9月
愛知県がんセンター 薬物療法部 医長 谷口 浩也
食道癌
局所進行食道癌における術前CF療法に対して、術前DCF療法と術前CF+RT療法の優越性を検証した、無作為化比較第III相試験(JCOG1109 NExT試験)
Ken Kato, et al.: Lancet. 404(10447): 55-66, 2024
背景
局所進行食道癌では、組織型にかかわらず術前化学放射線療法と術前化学療法が標準治療である1)。腺癌や扁平上皮癌を含む局所進行食道癌を対象にオランダで行われたCROSS試験2,3)では、手術単独よりも術前化学放射線療法後に手術を行うほうが生存率は良好であり、10年間の追跡調査でも一貫して良好であった。日本では、局所進行食道扁平上皮癌を対象に、術後Cisplatin+Fluorouracil(CF)療法と術前CF療法を比較したJCOG9907試験4)の結果、術前CF療法での生存期間の延長が示されたことにより術前CF療法が標準治療となった。
しかし、このような集学的治療を行っても予後は依然として不良であり、JCOG9907試験における術前CF療法の5年生存率は55%と依然として不良であった。根治的食道切除術を受けた患者は術後の状態が悪いことが多く、術後化学療法を完遂することが困難であり、予後を改善するためにはより強度を高めた術前治療が必要と考えられた。局所進行頭頸部癌では、Docetaxel、Cisplatin、Fluorouracilの3剤併用療法(DCF療法)のCF療法に対する優越性が示された5)ことを根拠に、局所進行食道扁平上皮癌を対象とした術前DCF療法の第II相試験6)が施行された。毒性は許容範囲内で、2年無増悪生存割合/全生存割合はそれぞれ74.5%/88.0%と有望な有効性が認められた。さらに、局所進行食道扁平上皮癌を対象に、術前CF療法に総線量41.4Gyの放射線療法を併用した術前CF+放射線(CF+RT)療法の第II相試験7)が行われ、病理学的完全奏効(pCR)割合は42%、3年無増悪生存割合/全生存割合はそれぞれ60.9%/70.8%と有望な結果が示された。
そこで、前治療歴のない局所進行食道扁平上皮癌を対象に、術前CF療法、術前DCF療法、術前CF療法に総線量41.4Gyの放射線療法を加えた術前CF+RT療法の、有効性と安全性を比較する、多施設共同非盲検無作為化第III相試験(JCOG1109試験)が行われた。
方法
本試験は日本の44施設で実施された。主要な適格基準は、20~75歳、ECOG PS 0-1、UICC-TNM分類第7版に基づく臨床病期IB、II、またはIII(ただしT4は除く)、食道病変がすべて胸部食道内に限局する、組織学的に扁平上皮癌、腺扁平上皮癌、または類基底細胞癌と確認されていること、胸腔鏡および開腹によるR0切除が可能と判断されること、などであった。
患者は、術前CF療法群(Cisplatin 80mg/m2 day 1、Fluorouracil 800mg/m2 day 1-5、3週毎、2コース)、術前DCF療法群(Docetaxel 70mg/m2 day 1、Cisplatin 70mg/m2 day 1、Fluorouracil 750mg/m2 day 1-5、3週毎、3コース)、術前CF+RT療法群(Cisplatin 75mg/m2 day 1、Fluorouracil 1,000mg/m2 day 1-4、4週毎、2コース+41.4Gy/23Fr)に1:1:1で無作為に割り付けられた。調整因子は臨床的T因子(1-2 vs. 3)、施設であった。各術前治療終了後56日以内に食道全摘術または亜全摘術および局所リンパ節郭清術(D2以上)が施行された。
主要評価項目は主治医判定による全生存期間(OS)、副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)、R0切除割合、奏効割合、pCR割合、術前療法中の有害事象、周術期合併症発生割合などであった。
試験デザインとしては、DCF療法およびCF+RT療法のCF療法に対するOSでの優越性を検証するものであった。必要なサンプルサイズは各群161例、片側α水準5%、検出力70%、予想される登録期間6.25年、追跡期間3年と計算された。症例登録ペースが予想を超えたため、途中で検出力を約80%に変更し、最終的に各群200例が予定症例数となった。
結果
2012年12月5日から2018年7月20日までの間に、601例が各群に割り付けされ(術前CF療法群199例、術前DCF療法群202例、術前CF+RT療法群200例)、患者背景は各群で均衡が取れていた。術前治療の完遂割合はCF療法群84%、DCF療法群85%、CF+RT療法群87%であった。それぞれの群の食道切除術は、93%、91%、89%、R0切除割合は、89%、93%、98%とCF+RT療法群で最も高かった。
追跡期間中央値50.7ヵ月において、3年OS割合はDCF療法群72.1%(95%信頼区間[CI]65.4-77.8%)、CF療法群62.6%(95% CI: 55.5-68.9%)、OS中央値はDCF療法群で未到達(95% CI: 6.7年-推定不能)、CF療法群5.6年(3.9年-推定不能)、HR=0.68(95% CI: 0.50-0.92)、p=0.006と、DCF療法群がCF療法群を有意に上回った。3年PFS割合もDCF療法群がCF療法群よりも良好であった(61.8%[95% CI: 54.7-68.1%] vs. 47.7%[95% CI: 40.6-54.4%]、HR=0.67[95% CI: 0.51-0.88])。客観的奏効割合はDCF療法群で76.4%(95% CI: 64.9-85.6%)、CF療法群で42.4%(95% CI: 30.3-55.2%)、pCR割合はDCF療法群で19.8%(95% CI: 14.5-26.0%)、CF療法群で2.0%(95% CI: 0.6-5.1%)と、いずれもDCF療法群で良好であった。
