と診断され、それまでの中央値は10.0ヵ月(範囲3.0-87.0)であった。18例(17%)が根治治療終了後6ヵ月以内の早期再発であった。
 前治療のうち、根治切除は局所治療併用群の19例(36%)、化学療法単独群の24例(47%)が受け、化学放射線療法は局所治療併用群の34例(64%)、化学療法単独群の27例(53%)が受けた。
 局所治療併用群の局所治療内訳は、20例(38%)がSBAR、25例(47%)が強度変調放射線治療、2例(4%)が低照射放射線治療、手術療法が4例(8%)、手術と放射線治療を組み合わせた群が3例(6%)、アブレーションが2例(4%)であった。局所治療の開始から化学療法の開始までの中央値は4日間(範囲0-15)であった。

 観察期間中央値は30.5ヵ月(IQR: 24.7-37.8)であった。無増悪生存期間中央値は、局所治療併用群で15.3ヵ月(95% CI: 10.1-20.5)、化学療法単独群が6.4ヵ月(95% CI: 5.2-7.6)であった。層別HRは0.26(95% CI: 0.16-0.42、p<0.0001)であった。
 1年、2年のそれぞれの無増悪生存率は、局所治療併用群で60.4%(95% CI: 47.1-73.7)、35.8%(95% CI: 22.8-48.6)、化学療法単独群で27.5%(95% CI: 15.3-39.7)、9.8%(95% CI: 1.6-18.0)であった。
 治療中の病勢増悪は、局所治療併用群の33例(62%)、化学療法単独群の46例(90%)に認められた。病勢増悪を経験した患者のうち、局所治療併用群では、25例(75%)が新規転移病変の出現、6例(18%)が既存病変の進行、2例(6%)でその両方を認めた。化学療法単独群では、10例(22%)が新規転移病変の出現、30例(65%)が既存病変の進行、6例(13%)でその両方を認めた。新規病変出現までの期間中央値は、局所治療併用群が16.8ヵ月(95% CI: 12.9-20.7)、化学療法単独群が12.3ヵ月(95% CI: 9.1-15.5)、p=0.0075で、局所治療併用群で化学療法単独群より有意に延長していた。

 全生存期間中央値は、局所治療併用群で未達であり、化学療法単独群では18.6ヵ月(95% CI: 13.1-24.1)であった。層別HRは0.42(95% CI: 0.24-0.74、p=0.0020)であった。解析時点で57例の死亡が確認された。局所治療併用群では24例(45%)のうち、2例が上部消化管出血、3例が肺炎、1例が鎖骨上リンパ節転移による頸動脈破裂、残りが原病増悪により死亡した。化学療法単独群では33例(65%)のうち、4例が肺炎、1例が原因不明、残りが原病増悪により死亡した。
 転移病変は、局所治療併用群で合計93病変、化学療法単独群で合計96病変であった。転移病変の病勢制御期間中央値は、局所治療併用群で未達であり、化学療法単独群では6.1ヵ月(95% CI: 5.6-6.6)であった。HRは0.11(95% CI: 0.05-0.24、p<0.0001)で、局所治療併用群で有意な延長がみられた。局所治療併用群の93病変のうち、15病変(16%)がSD、42病変(45%)がPR、28病変(30%)がCRであった。化学療法単独群の96病変のうち、8病変(8%)がSD、9病変(9%)がPR、6病変(6%)がCRであった。

 病勢が増悪した場合の救済治療は、追加の化学療法、進行部位への局所療法、およびそれらの組み合わせが含まれた。進行した79例のうち、40例(51%:局所治療併用群の33例のうち18例[55%]、化学療法単独群の46例のうち22例[48%])が追加治療の対象となった。

 サブグループ解析では、殺細胞性抗癌剤のみ投与された群と、免疫チェックポイント阻害薬を含む治療を受けた群について比較検討が行われた。
 殺細胞性抗癌剤のみ投与された群での無増悪生存期間中央値は、局所治療併用群で12.0ヵ月(95% CI: 10.2-13.4)と、化学療法単独群の3.4ヵ月(95% CI: 1.0-5.4)より有意な延長がみられた。HRは0.23(95% CI: 0.12-0.44、p<0.0001)であった。免疫チェックポイント阻害薬併用群でも同様の傾向であり、無増悪生存期間中央値は、局所治療併用群で18.0ヵ月(95% CI: 15.0-20.2)、化学療法単独群で9.6ヵ月(95% CI: 4.1-15.1)であった。HRは0.49(95% CI: 0.24-0.99、p=0.044)であった。
 全生存についても検討され、全生存期間中央値は、殺細胞生抗癌剤のみ投与された群において、局所治療併用群で未達、化学療法単独群では15.1ヵ月(95% CI: 10.0-20.2)であった。HRは0.40(95% CI: 0.20-0.79、p=0.0054)であった。免疫チェックポイント阻害薬併用群で、局所治療併用群では30.7ヵ月(95% CI: 24.3-37.1)、化学療法単独群では20.6ヵ月(95% CI: 測定不能)であった。HRは0.57(95% CI: 0.24-1.36、p=0.19)であった。