一方、CF+RT療法群の3年OS割合は68.3%(95% CI: 61.3-74.3%)、OS中央値は7.0年(95% CI: 5.2年-推定不能)であり、CF療法群に対する優越性は示されなかった(HR=0.84[95% CI: 0.63-1.12]、p=0.12)。3年PFS割合に関してもCF+RT療法群で58.5%(95% CI: 51.3-64.9%)であり、同様にCF療法群に対する優越性は示されなかった(HR=0.77[95% CI: 0.59-1.01])。客観的奏効割合やpCR割合は、CF+RT療法群がCF療法群よりも高かった(61.5%[95% CI: 48.6-73.3%]、38.5%[95% CI: 31.7-45.6%])。
事後解析では、CF+RT療法群よりもDCF療法群でOSが良好な傾向がみられたが、有意差は認めなかった(HR=0.80、95% CI: 0.59-1.10)。
安全性解析はCF療法群193例、DCF療法群196例、CF+RT療法群191例で行われた。Grade 3-4の好中球減少症および発熱性好中球減少症は、DCF療法群(85%、16%)でCF+RT療法群(45%、5%)やCF療法群(23%、1%)よりも多く生じた。食道炎は、CF+RT療法群(61%)でCF療法群(3%)やDCF療法群(5%)よりも頻度が高かった。術前治療の中止に至った治療関連有害事象は、CF+RT療法群(6%)およびCF療法群(4%)よりもDCF療法群(9%)で多く認めた。治療関連死亡割合は各群で同程度であった(CF療法群2%、DCF療法群2%、CF+RT療法群1%)。最も一般的なgrade 2以上の術後合併症(肺炎、吻合部漏出、反回神経麻痺)の頻度は各群で同様であった(CF療法群:10%、10%、15%;DCF療法群:10%、9%、10%;CF+RT療法群:13%、13%、10%)。
追跡期間中央値50.7ヵ月の間に252例(42%)が再発した。局所のみの再発は、CF+RT療法群(23%)でCF療法群(38%)やDCF療法群(43%)よりも少なかったが、遠隔転移再発はCF+RT療法群(77%)でDCF療法群(57%)よりも多かった。死因のうち他病死によるものはCF+RT療法群で26%(23/89例)と、CF療法群12%(13/98例)およびDCF療法群9%(7/74例)と比べ多く、順に肺疾患(30%)、感染症(13%)、その他の悪性腫瘍(13%)、心疾患(9%)であった。
結語
術前DCF療法後に食道切除術を行った場合、術前CF療法と比較して統計学的有意にOSの延長が認められ、日本では状態の良好な局所進行食道扁平上皮癌に対する新たな標準治療となる可能性がある。術前CF+RT療法は、術前CF療法と比較して有意なOSの延長を示さなかった。
日本語要約原稿作成:愛知県がんセンター 薬物療法部 水野 太朗
監訳者コメント:
術前DCF療法が局所進行切除可能食道癌に対する本邦における新たな標準治療といえる
本研究結果が報告されるまで局所進行切除可能食道癌に対する標準治療は、本邦ではJCOG9907試験から術前CF(Cisplatin+Fluorouracil)療法、欧米ではCROSS試験から術前化学放射線療法(Paclitaxel+Carboplatin併用化学療法+放射線量41.4Gy)であった。遠隔転移制御を目指す術前化学療法か局所制御を目指す術前化学放射線療法のいずれが予後改善に寄与するか不明であったが、本試験はこの臨床疑問を解決すべく行われた重要な試験である。
術前CF療法に対する術前DCF(Docetaxel+Cisplatin+Fluorouracil)療法の生存における優越性が検証された一方で、術前CF+放射線療法の優越性は示されなかった。3年生存割合は術前CF療法63%に対し、術前DCF療法72%と約10%の改善を認め、臨床的意味のある差であった。2024年ASCOで5年フォローアップデータも報告され、5年生存割合は術前DCF療法65.1%(術前CF療法51.9%)と良好な成績が示されており、術前DCF療法が本邦における新たな標準治療といえる。
しかし、術前DCF療法の5年生存割合は65%と満足できるものではなく、さらに有効な術前化学療法の開発が望まれる。現在、免疫チェックポイント阻害薬を中心とした開発が国内外で行われている。本邦のJCOG1804E(FRONTiER)第I相試験では、術前CF療法、術前DCF療法、術前FLOT療法にNivolumabを併用することにより有望なpCR割合(15.3%、33.3%、41.7%)が報告されており、中国で行われた術前TP(Paclitaxel+Cisplatin)療法、術前TP+Camrelizumab(Cam)療法、術前Nab-Paclitaxel+Cisplatin+Cam療法を比較する第III相試験(ESCORT-NEO)では、pCR割合はそれぞれ4.7%、28.0%、15.4%と有望な結果が報告されており、エンドポイントの一つであるEFSの結果が期待される。さらに、術後Nivolumabの意義を検証する第III相試験(JCOG2206)も進行中であり、術後も含めた周術期治療としての免疫チェックポイント阻害薬の治療開発が注目される。
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監訳・コメント:愛知県がんセンター 薬物療法部 門脇 重憲
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