 頻度の多かった有害事象は、疲労、白血球減少、好中球減少で両群間に差はなく、食道炎は11例(21%)で、化学療法単独群の1例(2%)と比較して局所治療併用群に多く認めた。CTCAE grade 3以上の有害事象は局所治療併用群と化学療法単独群のそれぞれ25例(47%)、23例(45%)に発生し、統計学的に有意な差は認めなかった。

 以上の結果より、転移個数や転移臓器の限られたオリゴ転移を有する食道扁平上皮癌において、化学療法に加えて局所療法を追加することは、化学療法を単独で施行するよりも無増悪生存期間や全生存期間を有意に延長することが示唆された。


日本語要約原稿作成:京都大学医学部附属病院 腫瘍内科 細貝 太亮



監訳者コメント:
オリゴ転移を有する食道扁平上皮癌に対して、局所治療の追加は生存期間を延長するかもしれない

 ESO-Shanghai 13試験の結果は、転移個数や転移臓器が限られたオリゴ転移を有する食道扁平上皮癌に対し、局所治療を追加することが有望である可能性を示している。本試験は、予後不良であった転移または再発食道扁平上皮癌に対する新たな治療戦略を提案している。

 オリゴ転移は、局所限局と全身転移の中間状態と提唱されており、転移性疾患に対する標準的な全身療法に局所療法を追加することで生存期間の延長ができる病態である6)。腺癌を含む食道癌に対するコンセンサス7)は提唱されているものの、食道扁平上皮癌において、どのような病態(遠隔転移病変の個数、何臓器転移までとするか、原発巣の有無の取り扱いなど)がオリゴ転移であるかは、まだ明らかではない。

 ESTRO-EORTCコンセンサス7)では、De novoオリゴ転移(初めて遠隔転移と診断されたオリゴ転移)、Repeat(局所療法後に再発した病変がオリゴ転移)、Induced(全身療法の奏効によって複数病変が減少してオリゴ転移となった)の3群に分類され、さらにDe novoオリゴ転移は、原発診断からの期間でSynchronousオリゴ転移(6ヵ月未満)、Metachronousオリゴ転移(6ヵ月以上後)と分類している。

 本試験では、転移病変の個数4個以下かつ1臓器内の転移病変個数は3個以下であるDe novoオリゴ転移とRepeatオリゴ転移を対象としている。登録された症例の7割は、Metachronousオリゴ転移であり、転移病変個数は1~2個であった。試験治療群で追加された局所治療のうち83%は放射線治療である。全身療法のみに比べ局所治療を追加した試験治療群が有意に生存期間を延長し、有望な治療選択肢である可能性を示し、今後の治療戦略に大きな影響を与える可能性がある。

 本試験の解釈において、主な対象がMetachronousオリゴ転移・転移病変個数1~2個のため、これらに該当しない症例への適用には注意が必要である。今後の研究では、オリゴ転移の具体的な定義の構築や、第III相試験による裏付けが求められる。

  • 1) Hellman S, et al.: J Clin Oncol. 13(1): 8-10, 1995 [PubMed]
  • 2) Palma DA, et al.: Lancet. 393(10185): 2051-2058, 2019 [PubMed]
  • 3) Schizas D, et al.: Interact Cardiovasc Thorac Surg. 31(3): 299-304, 2020 [PubMed]
  • 4) Chen Y, et al.: J Thorac Dis. 11(4): 1536-1545, 2019 [PubMed]
  • 5) Liu Q, et al.: Int J Radiat Oncol Biol Phys. 108(3): 707-715, 2020 [PubMed]
  • 6) Guckenberger M, et al.: Lancet Oncol. 21(1): e18-e28, 2020 [PubMed]
  • 7) Kroese TE, et al.: Eur J Cancer. 204: 114062, 2024 [PubMed]

監訳・コメント:京都大学医学部附属病院 腫瘍内科 野村 基雄

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